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最終章 白雪姫
140話 黒髪のサンドリオン
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「大丈夫か」
背後から声を掛けられる。振り返ると白い帽子を被った小人が心配していた。
「とりあえずはな……」
グリムはサンドリオンを近くの木に背中をつける体制で寝かせた。
「血がずいぶんとでているじゃないか、安静にしていろ」
「俺よりも、家の中にいる小人たちを……」
グリムは痛みをこらえながら家の中に入る。サンドリオンの手に付けていたかぎ爪には最初から血が付いていた。そして彼女が出てきたのはこの部屋の中。そこから考えられる家の中の惨状は容易に想像ができてしまった。
「……おい、大丈夫か!」
ドアを開けるとそこには予想通り何人もの小人たちが血を流して床に伏していた。
「……息はしている、すぐに処置する」
白色帽子を被った部屋の中に置いてあった小人は救急箱から包帯を取り出して倒れている小人たちに処方を進め始める。
「俺も何か手伝いを……」
「お前は治療される側だ」
小人はそう言って包帯の一つをグリムに放り投げる。
「それを巻いて、おとなしくしていろ」
小人はそれだけ言うとほかの傷を負った小人たちの治療を再開した。
「……すまない、何か手伝うことがあったらよんでくれ」
グリムはそういうと邪魔にならないように家の外に出た。
シロから受け取った包帯を腹部に巻いていく。傷口に触れた際に痛みによって顔が歪むが、これ以上流血したままにするわけにもいかず、痛みを我慢してグリムは包帯を巻き終える。
グリムは切り株に腰を下ろして一息つく。そして今起きた状況について整理し始めた。
木に持たれる形で気を失っている女性を見る。髪も肌の色もそして服装も以前とは大きく異なるが、何度見ても目の前の女性はサンドリオンにしか見えなかった。
「また、リオンともサンドリオンとも別人の3人目だというのか……いや、違う」
一瞬、そのような思考が浮かんだがすぐに否定する。リオンとサンドリオンが別人なのか、いばら姫の世界でサンドリオンに起きた異変によって別人ではなく同じ人間のように彼女自身も認識し始めていた。
共通している点を挙げるとしたらアーサー王の世界で出会ったサンドリオン、この世界で出会った目の前の黒髪の女性は初対面時にグリムをグリムとして認識していなかった。
「…………」
確かめる手段は一つあった。ただそれはあまりグリムが気乗りしていない方法である。
アーサー王伝説の世界でアーサーを演じようとしていたサンドリオンは「白紙の頁」所有者だった。もしも目の前の彼女が「白紙の頁」ならサンドリオンと同一人物である可能性が高くなる。
「…………」
グリムは立ち上がり黒髪の女性に近づく。そしてゆっくりと彼女の胸元に右手を伸ばした。
「頁」は本人から切り離さなければその人間が灰になって消えることはない。彼女から離さずに「頁」に書かれた役割を確認しようとした。
「頁」を取り出す行為自体をあまり好まないグリムはこのような形で彼女の正体を探ることをよく思っていなかったが、会話の通じない目の前の女性を知るにはほかに手段はない状況と判断する。
「……何をしようとしているのですか?」
突然木の裏側から男性の声が聞こえてきた為、反射的に手を引いて距離を取る。その声は聞き覚えのあるものだった。
「あなたはまたそうやって他人から役割を奪おうとするんですね」
声の主はすぐに姿を現した。細柄の頬のこけた騎士、ローズだった。
「違う、俺はただ……」
「言い訳は聞きませんよ」
ローズはグリムをにらみながら気を失っている女性とグリムの間に入る。
「お前いったいこの世界で何をしているんだ」
「私はあなたとは違う」
ローズはグリムの質問には答えずにそう言うと気を失っている黒髪の女性を肩に担いだ。
「おい、どこに連れて行く気だ」
「あなたに教える義理はないですよ」
「まて……っ」
ローズを止めようと手を伸ばした瞬間におなかの傷が痛み、動きが鈍ってしまう。
