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2.クスコス
ムワッとする暑さの中、鳥がギイギイと鳴いている。足元の枝を踏み荒らしながら辺りを見渡していると少し先にある大きな木の根元に紫の実が点在しているのが見えた。
(あれ……?)
拳より二回りくらい小さな実が点々と落ちている。それはクスコスの実ではないか。先を行くワスカは実に気が付かずそのまま素通りして行ってしまった。声をかけるよりもその実が本物なのか確かめたくて、少しぐらい大丈夫だろうとコオは思わずその木の方の根元に向かう。途中、枝に絡まるツタが行手を阻んだがナイフでそれを切り紫の実を手に乗せてみた。それは図鑑でみたクスコスの実に間違いない。それならば本体が近くにあるはずだ、と腰を下ろし木の根元を中心的に目を皿のようにして探してみると、裏面が銀色の葉をもつ草に出会う。それを見て思わず声を上げる。
「クスコスだ」
ようやく会えたお目当ての薬草に、コオは喜びを隠せない。だが、希少な植物なので見つかったからとはいえすぐには採取せずスケッチすることにした。ポケットからメモ帳とペンを取り出しさらさらと描きはじめる。そして数分経った頃、ワスカが目の前に現れた。
「あ」
ワスカは見るからに怒っていた。彼はコオが自分のあとをついて歩いていると思って進んでいたのに、振り向いたらコオの姿がないことに驚き、慌ててコオを探しあてた。それなのに、コオはこんなところで呑気にスケッチをしていたから怒って当然なのだ。しかもワスカが頭を抱えたのはそれだけではない。
「コオ、すぐそこから離れて。そこは禁足地だ」
「へ……?」
「いいから」
ワスカは手を伸ばし、コオの手首を掴むとグイ、と自分の方へと引き寄せたものだから、コオは体勢を崩して転びそうになった。しかしワスカが咄嗟にその体を反転させて自分の胸の方に抱き寄せる。
その途端に、コオはワスカの汗の匂いを感じた。涼しげな顔をして歩いているくせにワスカも暑いんだなあとぼんやり考えていたら、ワスカは突然体を離し、コオを睨みつけると胸ぐらを掴んできた。
「頼むから道を逸れないで。今いたところは村でも立ち入りが禁止されている場所なんだ」
「え」
「太いツタがあっただろ? あれが禁足のしるしだ。あそこは儀式を取り扱う神聖な場所なんだよ。……と言うかなぜ俺の後ろについてこない! 道を逸れた先に獣と遭遇することもあるんだぞ!」
今までコオを叱ることはあっても、怒鳴ることは一度もなかったワスカ。そんな彼の怒鳴り声に、コオは思わず息を飲み込んだ。真剣に怒っているのはコオの安全を思ってくれているからだ。
「……すまない、クスコスがあったから、つい」
コオはかなり小声でそう答えるしかなかった。わざとでは無くて、そこに追い求めていた薬草があったから。だからつい道を逸れてしまった。だけどワスカに声をかけず単独行動してしまったことは深く反省しなければならない。ココット村の聖なる土地に踏み入れたことも。
しばらくして、ワスカは小さなため息をついて、胸ぐらを掴んでいた手を離した。
「もう、次はしないで」
「ああ、約束するよ。ワスカに迷惑かけない」
「……今日は少し早いけど戻ろう。雨の香りがしてきた」
「ああ」
そして二人は先ほど来た道を引き換えし、宿へと向かう。そのときワスカもコオも気が付いていなかったのだ。コオの黄色のふわふわした髪に赤茶色の葉っぱが数枚、絡み付いていたことに。
(あれ……?)
拳より二回りくらい小さな実が点々と落ちている。それはクスコスの実ではないか。先を行くワスカは実に気が付かずそのまま素通りして行ってしまった。声をかけるよりもその実が本物なのか確かめたくて、少しぐらい大丈夫だろうとコオは思わずその木の方の根元に向かう。途中、枝に絡まるツタが行手を阻んだがナイフでそれを切り紫の実を手に乗せてみた。それは図鑑でみたクスコスの実に間違いない。それならば本体が近くにあるはずだ、と腰を下ろし木の根元を中心的に目を皿のようにして探してみると、裏面が銀色の葉をもつ草に出会う。それを見て思わず声を上げる。
「クスコスだ」
ようやく会えたお目当ての薬草に、コオは喜びを隠せない。だが、希少な植物なので見つかったからとはいえすぐには採取せずスケッチすることにした。ポケットからメモ帳とペンを取り出しさらさらと描きはじめる。そして数分経った頃、ワスカが目の前に現れた。
「あ」
ワスカは見るからに怒っていた。彼はコオが自分のあとをついて歩いていると思って進んでいたのに、振り向いたらコオの姿がないことに驚き、慌ててコオを探しあてた。それなのに、コオはこんなところで呑気にスケッチをしていたから怒って当然なのだ。しかもワスカが頭を抱えたのはそれだけではない。
「コオ、すぐそこから離れて。そこは禁足地だ」
「へ……?」
「いいから」
ワスカは手を伸ばし、コオの手首を掴むとグイ、と自分の方へと引き寄せたものだから、コオは体勢を崩して転びそうになった。しかしワスカが咄嗟にその体を反転させて自分の胸の方に抱き寄せる。
その途端に、コオはワスカの汗の匂いを感じた。涼しげな顔をして歩いているくせにワスカも暑いんだなあとぼんやり考えていたら、ワスカは突然体を離し、コオを睨みつけると胸ぐらを掴んできた。
「頼むから道を逸れないで。今いたところは村でも立ち入りが禁止されている場所なんだ」
「え」
「太いツタがあっただろ? あれが禁足のしるしだ。あそこは儀式を取り扱う神聖な場所なんだよ。……と言うかなぜ俺の後ろについてこない! 道を逸れた先に獣と遭遇することもあるんだぞ!」
今までコオを叱ることはあっても、怒鳴ることは一度もなかったワスカ。そんな彼の怒鳴り声に、コオは思わず息を飲み込んだ。真剣に怒っているのはコオの安全を思ってくれているからだ。
「……すまない、クスコスがあったから、つい」
コオはかなり小声でそう答えるしかなかった。わざとでは無くて、そこに追い求めていた薬草があったから。だからつい道を逸れてしまった。だけどワスカに声をかけず単独行動してしまったことは深く反省しなければならない。ココット村の聖なる土地に踏み入れたことも。
しばらくして、ワスカは小さなため息をついて、胸ぐらを掴んでいた手を離した。
「もう、次はしないで」
「ああ、約束するよ。ワスカに迷惑かけない」
「……今日は少し早いけど戻ろう。雨の香りがしてきた」
「ああ」
そして二人は先ほど来た道を引き換えし、宿へと向かう。そのときワスカもコオも気が付いていなかったのだ。コオの黄色のふわふわした髪に赤茶色の葉っぱが数枚、絡み付いていたことに。
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(誤字脱字報告不要)