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節目
帰り道
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ポケットの中を何度も確認しながら定刻の19:50に書店に着いた。
手紙と、かつて渡せなかったカセットテープが指先に触れる。
(今日こそは……)
いつもの場所で外の様子を覗う。
次のクラスの子達が続々とやって来た。
(よし……行こう)
書店を出て表に立つ。今日は絶対に伝えるんだともう一度、ポケットの中身を確認する。
授業を終えた生徒達が出てくるその一人一人を目で追っていた僕の眼中に、彼女の姿が飛び込んできた。
一瞬驚いたような表情をした後、ニッコリ微笑みながら、
「あっ、小野先輩!」
と彼女が僕に気づく。
「こんばんは。塾?」
「はい。今終わりました。先輩は?」
「あっ、えと……宮脇(書店の名前)に、ちょっと」
「そうなんですね」
「あ、今から帰るんだよね? 家は近く?」
「はい、ちょっと行ったところです」
「近くまで送ってもいい?」
「えっ、いいんですか? ありがとうございます」
二人は自転車を押しながらゆっくりと歩き始めた。がしかし、緊張のあまり言葉が浮かばずにいた。
「先輩の家は近いんですか?」
それを察してか否か彼女が話し掛けてくれる。
「うん。ちょうどあの先を左にすぐのとこだよ」
「あ、じゃあすぐ帰れるじゃないですか」
「大丈夫。遅いし送るよ」
「ありがとうございます」
外灯の下でぼんやり浮かぶ彼女の美しい横顔に再び目を奪われる。
(三好さんと一緒に、帰っている)
これは現状なのだろうか? もし夢だとしたら、このまま夢を見れたらいいのにとさえ思った。
「ここを左でしばらく真っ直ぐです」
赤い手袋を履いて自転車を押す彼女の歩幅に並んで歩く。生徒会でのことや、体育祭で鳩を飛ばしたこと。学校での何気ない出来事。他愛もない話しかできなかったが、彼女の声を聞いているだけで僕の心は暖炉の前にいるように暖かくなっていた。
「三好さん、音楽好き?」
「はい! 大好きです」
「何聴くの?」
「私は洋楽が好きで、マドンナが大好きです」
(洋画……マドンナ……)
ポケットの中でカセットテープが尻込みする。
「先輩は? 何が好きなんですか?」
「僕は邦楽が多いけど、ビートルズは好きだよ」
「ビートルズですか! 有名ですもんね」
小さなスーパーを通り過ぎた後、この先を左に入ったら家だと彼女が教えてくれる。
「三好さん、これ……」
ポケットからカセットテープを取り出し、徐ろにそれを差し出すと彼女は歩を止め、手袋を脱いでそれを手に取る。
「これ……私に?」
「うん。あげる。好きじゃないかもだけど」
「ありがとうございます!」
彼女は満面の笑みを浮かべてそれを鞄に仕舞い、
「聴かせていただきますね! これ、先輩が好きな曲なんですよね?」
「うん。でも好きじゃなかったら、上書きしてね」
再び歩き出して間も無く、彼女は足を止めこの左の突き当たりが家だと教えてくれる。
「今日はありがとう」
「こちらこそ、送ってくださりありがとうございます。じゃあ、失礼します」
彼女の後ろ姿が青い屋根の一軒家の中へ消えていった。僕はポケットの中に取り残された手紙を撫でながら、彼女と歩いてきた道を戻り家路に着いた。
手紙と、かつて渡せなかったカセットテープが指先に触れる。
(今日こそは……)
いつもの場所で外の様子を覗う。
次のクラスの子達が続々とやって来た。
(よし……行こう)
書店を出て表に立つ。今日は絶対に伝えるんだともう一度、ポケットの中身を確認する。
授業を終えた生徒達が出てくるその一人一人を目で追っていた僕の眼中に、彼女の姿が飛び込んできた。
一瞬驚いたような表情をした後、ニッコリ微笑みながら、
「あっ、小野先輩!」
と彼女が僕に気づく。
「こんばんは。塾?」
「はい。今終わりました。先輩は?」
「あっ、えと……宮脇(書店の名前)に、ちょっと」
「そうなんですね」
「あ、今から帰るんだよね? 家は近く?」
「はい、ちょっと行ったところです」
「近くまで送ってもいい?」
「えっ、いいんですか? ありがとうございます」
二人は自転車を押しながらゆっくりと歩き始めた。がしかし、緊張のあまり言葉が浮かばずにいた。
「先輩の家は近いんですか?」
それを察してか否か彼女が話し掛けてくれる。
「うん。ちょうどあの先を左にすぐのとこだよ」
「あ、じゃあすぐ帰れるじゃないですか」
「大丈夫。遅いし送るよ」
「ありがとうございます」
外灯の下でぼんやり浮かぶ彼女の美しい横顔に再び目を奪われる。
(三好さんと一緒に、帰っている)
これは現状なのだろうか? もし夢だとしたら、このまま夢を見れたらいいのにとさえ思った。
「ここを左でしばらく真っ直ぐです」
赤い手袋を履いて自転車を押す彼女の歩幅に並んで歩く。生徒会でのことや、体育祭で鳩を飛ばしたこと。学校での何気ない出来事。他愛もない話しかできなかったが、彼女の声を聞いているだけで僕の心は暖炉の前にいるように暖かくなっていた。
「三好さん、音楽好き?」
「はい! 大好きです」
「何聴くの?」
「私は洋楽が好きで、マドンナが大好きです」
(洋画……マドンナ……)
ポケットの中でカセットテープが尻込みする。
「先輩は? 何が好きなんですか?」
「僕は邦楽が多いけど、ビートルズは好きだよ」
「ビートルズですか! 有名ですもんね」
小さなスーパーを通り過ぎた後、この先を左に入ったら家だと彼女が教えてくれる。
「三好さん、これ……」
ポケットからカセットテープを取り出し、徐ろにそれを差し出すと彼女は歩を止め、手袋を脱いでそれを手に取る。
「これ……私に?」
「うん。あげる。好きじゃないかもだけど」
「ありがとうございます!」
彼女は満面の笑みを浮かべてそれを鞄に仕舞い、
「聴かせていただきますね! これ、先輩が好きな曲なんですよね?」
「うん。でも好きじゃなかったら、上書きしてね」
再び歩き出して間も無く、彼女は足を止めこの左の突き当たりが家だと教えてくれる。
「今日はありがとう」
「こちらこそ、送ってくださりありがとうございます。じゃあ、失礼します」
彼女の後ろ姿が青い屋根の一軒家の中へ消えていった。僕はポケットの中に取り残された手紙を撫でながら、彼女と歩いてきた道を戻り家路に着いた。
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