【完結】落ちぶれ後天性アルファと踊り子オメガの小夜曲

柏木あきら

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奇跡のアルファ

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「爺さん、とぼけてんのかよ。そいつは『奇跡のアルファ』なんかじゃねぇ。『落ちぶれアルファ』だ」
 男の背後に立つ若者がニヤニヤと笑いながら視線をカークに向ける。それは店に入る前にも受けた――ここ数年、どれほどの人々から受けたか分からない――あの軽蔑の眼差しだ。
「は?」
 男は不思議そうな顔をして若者に尋ねると、彼はおもむろにカークのフェイスベールに触れ、めくった。すると目の前のバーテンダーが目を大きく開いた。
 金髪に青い目、口元にある二つの黒子と小さなあざ。そして若者はさらにカークの握っていた拳を乱暴に掴み、手首を掲げてみせた。国王に仕える者の印である鷹の入れ墨の上に大きなバツの焼印がそこにあった。
「薬害だよ。こいつの作った【リナッシタ】のせいでなあ、国民が大勢、健康被害にあったんだ。もとの病気よりも重い被害にな!」
 ギリ、とカークは歯を食いしばる。喋っていた男は顔面蒼白になっていた。
「そんな……わしはちょうど国を出ていて知らなんだ」
 大きな声に周りの客もざわめき、カークを中心にして人だかりができる。
「落ちぶれアルファだってよ」
「ああ、あの……」
「アルファ様がこんなとこにくるとは、と思ったけどお前ならピッタリだな」
 ゲラゲラと客が笑う中、カークはその時間を凌ぐことしかできない。反論しようにもできない。何故なら若者が言ったことは事実であり――それがいくら冤罪だと訴えても無駄なのだから。
 『奇跡のアルファ』――その言葉を聞くたびに、胸の奥に鈍い痛みが走る。あの日も、同じ呼び名で讃えられた。まだ何も失っていなかった頃のことだ。

***

 ラスタ国王の住まいがある城の敷地内に、カークが勤務していた研究塔あった。漆喰で作られたこの塔は外も中も真っ白。中では二十人程度の職員が日々研究を重ねていた。国民に販売、支給する薬は全てこの研究塔を通して国が管理している。新薬の発明も行われており、カークはその担当者だった。
「おはよう」
 白衣を着たカークの後ろから同僚のミズキが話しかけた。彼とは八年同じ研究チームで、プライベートでもご飯を食べに行く仲だった。大きな窓から朝日が燦々と入り、ミズキの銀髪がキラキラと輝く。
「今日はいよいよ【リナッシタ】の発表だな。あの薬は高く評価されるぞ。なにせ【シロナ】の特効薬だもんなあ」
 ミズキは少し興奮したように巻き立ててきたので、カークはその様子がおかしくて思わず吹き出してしまった。
 【シロナ】はラスタ国内で流行った病だ。体内に入った変異型ウイルスのせいで、皮膚に斑点と水ぶくれができ、症状が進むと内臓まで弱ってしまうという、恐ろしい病だ。薬が存在せず、一度かかると治癒が難しかったこの【シロナ】の特効薬をカークが開発、国王に認可され今日、発表することになったのだ。待ち望んでいた薬に国中が沸き立った。
 そしてミズキの予言通り、発表された【リナッシタ】はあっという間に生産が追いつかないほど受注が入った。服用した患者の経過も問題なく、【シロナ】は一年足らずで風邪と同様の病のレベルになった。そしてこの薬を開発したカークは一躍時の人となりドラマチックなその生い立ちを暴露され、今や『奇跡のアルファ』と呼ばれるほどになった。
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