飛竜誤誕顛末記

タクマ タク

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第一章 将軍様を街までお届け!

13話 ビバノンノン

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エリンギは、エリーと名付けた。

今日の寝床を決めて、川辺にリヤカーを止める。
バルギーの横に座らせていたエリーは、体力が戻ったのか荷台の上を元気に走り回っていた。
もしかしたら前と同じように森へ帰るかもしれないと、荷台からそっと地面に下ろしてやるが、エリーは当たり前のように俺に着いてくる。
可愛い・・・・。

いつものように寝床と焚き火の準備をするけど、寝床に関しては、もう諦めて最初から段ボールを2枚並べておいた。
どうせ、今日もバルギーの抱き枕だ。
どう足掻いても、毛布が一枚しかない現状は変えられないからな。
変に意識するからいけないんだ。
非常時なのだから、仕方がない。

今日も汗を拭こうと川に向かうと、杖を手に入れたバルギーも普通についてくる。
顔を洗っている最中に、俺は川辺の大きな岩影に水が流れ込んで溜まっているのを見つけた。
小さな溜め池状になっているそこは、実際には川の流れ道の一つのようで、淀むこともなく綺麗な水で満たされている。
これは・・・ちょっと露天風呂みたいだ。
身体洗いたいけど、流石に冷たいよな。
寝る前に入ったら身体が冷えそうだけど、朝だったらいけるかな。
どうせ、歩き出したら暑くなるんだし・・・。
よし、明日の朝余裕があれば入ろう。

水風呂だが、身体を洗えるという期待にテンションが上がり、俺は上機嫌で夕飯の準備を始めた。
今日は水を入れて戻すタイプの雑炊を食べることにした。
水を入れてから食べれるまで1時間くらい待たなくてはいけないらしいので、その間はバルギーと喋って言葉を覚えたり、エリーと遊んだりしてまったりと過ごす。
エリーはとても懐いてくれていて、俺が座れば横にピッタリくっついて一緒に座るし、俺が移動するとちゃんと着いてくる。
可愛くて、つい持ち上げて頬擦りすると、エリーもそれに応えるように擦り寄ってくる。
はぁー、かわえぇー。
バルギーの呆れたような視線には気付いていたが、知ったこっちゃない。
餌とかどうすれば良いのだろうかと思っていたが、俺が飲んでいる水を欲しがったので体に少量かけてやったら妙にテンションが上がっていた。
走り茸のスキップは初めて見たが、バルギーも驚いていたから珍しい光景なのかもしれない。

食事の後、俺は早目に寝ることにした。
早く起きて、天然露天風呂(水風呂だが)に入りたいのだ。
今日は特に抵抗することもなく大人しく抱き枕になったら、バルギーはちょっと機嫌が良かった。
そりゃ、怪我してんのに毎度暴れられたら面倒だもんな。
すまんな、バルギー。俺のつまらないプライドが邪魔をするんだ。
俺が大人しくしていれば、腹に回されるバルギーの腕の力もそんなに強いものでは無かった。
なんだ、俺が暴れるからあんなにがっちりホールドされていたのか。
今更気付いて、自分の間抜けさにガッカリする。

俺たちが横になると、エリーも俺の顔のそばでバタリと仰向けに倒れる。
完全へそ天の状態だ。
え、まさか野生でもそんな寝方するの?ちょっと無防備過ぎないか?
エリーをチョンチョンと突くと、くすぐったそうに身を捩る。
「はは、くすぐったいのか」
可愛くて、コチョコチョとちょっかいを出していると。
『ケイタ、大人しく寝なさい』
何やらバルギーに嗜められてしまった。
耳元で喋んな・・・その良い声で囁かれると、なんだか恥ずかしくなるんだ。
『ごめん。おやすみ』
恥ずかしさを隠して、俺は大人しく目を瞑った。


翌朝、楽しみにしていたせいか俺は早くにパッチリと目が覚めた。
バルギーはまだ寝ているようなので、起こさないようにそっと抜け出して、岩陰の溜池に向かう。
ちょうど寝床にしていたところからは、岩が邪魔して見えなくなる場所だ。
起きた時に俺が居なかったら心配するだろうと、バルギーに見える場所に脱いだ服を置いておいた。
外で素っ裸になるのは少し躊躇したが、人がいる訳でもないから気にする必要はないだろう。
全て脱ぎ捨てて、水に入る。

「うぅー、冷てえー」
さすがに川の水は冷たい。
でも、しばらくすればそれにも慣れてきて、俺は全身をタオルで擦る。
拭き取るだけとは比べ物にならない爽快感だ。
やっぱり風呂って大切だな。
一通り身体を洗って、水の中で身体を伸ばす。
大自然に囲まれまさに露天風呂といった風情に、とても気分がいい。
ふと横を見たら、いつの間にか畳んだ服の上にエリーが座っていた。
今日はなんと正座をしている。
「お、エリー起きたのか。お前も水に入るか?」
水の中を泳ぐように移動して、エリーに手を伸ばそうと岩陰から身体を伸ばす。
そして、そこにバルギーが立っていることに気がついて、俺は危うく口から心臓を吐き出すところだった。

