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ロックバンドのライブを見学した後に打ち上げに参加する。花魁ショーは怪しい雰囲気。
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第一章
私は有紀、ラブエンジェルズのメンバーとして日々アイドル活動に励んでいる。今日は学校が終わった後、いつものようにダンスレッスンのためにスタジオへ向かう。朝の授業はいつも眠気との戦いだけど、午後のレッスンを考えるとテンションが上がってくる。学校の制服を脱ぎ捨て、動きやすいダンス用のジャージに着替える。ジャージは少しゆったりめで、ピンクと白のラインが入ったお気に入りのデザインだ。鏡の前で髪をポニーテールにまとめ、準備は万端。スタジオに到着すると、メンバー全員がすでに集まっていた。ラブエンジェルズは私を含めて5人組。彩香ちゃん、梨花ちゃん、美咲ちゃん、葵ちゃん、そして私。それぞれ個性的で、みんなでいるとなぜかいつも笑いが絶えない。スタジオの床はピカピカに磨かれていて、大きな鏡が壁一面に広がっている。準備運動のストレッチからスタートだ。彩香ちゃんが「有紀、ちゃんと伸ばさないとまた足つるよ!」と笑いながらからかってくる。私は「うるさいな、ちゃんとやってるよ!」と返すけど、内心ちょっとドキッとする。前に本当に足をつってしまったことがあったからだ。ストレッチが終わると、さっそく今度のコンサート用のダンス練習が始まる。振付師の玲奈先生は厳しいけど、いつも的確なアドバイスをくれる。「有紀、もっと腰を落として! 動きにメリハリをつけて!」と声をかけられ、私は汗だくになりながら必死に動きを合わせる。新曲の振り付けはアップテンポで、ターンやステップが複雑だ。2時間ほどみっちり練習して、ようやく一息つける時間になった。みんなで床に座り込んで、ペットボトルの水をゴクゴク飲む。彩香ちゃんが「この振り、めっちゃカッコいいよね! コンサートで絶対ウケるよ!」と目をキラキラさせながら言う。みんなも頷いて、テンションが上がってくる。そんな時、マネージャーの佐藤さんがスタジオに入ってきた。佐藤さんは30代半ばくらいの女性で、いつもテキパキしていて頼りになる存在だ。「みんな、ちょっと集まって!」と声をかけられ、私たちは円になって佐藤さんの周りに集まる。「今度の新曲なんだけど、いつもと違う音楽プロデューサーに頼むことになったの。これからその方の事務所に挨拶に行くから、準備してね。」その言葉に、みんな一瞬シーンとなる。本当は練習後に近くのケーキ屋さんに行く約束をしていたのに、それがパーになってしまった。「えー、ケーキ食べたかったのに…」と梨花ちゃんが小さくつぶやくと、葵ちゃんも「ショック…あのいちごタルト、絶対食べたかったのに」と肩を落とす。私は内心ガッカリしつつも、新しいプロデューサーとの出会いにちょっとワクワクしていた。佐藤さんの運転するマイクロバスに乗り込み、プロデューサーの事務所に向かう。バスの中は少し古めかしいけど、シートがふかふかで居心地がいい。窓の外を眺めながら、佐藤さんがプロデューサーのトンキさんについて説明してくれる。「トンキさんはね、音楽業界では超有名な方で、いろんなアーティストのヒット曲を手掛けてきたの。ちょっと独特な人だけど、仕事は本物よ。絶対に失礼のないように、言葉遣いには気をつけてね。」佐藤さんの真剣な口調に、みんな少し緊張した空気になる。私は「どんな人なんだろう…」と想像しながら、ちょっとドキドキしてきた。マイクロバスは大きなビルの地下駐車場に滑り込む。エレベーターに乗り、事務所のドアの前に到着。ドアには「Tonky Music Production」と書かれたシンプルなプレートが貼られている。私は深呼吸して気持ちを落ち着ける。「よし、行くぞ!」と自分に言い聞かせ、みんなと一緒にドアをくぐった。事務所に入ると、まずは全員で声を揃えて「よろしくお願いします!」と大きな声で挨拶。少し緊張していたけど、声を出すと少し気持ちが楽になった。すると、奥からスーツ姿の男性が現れる。「やあ、君たちがラブエンジェルズだね! 僕がプロデューサーのトンキだ。よろしく!」と、にこやかな笑顔で握手を求めてきた。トンキさんは40代くらいで、髪は少し長め、眼鏡の奥の目は鋭いけどどこか優しげだ。一人ひとりと握手しながら、軽い雑談を交わす。私の番になると、「有紀ちゃん、よろしくね。ダンスが得意だと聞いたよ」とウインクしてくる。私は「はい、頑張ります!」と答えたけど、内心「え、ダンスのこと知ってるの?」とちょっと驚いた。自己紹介が終わると、トンキさんが「さっそくだけど、新曲のデモテープを聞いてもらおうかな」と言う。机の上に置かれた小さなステレオのボタンを押すと、軽快なポップチューンが流れ始める。イントロからキャッチーで、思わず体がリズムに乗りそうになる。「これ、いいね!」と美咲ちゃんが小声でつぶやく。曲を聴きながら、トンキさんが「この曲、君たちのフレッシュな魅力を引き出すために作ったんだ。どう思う?」と聞いてくる。彩香ちゃんが「めっちゃ元気な感じで、ライブで盛り上がりそうです!」と答えると、トンキさんは満足げに頷いた。でも、トンキさんの次の言葉に私はドキッとした。