「やめておきなさい、これでも私は騎士のはしくれ……傷を負った通常の姿のあなたを倒すこと等造作もない」
「…………」
ローズの実力はわからないが、それでも今の状態で彼女を取り返す保証はなかった。
「そうだ、あなたにこれだけは教えてあげましょう」
振り返りながらローズは笑った。
「この女性はあなたと共にいばら姫の世界に来ていたサンドリオンですよ」
加えて言うのなら、とローズは言葉を続ける。
「シンデレラの世界で意地悪なシンデレラの姉を演じていたのもおそらく彼女でしょう」
「何?」
グリムが抱いていた疑問に対してローズが唐突に答えを示したことに驚く。
「それでは……」
「……まて」
「まだ何か?」
背を向けたままローズは足を止める。
「お前と一緒にいた他の二人はどうした?」
「…………さぁ、どこかにいるんじゃないですか?それではさようなら」
ローズはグリムの問いには答えず、別れの言葉を告げるとすぐにその場から姿を消した。
「…………」
ローズがいなくなってから間もなくしてグリムは先ほど地面に突き刺した剣を手に取った。黒髪になったサンドリオンに襲われた際、命を救ったといっても過言ではないこの地面に刺さっていた剣には見覚えがあった。
剣を手に取ると茂みの方からがさっと音が聞こえる。
「……やっぱりこれはあんたの剣か」
茂みから姿を現した人物にグリムは声をかける。
その人物はグリムがよく知っている銀髪の騎士だった。
「……俺の剣だとよくわかったな」
「何度もお前にはやられているからな」
グリムは答えながら剣を銀髪の騎士に差し出す。赤ずきんの世界で初めて出会った時や、いばら姫の世界で最後に対峙した時にもグリムは彼と一線を交えている。彼が持っていた剣をグリムは覚えていた。
「……なるほどな」
騎士はそれだけ言うとグリムから剣を受け取り鞘に納めた。
「予想だが……今あんたとローズは何かしらの理由で仲違いしている、違うか?」
「そこまでわかっているのか」
銀髪の騎士は少し驚いた様子を見せる。グリムの仮説は正しかったようだ。
なぜそのように思ったのか理由は簡単だった。グリムを殺そうとするサンドリオンを庇うローズと剣を地面に置いた銀髪の騎士の行動には一貫性がないからだ。
「話すのは得意ではないが……俺が知る限りのこの世界の現状について教えよう」
グリムと会話することを決めたのか、銀髪の騎士は近くの木に背を預けてその場にとどまった。
背後から声を掛けられる。振り返ると白い帽子を被った小人が心配していた。
「とりあえずはな……」
グリムはサンドリオンを近くの木に背中をつける体制で寝かせた。
「血がずいぶんとでているじゃないか、安静にしていろ」
「俺よりも、家の中にいる小人たちを……」
グリムは痛みをこらえながら家の中に入る。サンドリオンの手に付けていたかぎ爪には最初から血が付いていた。そして彼女が出てきたのはこの部屋の中。そこから考えられる家の中の惨状は容易に想像ができてしまった。
「……おい、大丈夫か!」
ドアを開けるとそこには予想通り何人もの小人たちが血を流して床に伏していた。
「……息はしている、すぐに処置する」
白色帽子を被った部屋の中に置いてあった小人は救急箱から包帯を取り出して倒れている小人たちに処方を進め始める。
「俺も何か手伝いを……」
「お前は治療される側だ」
小人はそう言って包帯の一つをグリムに放り投げる。
「それを巻いて、おとなしくしていろ」
小人はそれだけ言うとほかの傷を負った小人たちの治療を再開した。
「……すまない、何か手伝うことがあったらよんでくれ」
グリムはそういうと邪魔にならないように家の外に出た。
シロから受け取った包帯を腹部に巻いていく。傷口に触れた際に痛みによって顔が歪むが、これ以上流血したままにするわけにもいかず、痛みを我慢してグリムは包帯を巻き終える。
グリムは切り株に腰を下ろして一息つく。そして今起きた状況について整理し始めた。
木に持たれる形で気を失っている女性を見る。髪も肌の色もそして服装も以前とは大きく異なるが、何度見ても目の前の女性はサンドリオンにしか見えなかった。
