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3.雨の夜
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その日の夜は、夕食を終えた後から密林特有の強い雨が降り始めた。
「今日はひどいな」
美味しそうな料理がのっている皿をテーブルに置きながらそう言ったのは宿の主人でもある村長のステラだ。村長自ら料理を振る舞うのは人手が足らないということもあるが、単に自分の趣味だと真っ白い歯を見せながらステラはコオがこの宿に来た初日に言っていた。ココット村には薬草の研究者たちがよく訪れる。そのためこの宿は山奥の村にあるのに、満足度が高い。もっともステラは住み込みではないので、夜は宿泊者だけになる。
特に真夏のこの時期にここを訪れる研究者たちはあまりいなくて、いま泊まっているのはコオだけ。あとはコオをガイドする間だけワスカが泊まっている。
「明日はぬかるんでるだろうから、気をつけて。怪我したら大変だ」
ステラの言葉に料理を頬張っていたワスカがこくりと頷いた。ココット村には治療や投薬ができる一級薬草師がおらず、病気や怪我をすると峠を一つ越えた隣村まで行かなければならない。不便なものだな、とコオはスープを飲みながら思っていた。
「ゆっくり歩くことにするよ。ありがとう、ステラさん」
ステラはコオの頭をくしゃくしゃになでて優しく笑った。
食事を終え、部屋に戻り少し恐怖を感じるくらいの雨音を聞きながら、コオは早めに床に入った。木で作られたベッドに寝具が敷いてある。密林では、かなりの距離を歩くためこの村に来てから爆睡することが多くなっていたコオだが、今夜は様子が違っていた。何だか寝苦しくて、入眠にも時間がかかったのだ。きっとこの雨のせいだとコオは布団を被りながら目を瞑った。
そしてどれくらい時間が経過しただろうか。ふいにコオは夢から目覚め、目をうっすらと開けた。真っ暗な室内を見てまだ夜が明けていないことを知る。ココット村に来て夜中に目が覚めることはなかったから、珍しいなと思いつつ寝返りを打とうとした時。右腕が頭より上に挙がっているという、不自然な体勢になっていることに気づく。寝相は悪く無い方なので、どうしたんだろうと思っているとその右腕が自由に動かせないことに気づいた。
「……?」
そして真横に伸ばしている左腕も自分で動かすことができない。異様な雰囲気を感じ、コオは頭を左右に動かした。暗闇に目が慣れてきて、ぼんやりと浮かんできた室内の様子に、コオは思わず言葉を失う。
(な、何だこれ……!)
寝る前は何の異常はなかったはずなのに、今目の前に広がっているのはあり得ない光景。室内に植物のツルのようなものが壁一面にびっしりと貼り付いているのだ。ツルは腕くらい太いものから小指くらいの細いものまでたくさん。さらにコオが息を呑んだのは、その中の数本がまるで生き物のように動いているのを見つけたからだ。
「ひ……」
明らかに異常な光景に目を背け、逃げようとするも腕が動かせない。まさか、と思い右腕を見ると手首にツルがぐるぐる巻きになっていて縛られていた。左腕も同様。コオは思わず足をバタバタさせると、シュルと音がして長いツルが足に絡まってきて左右に大きく開かせ縛りつける。そうしてコオの体はとうとうベッドにくくりつけられてしまったのだ。
「今日はひどいな」
美味しそうな料理がのっている皿をテーブルに置きながらそう言ったのは宿の主人でもある村長のステラだ。村長自ら料理を振る舞うのは人手が足らないということもあるが、単に自分の趣味だと真っ白い歯を見せながらステラはコオがこの宿に来た初日に言っていた。ココット村には薬草の研究者たちがよく訪れる。そのためこの宿は山奥の村にあるのに、満足度が高い。もっともステラは住み込みではないので、夜は宿泊者だけになる。
特に真夏のこの時期にここを訪れる研究者たちはあまりいなくて、いま泊まっているのはコオだけ。あとはコオをガイドする間だけワスカが泊まっている。
「明日はぬかるんでるだろうから、気をつけて。怪我したら大変だ」
ステラの言葉に料理を頬張っていたワスカがこくりと頷いた。ココット村には治療や投薬ができる一級薬草師がおらず、病気や怪我をすると峠を一つ越えた隣村まで行かなければならない。不便なものだな、とコオはスープを飲みながら思っていた。
「ゆっくり歩くことにするよ。ありがとう、ステラさん」
ステラはコオの頭をくしゃくしゃになでて優しく笑った。
食事を終え、部屋に戻り少し恐怖を感じるくらいの雨音を聞きながら、コオは早めに床に入った。木で作られたベッドに寝具が敷いてある。密林では、かなりの距離を歩くためこの村に来てから爆睡することが多くなっていたコオだが、今夜は様子が違っていた。何だか寝苦しくて、入眠にも時間がかかったのだ。きっとこの雨のせいだとコオは布団を被りながら目を瞑った。
そしてどれくらい時間が経過しただろうか。ふいにコオは夢から目覚め、目をうっすらと開けた。真っ暗な室内を見てまだ夜が明けていないことを知る。ココット村に来て夜中に目が覚めることはなかったから、珍しいなと思いつつ寝返りを打とうとした時。右腕が頭より上に挙がっているという、不自然な体勢になっていることに気づく。寝相は悪く無い方なので、どうしたんだろうと思っているとその右腕が自由に動かせないことに気づいた。
「……?」
そして真横に伸ばしている左腕も自分で動かすことができない。異様な雰囲気を感じ、コオは頭を左右に動かした。暗闇に目が慣れてきて、ぼんやりと浮かんできた室内の様子に、コオは思わず言葉を失う。
(な、何だこれ……!)
寝る前は何の異常はなかったはずなのに、今目の前に広がっているのはあり得ない光景。室内に植物のツルのようなものが壁一面にびっしりと貼り付いているのだ。ツルは腕くらい太いものから小指くらいの細いものまでたくさん。さらにコオが息を呑んだのは、その中の数本がまるで生き物のように動いているのを見つけたからだ。
「ひ……」
明らかに異常な光景に目を背け、逃げようとするも腕が動かせない。まさか、と思い右腕を見ると手首にツルがぐるぐる巻きになっていて縛られていた。左腕も同様。コオは思わず足をバタバタさせると、シュルと音がして長いツルが足に絡まってきて左右に大きく開かせ縛りつける。そうしてコオの体はとうとうベッドにくくりつけられてしまったのだ。
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