「じゃあ、君たちの声を聞いてみたい。ちょっと録音スタジオに来てくれるかな。」私たちはトンキさんに案内されて、事務所の奥にある小さな録音スタジオへ移動する。スタジオの壁には防音材が貼られ、ガラス窓の向こうにはコントロールルームが見える。予定表にはアニメのタイトルがずらっと並んでいて、「へえ、ここで声優さんも録音してるんだ」と少し感動した。「一人ずつ歌ってもらえるかな。伴奏なしで、アカペラでやってね。」トンキさんの言葉に、私は心臓がバクバクした。アカペラなんて、歌のレッスンでもやったことない! いつもはピアノの伴奏かカラオケで歌ってるのに、いきなりアカペラはハードルが高すぎる。ちらっと他のメンバーの顔を見ると、みんなもちょっと戸惑ってるみたい。彩香ちゃんが「え、アカペラですか…?」と小声でつぶやくけど、トンキさんは「大丈夫、君たちの生の声が聞きたいんだ」と笑顔で返す。最初は彩香ちゃんがブースに入る。ヘッドホンを装着して、ちょっと緊張した顔でガラス窓越しに私たちを見る。私たちはコントロールルームでトンキさんと一緒にモニターする。トンキさんの合図で彩香ちゃんが歌い始めると、モニタースピーカーから彼女の声が響いてくる。曲は最近レコーディングしたばかりの「虹色ラブソング」。彩香ちゃんは小さい頃から歌のレッスンを積んできただけあって、アカペラでも音程がバッチリ。透明感のある声がスタジオに響き、私は「さすが彩香ちゃん…!」と心の中で拍手を送った。「次は有紀ちゃん、行けるかな?」トンキさんの声に、私は「はい!」と答えてブースへ向かう。彩香ちゃんと入れ替わり、ブースのドアを閉めると、静かな空間に自分の呼吸音だけが響く。ヘッドホンを装着して、マイクの前に立つ。彩香ちゃんと同じ曲を歌うのもなあ…と思い、私はデビュー曲の「スタートライン」を選んだ。この曲なら何百回も歌ってるから、伴奏がなくても大丈夫なはず。でも、実際に歌い始めようとすると、最初の音の高さがわからない。カラオケならイントロで音が取れるのに、アカペラだと頭の中で音をイメージするしかない。少し迷ったけど、覚えているメロディを信じて歌い始める。「♪走り出そう、夢の第一歩~」と歌い出すと、意外とスムーズに声が出た。伴奏がない分、自分の声がむき出しで、ちょっと恥ずかしいけど、歌い進めていくうちに気持ちが乗ってくる。コントロールルームのトンキさんは真剣な顔でモニターしてるけど、たまに小さく頷いてるのが見えた。歌い終わると、ほっと一息。「どうだったかな…」とドキドキしながらブースを出る。他のメンバーも順番に歌ったけど、伴奏がないとやっぱり難しいみたい。梨花ちゃんは途中で音程が少しずれて焦った顔をしてたし、葵ちゃんも「うわ、めっちゃ緊張した…」とブースから出てきてつぶやいてた。美咲ちゃんはなんとか歌いきったけど、いつもより声が小さめだった。全員が歌い終わると、トンキさんは「ふむ、なかなか面白いね」とだけ言って、忙しそうに書類を手に持つ。「じゃあ、また連絡するよ」と一言残して、さっさと部屋を出て行ってしまった。私たちはちょっと拍子抜けしながら、マイクロバスでスタジオに戻る。彩香ちゃんが「トンキさん、なんかミステリアスだね」と笑うと、みんなも「ほんと、どんな人なんだろうね」と話が盛り上がる。私は窓の外を見ながら、トンキさんの言葉を思い出す。「君たちの声を聞きたい」って、どんな曲を作ってくれるんだろう。少し不安もあるけど、なんだか新しい挑戦が始まる予感に胸が高鳴っていた。
第二章
翌日ダンスレッスンの汗と疲れが残るスタジオで、いつものように仲間たちとストレッチポールに寝転がってクールダウンしていた。ラブエンジェルズのメンバー5人で、床にゴロゴロしながら「次は何食べようか」「やっぱりケーキ?」なんて話で盛り上がっていると、マネージャーの佐藤さんが少し急いだ足取りでスタジオに入ってきた。「有紀ちゃん、ちょっと話があるんだけど、時間大丈夫?」と声をかけられ、私は「え、はい、大丈夫です!」と慌てて起き上がる。彩香ちゃんが「なになに、なんか面白い話?」とニヤニヤしながら覗き込んでくるけど、佐藤さんの表情はちょっと真剣だ。「急な話なんだけど、今日の夜、ライブを見に行ってほしいの」と佐藤さん。詳しく聞くと、来日中のアメリカのロックバンド、ブラックタイガーの日本武道館公演の最終日で、特別招待席のチケットがあるらしい。ブラックタイガーといえば、世界中で大人気のバンド。テレビやネットで名前は聞いたことあるけど、私はロックをほとんど聴かないからピンとこない。チケットは即完売のプラチナチケットで、こんな機会は滅多にないって話だ。「でも、なんで私?」と聞くと、佐藤さんは「実は音楽プロデューサーのトンキさんが有紀ちゃんを指名してきたの。理由は…私もよくわからないんだけど」と少し困った顔。彩香ちゃんが「えー! ブラックタイガーのライブ!? 超行きたいんですけど!」と手を振って大騒ぎ。彼女はブラックタイガーの大ファンで、部屋にはポスターまで貼ってるくらいだ。「彩香ちゃん、めっちゃ羨ましいって!」と梨花ちゃんも笑うけど、トンキさんの指名は私一人らしい。彩香ちゃんは「有紀、絶対ライブの感想教えてよ! 特に『Thunder Road』のギターソロ、ヤバいから!」と興奮気味にまくしたてる。