神同人作家は陸くんを溺愛する。

柏木あきら

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神同人作家と陸くんは嫉妬する

来訪者

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 視線の先に気がついたのか、由宇さんもそのスニーカーを見た。
「今、お客さんがいるんだ」
 そんなだらけた格好をしているのにお客さんがいるなんて、と思ったとき室内から元気な声がした。
「高西先生、俺なら大丈夫ですよ! もう帰りますから!」
 ドタドタ、と玄関まで走ってきた彼を見て、僕は思わず手で口を覆ってしまった。
 丸い眼鏡をかけた、茶髪の若い男性。雑誌やテレビで見た大須賀綺羅くんがそこにいたからだ。 
「お、大須賀くん」
 名前を口にした僕の方を見ると、彼は眩しい笑顔を見せた。
「わあ、俺のこと知ってくれてるんですか? 嬉しい!」
 知ってるも何も、君のせいで僕は……と思いながら何も言えなくて頷くのが精一杯だった。すると大須賀くんはどうやら急いでいるようで、挨拶もそこそこにスニーカーを履くと一礼する。
「お友達さんが来られるなら、泊めていただかなくてもよかったのに。でも高西先生、大変助かりました! お友達さんもお邪魔してごめんなさい。それでは」
 まるで嵐のようにバタバタと玄関を出ていき去っていく。
「……入って。コーヒー、淹れるよ」

 コーヒーのいい香りがするリビングは大きな窓があるので、燦々と朝日が入る。それを知っているのは僕だけだと思っていたのに。何も言わない僕に、由宇さんは少し困っているようだ。
「心配してくれて、ありがとね」
 ゼリーやスポーツドリンクが入ったビニール袋を見ながら由宇さんが優しくそう言った。
 いつもなら大好きなこの声も、なんだか虚しく感じてしまう。その優しい言葉は大須賀くんにもかけたんですかって、聞きたい。
 最近こんな気持ちになってばかりだ。推しである高西ユウ先生に気に入られて、恋人になった僕は、由宇さんにとって推しの大須賀くんともそういう仲になってしまうのではと不安でたまらない。
 推しと恋愛は好きのベクトルが違うことは分かっているけど、僕の恋愛の入り口がそれだったからありえない話ではないと考えてしまう。
「どうして大須賀くんが由宇さんの部屋に?」
「終電逃したんだよ、遅くまで飲んじゃって」
「ゲーノージンなのに電車使うの? 」
「プライベートな飲み会だからじゃないかな」
「ホテルに泊まればいいじゃん。大須賀くんがいたから僕に連絡しなかったんじゃないの? 大須賀くんと何してたの」
「陸」
 由宇さんが眉を顰めてこちらを睨んでいる。まずい、言い過ぎた。
「今のどういう意味?」
 その声は聞いたことのないくらい、低い声だ。今までに何度か喧嘩したことはあるけれど、ここまで由宇さんが怒った声を僕は知らない。
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