触手召喚士

柏木あきら

文字の大きさ
2 / 14

2.クスコス

 ムワッとする暑さの中、鳥がギイギイと鳴いている。足元の枝を踏み荒らしながら辺りを見渡していると少し先にある大きな木の根元に紫の実が点在しているのが見えた。
 (あれ……?)
 拳より二回りくらい小さな実が点々と落ちている。それはクスコスの実ではないか。先を行くワスカは実に気が付かずそのまま素通りして行ってしまった。声をかけるよりもその実が本物なのか確かめたくて、少しぐらい大丈夫だろうとコオは思わずその木の方の根元に向かう。途中、枝に絡まるツタが行手を阻んだがナイフでそれを切り紫の実を手に乗せてみた。それは図鑑でみたクスコスの実に間違いない。それならば本体が近くにあるはずだ、と腰を下ろし木の根元を中心的に目を皿のようにして探してみると、裏面が銀色の葉をもつ草に出会う。それを見て思わず声を上げる。
「クスコスだ」
 ようやく会えたお目当ての薬草に、コオは喜びを隠せない。だが、希少な植物なので見つかったからとはいえすぐには採取せずスケッチすることにした。ポケットからメモ帳とペンを取り出しさらさらと描きはじめる。そして数分経った頃、ワスカが目の前に現れた。
「あ」
 ワスカは見るからに怒っていた。彼はコオが自分のあとをついて歩いていると思って進んでいたのに、振り向いたらコオの姿がないことに驚き、慌ててコオを探しあてた。それなのに、コオはこんなところで呑気にスケッチをしていたから怒って当然なのだ。しかもワスカが頭を抱えたのはそれだけではない。
「コオ、すぐそこから離れて。そこは禁足地だ」
「へ……?」
「いいから」
 ワスカは手を伸ばし、コオの手首を掴むとグイ、と自分の方へと引き寄せたものだから、コオは体勢を崩して転びそうになった。しかしワスカが咄嗟にその体を反転させて自分の胸の方に抱き寄せる。
 その途端に、コオはワスカの汗の匂いを感じた。涼しげな顔をして歩いているくせにワスカも暑いんだなあとぼんやり考えていたら、ワスカは突然体を離し、コオを睨みつけると胸ぐらを掴んできた。
「頼むから道を逸れないで。今いたところは村でも立ち入りが禁止されている場所なんだ」
「え」
「太いツタがあっただろ? あれが禁足のしるしだ。あそこは儀式を取り扱う神聖な場所なんだよ。……と言うかなぜ俺の後ろについてこない! 道を逸れた先に獣と遭遇することもあるんだぞ!」
 今までコオを叱ることはあっても、怒鳴ることは一度もなかったワスカ。そんな彼の怒鳴り声に、コオは思わず息を飲み込んだ。真剣に怒っているのはコオの安全を思ってくれているからだ。
「……すまない、クスコスがあったから、つい」
 コオはかなり小声でそう答えるしかなかった。わざとでは無くて、そこに追い求めていた薬草があったから。だからつい道を逸れてしまった。だけどワスカに声をかけず単独行動してしまったことは深く反省しなければならない。ココット村の聖なる土地に踏み入れたことも。
 しばらくして、ワスカは小さなため息をついて、胸ぐらを掴んでいた手を離した。
「もう、次はしないで」
「ああ、約束するよ。ワスカに迷惑かけない」
「……今日は少し早いけど戻ろう。雨の香りがしてきた」
「ああ」
 そして二人は先ほど来た道を引き換えし、宿へと向かう。そのときワスカもコオも気が付いていなかったのだ。コオの黄色のふわふわした髪に赤茶色の葉っぱが数枚、絡み付いていたことに。
感想 0

あなたにおすすめの小説

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

神官、触手育成の神託を受ける

彩月野生
BL
神官ルネリクスはある時、神託を受け、密かに触手と交わり快楽を貪るようになるが、傭兵上がりの屈強な将軍アロルフに見つかり、弱味を握られてしまい、彼と肉体関係を持つようになり、苦悩と悦楽の日々を過ごすようになる。 (誤字脱字報告不要)

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。