私は「う、うん、わかった」と答えたけど、正直、ロックのライブなんて行ったことないし、ちょっと気乗りしない。佐藤さんに「時間は18時から。武道館の関係者入口でトンキさんが待ってるから、遅れないようにね」と言われ、私はとりあえず頷く。家に帰ってから、どんな服を着ていくか悩んだ。ライブって普段のアイドル衣装じゃ浮きそうだし、カジュアルすぎてもダサいかな…。結局、女の子らしい白のシフォンブラウスと、膝丈のフレアミニスカートを選んだ。淡いピンクのスニーカーで少しカジュアル感を出して、髪はハーフアップにしてリボンを付けた。鏡を見ながら「これで大丈夫かな…」とつぶやきつつ、ちょっとドキドキする。佐藤さんの車で武道館に到着すると、夕暮れ時の空がオレンジ色に染まっていて、会場周辺はすでに人で溢れかえっている。若い子たちがバンドTシャツや光るリストバンドを身につけて、興奮した声で話してる。関係者入口の近くでトンキさんが待っていて、私を見つけると「やあ、有紀ちゃん! よく来てくれたね!」と気さくに声をかけてきた。トンキさんはカジュアルな黒のジャケットにジーンズ、でもどこかオシャレな雰囲気。手に持ったパスを掲げて、私をスムーズに関係者用のゲートに案内してくれる。通されたのは二階の特別席。ステージがよく見える位置で、会場全体が一望できる。座席はふかふかのクッション付きで、普通の観客席とは全然違うVIP感だ。「すごい…」とつぶやくと、トンキさんが「ここならライブをじっくり楽しめるよ」とニヤリ。まだ開演まで時間があるけど、会場はすでに熱気でムンムン。ファンたちが「ブラックタイガー! ブラックタイガー!」とコールを始めると、なんだか私までソワソワしてきた。会場が暗くなり、場内アナウンスが流れる。「まもなくブラックタイガーの公演が始まります。撮影・録音はご遠慮ください…」という声に、観客の歓声が一気に高まる。ステージの照明がパッと点くと、爆音のギターリフが会場を揺らし、ブラックタイガーのメンバーが登場! ドラムのビートが胸に響き、ギターの音はまるで雷みたい。巨大なスピーカーがステージの両脇に並び、音の迫力に圧倒される。観客は総立ちで、ペンライトや手を振って大盛り上がりだ。最初の曲は、彩香ちゃんが言ってた「Thunder Road」らしい。イントロのギターソロが流れた瞬間、会場が一気に熱狂の渦に。リードボーカルのポールがマイクを握り、野太い声で歌い始めると、ファンが一緒に歌詞を叫ぶ。私は…正直、ちょっと置いてけぼり。ロックってこんなにうるさいんだ、って思っちゃった。普段、アイドルのポップな曲やJ-POPばっかり聴いてるから、ギターの爆音やドラムの重低音に慣れない。曲自体はカッコいいんだろうけど、どれも同じように聞こえて、彩香ちゃんが「ヤバい!」って言ってたギターソロも、私には「うん、確かに激しいね」くらいの感想しか出てこない。ライブは次から次へと曲が続き、観客のテンションはどんどん上がっていく。ステージではレーザー光線が飛び交い、煙がモクモクと上がって、まるで映画のワンシーンみたい。私は「へえ、こんな演出なんだ」と感心しつつも、内心「早く終わらないかな…」なんて思ってしまう。だって、ブラックタイガーの曲、1曲も知らないんだもん。アイドルとしてのライバル研究のために、ほかのアイドルグループの曲はチェックするけど、ロックバンドの曲なんて普段聴かない。トンキさんは隣でノリノリで手を振ってるけど、私はとりあえず笑顔で拍手してごまかす。ようやく本編が終わり、アンコールの「Fire in the Sky」が終わると、会場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。私は「ふう、終わった…」と内心ホッとしつつ、トンキさんが突然話しかけてきた。「有紀ちゃん、ブラックタイガーのメンバーと日本のミュージシャンでコラボ企画があるんだ。僕、ブラックタイガーのメンバーと親しいから、君たちのラブエンジェルズを推薦しておいたよ。」「え、コラボ!?」と私はビックリ。トンキさんは続ける。「実はイブニングガールズとも話があったんだけど、あの子たちはダンスはキレッキレだけど、歌はちょっとね…。ラブエンジェルズなら歌もダンスもバッチリだから、いいコラボになると思うんだ。」その言葉に、私は「うわ、もっとちゃんとライブ聴いておけばよかった!」と後悔の嵐。さっきまで「早く終わらないかな」なんて思ってた自分がバカみたいだ。彩香ちゃんに感想聞かれたらなんて答えよう…と焦る。ライブが終わって帰ろうとすると、トンキさんが「この後、打ち上げパーティーがあるんだけど、有紀ちゃんも来てくれる? ブラックタイガーのメンバーに紹介するよ。コラボの話も進めたいしね」と誘ってきた。急な話に私は「え、打ち上げ!?」と動揺。佐藤さんに相談する時間もないし、こんなチャンス滅多にないよな…と思うと、断るわけにもいかない。「はい、行きます!」と勢いで答えたけど、心臓はバクバク。トンキさんに案内され、近くのホテルで開かれる打ち上げ会場に向かうことにした。車の中で、彩香ちゃんにLINEで「ごめん、打ち上げ呼ばれた!」と送ると、秒で「マジ!? ポールのサインもらってきて!!」と返信が来た。私は「英語話せないのにどうしよう…」と不安になりながら、ホテルの明かりが見える夜の街を眺めた。
第三章
