27 / 29
いつき
しおりを挟むいつき 私の名前
『いつき』
そう呼ばれて鏡越しに部屋の入り口を見るとすでに身支度を整えた肇様が立っていました。私に濃藍の着物を着付けてくれていた松田さんが『いつき?』と怪訝そうに肇様を振り返ったので私は血の気が引きました。しかし、当の肇様はさも当たり前のように『彼女のあだ名』と答えていました。用意を終えて玄関へ向かう途中、『食べに行くのはすき焼きでいいよな?』などと話していた肇様に不用意に名前を呼ぶのは困ると言うと『大丈夫だよ。僕は俗に言う変人だから妻をあだ名で呼んでいても「またやっているな」くらいにしか思われない』と説得力に満ちた答えが返ってきました。それもそうかと納得していると急に立ち止まった肇様がこちらを振り返り、ぐにっと口元を曲げて『いつきが嫌なら家の中だけにする』と言いました。急な譲歩に驚きながら頷くと肇様は『わかった』とだけ言ってまた歩き出しました。いつもより緩やかな歩調を昨夜の行為を引きずる身体にはありがたいと思いながら私は肇様の名前を呼びました。またこちらを振り返った肇様にこれくらいで嫌いになったりしないと言うと『でも君、前は結構僕のこと嫌いだったろ? 僕は対人交流の能力が大いに欠けている自覚はあるから、慎重すぎるくらいがちょうどいいんだ。いつまでもあると思うななんとやらだ。いつきも僕の行動で嫌なことがあったら今みたいに言ってくれ。相手の心情を察するという高等技術は僕には──』と肇様がさらさらと捲し立て始めたので、私は肇様に抱きついて『好きです』と言いました。肇様は固まって『ああ』とか『うう』としか言わなくなったので、『ずっと肇様を好きでいさせてください』と続ければ肇様は口元をぐにっと曲げて『せいぜい一生努力するよ』と耳を赤くしながら言いました。私はもう幾度目かわからないくらい肇様が愛しいと思って、笑って頷きました。
ラジオ〔radio〕放送局から受信者に対して電波による通信によってニュース・音楽・演芸などを放送する機構。その受信機。
radioはラテン語のradius(光の筋)を語源とする。
0
あなたにおすすめの小説
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです
沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる