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節目
手紙
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最寄り駅前に小さなファンシーショプ(今で言う雑貨屋さん)があった。狭い店内にはアイドルの写真がデザインされた筆箱やグッズ、レターセットなどが売られており、学校帰りの女子中高生が良く出入りするのを見ていた。
店の前まで行っては通り過ぎ、また戻っては通り過ぎを繰り返しながら、店の入口から中の様子を覗っていた。
(いや、やっぱりこんな店入れんわ)
決して男子が寄るような店ではない文字通りファンシーな雰囲気に後退りした。が、しかし……ここでどうしても買いたい物があった。
ふぅーっと息をひとつ吐き、PUSHと書かれたドアに手をかける。
(誰もいませんようにーー)
ドアを押す。カランカランッと鐘の音が鳴る。
「いらっしゃいませ」
奥に座っていた20代後半から30代前半くらいの眼鏡が似合う女の人がこちらを見る。幸い店内に他のお客さんはいなかった。
「あの……レターセットってありますか?」
恥ずかしさで声が震えているのが分かる。
「レターセットは、あっちの壁側にありますよ」
女の人が指差す方へと進んでいく。途中で見た菊池桃子の筆箱に見覚えがあった。あれはバンドのメンバーのひとりである北村が使っているものだ。
(あいつ、ここで買ったんだな)
そのおかげで少しこころが落ち着いた。そしてレターセットの前に辿り着き、そのいくつかを手にして選んでいると、
カランカランと音がした。その二人の顔は知らなかったが着ていた制服から同じ中学の女子だということは分かった。僕は慌ててレターセットのひとつをレジに持って行き、お金を払っで店を出ると自転車に跨り、猛スピードで家へと走り出していた。
帰宅し、買ってきたレターセットを机の上に置いてしばらくそれを眺めた後、封を開け、鉛筆を削る。
三好さんへと書いてその文字の汚さが嫌で消しゴムで消したが、書跡が薄っすら残りそれをくしゃくしゃにして捨てた。
気を取り直してもう一枚。同じように、彼女の名前を書く。今度は上手くいった。一行空けてまた考える。
(何て書けばいいんだろう
好きです。いや、いきなり好きですはおかしいだろ。
初めまして。いやいや、初めてじゃないしな。
こんにちは。うーん、読んでくれるのが夜だったら……
最初の一行が思い浮かばず途方に暮れる。ふとその時、あることを思い出した。僕は隣の部屋のタンスの上から二段目を開ける。洋服が並んだその下にたくさんの手紙がある。宛名はすべて下山幸子、差出人は小野和夫。父が結婚前に母に送った手紙だ。
そのひとつから中を取り出す。
下山幸子様 暑い日々が続きますがお身体お変わりないですか?私は元気で過ごしております。(中略)この次お会いできる日を心から楽しみにして日々を過ごします。幸子様もどうかお身体ご自愛ください。小野和夫
正直書き振りは何の参考にもならなかった。がしかし、父の母に対する想いはハッキリ伝わる手紙だった。
僕はその手紙をそっと元に戻し、再び机の前に座り鉛筆を手にした。
店の前まで行っては通り過ぎ、また戻っては通り過ぎを繰り返しながら、店の入口から中の様子を覗っていた。
(いや、やっぱりこんな店入れんわ)
決して男子が寄るような店ではない文字通りファンシーな雰囲気に後退りした。が、しかし……ここでどうしても買いたい物があった。
ふぅーっと息をひとつ吐き、PUSHと書かれたドアに手をかける。
(誰もいませんようにーー)
ドアを押す。カランカランッと鐘の音が鳴る。
「いらっしゃいませ」
奥に座っていた20代後半から30代前半くらいの眼鏡が似合う女の人がこちらを見る。幸い店内に他のお客さんはいなかった。
「あの……レターセットってありますか?」
恥ずかしさで声が震えているのが分かる。
「レターセットは、あっちの壁側にありますよ」
女の人が指差す方へと進んでいく。途中で見た菊池桃子の筆箱に見覚えがあった。あれはバンドのメンバーのひとりである北村が使っているものだ。
(あいつ、ここで買ったんだな)
そのおかげで少しこころが落ち着いた。そしてレターセットの前に辿り着き、そのいくつかを手にして選んでいると、
カランカランと音がした。その二人の顔は知らなかったが着ていた制服から同じ中学の女子だということは分かった。僕は慌ててレターセットのひとつをレジに持って行き、お金を払っで店を出ると自転車に跨り、猛スピードで家へと走り出していた。
帰宅し、買ってきたレターセットを机の上に置いてしばらくそれを眺めた後、封を開け、鉛筆を削る。
三好さんへと書いてその文字の汚さが嫌で消しゴムで消したが、書跡が薄っすら残りそれをくしゃくしゃにして捨てた。
気を取り直してもう一枚。同じように、彼女の名前を書く。今度は上手くいった。一行空けてまた考える。
(何て書けばいいんだろう
好きです。いや、いきなり好きですはおかしいだろ。
初めまして。いやいや、初めてじゃないしな。
こんにちは。うーん、読んでくれるのが夜だったら……
最初の一行が思い浮かばず途方に暮れる。ふとその時、あることを思い出した。僕は隣の部屋のタンスの上から二段目を開ける。洋服が並んだその下にたくさんの手紙がある。宛名はすべて下山幸子、差出人は小野和夫。父が結婚前に母に送った手紙だ。
そのひとつから中を取り出す。
下山幸子様 暑い日々が続きますがお身体お変わりないですか?私は元気で過ごしております。(中略)この次お会いできる日を心から楽しみにして日々を過ごします。幸子様もどうかお身体ご自愛ください。小野和夫
正直書き振りは何の参考にもならなかった。がしかし、父の母に対する想いはハッキリ伝わる手紙だった。
僕はその手紙をそっと元に戻し、再び机の前に座り鉛筆を手にした。
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