【完結】落ちぶれ後天性アルファと踊り子オメガの小夜曲

柏木あきら

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落ちぶれアルファ

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「大変だな、『奇跡のアルファ』だなんて」
「本当だよ……うんざりさ」
 ある日の昼下がりにミズキは苦笑いしながら隣で昼食を取るカークを励ました。研究塔に勤務するのは八割がアルファでミズキもアルファだがカークはその中で異端児だ。何故なら、彼は『後天性アルファ』だから。
「発症後に遠い国からラスタ国に引き取られて教育されたカークはメキメキと頭角を表し、いまや研究塔で活躍する白衣の『奇跡』――だってさ。引き取られたんだっけ?」
 ミズキが手にした雑誌の記事を読み上げ、そう聞いてきた。
「そうだね」
 遠い国の田舎町で両親と姉二人、弟と住んでいたカーク。第二の性はベータだったし、家族全員ベータだった。十五歳の時に両膝の激痛と高熱で受診したときに判明したのが突然変異の一種で、かなり稀有なケースの『後天性アルファ』だ。
 その話を聞きながらミズキは首を傾げた。
「両膝?」
「成長痛だよ。一日で身長が恐ろしいくらい伸びたんだ」
 変化したのは身長だけではない。あどけない顔が端正な顔つきに変わっていった。勉強もさほど成績が良くなかったのに、授業の内容が面白いほど頭に入る。気が付けば秀才だとか天才だとか褒められていた。そんな時、どこで聞いたのかラスタ国からの使いがぜひ我が国に来て欲しい、と国王自らの手紙を携えて来たのだ。それが十七歳の春。ベータのころの引っ込み思案の彼ならついて行くことはなかっただろうが、この時、もっと広い世界で活躍したいと――アルファとしての自覚がしっかりと芽生えていたのである。結局、数ヶ月後に家族に別れを告げ一人ラスタ国に足を踏み入れたのだ。
 頭角を現した彼は研究塔で大いに活躍した。ベータからのアルファへの転身。そして薬をはじめ数々の栄光で人々は『奇跡のアルファ』と尊敬の念を込めてそう呼んでいた。
「寂しくはなかったのかい?」
「どちらかというと新しい世界を見られることにワクワクしていたかな。十七歳くらいなら好奇心のかたまりだし」
「今のカークからは想像できないな。君は穏やかすぎて、アルファであることを忘れてしまうよ」
 ミズキと笑いながら研究塔の廊下を歩く。窓から見える爽やかな空に小鳥の鳴き声。こんな日がずっと続くのだろうとカークは信じていた。
 地位を確立させた【リナッシタ】がまさか自分を失脚させる原因になるとは、この時予想もしていなかったのだ。

 その一報を聞いたのは、灰色の空に雨が強く降る朝。雷鳴も聞こえ、不吉な天気だった。
 研究塔にいたカークは突然、国王の元に呼び出された。使いの者の緊張感漲る様子にただことではない――と息を呑んで接見の間に駆けつけると、そこにいたのは国王のハルカスと二人の大臣。彼らの顔からいずれも良い知らせではないことが一目瞭然だった。
 そしてカークに知らされた事実は心臓を貫くほどの衝撃。あの【リナッシタ】を服用した複数の患者に健康被害がでているという話だった。死に至った者は今のところいないものの、老人や子供は重症化しているのだという。
「そんな……! 発売前に臨床試験もしましたし、発売後重篤な副作用の報告はなかったはずです」
 彼が思わず口を開くと、大臣は首を左右に振った。
「残念だがあの薬を服用した、ということ以外に彼らに共通点が見つからないんだ」
 愕然として膝から崩れたカークに一瞥し、国王は二人の大臣に命令を下した。
「すでに国民は不信感をあらわにしている。このままでは研究塔だけの問題ですまなくなるだろう。【リナッシタ】の製造販売を即、中止にする」
 それからのことは、あまり記憶にない。人々の怒号、研究塔での冷遇、そして手首の烙印――
 カールは目を瞑り、狐目のバーテンダーが作った酒をグイッと飲み干した。
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