【完結】落ちぶれ後天性アルファと踊り子オメガの小夜曲

柏木あきら

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謎のアルファ

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 月に数回の給仕は定まった日ではないので、店に行った時ナルが教えてくれる。その日はダンスが見られなくて残念だがシチャがいつも一生懸命に給仕する姿が微笑ましく胸が弾む。
「そう言えば最近、銀髪の彼を見ないな。君の前で踊っていただろう?」
 ナルが初日にトップダンサーだと言っていた踊り子のことだ。毎回シチャの前に踊っていたから自然に覚えていた。
「ああ、あの子なら辞めたんだよ。ミウケされて」
「ミウケ?」
「うん。お客さんがお金を出してこの店を辞めさせて、自分のもとに置くんだ。値段は本人は知らない。お客さんと店長が交渉するからね」
 へぇ、と感心する。ミウケされたダンサーは婚姻相手になったり愛人になったりさまざまらしい。そんな愛もあるんだなとカークは思った。
 そしてしばらくしてシチャがポツリと言う。
「カーク、いつも指名してくれて、ありがとう」
 トップダンサーではない彼は容易に指名できる。それはカークにとって喜ばしいことだが、シチャは少し複雑な心境のようだ。指名が増えればダンスの枠を増やしてもらえる、といつか彼は語った。金でもなく承認欲求でもないその言葉にカークは少し不思議に感じた。
「なぜ、そんなにダンスをしたいんだ?」
「ダンスが大好きだからさ。踊っているときは楽しくて何もかも忘れられるし……それにちょっとした夢があるんだ」
 少なくなったグラスの酒を注ぎながらシチャは少し言い淀んで内緒! と囁きはにかむ。いつか教えてくれたらいいとカークは笑って注がれた酒を口にした。
 『落ちぶれアルファ』と呼ばれてから久しく感じていなかった、穏やかで優しい時間。店内は相変わらずどぎつい照明と音楽、タバコの香りで雑多な空間なのにまるでこの二人の周りだけは花畑のような――たとえシチャがお客のために演じているのだとしても――空間にカークはいつまでも酔っていたいと願っていた。
 
 じめじめとした夏の湿気を含んだある夜。シチャのダンスの余韻を感じつつグラスを傾けながらカークはそろそろ帰るかと思っていた――その時だった。一人の男がやってきた。
「隣いいかな?」
 そう言いながら返答を待つでもなく男は椅子に座りナルに酒をオーダーしていた。そんな彼をカークは横目に見る。銀髪を逆立て、シルバーの大ぶりなアクセサリーを身につけた、背の高い男だった。首には蛇のタトゥーが見えている。そして横顔だけでもわかる彼の彫りの深い端正な顔立ち。
 ――アルファだ。
 咄嗟に気がついたのは外見と彼の持つ雰囲気からだ。後天性アルファにはない強い威圧感。研究塔で向けられていたアルファからの軽蔑の視線。それを思い出し、カークは思わず目を背けた。しかし男はそんなことはお構いなしに話しかけてきた。
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