トンキさんに連れられて、武道館からほど近い高級ホテルの宴会場に到着した。打ち上げパーティーの会場は、思ったよりもこぢんまりとしていて、豪華なシャンデリアがきらめく中、20人ほどの招待客が集まっていた。ブラックタイガーのメンバーやスタッフ、モデルっぽい女性数人、そして私。ラブエンジェルズの他のメンバーは誰もいないので、ちょっと心細い。会場に入ると、ふわっと香水と料理の匂いが混ざった空気が漂ってくる。トンキさんが「ほら、有紀ちゃん、こっちだよ」と笑顔で手招きし、私はドキドキしながらついていく。会場正面には小さな舞台が設けられていて、カーテンが閉まっているのが気になる。舞台の脇にはDJブースみたいな機材が置かれ、控えめなBGMが流れている。部屋の隅には長テーブルがあって、色とりどりのサンドイッチやミニキッシュ、フルーツが並ぶ豪華なビュッフェが用意されている。ドリンクコーナーにはシャンパンやジュース、派手なカクテルもあって、さすが海外バンドの打ち上げって感じだ。私はとりあえずオレンジジュースの入ったグラスを手に持って、キョロキョロと会場を見回す。トンキさんが「有紀ちゃん、ブラックタイガーのメンバーに紹介するよ」と言い、リードボーカルのポールとギタリストのマイクに私を引き合わせてくれた。ポールは長身で、金髪を無造作にまとめたワイルドな雰囲気。マイクはサングラスをかけてて、ちょっと近寄りがたい。「Hey, Yuki, nice to meet you!」とポールが握手を求めてくるけど、英語がめっちゃ早口で、学校の教科書とは全然違う。なんとか「Nice to meet you too!」と笑顔で返すけど、正直、何を話してるのか半分もわからない。マイクが何か冗談を言ったらしく、ポールが大笑いしてるけど、私は「ハハ…」と愛想笑いでごまかすしかなかった。彩香ちゃんがいたら、きっとペラペラ喋って盛り上がってるんだろうな…と思うと、ちょっと羨ましくなる。トンキさんが「ポール、彼らは日本のアイドルグループ、ラブエンジェルズだよ。コラボの話、覚えててね」と英語で話すと、ポールが「Oh, cool! I heard your song. Catchy vibe!」とニヤッと笑う。私の歌を聴いてくれてたなんて!と驚きつつ、「Thank you!」と返すのが精一杯。トンキさんが「後でコラボの詳細詰めよう」とウインクしてくれて、ちょっとホッとした。パーティーが始まり、ポールがマイクを持って「Alright, let’s raise a glass for an awesome Japan tour!」と乾杯の音頭を取る。みんながグラスを掲げ、「Cheers!」と叫ぶ中、私はオレンジジュースを小さく掲げて参加。サンドイッチをつまみながら、会場にいる他のゲストを観察する。人気モデルのダルタニアン洋子さんがひときわ目立っていて、赤いドレスで優雅に歩き回ってる。彼女のインスタ、フォロワー100万人超えてるんだよね…と感心しつつ、私なんかがこんな場にいるの、なんか場違いかも、なんて思ってしまう。しばらくすると、突然会場に琴の音が響き渡った。びっくりして顔を上げると、正面の舞台のカーテンがスーッと開き、和服を着た女性が登場。着物の帯は幅広でゴージャス、裾は長く引きずっていて、頭にはキラキラしたかんざしが何本も刺さってる。めっちゃ派手! 日本舞踊の衣装とは全然違う、なんだか舞台用のコスチュームっぽい雰囲気だ。女性が琴の音に合わせて踊り始めたけど、動きが…なんか変。手足をゆっくり動かしたり、急にクルッとターンしたり、日本舞踊とも創作舞踊ともつかない、不思議なパフォーマンス。会場のみんなが「Oh!」と声を上げて見入ってるけど、私は「これ、なんの踊り…?」と首をかしげる。踊りが進むにつれて、女性の動きがどんどん大胆になってきた。着物の裾をひらひらさせたり、扇子を振り回したり。そして、突然、舞台の上でしゃがみ込んで、着物の裾を膝の上までめくり上げた。え、ちょっと待って! 下着が丸見えじゃない!? 会場の空気が一瞬凍りつくかと思いきや、ブラックタイガーのメンバーや外国人のゲストが「Woo!」と歓声を上げて拍手してる。日本人のスタッフはちょっと気まずそうに目をそらしてる人もいるけど、全体的に盛り上がってる雰囲気。私は唖然として、口がポカンと開いたまま。「これ、ストリップショーみたいじゃん…!」と心の中で叫ぶ。いくら海外のゲストが相手でも、こんなパフォーマンス、ありえないでしょ! アイドルとしてステージに立つ身としては、こんなの見てられない。恥ずかしさと苛立ちが混ざって、いてもたってもいられなくなる。私はそっとグラスをテーブルに置いて、トンキさんに気づかれないように出口に向かった。後ろでまだ歓声が上がってるけど、振り返らずに会場を後にする。ホテルの廊下に出ると、ひんやりした空気が頬を撫でて、ようやく冷静になれた。外に出て夜風に当たりながら、スマホを取り出して彩香ちゃんにLINE。「打ち上げ、なんかすごいことになってた…」と送ると、すぐに「え、なになに!? ポールのサインは!?」と返信が。さすがにサインもらう余裕なかったよ…と苦笑いしつつ、コラボの話がどうなるのか、ちょっと不安になりながらタクシーを呼んだ。帰り道、ホテルの明かりが遠ざかるのを眺めながら、今日の出来事を頭の中で整理する。ブラックタイガーとのコラボ、ちゃんと形になったらいいな。でも、さっきのパフォーマンスは…もう忘れよう、と思う私だった。
