私とラジオみたいな人

あおかりむん

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いつき

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いつき 私の名前



『いつき』

 そう呼ばれて鏡越しに部屋の入り口を見るとすでに身支度を整えた肇様が立っていました。私に濃藍の着物を着付けてくれていた松田さんが『いつき?』と怪訝そうに肇様を振り返ったので私は血の気が引きました。しかし、当の肇様はさも当たり前のように『彼女のあだ名』と答えていました。用意を終えて玄関へ向かう途中、『食べに行くのはすき焼きでいいよな?』などと話していた肇様に不用意に名前を呼ぶのは困ると言うと『大丈夫だよ。僕は俗に言う変人だから妻をあだ名で呼んでいても「またやっているな」くらいにしか思われない』と説得力に満ちた答えが返ってきました。それもそうかと納得していると急に立ち止まった肇様がこちらを振り返り、ぐにっと口元を曲げて『いつきが嫌なら家の中だけにする』と言いました。急な譲歩に驚きながら頷くと肇様は『わかった』とだけ言ってまた歩き出しました。いつもより緩やかな歩調を昨夜の行為を引きずる身体にはありがたいと思いながら私は肇様の名前を呼びました。またこちらを振り返った肇様にこれくらいで嫌いになったりしないと言うと『でも君、前は結構僕のこと嫌いだったろ? 僕は対人交流の能力が大いに欠けている自覚はあるから、慎重すぎるくらいがちょうどいいんだ。いつまでもあると思うななんとやらだ。いつきも僕の行動で嫌なことがあったら今みたいに言ってくれ。相手の心情を察するという高等技術は僕には──』と肇様がさらさらと捲し立て始めたので、私は肇様に抱きついて『好きです』と言いました。肇様は固まって『ああ』とか『うう』としか言わなくなったので、『ずっと肇様を好きでいさせてください』と続ければ肇様は口元をぐにっと曲げて『せいぜい一生努力するよ』と耳を赤くしながら言いました。私はもう幾度目かわからないくらい肇様が愛しいと思って、笑って頷きました。




























ラジオ〔radio〕放送局から受信者に対して電波による通信によってニュース・音楽・演芸などを放送する機構。その受信機。
radioはラテン語のradius(光の筋)を語源とする。
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