【完結】落ちぶれ後天性アルファと踊り子オメガの小夜曲

柏木あきら

文字の大きさ
5 / 39

命咲くダンス

しおりを挟む
 『落ちぶれアルファ』を囲う客たちは言いたい放題だったが何も言わないカークに飽きたのか、一人また一人と離れていく。やがて店内に白の照明が灯されると客たちはどよめく。トップダンサーのお出ましだとアナウンスが流れると皆、舞台の方へ移動しカークの周りにはバーテンダー以外誰もいなくなった。
「お前さんあのアルファだったんだな」
 人だかりがなくなりホッとしたのも束の間、目の前のバーテンダーが皿を拭きながら話しかけてきた。
「ああ。そうだ。……騒がせてしまってすまない」
 ポケットの中から金貨を取り出してテーブルに置き席を立とうとすると何故かバーテンダーが引き留める。
「まだ酒が残ってるじゃないか。ゆっくりしとけよ」
 煙たがっているのだろうと思い店を出ようとしたが、狐目の彼はどうやらそうではなかったようだ。それであれば、とカークは残った酒をまたちびちびと飲み始めた。ダンスの曲が流れる中、二人の間に沈黙が漂った。だが居心地が悪い気がしないのはバーテンダーが良くも悪くも話しかけてこないから。この街はきっとそうなのだろう。深い干渉を好まない者たちが集まるのかもしれない。しばらくすると、音楽が止み客たちの歓声と指笛が店内に響く。チラリと舞台を見ると、銀髪の若者が客に手を振っている。『男しかいない』とバーテンダーに言われていたが、彼はまるで女性、いや女神のようだ。
「あの子は一番人気なんだよ」
 バーテンダーの声にへぇ、と相づちを打ちながら元の姿勢に戻り肴の豆を口に入れた。
「お前さんの好みじゃない?」
「綺麗だなとは思うがね」
 飲み終えたグラスをバーテンダーに渡すと彼はオーダーしていない酒をスッと差し出した。
「頼んでないが」
「うちの客が無礼したからな、お詫びだよ。それに今から踊る子を見てな」
 バーテンダーが言い終わると今度は店の照明が橙色に照らされた。どうやらダンサーに合わせて色を変えているようだ。そして舞台裾から出て来たのは先ほどのダンサーよりは背の低い――今まで見たダンサーたちの中で一番低いかもしれない――赤髪の少年だ。短パンからのぞく脚、タンクトップからの腕は褐色で正直、色気などは感じられない。だがカークは何故か彼から目が離せなかった。それは舞台の上で見せた表情のせいかもしれない。何が嬉しいのか少年はまるで夏の太陽のように眩しい笑みを振りまいていた。
 そして両手をあげると、先ほどのダンサーたちとは違う、体全体を使ったパワフルなダンスを披露し始めた。妖艶さはないが――まるで観ているものを元気づけるようなダンス。その独特な雰囲気にカークは惹きつけられ、凝視する。その様子をバーテンダーは見ながら口元を緩めた。
「この子のダンスは万人受けするわけではないんだ。人気もそこそこなんだが、私は好きでね。ほら、命が咲いているようなダンスだろう?」
 その言葉にカークは小さくうなずく。先ほどまでは舞台に興味がなかったのに、今は彼を凝視していた。ドクンドクンと、自分の鼓動の高鳴りに息を呑む。
 数分の間の少年の舞台を見ているのは数名の客だけ。それでも彼は踊る。まるで止まると命が尽きると言わんばかりに。やがて照明が落ち、曲が止まると――
「ありがとう!」
 少年がまた笑顔を見せ手を振ると、客たちが拍手を送っていた。彼に魅了され放心していたカークは我に帰り舞台からカウンターに向き直すと目の前のバーテンダーに問う。
「……あの子の名前は、なんていうんだ」
「シチャだよ。あんたみたいに弱ってる奴にはあの子の踊りが合ってるだろうと思ってな」
 自分の思惑通りになったことが嬉しいのか、狐目の彼はクックックと笑い出した。そんな彼の様子にチッと舌打ちをする。
 少年のパワフルで輝くダンスと笑顔が脳裏から離れず、鼓動は早いままだ。もっと彼を見たい――カークは惹かれていることをごまかすかのように酒をあおった。しかし、結局のところ彼が忘れられなくてカークはまた数日後にこの店を訪れることになった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

αに軟禁されました

雪兎
BL
支配的なαに閉じ込められたΩ。だがそれは、愛のはじまりだった――。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜

せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。 しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……? 「お前が産んだ、俺の子供だ」 いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!? クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに? 一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士 ※一応オメガバース設定をお借りしています

処理中です...