初恋 1985/2022

2022

文字の大きさ
6 / 11
寤寐思服(ごびしふく)

夏休み

しおりを挟む
 一学期が終わり夏休みに入った。

 卓球部の総体が終わり、野球クラブの夏の大会も準決勝で1-3で惜敗した。

 同級生は高校受験に向けて勉強に励んでいるようで、いつもの遊び仲間である牧野やクラスメイトの岡野や森達からの連絡もなく、8月も半ばに差し掛かろうとしていた。

 今年は気持ちが重い夏休みだった。その理由は紛れもなく、三好真智子の姿を見ることができないことそれだけだった。親に連れられ出掛ける車中で。テレビで野球中継を観ている夕食後も。洗面台で歯を磨いているその時すらも。僕は自らの心を温めるように生徒会室や体育館、校庭や運動場で見かけた彼女の姿そのひとつひとつを思い出していた。そして眠る前、布団に入り小さな豆電気の灯りをじっと見つめながら想う。

(今頃彼女はどうしているだろうか?)

 この夏休みが終わり二学期が始まると9月で生徒会役員の任期が終わる。後期の生徒会は2年生と1年生で構成されるため、もうここで彼女と一緒になることはない。そして冬休み、高校受験を経て、春になれば僕は中学を卒業することになる。彼女に対する確かなこの想いと、それを伝えてしまうことで失ってしまうもの。自分だけが失うならまだしも、ともすれば彼女を困らせ、苦しめてしまうのではないかという不安が入り混じり、時間だけが過ぎていく焦燥感に苛まれていたーー

 そして夏休みも残すところあと1週間程になったある日。小学校からの同級生だった住谷浩から電話があり家に行くと、彼の部屋にドラムセットがあった。

「俺、ドラム演りたくてさ、親に買って貰うたんよ」

そう言って彼はそれに座り、スティックを手にした。

「行くよ!」

ズンッ。ズズンとバスドラムの重音がお腹に響く。彼はこれが基本の8ビートだと言いながらハイハットでリズムを刻む。

「上手いじゃん!」

住谷は嬉しそうな顔をして最後にシンバルを叩いてそれを止める。

「なぁ小野。バンド演らない?」

「バ、バンド……」

「うん、バンド。お前音楽得意やん。歌も上手いし、エレクトーン習っとったんやろ?」

確かに音楽は好きだった。エレクトーンは幼稚園の頃、本当は女の子が欲しかった母親の強い要望で2年近く習っていた。

「ま、まぁ……いいけど」

「よし、決まり! これでメンバー揃うた」

(メンバー揃った??)

翌日、住谷と一緒に谷口雄二の家に行った。同学年で顔は知っていたが、3年間クラスも違い、話したことはなかった。そしてもう一人の小坂浩樹も同じだった。

「あと、あいつだけや」

最後に来たのは同じクラスの北村誠だった。

「あれ、小野やん!」

住谷はニヤニヤしながら、
「びっくりしたやろ? この5人でバンド演ろうと思うんよね」


後にこのバンドでの小坂浩樹との出会いが、僕の初めての恋、その苦しみを救ってくれたのだった。

 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたが後悔しても、私の愛はもう戻りません

藤原遊
恋愛
婚約者のアルベルトは、優しい人だった。 ただ――いつも、私より優先する存在がいただけで。 「君は分かってくれると思っていた」 その一言で、リーシェは気づいてしまう。 私は、最初から選ばれていなかったのだと。 これは、奪われた恋を取り戻す物語ではない。 後悔する彼と、もう戻らないと決めた私、 そして“私を選ぶ人”に出会うまでの、静かな恋の終わりと始まりの物語。

有名俳優の妻

うちこ
恋愛
誰もが羨む結婚と遺伝子が欲しかった そこに愛はいらない

遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜

小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。 でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。 就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。 そこには玲央がいる。 それなのに、私は玲央に選ばれない…… そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。 瀬川真冬 25歳 一ノ瀬玲央 25歳 ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。 表紙は簡単表紙メーカーにて作成。 アルファポリス公開日 2024/10/21 作品の無断転載はご遠慮ください。

すべてはあなたの為だった~狂愛~

矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。 愛しているのは君だけ…。 大切なのも君だけ…。 『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』 ※設定はゆるいです。 ※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

幸せになれると思っていた

里見知美
恋愛
18歳になったら結婚しよう、と約束をしていたのに。 ある事故から目を覚ますと、誰もが私をいないものとして扱った。

恋した悪役令嬢は余命一年でした

葉方萌生
恋愛
イーギス国で暮らすハーマス公爵は、出来の良い2歳年下の弟に劣等感を抱きつつ、王位継承者として日々勉学に励んでいる。 そんな彼の元に突如現れたブロンズ色の髪の毛をしたルミ。彼女は隣国で悪役令嬢として名を馳せていたのだが、どうも噂に聞く彼女とは様子が違っていて……!?

白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは

紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。 真由子の母の雪江は、大学教授であり著名な歌人の水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。 婚約者の諒人(りょうと)のことなど、真由子は稚子と色々語り合ううち、庭の白椿の木は真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。 白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。

処理中です...