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最終章 白雪姫
136話 見覚えのある人影
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小人たちの身長はグリムの半分以下である。それでも彼らの住んでいる小屋は白雪姫が暮らせるように普通の人間サイズに作られている。生活に必要な木材等も小人の人数と白雪姫を含めれば結構な数になるのをグリムは知っていた。
「薪運びは緑が担当なのか?」
「そうだよー、青が水汲み、赤が火起こし、黄がお金管理、みたいにそれぞれ役割分担をしているんだ」
緑と呼ばれている小人が説明をしてくれる。それぞれの帽子の色を想像するような仕事を持っているみたいだった。
「黒色と白色は何をしているんだ?」
「黒色はボスだから何もしないよー」
さらっと小人の中でも上下関係があるような話を聞いてグリムは驚く。
「白色は……色々かなー」
「色々?」
「白雪姫の為に服を裁縫したり、足りない人手を補ってくれたり、遊び道具をしてくれるんだ」
「なるほどな」
話を聞く限りでは黒色の帽子を被った小人とは違い、ずいぶんと働き者のようだった。
「ブランコも白色の小人が作ってくれたんだよ」
緑色の帽子を被った小人が補足するように話す。黒色の小人を除いたほかの全員は白色の小人が作ったその遊具をかなり気に入っているらしく、最初の頃は取り合いになったらしい。
いくら世界が似ているとはいえさすがにブランコは最初から設置されたものではなかったらしい。
「それにしても雪はやまないねー」
小人が空を見上げながら言う。彼の言う通り空からは絶えず灰色の雪が降り続けていた。
「白雪姫も王子様も揃ったのにどうしてやまないのかなー?」
「灰色の雪は一度降り始めると決してやまないからな」
「そうなんだー、王子様は詳しいね!」
悲観することなく小人は感嘆の声をグリムに向けた。
灰色の雪は物語が修正されたとしても降りやむことはない。その事実は最初の白雪姫の世界で身をもってグリムは経験していた。
「もうすぐ薪置き場だよ」
小人が道の先を指さす。二人の小人に連れられてきた道とは違い、白色の小人が走り去っていった道を歩いて数分が過ぎた頃、目的地へとたどり着きそうだった。
「……あれ?あそこにいるのって……」
小人が独り言のようにぼそりといった。グリムは小人の視線の先、目的地である場所を見ると誰かが一人そこにいた。
「…………!」
ドクンとグリムはこの時自身の心臓の音が鳴るのを感じ取った。
遠くにいるのが男性なのか女性なのかだれかまだわからない。
それでもグリムは本能的にそこにいる人間に対して会わなければいけないと感じ取った。
「お、王子様?」
小人の声が後ろから聞こえてくる。気が付けばグリムはすでに走り始めていた。
「はぁっ……はぁっ」
すぐに息が上がる。急に走り出したせいもあるが、小人と見た人の姿を見たときに生じた動機が原因だった。
人の姿を視認できるところまで近づく。その人物は女性だった。しかしこちら側を向いておらず、長い黒色の髪以外まだ特徴がつかめていなかった。
女性はグリムの方に顔は向けずに近づくよりも先にそのまま森の奥へと歩き始めた。
「ま、待て!」
声を出して女性を呼び止めようとするが女性の足は止まらなかった。女性の足は速く走っているグリムとの距離はすぐには詰められそうになかった。
ガサガサと茂みの方へと入り女性は整備された道から外れてしまう。見失わないようにグリムは懸命に追いかける。
「はぁ……はぁ」
黒髪の女性が姿を消したあたりでグリムも茂みの中へと入る。草木をかき分けて走る速度は落とさなかった。
しばらくまっすぐに進み続けると川の流れる場所にたどり着く。左右を見ると小さな滝の見える上流側に女性がいた。
「お、おい!」
改めて声をかけるが女性は振り返ろうとはしない。先ほどまでに比べると距離もだいぶ縮まっていたこともあり、グリムはここまで走る続けた足に鞭を打つような思いで足を止めずに女性のもとへと駆け寄る。
「まっ…………」
ようやく女性の目の前まで迫り、肩に触れようとしたその時だった。
「…………がっ!?」
グリムの首元に突然ロープがかかり、近くにあった木につるし上げられる。足は地面につかず、締められた首元についたロープだけで体を支えられる体制になる。
「…………か、は」
ロープはグリムの首元にきつく縛られているせいもあり声を出すことは無論、息をすることもままならなかった。
グリムは首元とロープの間に指を入れて気道を確保しようとする。
「…………く」
グリムは首元とロープの間に指を入れて気道を確保しようとするが自身の体重によってロープをほどくことはできなかった。
「…………っ」
首を圧迫され続けたグリムは視界がかすみ始める。思考が鈍り始める中でグリムは目の前でこちら側に一切振り向かない女性に対して違和感を持つ。
目の前で首をつるされてもがいている男がいる状況でいくらなんでも人の気配に気が付かないはずがない。
「………し………」
目の前の女性に声をかけようにも言葉を発することはできなかった。
「…………」
グリムはそこで完全に意識を失ってしまう。最後に視界に映ったのはほんのわずかに髪を揺らすだけで決してこちら側を振り向こうとはしない黒髪の女性の姿だけだった。
