【完結】落ちぶれ後天性アルファと踊り子オメガの小夜曲

柏木あきら

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アルファからオメガになった少年

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「おい、聞いてんのか?」
 目の前の客が怪訝そうにシチャを見る。シチャは慌てて微笑みながらもちろんさ、とまた酒を注いだ。彼の体からはむせかえるような香水の匂い。だが彼だけではない。自分からも少しずつ甘い香りが出ているだろう。
 ――明日にはヒートが来そうだ。
 通常のオメガであればヒートは毎月あるのだが後天性オメガは半年に一度程度だ。以前のヒートの時はまだカークがこの店に来ていなかった。
 ヒートになったときの自分なんて絶対彼にみてほしくない。抑えられない欲情、複数の男に抱かれ体液とも精液とも分からない粘液まみれになる自分の姿など、見せられるはずもない。だが、ルモンドは休みをくれないだろう。彼は自分を商品としてしか見ていないのだから。
「そう言えば最近、お前いつもあの『落ちぶれアルファ』についてたろ。だからなかなか呼べなくてよぉ」
「……はは、いつでも言ってくれたらいいのに。僕は誰のものでもないんだから」
「まあな。そういやお前の歳だったらあいつが『奇跡のアルファ』って呼ばれてたの知らないか」
 それはシチャにとって初耳だった。以前カークから話を聞いた時は『落ちぶれアルファ』のことしか話さなかったからだ。シチャは不思議そうな顔をしていると、彼は得意げに鼻を鳴らす。
「あいつはな、後天性アルファなんだぜ。十五歳くらいでベータからアルファになってさ。城に迎えられて研究塔に入ったんだと」
 それを聞き、シチャは思わず目を見開く。――後天性アルファ。話には聞いたことがあったが、目の当たりにしたことはなく、都市伝説なのだと思っていた。自身も後天性であるがオメガのほうはまだ数が多い。
 しかしそれは『ベータがオメガに変化する』ほうだ。『アルファからオメガに変化する人間』は自分以外に聞いたことがない。 気づけば指先がかすかに震え、グラスを支えることすらできなくなっていた。シチャはナルに体調が悪いと訴えるとヒートも近いこともあり、部屋に帰ることを許された。暗い部屋で明かりを点ける気になれずベッドに身を投げ、目を閉じる。

 アルファとして育ち、一生過ごしていくんだと思っていた少年期。両親はダンサーとしての彼の能力を最大限に生かしてやろうと著名なダンサーを講師として呼び、レッスンを自宅で受けていた。将来は有名校に入れてますます磨きをかけて――などとよく食卓で話しているのを聞いていたものだ。
 しかしあの日。高熱を出し、金色の髪が一夜で錆びた赤色になった。鏡の中の自分がまるで別人のように写り悲鳴をあげた。髪の色だけでなく、世界のすべてが変わってしまったようだった。
 両親はただ事ではないと医師に診てもらって――後天性オメガだと告げられた日から、シチャの未来は一変した。
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