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ルモンドの微笑
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「君、アルファだよね。随分入り浸ってるみたいだけどここが気に入ったの?」
耳にスッと入る心地よい声だが、ほんの少し悪意を感じカークは返事をせずにいた。すると男は頬杖をついてカークの顔を覗き込む。ふんわりと香る甘ったるい香水が鼻につき眉を顰める。やがて茶色の瞳と眼が合い、思わず怯むと突然笑顔になった。
「そんなに警戒しなくてもいいじゃないか。自分の店にアルファが来るなんて珍しくて」
その言葉にカークは息を呑み、大きく目を開く。そしてその様子を見ていたナルがため息をつき助け舟を出した。
「ルモンド。お客をあまり揶揄うのは良くねえよ。すまないな、カーク。この人はこういう性格なんだ」
それがカークが初めて見た【レイヴン】のオーナー、ルモンドだった。ナル曰く、ルモンドはたまにこうやって自分の店に顔を出すらしい。アルファがこんな場末のバーを経営しているなど聞いたことがなかった。しかもアルファが寄り付かない【ダスク】で。好奇心が湧きつつもカークはそのまま平常心を装った。
何せ彼がアルファであれば自分の顔を見ればすぐ『落ちぶれアルファ』と分かるだろう。カークは咄嗟にフェイスベールをいつもより高い位置に締めた。
「シチャを気に入ってくれているお客を見ておきたくてね」
クイっとグラスを傾けるその彼の姿を隣でカークは凝視する。なぜ、シチャをここで出すのか、と感じたときある事を思い出した。『ここに来る前は養護施設にいて、オーナーが引き取ってくれてね』それはシチャの言葉。だから彼は自分を見にきたのか。――何のために?
冷や汗が出てくるのは、きっとルモンドの目が笑っていないからだろう。自分を丸裸にしてしまうようなルモンドの鋭い視線にカークは恐怖と嫌悪が入り混じり何とも言い難い感情の波に襲われてしまう。やがて彼は酒を飲み干すと席を立ってカークの右肩にそっと手を置いた。
「うちのダンサーを気に入ってくれるのは、オーナーとしても嬉しいよ。ゆっくり楽しんで」
肩に置かれた手の指が食い込むような感覚を覚え、カークはしばらく動けないままでいた。
ルモンドがもしシチャに『落ちぶれアルファ』の話をしたら――彼は自分のことを軽蔑するだろうか。
「なあ、ナル」
「なに」
「シチャは私をアルファと分かってるだろうか」
「……ここのダンサーは皆、オメガで鼻が効くし、あんたのその容姿なら否応なしにアルファだと分かるさ。残念ながら彼も分かってるだろう」
その言葉にカークはまた沈黙してしまった。
耳にスッと入る心地よい声だが、ほんの少し悪意を感じカークは返事をせずにいた。すると男は頬杖をついてカークの顔を覗き込む。ふんわりと香る甘ったるい香水が鼻につき眉を顰める。やがて茶色の瞳と眼が合い、思わず怯むと突然笑顔になった。
「そんなに警戒しなくてもいいじゃないか。自分の店にアルファが来るなんて珍しくて」
その言葉にカークは息を呑み、大きく目を開く。そしてその様子を見ていたナルがため息をつき助け舟を出した。
「ルモンド。お客をあまり揶揄うのは良くねえよ。すまないな、カーク。この人はこういう性格なんだ」
それがカークが初めて見た【レイヴン】のオーナー、ルモンドだった。ナル曰く、ルモンドはたまにこうやって自分の店に顔を出すらしい。アルファがこんな場末のバーを経営しているなど聞いたことがなかった。しかもアルファが寄り付かない【ダスク】で。好奇心が湧きつつもカークはそのまま平常心を装った。
何せ彼がアルファであれば自分の顔を見ればすぐ『落ちぶれアルファ』と分かるだろう。カークは咄嗟にフェイスベールをいつもより高い位置に締めた。
「シチャを気に入ってくれているお客を見ておきたくてね」
クイっとグラスを傾けるその彼の姿を隣でカークは凝視する。なぜ、シチャをここで出すのか、と感じたときある事を思い出した。『ここに来る前は養護施設にいて、オーナーが引き取ってくれてね』それはシチャの言葉。だから彼は自分を見にきたのか。――何のために?
冷や汗が出てくるのは、きっとルモンドの目が笑っていないからだろう。自分を丸裸にしてしまうようなルモンドの鋭い視線にカークは恐怖と嫌悪が入り混じり何とも言い難い感情の波に襲われてしまう。やがて彼は酒を飲み干すと席を立ってカークの右肩にそっと手を置いた。
「うちのダンサーを気に入ってくれるのは、オーナーとしても嬉しいよ。ゆっくり楽しんで」
肩に置かれた手の指が食い込むような感覚を覚え、カークはしばらく動けないままでいた。
ルモンドがもしシチャに『落ちぶれアルファ』の話をしたら――彼は自分のことを軽蔑するだろうか。
「なあ、ナル」
「なに」
「シチャは私をアルファと分かってるだろうか」
「……ここのダンサーは皆、オメガで鼻が効くし、あんたのその容姿なら否応なしにアルファだと分かるさ。残念ながら彼も分かってるだろう」
その言葉にカークはまた沈黙してしまった。
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