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5.看病
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どれくらい眠っていたのだろうか。眠りから覚めたサリーを襲ったのは激しい頭痛。思わず体を起こすと、そこは城の自室だった。
(あれ?)
頭痛のする頭でさっきまで街にいたはずなのに、と考えこんだ。たしか、桃を買おうとして……
「そうだ、桃!」
思わず大きな声を出すと、ちょうど入ってきたふくよかな体型の女性使用人が声を上げた。
「あらあ! サリーよかったわ。目が覚めたのね」
ベッドに駆け寄ると抱きしめられ、サリーはさらに混乱する。女性使用人はすぐ体を離すと今度は子供にするように頭を撫でた。
「市場で倒れちゃったのよ。それで、ここに運ばれて」
そういえばあの時、目の前が暗くなったのは倒れたからなのか、とサリーは納得する。しばらくすると部屋にナージも入ってきて、安心したような顔を見せた。
「医者は暑さにやられたんだろうと言っていたが、そんなに暑かったか?」
女性使用人にナージが聞くと首を振る。まさか暑さに慣れていないからなど言えなくて、少し疲れていたのかもしれないと伝える。
「あの……」
「気にするな。シャリーフ様も心配していたぞ。今日は外出されていてな、お供はいらないから、お前の看病をしろって言われたんだぞ」
全く、と言いながらサリーが無事に目を覚ましたことに嬉しそうな様子のナージだ。
「ご迷惑をおかけして……」
「今日までだからな? 明日からはまた働いてくれよ」
そう言いながら、木の器をサリーに渡す。中には冷えた桃が入っていた。
用心して一日体を休めるように言われ、夕食をとった早めにサリーは寝ることにした。まだ頭痛が残っているので、中々寝付けない。
ベッドに横たえた腕は、魔法が解けて本来の白い肌に戻っていた。毎朝の日課の肌色を変える魔法をかける瞬間、そういえば自分は他国の人間だったと気づく。そのとき、少しだけ胸が痛むのはシャリーフやナージをはじめ、皆に情が湧いたからなのだろうとサリーは思った。半年後には出て行かないとならないのだ。
一時間くらいしてようやく眠ることが出来た。途中何度か目が覚め、またウトウトする様な浅い眠り。何度目かの浅い眠りについているとき、カチャリとドアノブが回ったことにサリーは気がつかなった。
入ってきたのはシャリーフだ。ベッドに近づき、サリーの額に手をやる。熱がないことに安堵するとその手をほおに当てた。シャリーフの手が冷たくて気持ちいいのか、無意識に頬ずりする仕草にシャリーフが微笑む。
金髪に白い肌のサリーを見て、シャリーフはため息をついた。やはり冬の国からサリーは来たのだ、と確信する。
長いまつ毛と薄い唇。もう片方の手を伸ばし、指でその唇に触れてみた。
「う……ん」
眉を顰め、少し開いた口。シャリーフは指をそっと口の中を入れる。するとサリーはその指をフニフニとくわえ、まるでお菓子を舐める様にしゃぶり始めた。その仕草にシャリーフは驚き、思わず指を口の中から抜いた。サリーの口はまだ開いたままでまだ何かを待っているかの様だ。そしてその唇に惹かれるように、シャリーフは自分の唇を重ねた。
ふいにサリーが夢から浮上してきたとき、鼻腔に甘い花の香りがした。目を瞑ったままどこかで嗅いだことのある香りだ、と感じた。それはつい最近で、身近な香り……
ゆっくりと目を開けると、その香りはさらに強く香る。ぼんやりと天井を眺め、視線を左側にずらした時人の気配がして一気に目を開いた。慌てて上半身を起こしその影に呼びかける。
「誰?」
影はゆらりとこちらに近づく。そして気がついた。さっきの香りはシャリーフがいつもつけている香水。夏の国にしか自生しない甘く香る花の香水だ。そして影がシャリーフだと言うことにも気づいた。
「シャリーフ様……」
不審者ではなかったので、ホッとしたのも束の間。シーツから見える自分の肌の色に青ざめた。
(まずい)
魔法の効力が切れ、元に戻ってしまった肌の色。シャリーフに見られるわけにはいかない。
「あ、あの! もう身体は大丈夫ですから! こちらには来られなくても」
そういうサリーを無視してベッドに近寄る。いくら寝室が暗くても外からの月明かりで肌の色は分かってしまう。無駄とわかりつつもシーツを深く被り、顔だけ覗かせる。そしてシャリーフがサリーの目の前にきたとき、サリーは思わず目を閉じた。
(もうこれまでか)
「水を飲め。まだ顔色が悪いぞ」
シャリーフはそばにあったレモン水をコップに注ぎ、サリーに渡す。サリーは恐る恐る目を開け、シャリーフを見た。肌色に驚くでもなく普通の様子だ。コップを受け取り、それを飲む。そしてしばらくの沈黙の後、シャリーフが口を開いた。
「サリー、この国には緑の瞳は産まれないんだ。今度は肌色だけでなく、瞳も変えることだな」
それを聞いてサリーは思わず口の中の水を拭きそうになった。
「……き、気づいて……?」
「初めからな。肌の色を変えられる魔法が出来るなんて、庶民じゃないはずだ。サリー、お前は冬の国の王族だな?」
サリーは心臓を鷲掴みされたかの様な衝撃を受け、シャリーフを見ると、黒髪の王子は何も言わずにサリーを見つめていた。これ以上、何も釈明できなくてサリーは頭を垂れた。
(あれ?)
