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絶望の中で
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――何もわかってなかった。逃げろ、だなんて。彼のことを何も――分からず。
胸がナイフで抉られたかのように痛い。シチャの言葉が耳に残ったまま離れない。『途中からアルファになった奴にはわからないだろう?』
カークがベータからアルファになり、順風満帆な日々を送っていた少年時代にシチャはアルファからオメガになり地獄を見てきたのだろう。だから後天性アルファと知りシチャは混乱し暴言を吐いたのだ。
カークは床に顔を伏せて号泣する。何もしてやれないどころか、彼を深く傷つけたことに。そしてそんな彼の横に来たのはナルだった。
「――だから違う子にしろと言っただろう」
冷ややかな声を浴びせられ、カークは拳を握る。それでも彼はゆっくり顔を上げナルの方を見た。
「シチャは……大丈夫なのか」
「よほど惚れているらしいな」
狐目がゆっくりと開き、金色の瞳がカークを射る。
「大丈夫だよ。ルモンドが手当てをするから」
その瞬間、店のざわめきが遠のいた。そしてカークは絶望の崖に突き落とされる。手当て、つまりは彼がシチャを抱くのだろう。
「……」
血が滲むほどカークは唇を強く噛んだ。ルモンドからシチャを奪いたい衝動に駆られるが今の自分では何も出来ない。
「ここまで騒ぎになったんだ。悪いけどもう顔を出すなよ」
ナルの言葉にカークは何も答えなかった。
鉛のように重く痛む体を引きずりながら宿へと向かう。あたりはもう日がうっすらと明けてきていた。静寂と小鳥の囀りの中、さきほどの騒動が嘘のように平和だ。
宿の主人に怪しげに見られつつも部屋に入り、ベッドに仰向けになった。薄いカーテンの隙間から入る朝日は輝きながら冷たいナイフのように、カークに突き刺さった。蹴られた背中の痛みに顔をゆがめつつもシチャの痛みが何倍でもあることを考えると胸が張り裂けそうだ。
あんなに拒絶されてもなお――彼を救いたいと思うこの気持ちはもはや意地なのかもしれない。
視線を天井から横に流すとテーブルの上に置いていた、純白の封筒が目に入る。ミズキからの――城からの手紙。
それをぼんやり眺めているうちに、カークはあることに気づいた。
胸がナイフで抉られたかのように痛い。シチャの言葉が耳に残ったまま離れない。『途中からアルファになった奴にはわからないだろう?』
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「……」
血が滲むほどカークは唇を強く噛んだ。ルモンドからシチャを奪いたい衝動に駆られるが今の自分では何も出来ない。
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あんなに拒絶されてもなお――彼を救いたいと思うこの気持ちはもはや意地なのかもしれない。
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それをぼんやり眺めているうちに、カークはあることに気づいた。
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