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小楠(おくす)リンコ先生
しおりを挟むユルミが家に戻ると、シメゾウ爺さんが爆発した倉庫を前に立ち尽くしていた。家の横に建っていた倉庫は瓦礫の山になり、所々から煙が上がっている。ユルミは近付いていって後ろから声を掛けた。
「あははー、まさかとは思ったけどあの爆発、やっぱり爺ちゃんだったんだー」
「おやユルミ、おかえり。」
振り返って答えるシメゾウ爺さんの口からポワンと煙が出た。顔や作業服は煤で真っ黒、髪の毛も爆発していた。
「爺ちゃん、まるで実験に失敗した博士だよー、あははははー」
「うむ、実際そんなようなもんじゃ、うひひひひー」
「あははははー」「うひひひひー」
ひとしきり笑って気が済んだ二人は家に入った。煤だらけになった作業服から煤だらけじゃない作業服に着替えたシメゾウ爺さんに、ユルミが聞いた。
「でさー、なんで倉庫ドッカーンしたの?」
「うーむ、それはじゃなあ、さっきの地震の時、発掘に使うダイナマイトにうっかり引火してしもうたんじゃ。いやあ参った参った。」
「ダイナマイトってこれのこと?」
ユルミはポケットから細長い筒状のものを取り出した。
「うわっ、なんてもんポケットに入れとるんじゃ!」
「倉庫の瓦礫のとこで拾ったんだよー」
シメゾウはさっとそれを取り上げた。
「これはワシが片付けとく。あと念の為に言っておくんじゃが、これと同じ赤茶色で、大きさが単一電池くらいのは見付けても絶対触っちゃいかん。小さくて軽いがこれより何百倍も威力があるんじゃ。」
「はーい!」
元気に返事をするユルミのもう片方のポケットには、その単一電池くらいの赤茶色がいくつも入っているのだった。
「だいたいユルミ、お前さんは何でもポケットに入れるじゃろ?この前もポケットの中でチョコがドロドロになっとったぞ。カマキリの卵が入っておった時には、洗濯カゴがカマキリの赤ちゃんだらけになっとった。ある時なんぞトカゲが干からびてミイラに・・・」
「ミイラに?」
「あーいや、とにかく何でもかんでもポケットに入れるのはやめるんじゃ。」
ピンポーン
玄関で呼び鈴が鳴ってユルミがドアを開けに行った。
「はーい」
「こんにちわ、ユルミさん。」
やって来たのは、お隣の小楠リンコ先生だった。お隣と言っても100メートル位離れている。この辺の家は密集しないで点在しているのだ。
小楠リンコは小学校で保健の先生をしている色白美人だ。お医者さんでもあり、いつも着ている白衣がよく似合う。彼女が壺で煮込んで作る秘伝の薬は魔法のように良く効くと評判だったりそうでもなかったりする。
ユルミとリンコ先生が居間に入ると、シメゾウ爺さんが椅子を勧めた。
「いやぁ先生、どうもバタバタしとって申し訳無いのう。今コーヒーでも淹れますわい。」
「いえ、どうぞお構いなく。それより先ほどの爆発は大丈夫でしたの?倉庫は大変なことになっていましたけど。」
「ワシはこの通り怪我もないんじゃが、倉庫の方は木っ端微塵、もう笑うしかない状況でしてな。」
と、力ない笑顔で椅子に座った。
「そんな!笑い事じゃありませんわ。わたくし本当に心配してまいりましたのよ!」
ユルミがリンコ先生の袖を引っ張った。
「先生、笑ってあげて。でないと爺ちゃん泣いちゃうから。」
「あら、そうなの?」
「うん、爺ちゃん相当ショックだったみたいだよー、平気なふりしてるけど目を見てよ、さっきから瞳孔開いちゃってるし。」
それを聞いたリンコ先生が、少し慌ててシメゾウ爺さんの瞳孔を確認し、それからかなり慌てて呼吸と脈をみた。…死んでいる。シメゾウ爺さんはすでに死んでいた。
「もう亡くなっているわ。なのにこんな事って・・・」
ユルミは呆れたよー、と言わんばかりにシメゾウ爺さんの肩を叩いた。
「ねぇ爺ちゃん、爺ちゃんはもう死んでるんだって。あはははは」
「なんじゃ、ワシ、もう死んどるんか、うひひひひ」
「あはははは」「うひひひひ」
ふいに天井に直径1メートルほどの黒い渦ができたかと思うと、爺さんの体から白っぽい魂が抜け出して、尾を引きながらその渦の中に吸い込まれはじめた。ユルミはぱっとその尾に跳び付いて一緒に吸い込まれていった。
天井の黒い渦は二人を飲み込んでふっと消えた。
二人が消えたあと、一瞬、いや三瞬ほど間を置いてリンコ先生はやや引きつり気味に笑っていた。
「お、おほほほほー」
何が何だかもう笑うしかない。魂の抜けたシメゾウはじっと座ったまま、出来れば先生と一緒に笑ってあげたいと思いながらおとなしく死んでいた。
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