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命咲くダンス
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『落ちぶれアルファ』を囲う客たちは言いたい放題だったが何も言わないカークに飽きたのか、一人また一人と離れていく。やがて店内に白の照明が灯されると客たちはどよめく。トップダンサーのお出ましだとアナウンスが流れると皆、舞台の方へ移動しカークの周りにはバーテンダー以外誰もいなくなった。
「お前さんあのアルファだったんだな」
人だかりがなくなりホッとしたのも束の間、目の前のバーテンダーが皿を拭きながら話しかけてきた。
「ああ。そうだ。……騒がせてしまってすまない」
ポケットの中から金貨を取り出してテーブルに置き席を立とうとすると何故かバーテンダーが引き留める。
「まだ酒が残ってるじゃないか。ゆっくりしとけよ」
煙たがっているのだろうと思い店を出ようとしたが、狐目の彼はどうやらそうではなかったようだ。それであれば、とカークは残った酒をまたちびちびと飲み始めた。ダンスの曲が流れる中、二人の間に沈黙が漂った。だが居心地が悪い気がしないのはバーテンダーが良くも悪くも話しかけてこないから。この街はきっとそうなのだろう。深い干渉を好まない者たちが集まるのかもしれない。しばらくすると、音楽が止み客たちの歓声と指笛が店内に響く。チラリと舞台を見ると、銀髪の若者が客に手を振っている。『男しかいない』とバーテンダーに言われていたが、彼はまるで女性、いや女神のようだ。
「あの子は一番人気なんだよ」
バーテンダーの声にへぇ、と相づちを打ちながら元の姿勢に戻り肴の豆を口に入れた。
「お前さんの好みじゃない?」
「綺麗だなとは思うがね」
飲み終えたグラスをバーテンダーに渡すと彼はオーダーしていない酒をスッと差し出した。
「頼んでないが」
「うちの客が無礼したからな、お詫びだよ。それに今から踊る子を見てな」
バーテンダーが言い終わると今度は店の照明が橙色に照らされた。どうやらダンサーに合わせて色を変えているようだ。そして舞台裾から出て来たのは先ほどのダンサーよりは背の低い――今まで見たダンサーたちの中で一番低いかもしれない――赤髪の少年だ。短パンからのぞく脚、タンクトップからの腕は褐色で正直、色気などは感じられない。だがカークは何故か彼から目が離せなかった。それは舞台の上で見せた表情のせいかもしれない。何が嬉しいのか少年はまるで夏の太陽のように眩しい笑みを振りまいていた。
そして両手をあげると、先ほどのダンサーたちとは違う、体全体を使ったパワフルなダンスを披露し始めた。妖艶さはないが――まるで観ているものを元気づけるようなダンス。その独特な雰囲気にカークは惹きつけられ、凝視する。その様子をバーテンダーは見ながら口元を緩めた。
「この子のダンスは万人受けするわけではないんだ。人気もそこそこなんだが、私は好きでね。ほら、命が咲いているようなダンスだろう?」
その言葉にカークは小さくうなずく。先ほどまでは舞台に興味がなかったのに、今は彼を凝視していた。ドクンドクンと、自分の鼓動の高鳴りに息を呑む。
数分の間の少年の舞台を見ているのは数名の客だけ。それでも彼は踊る。まるで止まると命が尽きると言わんばかりに。やがて照明が落ち、曲が止まると――
「ありがとう!」
少年がまた笑顔を見せ手を振ると、客たちが拍手を送っていた。彼に魅了され放心していたカークは我に帰り舞台からカウンターに向き直すと目の前のバーテンダーに問う。
「……あの子の名前は、なんていうんだ」
「シチャだよ。あんたみたいに弱ってる奴にはあの子の踊りが合ってるだろうと思ってな」
自分の思惑通りになったことが嬉しいのか、狐目の彼はクックックと笑い出した。そんな彼の様子にチッと舌打ちをする。
