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4話 出会い

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 意地悪なシンデレラの姉が物思いにふけていた、その時だった。

 ドサリ、と何かが倒れるような物音が樹の反対側から聞こえてくる。

「……え?」

 それを彼女は不審に思う。この樹の反対側はすぐ目の前が境界線だった。
 この世界の切れ目でもある場所に何かがいるとは思えない。

「い、いったい何かしら」

 恐る恐るシンデレラの姉は反対側を覗いてみる。物音の正体……それは人だった。

「え、ちょっとあなたこんな境界線の近くで何をしているの……じゃなくて大丈夫!?」

 うつ伏せの状態で倒れていた人間をシンデレラの姉は慌てて樹の反対側に引っ張り出す。後ろ姿では判断がしづらかったが、体を触った際に骨ばった部分と細い体のラインの中にもしっかりとした筋肉を感じ取れた事から男性であることが分かった。

 引っ張り終えるとシンデレラの姉は男の全身を見て容態を確認する。燃えている様子もなく、とりあえず身体は無事なようだった。

 しかし、これだけ乱雑に動かしたにも関わらず、シンデレラの姉の言葉にはまるで反応がなかった。

「ま、まさか死んでる?」

 姉はピクリとも動かない男の様子から焦ってしまう。境界線に触れたことで焼失が始まっているわけではない。それでも動かないということは「ページ」とは関係なく、心臓が止まってしまっているのではないかと考えた。

「ちょ、ちょっと……」

 心臓の鼓動を確認する為、うつぶせで倒れていた男性の体を返した。

「わ……」

 抱きかかえて素顔のあらわになった青年の顔にシンデレラの姉は一瞬見とれてしまう。町の人々全員の顔を覚えているわけではないが、少なくとも今まで一度も見たことのない整った顔の青年だった。

 肌の色は他の男性と比較して色白で色素が薄く、髪の色は黒色と銀色の2色が入り混じっていた。

「心臓は……動いてるわね」

 手を胸元に当てて鼓動を確認し、一安心する。死んでいるわけではなかった。

 改めて落ち着いて青年を観察してみると、着ている服装も他の町の人間と異なっている。村人というよりは貴族……舞踏会の当日の衣装のような、それでいて日常にも溶け込むような……それこそ何かしらの役割を持っていてもおかしくない恰好をしていた。

「ぐ、ぎゅるるるるる」

「……え?」

 異質な男性をまじまじと見つめていると男性のほうから音が、具体的にはお腹の方から音が鳴った。

「ひょっとして、あなた……ただの空腹?」

 よくよくみると元から色白ではあるが、顔色自体がそこまで良くはなかった。空腹で倒れていたのだとシンデレラの姉は状況を把握する。

「飯を……」

「あ、話せるのね、良かったわ。今町に戻って衛兵に頼んで休息所に運んで……」

「あと数秒で……空腹で死ぬ……」

「数秒で!?」

 シンデレラの姉は今朝パン屋から貰ったものを思い出し、手元にあった紙袋からパンを取り出すとそのまま手渡した。

「ほら、パンよ」

 パンを渡そうとするが男性は一向に動く気配がなかった。仕方なくシンデレラの姉はパンをちぎって口の中に押し込んだ。

「かたい……」

「わがまま言わないの!」

 この場所に来るまでに冷めてしまったせいかパンは固くなっていたらしい。
 文句を言った男を無視して姉はパンを口の中へとねじ込んだ。
 最初は少しばかり抵抗をしていたが、男性は次第にゆっくりとパンを噛んで飲み込んだ。

 ◇

「コホン……も、もういいかしら?」

 膝枕の状態で男性にパンを食べさせている行為を恥ずかしく思ったシンデレラの姉はわざとらしくせき込んだ。

「……そうだな」

 そう言うと男性は今まで閉じていた目を開く。そこでシンデレラの姉はようやく男と目があった。

 透き通った水晶のような藍色の瞳はシンデレラの姉の顔を数秒見つめる。そして男はゆっくりと立ち上がった。

「な……あなた元気なの?」

「あぁ、おかげさまで助かった。ありがとう」

 男はお礼を言うと辺りを軽く見まわし、ゆっくりと歩き始めた。

「……ってふらふらじゃないの!」

 男の歩き方を見て虚勢を張っているだけなのはすぐに分かった。数歩歩いただけでよろめいた男を見てシンデレラの姉は慌てて肩を持つ。

「このあたりで少し休んでから町にいきましょ」

 シンデレラの姉は男を木陰に座らせた。

 丘の上にいる二人を迎え入れるように心地良いそよ風が流れた。
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