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シチャの想い
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扉にクローズの札が掲げられたころ、店内は薄暗く静まり返っていた。ナルたちが清掃をしている間、シチャは控え室にある鏡の前で髪を整えながら、ふと自分が浮かれていることに気づき苦笑いした。
――カークは待っててくれているだろうか。
いつもなら彼が帰ったあとは心がぽっかりと空いたような寂しさを覚えるが、今夜は違う。いまからまた彼に会えるのだ。そう思うとほおが自然に緩む。
「シチャ。なに鏡見てニヤニヤしてんだ」
ナルに言われて慌てて鏡から離れた。店の外で客に会うことがバレたら大変なことになる。なんでもないよ、と伝え帰ろうとすると、ナルは言葉を続けた。
「しかし、客とはいえお前があんなにカークに懐くとはな。アルファ嫌いなくせに」
彼の名が出て心臓が口から飛び出しそうに驚いたが、冷静を装ってヘラヘラと笑う。
「お客様だからね。それに彼はあまりアルファらしくないからさ」
プライドが強く傲慢な人種、それがアルファ。オメガをまるでモノのように扱う彼らが嫌いだった。この街にはアルファが滅多に来ないのが救いだ。
そんな中、自分のダンスを熱心に見ている客がまさかアルファだなんて思わなかった。ナルに紹介されたときに感じた匂いとフェイスベールから覗く端正な顔。アルファだと気がつき身構えたが彼はちっともアルファらしくなかった。いつもシチャを慈しむような視線を投げてくる。
――そんな彼を嫌いになるはずはない。
アルファは嫌いだがカークは別。そんなことを言うとナルは箒を持ったまま呟いた。その時ほんの少しだけ彼の目が冷ややかに光る。
「金をくれるならいいけどよ、一線を越えることはするなよ? ルモンドが警戒してるからな」
いまからカークに会うことをまるで知っているかのような口ぶりにナルの言葉を聞いてシチャは身震いした。鋭いのはルモンドだけではなくナルもなのだ。
「……分かっているよ。心配してくれて、ありがとうね」
ふん、と鼻を鳴らしナルはシチャの頭をクシャっと掴んだ。
「お前はなんだか目が離せねぇんだよな。俺と同じ仲間だしな」
せっかく直した髪型をぐしゃぐしゃにされ、シチャは唇を尖らせた。
店を出て、シチャは小走りに廃屋に向かう。背中から月光が彼を照らし影が先行して石畳に映る。廃屋の入り口まできて、歩みを止めると、中からカークが現れた。
「カーク!」
驚いたのは彼がフェイスベールをしていないことだった。店に来る時は必ず着用しているし、飲む時ですらつけたままだ。なにか事情があるのだろうが、いつもの掟でそれを聞くことはしなかった。
ベールをとった彼の顔はアルファそのもの。すっと鼻筋が通っていて青い目は切れ長で美しい。少しだけ厚い唇と凛々しい眉。
「……初めて、顔を見たよ」
「ここなら君しかいないからね」
ということは、自分なら顔を見せても構わないということだろうか――特別扱いをされている気がして、シチャは動悸が高鳴るのを覚えた。
――カークは待っててくれているだろうか。
いつもなら彼が帰ったあとは心がぽっかりと空いたような寂しさを覚えるが、今夜は違う。いまからまた彼に会えるのだ。そう思うとほおが自然に緩む。
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ナルに言われて慌てて鏡から離れた。店の外で客に会うことがバレたら大変なことになる。なんでもないよ、と伝え帰ろうとすると、ナルは言葉を続けた。
「しかし、客とはいえお前があんなにカークに懐くとはな。アルファ嫌いなくせに」
彼の名が出て心臓が口から飛び出しそうに驚いたが、冷静を装ってヘラヘラと笑う。
「お客様だからね。それに彼はあまりアルファらしくないからさ」
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そんな中、自分のダンスを熱心に見ている客がまさかアルファだなんて思わなかった。ナルに紹介されたときに感じた匂いとフェイスベールから覗く端正な顔。アルファだと気がつき身構えたが彼はちっともアルファらしくなかった。いつもシチャを慈しむような視線を投げてくる。
――そんな彼を嫌いになるはずはない。
アルファは嫌いだがカークは別。そんなことを言うとナルは箒を持ったまま呟いた。その時ほんの少しだけ彼の目が冷ややかに光る。
「金をくれるならいいけどよ、一線を越えることはするなよ? ルモンドが警戒してるからな」
いまからカークに会うことをまるで知っているかのような口ぶりにナルの言葉を聞いてシチャは身震いした。鋭いのはルモンドだけではなくナルもなのだ。
「……分かっているよ。心配してくれて、ありがとうね」
ふん、と鼻を鳴らしナルはシチャの頭をクシャっと掴んだ。
「お前はなんだか目が離せねぇんだよな。俺と同じ仲間だしな」
せっかく直した髪型をぐしゃぐしゃにされ、シチャは唇を尖らせた。
店を出て、シチャは小走りに廃屋に向かう。背中から月光が彼を照らし影が先行して石畳に映る。廃屋の入り口まできて、歩みを止めると、中からカークが現れた。
「カーク!」
驚いたのは彼がフェイスベールをしていないことだった。店に来る時は必ず着用しているし、飲む時ですらつけたままだ。なにか事情があるのだろうが、いつもの掟でそれを聞くことはしなかった。
ベールをとった彼の顔はアルファそのもの。すっと鼻筋が通っていて青い目は切れ長で美しい。少しだけ厚い唇と凛々しい眉。
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ということは、自分なら顔を見せても構わないということだろうか――特別扱いをされている気がして、シチャは動悸が高鳴るのを覚えた。
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