少年のパワフルで輝くダンスと笑顔が脳裏から離れず、鼓動は早いままだ。もっと彼を見たい――カークは惹かれていることをごまかすかのように酒をあおった。しかし、結局のところ彼が忘れられなくてカークはまた数日後にこの店を訪れることになった。
「お前さんあのアルファだったんだな」
人だかりがなくなりホッとしたのも束の間、目の前のバーテンダーが皿を拭きながら話しかけてきた。
「ああ。そうだ。……騒がせてしまってすまない」
ポケットの中から金貨を取り出してテーブルに置き席を立とうとすると何故かバーテンダーが引き留める。
「まだ酒が残ってるじゃないか。ゆっくりしとけよ」
煙たがっているのだろうと思い店を出ようとしたが、狐目の彼はどうやらそうではなかったようだ。それであれば、とカークは残った酒をまたちびちびと飲み始めた。ダンスの曲が流れる中、二人の間に沈黙が漂った。だが居心地が悪い気がしないのはバーテンダーが良くも悪くも話しかけてこないから。この街はきっとそうなのだろう。深い干渉を好まない者たちが集まるのかもしれない。しばらくすると、音楽が止み客たちの歓声と指笛が店内に響く。チラリと舞台を見ると、銀髪の若者が客に手を振っている。『男しかいない』とバーテンダーに言われていたが、彼はまるで女性、いや女神のようだ。
「あの子は一番人気なんだよ」
バーテンダーの声にへぇ、と相づちを打ちながら元の姿勢に戻り肴の豆を口に入れた。
「お前さんの好みじゃない?」
「綺麗だなとは思うがね」
飲み終えたグラスをバーテンダーに渡すと彼はオーダーしていない酒をスッと差し出した。
「頼んでないが」
「うちの客が無礼したからな、お詫びだよ。それに今から踊る子を見てな」
バーテンダーが言い終わると今度は店の照明が橙色に照らされた。どうやらダンサーに合わせて色を変えているようだ。そして舞台裾から出て来たのは先ほどのダンサーよりは背の低い――今まで見たダンサーたちの中で一番低いかもしれない――赤髪の少年だ。短パンからのぞく脚、タンクトップからの腕は褐色で正直、色気などは感じられない。だがカークは何故か彼から目が離せなかった。それは舞台の上で見せた表情のせいかもしれない。何が嬉しいのか少年はまるで夏の太陽のように眩しい笑みを振りまいていた。
そして両手をあげると、先ほどのダンサーたちとは違う、体全体を使ったパワフルなダンスを披露し始めた。妖艶さはないが――まるで観ているものを元気づけるようなダンス。その独特な雰囲気にカークは惹きつけられ、凝視する。その様子をバーテンダーは見ながら口元を緩めた。
「この子のダンスは万人受けするわけではないんだ。人気もそこそこなんだが、私は好きでね。ほら、命が咲いているようなダンスだろう?」
その言葉にカークは小さくうなずく。先ほどまでは舞台に興味がなかったのに、今は彼を凝視していた。ドクンドクンと、自分の鼓動の高鳴りに息を呑む。
数分の間の少年の舞台を見ているのは数名の客だけ。それでも彼は踊る。まるで止まると命が尽きると言わんばかりに。やがて照明が落ち、曲が止まると――
「ありがとう!」
少年がまた笑顔を見せ手を振ると、客たちが拍手を送っていた。彼に魅了され放心していたカークは我に帰り舞台からカウンターに向き直すと目の前のバーテンダーに問う。
「……あの子の名前は、なんていうんだ」
「シチャだよ。あんたみたいに弱ってる奴にはあの子の踊りが合ってるだろうと思ってな」
自分の思惑通りになったことが嬉しいのか、狐目の彼はクックックと笑い出した。そんな彼の様子にチッと舌打ちをする。
少年のパワフルで輝くダンスと笑顔が脳裏から離れず、鼓動は早いままだ。もっと彼を見たい――カークは惹かれていることをごまかすかのように酒をあおった。しかし、結局のところ彼が忘れられなくてカークはまた数日後にこの店を訪れることになった。
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