私は有紀、ラブエンジェルズのメンバーとして日々アイドル活動に励んでいる。今日は学校が終わった後、いつものようにダンスレッスンのためにスタジオへ向かう。朝の授業はいつも眠気との戦いだけど、午後のレッスンを考えるとテンションが上がってくる。学校の制服を脱ぎ捨て、動きやすいダンス用のジャージに着替える。ジャージは少しゆったりめで、ピンクと白のラインが入ったお気に入りのデザインだ。鏡の前で髪をポニーテールにまとめ、準備は万端。スタジオに到着すると、メンバー全員がすでに集まっていた。ラブエンジェルズは私を含めて5人組。彩香ちゃん、梨花ちゃん、美咲ちゃん、葵ちゃん、そして私。それぞれ個性的で、みんなでいるとなぜかいつも笑いが絶えない。スタジオの床はピカピカに磨かれていて、大きな鏡が壁一面に広がっている。準備運動のストレッチからスタートだ。彩香ちゃんが「有紀、ちゃんと伸ばさないとまた足つるよ!」と笑いながらからかってくる。私は「うるさいな、ちゃんとやってるよ!」と返すけど、内心ちょっとドキッとする。前に本当に足をつってしまったことがあったからだ。ストレッチが終わると、さっそく今度のコンサート用のダンス練習が始まる。振付師の玲奈先生は厳しいけど、いつも的確なアドバイスをくれる。「有紀、もっと腰を落として! 動きにメリハリをつけて!」と声をかけられ、私は汗だくになりながら必死に動きを合わせる。新曲の振り付けはアップテンポで、ターンやステップが複雑だ。2時間ほどみっちり練習して、ようやく一息つける時間になった。みんなで床に座り込んで、ペットボトルの水をゴクゴク飲む。彩香ちゃんが「この振り、めっちゃカッコいいよね! コンサートで絶対ウケるよ!」と目をキラキラさせながら言う。みんなも頷いて、テンションが上がってくる。そんな時、マネージャーの佐藤さんがスタジオに入ってきた。佐藤さんは30代半ばくらいの女性で、いつもテキパキしていて頼りになる存在だ。「みんな、ちょっと集まって!」と声をかけられ、私たちは円になって佐藤さんの周りに集まる。「今度の新曲なんだけど、いつもと違う音楽プロデューサーに頼むことになったの。これからその方の事務所に挨拶に行くから、準備してね。」その言葉に、みんな一瞬シーンとなる。本当は練習後に近くのケーキ屋さんに行く約束をしていたのに、それがパーになってしまった。「えー、ケーキ食べたかったのに…」と梨花ちゃんが小さくつぶやくと、葵ちゃんも「ショック…あのいちごタルト、絶対食べたかったのに」と肩を落とす。私は内心ガッカリしつつも、新しいプロデューサーとの出会いにちょっとワクワクしていた。佐藤さんの運転するマイクロバスに乗り込み、プロデューサーの事務所に向かう。バスの中は少し古めかしいけど、シートがふかふかで居心地がいい。窓の外を眺めながら、佐藤さんがプロデューサーのトンキさんについて説明してくれる。「トンキさんはね、音楽業界では超有名な方で、いろんなアーティストのヒット曲を手掛けてきたの。ちょっと独特な人だけど、仕事は本物よ。絶対に失礼のないように、言葉遣いには気をつけてね。」佐藤さんの真剣な口調に、みんな少し緊張した空気になる。私は「どんな人なんだろう…」と想像しながら、ちょっとドキドキしてきた。マイクロバスは大きなビルの地下駐車場に滑り込む。エレベーターに乗り、事務所のドアの前に到着。ドアには「Tonky Music Production」と書かれたシンプルなプレートが貼られている。私は深呼吸して気持ちを落ち着ける。「よし、行くぞ!」と自分に言い聞かせ、みんなと一緒にドアをくぐった。事務所に入ると、まずは全員で声を揃えて「よろしくお願いします!」と大きな声で挨拶。少し緊張していたけど、声を出すと少し気持ちが楽になった。すると、奥からスーツ姿の男性が現れる。「やあ、君たちがラブエンジェルズだね! 僕がプロデューサーのトンキだ。よろしく!」と、にこやかな笑顔で握手を求めてきた。トンキさんは40代くらいで、髪は少し長め、眼鏡の奥の目は鋭いけどどこか優しげだ。一人ひとりと握手しながら、軽い雑談を交わす。私の番になると、「有紀ちゃん、よろしくね。ダンスが得意だと聞いたよ」とウインクしてくる。私は「はい、頑張ります!」と答えたけど、内心「え、ダンスのこと知ってるの?」とちょっと驚いた。自己紹介が終わると、トンキさんが「さっそくだけど、新曲のデモテープを聞いてもらおうかな」と言う。机の上に置かれた小さなステレオのボタンを押すと、軽快なポップチューンが流れ始める。イントロからキャッチーで、思わず体がリズムに乗りそうになる。「これ、いいね!」と美咲ちゃんが小声でつぶやく。曲を聴きながら、トンキさんが「この曲、君たちのフレッシュな魅力を引き出すために作ったんだ。どう思う?」と聞いてくる。彩香ちゃんが「めっちゃ元気な感じで、ライブで盛り上がりそうです!」と答えると、トンキさんは満足げに頷いた。でも、トンキさんの次の言葉に私はドキッとした。「じゃあ、君たちの声を聞いてみたい。ちょっと録音スタジオに来てくれるかな。」私たちはトンキさんに案内されて、事務所の奥にある小さな録音スタジオへ移動する。スタジオの壁には防音材が貼られ、ガラス窓の向こうにはコントロールルームが見える。予定表にはアニメのタイトルがずらっと並んでいて、「へえ、ここで声優さんも録音してるんだ」と少し感動した。「一人ずつ歌ってもらえるかな。伴奏なしで、アカペラでやってね。」トンキさんの言葉に、私は心臓がバクバクした。アカペラなんて、歌のレッスンでもやったことない! いつもはピアノの伴奏かカラオケで歌ってるのに、いきなりアカペラはハードルが高すぎる。ちらっと他のメンバーの顔を見ると、みんなもちょっと戸惑ってるみたい。彩香ちゃんが「え、アカペラですか…?」と小声でつぶやくけど、トンキさんは「大丈夫、君たちの生の声が聞きたいんだ」と笑顔で返す。最初は彩香ちゃんがブースに入る。ヘッドホンを装着して、ちょっと緊張した顔でガラス窓越しに私たちを見る。私たちはコントロールルームでトンキさんと一緒にモニターする。トンキさんの合図で彩香ちゃんが歌い始めると、モニタースピーカーから彼女の声が響いてくる。曲は最近レコーディングしたばかりの「虹色ラブソング」。彩香ちゃんは小さい頃から歌のレッスンを積んできただけあって、アカペラでも音程がバッチリ。透明感のある声がスタジオに響き、私は「さすが彩香ちゃん…!」と心の中で拍手を送った。「次は有紀ちゃん、行けるかな?」トンキさんの声に、私は「はい!」と答えてブースへ向かう。彩香ちゃんと入れ替わり、ブースのドアを閉めると、静かな空間に自分の呼吸音だけが響く。ヘッドホンを装着して、マイクの前に立つ。彩香ちゃんと同じ曲を歌うのもなあ…と思い、私はデビュー曲の「スタートライン」を選んだ。この曲なら何百回も歌ってるから、伴奏がなくても大丈夫なはず。でも、実際に歌い始めようとすると、最初の音の高さがわからない。カラオケならイントロで音が取れるのに、アカペラだと頭の中で音をイメージするしかない。少し迷ったけど、覚えているメロディを信じて歌い始める。「♪走り出そう、夢の第一歩~」と歌い出すと、意外とスムーズに声が出た。伴奏がない分、自分の声がむき出しで、ちょっと恥ずかしいけど、歌い進めていくうちに気持ちが乗ってくる。コントロールルームのトンキさんは真剣な顔でモニターしてるけど、たまに小さく頷いてるのが見えた。歌い終わると、ほっと一息。「どうだったかな…」とドキドキしながらブースを出る。他のメンバーも順番に歌ったけど、伴奏がないとやっぱり難しいみたい。梨花ちゃんは途中で音程が少しずれて焦った顔をしてたし、葵ちゃんも「うわ、めっちゃ緊張した…」とブースから出てきてつぶやいてた。美咲ちゃんはなんとか歌いきったけど、いつもより声が小さめだった。全員が歌い終わると、トンキさんは「ふむ、なかなか面白いね」とだけ言って、忙しそうに書類を手に持つ。「じゃあ、また連絡するよ」と一言残して、さっさと部屋を出て行ってしまった。私たちはちょっと拍子抜けしながら、マイクロバスでスタジオに戻る。彩香ちゃんが「トンキさん、なんかミステリアスだね」と笑うと、みんなも「ほんと、どんな人なんだろうね」と話が盛り上がる。私は窓の外を見ながら、トンキさんの言葉を思い出す。「君たちの声を聞きたい」って、どんな曲を作ってくれるんだろう。少し不安もあるけど、なんだか新しい挑戦が始まる予感に胸が高鳴っていた。
第二章
翌日ダンスレッスンの汗と疲れが残るスタジオで、いつものように仲間たちとストレッチポールに寝転がってクールダウンしていた。ラブエンジェルズのメンバー5人で、床にゴロゴロしながら「次は何食べようか」「やっぱりケーキ?」なんて話で盛り上がっていると、マネージャーの佐藤さんが少し急いだ足取りでスタジオに入ってきた。「有紀ちゃん、ちょっと話があるんだけど、時間大丈夫?」と声をかけられ、私は「え、はい、大丈夫です!」と慌てて起き上がる。彩香ちゃんが「なになに、なんか面白い話?」とニヤニヤしながら覗き込んでくるけど、佐藤さんの表情はちょっと真剣だ。「急な話なんだけど、今日の夜、ライブを見に行ってほしいの」と佐藤さん。詳しく聞くと、来日中のアメリカのロックバンド、ブラックタイガーの日本武道館公演の最終日で、特別招待席のチケットがあるらしい。ブラックタイガーといえば、世界中で大人気のバンド。テレビやネットで名前は聞いたことあるけど、私はロックをほとんど聴かないからピンとこない。チケットは即完売のプラチナチケットで、こんな機会は滅多にないって話だ。「でも、なんで私?」と聞くと、佐藤さんは「実は音楽プロデューサーのトンキさんが有紀ちゃんを指名してきたの。理由は…私もよくわからないんだけど」と少し困った顔。彩香ちゃんが「えー! ブラックタイガーのライブ!? 超行きたいんですけど!」と手を振って大騒ぎ。彼女はブラックタイガーの大ファンで、部屋にはポスターまで貼ってるくらいだ。「彩香ちゃん、めっちゃ羨ましいって!」と梨花ちゃんも笑うけど、トンキさんの指名は私一人らしい。彩香ちゃんは「有紀、絶対ライブの感想教えてよ! 特に『Thunder Road』のギターソロ、ヤバいから!」と興奮気味にまくしたてる。私は「う、うん、わかった」と答えたけど、正直、ロックのライブなんて行ったことないし、ちょっと気乗りしない。佐藤さんに「時間は18時から。武道館の関係者入口でトンキさんが待ってるから、遅れないようにね」と言われ、私はとりあえず頷く。家に帰ってから、どんな服を着ていくか悩んだ。