20 / 39
アルファからオメガになった少年
しおりを挟む
「おい、聞いてんのか?」
目の前の客が怪訝そうにシチャを見る。シチャは慌てて微笑みながらもちろんさ、とまた酒を注いだ。彼の体からはむせかえるような香水の匂い。だが彼だけではない。自分からも少しずつ甘い香りが出ているだろう。
――明日にはヒートが来そうだ。
通常のオメガであればヒートは毎月あるのだが後天性オメガは半年に一度程度だ。以前のヒートの時はまだカークがこの店に来ていなかった。
ヒートになったときの自分なんて絶対彼にみてほしくない。抑えられない欲情、複数の男に抱かれ体液とも精液とも分からない粘液まみれになる自分の姿など、見せられるはずもない。だが、ルモンドは休みをくれないだろう。彼は自分を商品としてしか見ていないのだから。
「そう言えば最近、お前いつもあの『落ちぶれアルファ』についてたろ。だからなかなか呼べなくてよぉ」
「……はは、いつでも言ってくれたらいいのに。僕は誰のものでもないんだから」
「まあな。そういやお前の歳だったらあいつが『奇跡のアルファ』って呼ばれてたの知らないか」
それはシチャにとって初耳だった。以前カークから話を聞いた時は『落ちぶれアルファ』のことしか話さなかったからだ。シチャは不思議そうな顔をしていると、彼は得意げに鼻を鳴らす。
「あいつはな、後天性アルファなんだぜ。十五歳くらいでベータからアルファになってさ。城に迎えられて研究塔に入ったんだと」
それを聞き、シチャは思わず目を見開く。――後天性アルファ。話には聞いたことがあったが、目の当たりにしたことはなく、都市伝説なのだと思っていた。自身も後天性であるがオメガのほうはまだ数が多い。
しかしそれは『ベータがオメガに変化する』ほうだ。『アルファからオメガに変化する人間』は自分以外に聞いたことがない。 気づけば指先がかすかに震え、グラスを支えることすらできなくなっていた。シチャはナルに体調が悪いと訴えるとヒートも近いこともあり、部屋に帰ることを許された。暗い部屋で明かりを点ける気になれずベッドに身を投げ、目を閉じる。
アルファとして育ち、一生過ごしていくんだと思っていた少年期。両親はダンサーとしての彼の能力を最大限に生かしてやろうと著名なダンサーを講師として呼び、レッスンを自宅で受けていた。将来は有名校に入れてますます磨きをかけて――などとよく食卓で話しているのを聞いていたものだ。
しかしあの日。高熱を出し、金色の髪が一夜で錆びた赤色になった。鏡の中の自分がまるで別人のように写り悲鳴をあげた。髪の色だけでなく、世界のすべてが変わってしまったようだった。
両親はただ事ではないと医師に診てもらって――後天性オメガだと告げられた日から、シチャの未来は一変した。
目の前の客が怪訝そうにシチャを見る。シチャは慌てて微笑みながらもちろんさ、とまた酒を注いだ。彼の体からはむせかえるような香水の匂い。だが彼だけではない。自分からも少しずつ甘い香りが出ているだろう。
――明日にはヒートが来そうだ。
通常のオメガであればヒートは毎月あるのだが後天性オメガは半年に一度程度だ。以前のヒートの時はまだカークがこの店に来ていなかった。
ヒートになったときの自分なんて絶対彼にみてほしくない。抑えられない欲情、複数の男に抱かれ体液とも精液とも分からない粘液まみれになる自分の姿など、見せられるはずもない。だが、ルモンドは休みをくれないだろう。彼は自分を商品としてしか見ていないのだから。
「そう言えば最近、お前いつもあの『落ちぶれアルファ』についてたろ。だからなかなか呼べなくてよぉ」
「……はは、いつでも言ってくれたらいいのに。僕は誰のものでもないんだから」
「まあな。そういやお前の歳だったらあいつが『奇跡のアルファ』って呼ばれてたの知らないか」
それはシチャにとって初耳だった。以前カークから話を聞いた時は『落ちぶれアルファ』のことしか話さなかったからだ。シチャは不思議そうな顔をしていると、彼は得意げに鼻を鳴らす。
「あいつはな、後天性アルファなんだぜ。十五歳くらいでベータからアルファになってさ。城に迎えられて研究塔に入ったんだと」
それを聞き、シチャは思わず目を見開く。――後天性アルファ。話には聞いたことがあったが、目の当たりにしたことはなく、都市伝説なのだと思っていた。自身も後天性であるがオメガのほうはまだ数が多い。
しかしそれは『ベータがオメガに変化する』ほうだ。『アルファからオメガに変化する人間』は自分以外に聞いたことがない。 気づけば指先がかすかに震え、グラスを支えることすらできなくなっていた。シチャはナルに体調が悪いと訴えるとヒートも近いこともあり、部屋に帰ることを許された。暗い部屋で明かりを点ける気になれずベッドに身を投げ、目を閉じる。
アルファとして育ち、一生過ごしていくんだと思っていた少年期。両親はダンサーとしての彼の能力を最大限に生かしてやろうと著名なダンサーを講師として呼び、レッスンを自宅で受けていた。将来は有名校に入れてますます磨きをかけて――などとよく食卓で話しているのを聞いていたものだ。
しかしあの日。高熱を出し、金色の髪が一夜で錆びた赤色になった。鏡の中の自分がまるで別人のように写り悲鳴をあげた。髪の色だけでなく、世界のすべてが変わってしまったようだった。
両親はただ事ではないと医師に診てもらって――後天性オメガだと告げられた日から、シチャの未来は一変した。
31
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
【完結】Ωになりたくない僕には運命なんて必要ない!
なつか
BL
≪登場人物≫
七海 千歳(ななみ ちとせ):高校三年生。二次性、未確定。新聞部所属。
佐久間 累(さくま るい):高校一年生。二次性、α。バスケットボール部所属。
田辺 湊(たなべ みなと):千歳の同級生。二次性、α。新聞部所属。
≪あらすじ≫
α、β、Ωという二次性が存在する世界。通常10歳で確定する二次性が、千歳は高校三年生になった今でも未確定のまま。
そのことを隠してβとして高校生活を送っていた千歳の前に現れたαの累。彼は千歳の運命の番だった。
運命の番である累がそばにいると、千歳はΩになってしまうかもしれない。だから、近づかないようにしようと思ってるのに、そんな千歳にかまうことなく累はぐいぐいと迫ってくる。しかも、βだと思っていた友人の湊も実はαだったことが判明。
二人にのαに挟まれ、果たして千歳はβとして生きていくことができるのか。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された
楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。
何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。
記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。
----------
※注)
かっこいい攻はいません。
タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意!
貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。
ハッピーエンドです。
激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします!
全16話 完結済み/現在毎日更新予定
他サイトにも同作品を投稿しています。
様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。
初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる