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橙色の先の甘い香り
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気のせいかと思っていたが、何日も通っていて分かった。シチャが給仕に入っているとき、必ず他の客が横にいる。どんなに指名してもカークの元に来ない。そんな日が続き、カークは否応なしにシチャと距離をとらされていることに気づいた。
それは店がやっていることなのか、シチャからなのか。前者であることをカークは願うばかりだ。
なぜなら彼にとってシチャとの時間が唯一の楽しみで――生きがいだ。『落ちぶれアルファ』と呼ばれ始め八年。ようやく見つけた心のよりどころ。
「……ナル、シチャはもう来てもらえないのかな」
ある日、カークはバーテンダーのナルに単刀直入に聞いた。ナルはその問いにグラスを拭きながら答える。
「シチャ以外にもいい子はいるぜ。ほらあの子なんかアルファに憧れている。以前からお前さんの横に行きたがっているしな」
顎で別のダンサーを指し、ナルは明確な答えを避けた。しかしそのダンサーが自分につきたいだなんて、真っ赤な嘘だとカークは気が付いている。『落ちぶれアルファ』に給仕したいだなんて、そんな奴はいない。シチャだけだ。
ナルの言葉を遮るように酒をオーダーすると、あたりが橙色の照明に包まれた。シチャの出番だ。カークは恨めしそうに視線を舞台の方に向ける。あんなに心待ちにしていたシチャの登場がこんなに辛いなんて、と思いながら。
舞台に立っているシチャはいつもの通り短パンにタンクトップ。灯りが彼を包むと一礼する。そしていつものように、体をめいいっぱい使ってシチャ特有のダンスを披露していたのだが――
いつもよりキレのないそのダンスにカークは眉をひそめた。口を開け、息が切れているし、ふらつくような様子も。そして足がもつれ、転倒する場面まで。思わず席から立ち上がったカークの鼻腔にかすかだが甘い香りが漂い、クラッと軽いめまいを起こした。
なんだ、と頭を振るとだんだんと思考がにじみ始め、体が熱くなる。甘い香りはやがて強くなってきてカークの体をねっとりと包み込んできた。そして彼はこの香りがなにか、思い出したのだ。
――オメガのヒートだ。
【レイヴン】のダンサーたちはオメガばかり。ヒートになれば当然襲われる危険性が高い。だから管理は厳重なのだと聞いたことがあった。なのに何故、と香りがする方へ鼻を向けカークは青くなる。
それは店がやっていることなのか、シチャからなのか。前者であることをカークは願うばかりだ。
なぜなら彼にとってシチャとの時間が唯一の楽しみで――生きがいだ。『落ちぶれアルファ』と呼ばれ始め八年。ようやく見つけた心のよりどころ。
「……ナル、シチャはもう来てもらえないのかな」
ある日、カークはバーテンダーのナルに単刀直入に聞いた。ナルはその問いにグラスを拭きながら答える。
「シチャ以外にもいい子はいるぜ。ほらあの子なんかアルファに憧れている。以前からお前さんの横に行きたがっているしな」
顎で別のダンサーを指し、ナルは明確な答えを避けた。しかしそのダンサーが自分につきたいだなんて、真っ赤な嘘だとカークは気が付いている。『落ちぶれアルファ』に給仕したいだなんて、そんな奴はいない。シチャだけだ。
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いつもよりキレのないそのダンスにカークは眉をひそめた。口を開け、息が切れているし、ふらつくような様子も。そして足がもつれ、転倒する場面まで。思わず席から立ち上がったカークの鼻腔にかすかだが甘い香りが漂い、クラッと軽いめまいを起こした。
なんだ、と頭を振るとだんだんと思考がにじみ始め、体が熱くなる。甘い香りはやがて強くなってきてカークの体をねっとりと包み込んできた。そして彼はこの香りがなにか、思い出したのだ。
――オメガのヒートだ。
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