なぜグリムは女性を必死になって追いかけたのか、そして目の前にまで迫ったというのにその女性が誰なのかわからなかった。
「薪運びは緑が担当なのか?」
「そうだよー、青が水汲み、赤が火起こし、黄がお金管理、みたいにそれぞれ役割分担をしているんだ」
緑と呼ばれている小人が説明をしてくれる。それぞれの帽子の色を想像するような仕事を持っているみたいだった。
「黒色と白色は何をしているんだ?」
「黒色はボスだから何もしないよー」
さらっと小人の中でも上下関係があるような話を聞いてグリムは驚く。
「白色は……色々かなー」
「色々?」
「白雪姫の為に服を裁縫したり、足りない人手を補ってくれたり、遊び道具をしてくれるんだ」
「なるほどな」
話を聞く限りでは黒色の帽子を被った小人とは違い、ずいぶんと働き者のようだった。
「ブランコも白色の小人が作ってくれたんだよ」
緑色の帽子を被った小人が補足するように話す。黒色の小人を除いたほかの全員は白色の小人が作ったその遊具をかなり気に入っているらしく、最初の頃は取り合いになったらしい。
いくら世界が似ているとはいえさすがにブランコは最初から設置されたものではなかったらしい。
「それにしても雪はやまないねー」
小人が空を見上げながら言う。彼の言う通り空からは絶えず灰色の雪が降り続けていた。
「白雪姫も王子様も揃ったのにどうしてやまないのかなー?」
「灰色の雪は一度降り始めると決してやまないからな」
「そうなんだー、王子様は詳しいね!」
悲観することなく小人は感嘆の声をグリムに向けた。
灰色の雪は物語が修正されたとしても降りやむことはない。その事実は最初の白雪姫の世界で身をもってグリムは経験していた。
「もうすぐ薪置き場だよ」
小人が道の先を指さす。二人の小人に連れられてきた道とは違い、白色の小人が走り去っていった道を歩いて数分が過ぎた頃、目的地へとたどり着きそうだった。
「……あれ?あそこにいるのって……」
小人が独り言のようにぼそりといった。グリムは小人の視線の先、目的地である場所を見ると誰かが一人そこにいた。
「…………!」
ドクンとグリムはこの時自身の心臓の音が鳴るのを感じ取った。
遠くにいるのが男性なのか女性なのかだれかまだわからない。
それでもグリムは本能的にそこにいる人間に対して会わなければいけないと感じ取った。
「お、王子様?」
小人の声が後ろから聞こえてくる。気が付けばグリムはすでに走り始めていた。
「はぁっ……はぁっ」
すぐに息が上がる。急に走り出したせいもあるが、小人と見た人の姿を見たときに生じた動機が原因だった。
人の姿を視認できるところまで近づく。その人物は女性だった。しかしこちら側を向いておらず、長い黒色の髪以外まだ特徴がつかめていなかった。
女性はグリムの方に顔は向けずに近づくよりも先にそのまま森の奥へと歩き始めた。
「ま、待て!」
声を出して女性を呼び止めようとするが女性の足は止まらなかった。女性の足は速く走っているグリムとの距離はすぐには詰められそうになかった。
ガサガサと茂みの方へと入り女性は整備された道から外れてしまう。見失わないようにグリムは懸命に追いかける。
「はぁ……はぁ」
黒髪の女性が姿を消したあたりでグリムも茂みの中へと入る。草木をかき分けて走る速度は落とさなかった。
しばらくまっすぐに進み続けると川の流れる場所にたどり着く。左右を見ると小さな滝の見える上流側に女性がいた。
「お、おい!」
改めて声をかけるが女性は振り返ろうとはしない。先ほどまでに比べると距離もだいぶ縮まっていたこともあり、グリムはここまで走る続けた足に鞭を打つような思いで足を止めずに女性のもとへと駆け寄る。
「まっ…………」
ようやく女性の目の前まで迫り、肩に触れようとしたその時だった。
「…………がっ!?」
グリムの首元に突然ロープがかかり、近くにあった木につるし上げられる。足は地面につかず、締められた首元についたロープだけで体を支えられる体制になる。
「…………か、は」
ロープはグリムの首元にきつく縛られているせいもあり声を出すことは無論、息をすることもままならなかった。
グリムは首元とロープの間に指を入れて気道を確保しようとする。
「…………く」
グリムは首元とロープの間に指を入れて気道を確保しようとするが自身の体重によってロープをほどくことはできなかった。
「…………っ」
首を圧迫され続けたグリムは視界がかすみ始める。思考が鈍り始める中でグリムは目の前でこちら側に一切振り向かない女性に対して違和感を持つ。
目の前で首をつるされてもがいている男がいる状況でいくらなんでも人の気配に気が付かないはずがない。
「………し………」
目の前の女性に声をかけようにも言葉を発することはできなかった。
「…………」
グリムはそこで完全に意識を失ってしまう。最後に視界に映ったのはほんのわずかに髪を揺らすだけで決してこちら側を振り向こうとはしない黒髪の女性の姿だけだった。
なぜグリムは女性を必死になって追いかけたのか、そして目の前にまで迫ったというのにその女性が誰なのかわからなかった。
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