ライブって普段のアイドル衣装じゃ浮きそうだし、カジュアルすぎてもダサいかな…。結局、女の子らしい白のシフォンブラウスと、膝丈のフレアミニスカートを選んだ。淡いピンクのスニーカーで少しカジュアル感を出して、髪はハーフアップにしてリボンを付けた。鏡を見ながら「これで大丈夫かな…」とつぶやきつつ、ちょっとドキドキする。佐藤さんの車で武道館に到着すると、夕暮れ時の空がオレンジ色に染まっていて、会場周辺はすでに人で溢れかえっている。若い子たちがバンドTシャツや光るリストバンドを身につけて、興奮した声で話してる。関係者入口の近くでトンキさんが待っていて、私を見つけると「やあ、有紀ちゃん! よく来てくれたね!」と気さくに声をかけてきた。トンキさんはカジュアルな黒のジャケットにジーンズ、でもどこかオシャレな雰囲気。手に持ったパスを掲げて、私をスムーズに関係者用のゲートに案内してくれる。通されたのは二階の特別席。ステージがよく見える位置で、会場全体が一望できる。座席はふかふかのクッション付きで、普通の観客席とは全然違うVIP感だ。「すごい…」とつぶやくと、トンキさんが「ここならライブをじっくり楽しめるよ」とニヤリ。まだ開演まで時間があるけど、会場はすでに熱気でムンムン。ファンたちが「ブラックタイガー! ブラックタイガー!」とコールを始めると、なんだか私までソワソワしてきた。会場が暗くなり、場内アナウンスが流れる。「まもなくブラックタイガーの公演が始まります。撮影・録音はご遠慮ください…」という声に、観客の歓声が一気に高まる。ステージの照明がパッと点くと、爆音のギターリフが会場を揺らし、ブラックタイガーのメンバーが登場! ドラムのビートが胸に響き、ギターの音はまるで雷みたい。巨大なスピーカーがステージの両脇に並び、音の迫力に圧倒される。観客は総立ちで、ペンライトや手を振って大盛り上がりだ。最初の曲は、彩香ちゃんが言ってた「Thunder Road」らしい。イントロのギターソロが流れた瞬間、会場が一気に熱狂の渦に。リードボーカルのポールがマイクを握り、野太い声で歌い始めると、ファンが一緒に歌詞を叫ぶ。私は…正直、ちょっと置いてけぼり。ロックってこんなにうるさいんだ、って思っちゃった。普段、アイドルのポップな曲やJ-POPばっかり聴いてるから、ギターの爆音やドラムの重低音に慣れない。曲自体はカッコいいんだろうけど、どれも同じように聞こえて、彩香ちゃんが「ヤバい!」って言ってたギターソロも、私には「うん、確かに激しいね」くらいの感想しか出てこない。ライブは次から次へと曲が続き、観客のテンションはどんどん上がっていく。ステージではレーザー光線が飛び交い、煙がモクモクと上がって、まるで映画のワンシーンみたい。私は「へえ、こんな演出なんだ」と感心しつつも、内心「早く終わらないかな…」なんて思ってしまう。だって、ブラックタイガーの曲、1曲も知らないんだもん。アイドルとしてのライバル研究のために、ほかのアイドルグループの曲はチェックするけど、ロックバンドの曲なんて普段聴かない。トンキさんは隣でノリノリで手を振ってるけど、私はとりあえず笑顔で拍手してごまかす。ようやく本編が終わり、アンコールの「Fire in the Sky」が終わると、会場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。私は「ふう、終わった…」と内心ホッとしつつ、トンキさんが突然話しかけてきた。「有紀ちゃん、ブラックタイガーのメンバーと日本のミュージシャンでコラボ企画があるんだ。僕、ブラックタイガーのメンバーと親しいから、君たちのラブエンジェルズを推薦しておいたよ。」「え、コラボ!?」と私はビックリ。トンキさんは続ける。「実はイブニングガールズとも話があったんだけど、あの子たちはダンスはキレッキレだけど、歌はちょっとね…。ラブエンジェルズなら歌もダンスもバッチリだから、いいコラボになると思うんだ。」その言葉に、私は「うわ、もっとちゃんとライブ聴いておけばよかった!」と後悔の嵐。さっきまで「早く終わらないかな」なんて思ってた自分がバカみたいだ。彩香ちゃんに感想聞かれたらなんて答えよう…と焦る。ライブが終わって帰ろうとすると、トンキさんが「この後、打ち上げパーティーがあるんだけど、有紀ちゃんも来てくれる? ブラックタイガーのメンバーに紹介するよ。コラボの話も進めたいしね」と誘ってきた。急な話に私は「え、打ち上げ!?」と動揺。佐藤さんに相談する時間もないし、こんなチャンス滅多にないよな…と思うと、断るわけにもいかない。「はい、行きます!」と勢いで答えたけど、心臓はバクバク。トンキさんに案内され、近くのホテルで開かれる打ち上げ会場に向かうことにした。車の中で、彩香ちゃんにLINEで「ごめん、打ち上げ呼ばれた!」と送ると、秒で「マジ!? ポールのサインもらってきて!!」と返信が来た。私は「英語話せないのにどうしよう…」と不安になりながら、ホテルの明かりが見える夜の街を眺めた。
第三章
