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カークの独白
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白い照明がダンサーを照らし、周りの客からの熱狂的な声援に手を振っている。そんな様子をぼんやりと見ていると、カウンター奥からシチャが近寄ってきた。
「カーク、お待たせ」
胸が開いたシャツに黒いショートパンツ姿。いつもながら目のやり場に困る。特にこの夜は前回の来訪から時間が経っているから尚更だ。
「なかなか店に来れなくてすまない」
「今までが通いすぎ。お金大丈夫かなって心配してたよ」
まるでいたずらっ子のように笑うシチャにカークはその頭をくしゃくしゃと撫でた。研究塔にいた時に稼いだ金は一般市民の想像を絶する額で、彼は当時多忙で使うことがなかったから今こうして暮らせている。それでなければとっくに街の浮浪者になっていただろう。
来訪に間が空いたのは単純に足が向かなかっただけ。ルモンドはシチャにカークの過去を話してしまうのではないか。話を聞いた彼は自分を軽蔑してしまうだろう。今まで出会った人々のように。悶々と考えているうちに時間が経過した。
――それであれば自分から話そう、とカークはようやく決意したのだ。
二杯目の酒を注がれた時、カークは拳を握った。
「……なあ、シチャ。君は俺がアルファだと分かっているのかい」
急な質問に酒をかき混ぜていたマドラーの手が止まる。そしてカークの方を向きうなずいた。
「うん。だって――カークは背が高いし色白だし、フェイスベールの下の整った顔立ちで分かっていたよ」
「アルファがここに来るのは珍しいのだろう? 不思議に思わなかったのか」
「思っていたさ。だけど、ここに通うお客は詮索が嫌いだし余計なことだ。だから僕らは自分から身の上を話してもお客の話を聞き出そうとはしない。お客が自分から話してくれるなら聞くけどね」
バックで流れていた曲が止まった瞬間カラン、とグラスの氷が音を鳴らす。シチャの澄んだ声とその音が胸に染み込み、カークは肩の力を抜いた。
「……私から話したら、君は聞いてくれるかい」
「もちろん。話してもいいと思うほど、僕を信頼してくれているんだ、嬉しいことだよ」
氷が溶け出すように、シチャが心を溶かしてくれたのかもしれない。シチャはマドラーを置き、隣でじっと彼を見つめた。過去を自分から話すのは初めてだ。彼は大きく息を吸って語り始めた。国家直属の研究塔メンバーだったこと、薬を開発したこと、それが人々に行き渡り安堵したこと、そして薬害の報告と共に販売停止になり追放されたこと。
やがて語り終えた後、カークは胸のつかえがとれたような感覚とそれとは真逆に不安の波が背後から襲ってきた。不意によぎったのは、ルモンドの冷ややかな視線と今まで受けてきた人々の軽蔑の言葉。
――彼はどう感じただろうか。
するとシチャは突然、体を寄せてカークの体を両手で包み込んだ。柑橘系の香水の香りと彼の体温を感じ、カークの体が固まる。
「カーク、お待たせ」
胸が開いたシャツに黒いショートパンツ姿。いつもながら目のやり場に困る。特にこの夜は前回の来訪から時間が経っているから尚更だ。
「なかなか店に来れなくてすまない」
「今までが通いすぎ。お金大丈夫かなって心配してたよ」
まるでいたずらっ子のように笑うシチャにカークはその頭をくしゃくしゃと撫でた。研究塔にいた時に稼いだ金は一般市民の想像を絶する額で、彼は当時多忙で使うことがなかったから今こうして暮らせている。それでなければとっくに街の浮浪者になっていただろう。
来訪に間が空いたのは単純に足が向かなかっただけ。ルモンドはシチャにカークの過去を話してしまうのではないか。話を聞いた彼は自分を軽蔑してしまうだろう。今まで出会った人々のように。悶々と考えているうちに時間が経過した。
――それであれば自分から話そう、とカークはようやく決意したのだ。
二杯目の酒を注がれた時、カークは拳を握った。
「……なあ、シチャ。君は俺がアルファだと分かっているのかい」
急な質問に酒をかき混ぜていたマドラーの手が止まる。そしてカークの方を向きうなずいた。
「うん。だって――カークは背が高いし色白だし、フェイスベールの下の整った顔立ちで分かっていたよ」
「アルファがここに来るのは珍しいのだろう? 不思議に思わなかったのか」
「思っていたさ。だけど、ここに通うお客は詮索が嫌いだし余計なことだ。だから僕らは自分から身の上を話してもお客の話を聞き出そうとはしない。お客が自分から話してくれるなら聞くけどね」
バックで流れていた曲が止まった瞬間カラン、とグラスの氷が音を鳴らす。シチャの澄んだ声とその音が胸に染み込み、カークは肩の力を抜いた。
「……私から話したら、君は聞いてくれるかい」
「もちろん。話してもいいと思うほど、僕を信頼してくれているんだ、嬉しいことだよ」
氷が溶け出すように、シチャが心を溶かしてくれたのかもしれない。シチャはマドラーを置き、隣でじっと彼を見つめた。過去を自分から話すのは初めてだ。彼は大きく息を吸って語り始めた。国家直属の研究塔メンバーだったこと、薬を開発したこと、それが人々に行き渡り安堵したこと、そして薬害の報告と共に販売停止になり追放されたこと。
やがて語り終えた後、カークは胸のつかえがとれたような感覚とそれとは真逆に不安の波が背後から襲ってきた。不意によぎったのは、ルモンドの冷ややかな視線と今まで受けてきた人々の軽蔑の言葉。
――彼はどう感じただろうか。
するとシチャは突然、体を寄せてカークの体を両手で包み込んだ。柑橘系の香水の香りと彼の体温を感じ、カークの体が固まる。
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