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月あかりの廃墟
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「……生まれてずっとこの街しか知らなくて。湖とか、森とかそういう自然のあるところに行ったことがないんだ」
【ダスク】は首都に近いこともあり建物が密集している。植樹はされているものの、誰も手入れをしていないのか枯れかかったものが多い。内陸なので海も湖もない。
「だから自然たくさんのところで……太陽のもとで思い切りダンス、したいんだ。照明に照らされた小さなステージじゃなくてね」
シチャはまるで恋する乙女のように、目を輝かす。人から見れば些細なことだろう。しかしこれが彼にとって難しいことかをカークは知っていた。シチャはこの街から出る術がない。だから彼にとっては夢なのだ。
「そうか、シチャはどこまでもダンスが好きなんだな」
笑うことなく優しい微笑みを見せたカークに、シチャも笑顔を見せる。
「うん。カークはみたことあるよね?」
「ああ。私の故郷には大きな湖があって、湖畔をよく散歩していたよ。近くの森で虫を捕まえたり」
それはまだアルファになる前の家族と暮らしていた頃の記憶だ。研究塔にいたころは手紙を出していたが、薬害の騒動後、故郷に連絡をするのが怖くてそのままだ。
「そうなんだ、僕アルファの人はもっと都会に住んでると思ってたよ」
それを聞き、カークはシチャに自分が後天性アルファであることを話していないことに気づいた。
――まあ、大したことではないし話す必要はないだろう。言わなくてもいいことだ、そうカークは判断した。
のちにシチャが離れてしまう原因になるとは、このときの彼は思いもよらなかった。
「でもね、カーク。こんな街でもお気に入りのところがあるんだ」
「そうなのか?」
どう考えてもシチャが気に入りそうな場所が思いつかない。カークが降参すると彼は人差し指を天に向けた。
「月だよ。この店の隣の通りに廃屋があるよね。月が出ている時はそこの屋上で練習をしているんだ」
【ダスク】は街灯が切れていることが多く、大通り以外はかなり暗い。だからこそ月光の輝きは青白くあたりを照らすことができる。その明かりを使ってシチャはダンスをするのだ。カークは月明かりの下で踊る彼を想像する。
「……それはいい考えだな。君のダンスも素晴らしく輝きそうだ」
「褒めすぎだよ!」
シチャはそう言うと、カークの耳元に近づいてこっそりと提案する。
「今夜は月が大きくて明るいし――店が終わったら、少し観にこない?」
店の外でダンサーが客に披露するなど、御法度だ。だから耳元で囁いたのだろう。カークには甘い誘いに聞こえて胸が疼く。もう答えはわかっていたのだろう、カークがうなずくとシチャは満足そうに微笑んだ。
【ダスク】は首都に近いこともあり建物が密集している。植樹はされているものの、誰も手入れをしていないのか枯れかかったものが多い。内陸なので海も湖もない。
「だから自然たくさんのところで……太陽のもとで思い切りダンス、したいんだ。照明に照らされた小さなステージじゃなくてね」
シチャはまるで恋する乙女のように、目を輝かす。人から見れば些細なことだろう。しかしこれが彼にとって難しいことかをカークは知っていた。シチャはこの街から出る術がない。だから彼にとっては夢なのだ。
「そうか、シチャはどこまでもダンスが好きなんだな」
笑うことなく優しい微笑みを見せたカークに、シチャも笑顔を見せる。
「うん。カークはみたことあるよね?」
「ああ。私の故郷には大きな湖があって、湖畔をよく散歩していたよ。近くの森で虫を捕まえたり」
それはまだアルファになる前の家族と暮らしていた頃の記憶だ。研究塔にいたころは手紙を出していたが、薬害の騒動後、故郷に連絡をするのが怖くてそのままだ。
「そうなんだ、僕アルファの人はもっと都会に住んでると思ってたよ」
それを聞き、カークはシチャに自分が後天性アルファであることを話していないことに気づいた。
――まあ、大したことではないし話す必要はないだろう。言わなくてもいいことだ、そうカークは判断した。
のちにシチャが離れてしまう原因になるとは、このときの彼は思いもよらなかった。
「でもね、カーク。こんな街でもお気に入りのところがあるんだ」
「そうなのか?」
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「……それはいい考えだな。君のダンスも素晴らしく輝きそうだ」
「褒めすぎだよ!」
シチャはそう言うと、カークの耳元に近づいてこっそりと提案する。
「今夜は月が大きくて明るいし――店が終わったら、少し観にこない?」
店の外でダンサーが客に披露するなど、御法度だ。だから耳元で囁いたのだろう。カークには甘い誘いに聞こえて胸が疼く。もう答えはわかっていたのだろう、カークがうなずくとシチャは満足そうに微笑んだ。
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