トンキさんに連れられて、武道館からほど近い高級ホテルの宴会場に到着した。打ち上げパーティーの会場は、思ったよりもこぢんまりとしていて、豪華なシャンデリアがきらめく中、20人ほどの招待客が集まっていた。ブラックタイガーのメンバーやスタッフ、モデルっぽい女性数人、そして私。ラブエンジェルズの他のメンバーは誰もいないので、ちょっと心細い。会場に入ると、ふわっと香水と料理の匂いが混ざった空気が漂ってくる。トンキさんが「ほら、有紀ちゃん、こっちだよ」と笑顔で手招きし、私はドキドキしながらついていく。会場正面には小さな舞台が設けられていて、カーテンが閉まっているのが気になる。舞台の脇にはDJブースみたいな機材が置かれ、控えめなBGMが流れている。部屋の隅には長テーブルがあって、色とりどりのサンドイッチやミニキッシュ、フルーツが並ぶ豪華なビュッフェが用意されている。ドリンクコーナーにはシャンパンやジュース、派手なカクテルもあって、さすが海外バンドの打ち上げって感じだ。私はとりあえずオレンジジュースの入ったグラスを手に持って、キョロキョロと会場を見回す。トンキさんが「有紀ちゃん、ブラックタイガーのメンバーに紹介するよ」と言い、リードボーカルのポールとギタリストのマイクに私を引き合わせてくれた。ポールは長身で、金髪を無造作にまとめたワイルドな雰囲気。マイクはサングラスをかけてて、ちょっと近寄りがたい。「Hey, Yuki, nice to meet you!」とポールが握手を求めてくるけど、英語がめっちゃ早口で、学校の教科書とは全然違う。なんとか「Nice to meet you too!」と笑顔で返すけど、正直、何を話してるのか半分もわからない。マイクが何か冗談を言ったらしく、ポールが大笑いしてるけど、私は「ハハ…」と愛想笑いでごまかすしかなかった。彩香ちゃんがいたら、きっとペラペラ喋って盛り上がってるんだろうな…と思うと、ちょっと羨ましくなる。トンキさんが「ポール、彼らは日本のアイドルグループ、ラブエンジェルズだよ。コラボの話、覚えててね」と英語で話すと、ポールが「Oh, cool! I heard your song. Catchy vibe!」とニヤッと笑う。私の歌を聴いてくれてたなんて!と驚きつつ、「Thank you!」と返すのが精一杯。トンキさんが「後でコラボの詳細詰めよう」とウインクしてくれて、ちょっとホッとした。パーティーが始まり、ポールがマイクを持って「Alright, let’s raise a glass for an awesome Japan tour!」と乾杯の音頭を取る。みんながグラスを掲げ、「Cheers!」と叫ぶ中、私はオレンジジュースを小さく掲げて参加。サンドイッチをつまみながら、会場にいる他のゲストを観察する。人気モデルのダルタニアン洋子さんがひときわ目立っていて、赤いドレスで優雅に歩き回ってる。彼女のインスタ、フォロワー100万人超えてるんだよね…と感心しつつ、私なんかがこんな場にいるの、なんか場違いかも、なんて思ってしまう。しばらくすると、突然会場に琴の音が響き渡った。びっくりして顔を上げると、正面の舞台のカーテンがスーッと開き、和服を着た女性が登場。着物の帯は幅広でゴージャス、裾は長く引きずっていて、頭にはキラキラしたかんざしが何本も刺さってる。めっちゃ派手! 日本舞踊の衣装とは全然違う、なんだか舞台用のコスチュームっぽい雰囲気だ。女性が琴の音に合わせて踊り始めたけど、動きが…なんか変。手足をゆっくり動かしたり、急にクルッとターンしたり、日本舞踊とも創作舞踊ともつかない、不思議なパフォーマンス。会場のみんなが「Oh!」と声を上げて見入ってるけど、私は「これ、なんの踊り…?」と首をかしげる。踊りが進むにつれて、女性の動きがどんどん大胆になってきた。着物の裾をひらひらさせたり、扇子を振り回したり。そして、突然、舞台の上でしゃがみ込んで、着物の裾を膝の上までめくり上げた。え、ちょっと待って! 下着が丸見えじゃない!? 会場の空気が一瞬凍りつくかと思いきや、ブラックタイガーのメンバーや外国人のゲストが「Woo!」と歓声を上げて拍手してる。日本人のスタッフはちょっと気まずそうに目をそらしてる人もいるけど、全体的に盛り上がってる雰囲気。私は唖然として、口がポカンと開いたまま。「これ、ストリップショーみたいじゃん…!」と心の中で叫ぶ。いくら海外のゲストが相手でも、こんなパフォーマンス、ありえないでしょ! アイドルとしてステージに立つ身としては、こんなの見てられない。恥ずかしさと苛立ちが混ざって、いてもたってもいられなくなる。私はそっとグラスをテーブルに置いて、トンキさんに気づかれないように出口に向かった。後ろでまだ歓声が上がってるけど、振り返らずに会場を後にする。ホテルの廊下に出ると、ひんやりした空気が頬を撫でて、ようやく冷静になれた。外に出て夜風に当たりながら、スマホを取り出して彩香ちゃんにLINE。「打ち上げ、なんかすごいことになってた…」と送ると、すぐに「え、なになに!? ポールのサインは!?」と返信が。さすがにサインもらう余裕なかったよ…と苦笑いしつつ、コラボの話がどうなるのか、ちょっと不安になりながらタクシーを呼んだ。帰り道、ホテルの明かりが遠ざかるのを眺めながら、今日の出来事を頭の中で整理する。ブラックタイガーとのコラボ、ちゃんと形になったらいいな。でも、さっきのパフォーマンスは…もう忘れよう、と思う私だった。
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