頭痛のする頭でさっきまで街にいたはずなのに、と考えこんだ。たしか、桃を買おうとして……
「そうだ、桃!」
思わず大きな声を出すと、ちょうど入ってきたふくよかな体型の女性使用人が声を上げた。
「あらあ! サリーよかったわ。目が覚めたのね」
ベッドに駆け寄ると抱きしめられ、サリーはさらに混乱する。女性使用人はすぐ体を離すと今度は子供にするように頭を撫でた。
「市場で倒れちゃったのよ。それで、ここに運ばれて」
そういえばあの時、目の前が暗くなったのは倒れたからなのか、とサリーは納得する。しばらくすると部屋にナージも入ってきて、安心したような顔を見せた。
「医者は暑さにやられたんだろうと言っていたが、そんなに暑かったか?」
女性使用人にナージが聞くと首を振る。まさか暑さに慣れていないからなど言えなくて、少し疲れていたのかもしれないと伝える。
「あの……」
「気にするな。シャリーフ様も心配していたぞ。今日は外出されていてな、お供はいらないから、お前の看病をしろって言われたんだぞ」
全く、と言いながらサリーが無事に目を覚ましたことに嬉しそうな様子のナージだ。
「ご迷惑をおかけして……」
「今日までだからな? 明日からはまた働いてくれよ」
そう言いながら、木の器をサリーに渡す。中には冷えた桃が入っていた。
用心して一日体を休めるように言われ、夕食をとった早めにサリーは寝ることにした。まだ頭痛が残っているので、中々寝付けない。
ベッドに横たえた腕は、魔法が解けて本来の白い肌に戻っていた。毎朝の日課の肌色を変える魔法をかける瞬間、そういえば自分は他国の人間だったと気づく。そのとき、少しだけ胸が痛むのはシャリーフやナージをはじめ、皆に情が湧いたからなのだろうとサリーは思った。半年後には出て行かないとならないのだ。
一時間くらいしてようやく眠ることが出来た。途中何度か目が覚め、またウトウトする様な浅い眠り。何度目かの浅い眠りについているとき、カチャリとドアノブが回ったことにサリーは気がつかなった。
入ってきたのはシャリーフだ。ベッドに近づき、サリーの額に手をやる。熱がないことに安堵するとその手をほおに当てた。シャリーフの手が冷たくて気持ちいいのか、無意識に頬ずりする仕草にシャリーフが微笑む。
金髪に白い肌のサリーを見て、シャリーフはため息をついた。やはり冬の国からサリーは来たのだ、と確信する。
長いまつ毛と薄い唇。もう片方の手を伸ばし、指でその唇に触れてみた。
「う……ん」
眉を顰め、少し開いた口。シャリーフは指をそっと口の中を入れる。するとサリーはその指をフニフニとくわえ、まるでお菓子を舐める様にしゃぶり始めた。その仕草にシャリーフは驚き、思わず指を口の中から抜いた。サリーの口はまだ開いたままでまだ何かを待っているかの様だ。そしてその唇に惹かれるように、シャリーフは自分の唇を重ねた。
ふいにサリーが夢から浮上してきたとき、鼻腔に甘い花の香りがした。目を瞑ったままどこかで嗅いだことのある香りだ、と感じた。それはつい最近で、身近な香り……
ゆっくりと目を開けると、その香りはさらに強く香る。ぼんやりと天井を眺め、視線を左側にずらした時人の気配がして一気に目を開いた。慌てて上半身を起こしその影に呼びかける。
「誰?」
影はゆらりとこちらに近づく。そして気がついた。さっきの香りはシャリーフがいつもつけている香水。夏の国にしか自生しない甘く香る花の香水だ。そして影がシャリーフだと言うことにも気づいた。
「シャリーフ様……」
不審者ではなかったので、ホッとしたのも束の間。シーツから見える自分の肌の色に青ざめた。
(まずい)
魔法の効力が切れ、元に戻ってしまった肌の色。シャリーフに見られるわけにはいかない。
「あ、あの! もう身体は大丈夫ですから! こちらには来られなくても」
そういうサリーを無視してベッドに近寄る。いくら寝室が暗くても外からの月明かりで肌の色は分かってしまう。無駄とわかりつつもシーツを深く被り、顔だけ覗かせる。そしてシャリーフがサリーの目の前にきたとき、サリーは思わず目を閉じた。
(もうこれまでか)
「水を飲め。まだ顔色が悪いぞ」
シャリーフはそばにあったレモン水をコップに注ぎ、サリーに渡す。サリーは恐る恐る目を開け、シャリーフを見た。肌色に驚くでもなく普通の様子だ。コップを受け取り、それを飲む。そしてしばらくの沈黙の後、シャリーフが口を開いた。
「サリー、この国には緑の瞳は産まれないんだ。今度は肌色だけでなく、瞳も変えることだな」
それを聞いてサリーは思わず口の中の水を拭きそうになった。
「……き、気づいて……?」
「初めからな。肌の色を変えられる魔法が出来るなんて、庶民じゃないはずだ。サリー、お前は冬の国の王族だな?」
サリーは心臓を鷲掴みされたかの様な衝撃を受け、シャリーフを見ると、黒髪の王子は何も言わずにサリーを見つめていた。これ以上、何も釈明できなくてサリーは頭を垂れた。
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