【完結】落ちぶれ後天性アルファと踊り子オメガの小夜曲

柏木あきら

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客とダンサー

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 カウンターからゆっくりできるテーブル席に移動し、シチャに酒を注いでもらう。給仕は苦手で、と呟いていたがその時も危なっかしい手つきにカークは口元を緩めた。そしてまずは君のことを教えて欲しい、と尋ねると嬉々として彼は語り始めた。ダンス歴は長いんだと聞いた時、ふとカークが尋ねる。
「君は未成年だろう?」
「えっ、僕二十四才だよ!」
 驚いたのはカークのほうだった。二十四才にしては身長が低いしなにより童顔過ぎる。呆気に取られているとシチャはほおを膨らます。
「まだまだ色気が足らないんだなあ……」
 君の魅力は色気じゃないさ、と言ってやると彼はまたヘヘッと笑い、続きを話す。
「ここに来る前は養護施設にいて、この店のオーナーが僕を引き取ってくれたんだ。ダンサーの素質があるからって」
 養護施設にいた子をどうしてダンスができると分かったのだろうか。不思議に思っていると、シチャはそれも包み隠さずに話す。
「僕は養護施設に入る前、親からダンスの指導をうけていてね。体に身に付いていたから、施設でもよくみんなの前で踊っていたんだ。それを施設長が話したのか、オーナーは知ってて」
 こんなバーでダンサーをしているなら過去は色々あるのだろうとは思っていたのだが、シチャの過去を暴いてしまったような気がしてカークは思わず顔が曇る。軽々しく聞いていい話ではなかったと。それに気がついたのかシチャは慌てて弁明した。
「あ! でも僕はここの生活気に入ってるんだよ。みんな優しいし、大好きなダンスをたくさんできるし」
「そうか」
 カークの表情が柔らかくなったのを見て彼は安心したのかふっと笑顔になる。
「こうやってあなたにも会えたし! ねぇ、また僕のダンスを見に来てくれる?」
 この子が喜んでくれるなら、笑顔が見られるならいつでもここに来る。カークは喜んで、と返事をした。
 無邪気で元気で……本当は色々あっただろうにそれを健気に隠して。自分のなかに芽生えた庇護欲を感じながらもし弟がいたらこんな感じなのだろうか、とカークは考えた。

 それからカークは【レイヴン】に通うようになった。シチャが舞台でダンスをするときも、そうでない時も彼はカウンター席にいる。もっと舞台に近づけばいいのにとナルに勧められたがカークは遠くで見る方が性に合っているとその席を選んだ。
 大勢の客にまみれて近くで見るより、遠くから彼のパフォーマンスを全体的に見る方がいい。それにダンスをしながらたまに視線をカウンター席に向けたシチャと目が合った瞬間、笑顔を見せてくれることが何より嬉しい。
 胸が弾み思わずフェイスベールの下で笑みがこぼれてしまうのだ。
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