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寤寐思服(ごびしふく)
夏休み
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一学期が終わり夏休みに入った。
卓球部の総体が終わり、野球クラブの夏の大会も準決勝で1-3で惜敗した。
同級生は高校受験に向けて勉強に励んでいるようで、いつもの遊び仲間である牧野やクラスメイトの岡野や森達からの連絡もなく、8月も半ばに差し掛かろうとしていた。
今年は気持ちが重い夏休みだった。その理由は紛れもなく、三好真智子の姿を見ることができないことそれだけだった。親に連れられ出掛ける車中で。テレビで野球中継を観ている夕食後も。洗面台で歯を磨いているその時すらも。僕は自らの心を温めるように生徒会室や体育館、校庭や運動場で見かけた彼女の姿そのひとつひとつを思い出していた。そして眠る前、布団に入り小さな豆電気の灯りをじっと見つめながら想う。
(今頃彼女はどうしているだろうか?)
この夏休みが終わり二学期が始まると9月で生徒会役員の任期が終わる。後期の生徒会は2年生と1年生で構成されるため、もうここで彼女と一緒になることはない。そして冬休み、高校受験を経て、春になれば僕は中学を卒業することになる。彼女に対する確かなこの想いと、それを伝えてしまうことで失ってしまうもの。自分だけが失うならまだしも、ともすれば彼女を困らせ、苦しめてしまうのではないかという不安が入り混じり、時間だけが過ぎていく焦燥感に苛まれていたーー
そして夏休みも残すところあと1週間程になったある日。小学校からの同級生だった住谷浩から電話があり家に行くと、彼の部屋にドラムセットがあった。
「俺、ドラム演りたくてさ、親に買って貰うたんよ」
そう言って彼はそれに座り、スティックを手にした。
「行くよ!」
ズンッ。ズズンとバスドラムの重音がお腹に響く。彼はこれが基本の8ビートだと言いながらハイハットでリズムを刻む。
「上手いじゃん!」
住谷は嬉しそうな顔をして最後にシンバルを叩いてそれを止める。
「なぁ小野。バンド演らない?」
「バ、バンド……」
「うん、バンド。お前音楽得意やん。歌も上手いし、エレクトーン習っとったんやろ?」
確かに音楽は好きだった。エレクトーンは幼稚園の頃、本当は女の子が欲しかった母親の強い要望で2年近く習っていた。
「ま、まぁ……いいけど」
「よし、決まり! これでメンバー揃うた」
(メンバー揃った??)
翌日、住谷と一緒に谷口雄二の家に行った。同学年で顔は知っていたが、3年間クラスも違い、話したことはなかった。そしてもう一人の小坂浩樹も同じだった。
「あと、あいつだけや」
最後に来たのは同じクラスの北村誠だった。
「あれ、小野やん!」
住谷はニヤニヤしながら、
「びっくりしたやろ? この5人でバンド演ろうと思うんよね」
後にこのバンドでの小坂浩樹との出会いが、僕の初めての恋、その苦しみを救ってくれたのだった。
卓球部の総体が終わり、野球クラブの夏の大会も準決勝で1-3で惜敗した。
同級生は高校受験に向けて勉強に励んでいるようで、いつもの遊び仲間である牧野やクラスメイトの岡野や森達からの連絡もなく、8月も半ばに差し掛かろうとしていた。
今年は気持ちが重い夏休みだった。その理由は紛れもなく、三好真智子の姿を見ることができないことそれだけだった。親に連れられ出掛ける車中で。テレビで野球中継を観ている夕食後も。洗面台で歯を磨いているその時すらも。僕は自らの心を温めるように生徒会室や体育館、校庭や運動場で見かけた彼女の姿そのひとつひとつを思い出していた。そして眠る前、布団に入り小さな豆電気の灯りをじっと見つめながら想う。
(今頃彼女はどうしているだろうか?)
この夏休みが終わり二学期が始まると9月で生徒会役員の任期が終わる。後期の生徒会は2年生と1年生で構成されるため、もうここで彼女と一緒になることはない。そして冬休み、高校受験を経て、春になれば僕は中学を卒業することになる。彼女に対する確かなこの想いと、それを伝えてしまうことで失ってしまうもの。自分だけが失うならまだしも、ともすれば彼女を困らせ、苦しめてしまうのではないかという不安が入り混じり、時間だけが過ぎていく焦燥感に苛まれていたーー
そして夏休みも残すところあと1週間程になったある日。小学校からの同級生だった住谷浩から電話があり家に行くと、彼の部屋にドラムセットがあった。
「俺、ドラム演りたくてさ、親に買って貰うたんよ」
そう言って彼はそれに座り、スティックを手にした。
「行くよ!」
ズンッ。ズズンとバスドラムの重音がお腹に響く。彼はこれが基本の8ビートだと言いながらハイハットでリズムを刻む。
「上手いじゃん!」
住谷は嬉しそうな顔をして最後にシンバルを叩いてそれを止める。
「なぁ小野。バンド演らない?」
「バ、バンド……」
「うん、バンド。お前音楽得意やん。歌も上手いし、エレクトーン習っとったんやろ?」
確かに音楽は好きだった。エレクトーンは幼稚園の頃、本当は女の子が欲しかった母親の強い要望で2年近く習っていた。
「ま、まぁ……いいけど」
「よし、決まり! これでメンバー揃うた」
(メンバー揃った??)
翌日、住谷と一緒に谷口雄二の家に行った。同学年で顔は知っていたが、3年間クラスも違い、話したことはなかった。そしてもう一人の小坂浩樹も同じだった。
「あと、あいつだけや」
最後に来たのは同じクラスの北村誠だった。
「あれ、小野やん!」
住谷はニヤニヤしながら、
「びっくりしたやろ? この5人でバンド演ろうと思うんよね」
後にこのバンドでの小坂浩樹との出会いが、僕の初めての恋、その苦しみを救ってくれたのだった。
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