「っうおっ!バルギー居たのか!?ビビったぁっ」
驚く俺をよそに、バルギーは非常に機嫌が悪そうに眉間に深い皺を刻んでいた。
もともと鋭い目をしているから、そういう表情をするとちょっと怖い。
『・・離れるなと言ったはずだぞ。ケイタ、1人は危ない。ダメだ。分かるか?』
あ、怒られてるな俺。
『危ない?大丈夫。大きい、魚、ない、見た、私』
『ダメだ、ケイタ。ちゃんと言うことを聞きなさい。危ないのは魚だけではない。野生の獣もいるんだ』
バルギーが厳しい表情のなかにも、心配そうな表情をみせる。
あー、ちょっと離れただけだけど、思ったよりも心配させたんだな。
俺は大丈夫だと思っているけど、そういう問題じゃないよな。
バルギーの真剣な様子に、俺は申し訳なさを感じて素直に謝ることにした。
『バルギー。ごめん』
バルギーの目を見て真面目に謝れば、バルギーは暫くして仕方なさそうに頷いてくれた。
『もう少し、警戒心を持ってくれると有難いんだが・・・・』

バルギーは離れるつもりは無いようで、溜池の横の岩に腰を下ろした。
別に男同士だから見られても構わないけど、俺だけが裸って状況もどうなんだろうか。
そろそろ体も冷えてきたし、出るかな。
冷えた体をさすっていたら、バルギーが火をつけるときに使う赤い石を取り出して、溜池に入れた。
『冷たいだろう。温めてやろう』
バルギーが手をかざすと、浸かっていた水の温度が徐々に上がってきた。

「おぉ!あったかい」
お湯になった!そんな使い方もできるのか、その石。
バルギーが石を回収しようとするが、まだぬるま湯程度で俺的にはちょっと物足りない。
バルギーの手をつかんで、もう一度水の中に引き込む。
『バルギー、もっと。ダメ?』
もっと温度が上がらないか、期待を込めてバルギーを見上げる。
『・・・わ、分かった』
何故か、バルギーの目線がウロウロと泳いだが、俺の希望通りお湯の温度を上げてくれた。
「うへー、気持ちーーー」
完全に露天風呂だ。
完璧だ。最高だ。ブラボー。
仰向けの状態で岩に寄り掛かり、湯の中に全身を沈める。
久しぶりの風呂の気持ちよさに、俺はウットリと目を閉じた。
そんな俺の体をバルギーがガン見していた事なんて、気が付かなかった。

『やはり印を付けていないな・・・』
『バルギー?』
『何でも無い。・・・気持ちよさそうだ。私も少し入ろう』
バルギーがズボンを捲し上げ、岩に腰掛けたまま折れていない方の足だけお湯につけた。
そうだよな、俺ばっか風呂を楽しんでいたけど、バルギーだって風呂入りたいよな。
でも、怪我しているから全身湯に浸かるのは難しいだろうから、足湯が限界か。
「バルギー、体拭いてやるよ」
俺はタオルに湯を染み込ませ、湯に浸かっているバルギーの足を擦ってやった。
「ケイタっ?!」
足首から膝上まで丁寧に拭ってやったら、バルギーは何かに耐えるように顔を逸らした。
くすぐったかったかな。もっと力入れたほうが良かっただろうか。
『バルギー、向こう、見る』
体の向きを変えるように仕草で伝えると、困惑しながらも身体を捻って背中をこちらに向ける。
俺は、絞ったタオルが冷める前にその広い背中を拭っていく。
大きな肩甲骨、パーツ一つ一つの形が分かるほど鍛えられた筋肉、本当に羨ましいほどいい体をしている。
今度は力を入れて、ワシワシ拭いてやった。
冷めたタオルを再度お湯で温めて、肩から腕にかけても筋肉をなぞるように拭いていく。
『バルギー、大丈夫?痛い、ない?』
力加減が大丈夫かバルギーの様子を伺うと、何故か片手で目元を隠すように覆っていた。
『バルギー?』
『・・大丈夫だ。気持ちいい』
大丈夫らしい。
前は自分で拭けるだろうと、絞り直したタオルをバルギーに渡す。
俺はもう少し風呂を満喫したくて、バルギーが身体を拭いている間、湯にどっぷり浸かった。
『ケイタ、やはりお前にはもう少し警戒心が必要だ。無防備すぎる』
湯につかりながらエリーをつついていた俺を、バルギーがなんとも困ったように見てくる。
『ムボービ?』
『そうだ。私でなければ、確実に誘われていると勘違いするぞ』
初めて聞く単語ばかりで、なんだか分からない。
『バルギー、何?分かる、ない』
『”分からない“だ』
『分からない』
言葉を修正してくれたが、結局何を言っていたのかを説明する気はないようだ。

『ケイタ、お前には教えなくてはいけないことが沢山ありそうだ』
久しぶりの風呂に大満足しながら服を着ていたら、バルギーが疲れたように呟いた。
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