「また、リオンともサンドリオンとも別人の3人目だというのか……いや、違う」
一瞬、そのような思考が浮かんだがすぐに否定する。リオンとサンドリオンが別人なのか、いばら姫の世界でサンドリオンに起きた異変によって別人ではなく同じ人間のように彼女自身も認識し始めていた。
共通している点を挙げるとしたらアーサー王の世界で出会ったサンドリオン、この世界で出会った目の前の黒髪の女性は初対面時にグリムをグリムとして認識していなかった。
「…………」
確かめる手段は一つあった。ただそれはあまりグリムが気乗りしていない方法である。
アーサー王伝説の世界でアーサーを演じようとしていたサンドリオンは「白紙の頁」所有者だった。もしも目の前の彼女が「白紙の頁」ならサンドリオンと同一人物である可能性が高くなる。
「…………」
グリムは立ち上がり黒髪の女性に近づく。そしてゆっくりと彼女の胸元に右手を伸ばした。
「頁」は本人から切り離さなければその人間が灰になって消えることはない。彼女から離さずに「頁」に書かれた役割を確認しようとした。
「頁」を取り出す行為自体をあまり好まないグリムはこのような形で彼女の正体を探ることをよく思っていなかったが、会話の通じない目の前の女性を知るにはほかに手段はない状況と判断する。
「……何をしようとしているのですか?」
突然木の裏側から男性の声が聞こえてきた為、反射的に手を引いて距離を取る。その声は聞き覚えのあるものだった。
「あなたはまたそうやって他人から役割を奪おうとするんですね」
声の主はすぐに姿を現した。細柄の頬のこけた騎士、ローズだった。
「違う、俺はただ……」
「言い訳は聞きませんよ」
ローズはグリムをにらみながら気を失っている女性とグリムの間に入る。
「お前いったいこの世界で何をしているんだ」
「私はあなたとは違う」
ローズはグリムの質問には答えずにそう言うと気を失っている黒髪の女性を肩に担いだ。
「おい、どこに連れて行く気だ」
「あなたに教える義理はないですよ」
「まて……っ」
ローズを止めようと手を伸ばした瞬間におなかの傷が痛み、動きが鈍ってしまう。
「やめておきなさい、これでも私は騎士のはしくれ……傷を負った通常の姿のあなたを倒すこと等造作もない」
「…………」
ローズの実力はわからないが、それでも今の状態で彼女を取り返す保証はなかった。
「そうだ、あなたにこれだけは教えてあげましょう」
振り返りながらローズは笑った。
「この女性はあなたと共にいばら姫の世界に来ていたサンドリオンですよ」
加えて言うのなら、とローズは言葉を続ける。
「シンデレラの世界で意地悪なシンデレラの姉を演じていたのもおそらく彼女でしょう」
「何?」
グリムが抱いていた疑問に対してローズが唐突に答えを示したことに驚く。
「それでは……」
「……まて」
「まだ何か?」
背を向けたままローズは足を止める。
「お前と一緒にいた他の二人はどうした?」
「…………さぁ、どこかにいるんじゃないですか?それではさようなら」
ローズはグリムの問いには答えず、別れの言葉を告げるとすぐにその場から姿を消した。
「…………」
ローズがいなくなってから間もなくしてグリムは先ほど地面に突き刺した剣を手に取った。黒髪になったサンドリオンに襲われた際、命を救ったといっても過言ではないこの地面に刺さっていた剣には見覚えがあった。
剣を手に取ると茂みの方からがさっと音が聞こえる。
「……やっぱりこれはあんたの剣か」
茂みから姿を現した人物にグリムは声をかける。
その人物はグリムがよく知っている銀髪の騎士だった。
「……俺の剣だとよくわかったな」
「何度もお前にはやられているからな」
グリムは答えながら剣を銀髪の騎士に差し出す。赤ずきんの世界で初めて出会った時や、いばら姫の世界で最後に対峙した時にもグリムは彼と一線を交えている。彼が持っていた剣をグリムは覚えていた。
「……なるほどな」
騎士はそれだけ言うとグリムから剣を受け取り鞘に納めた。
「予想だが……今あんたとローズは何かしらの理由で仲違いしている、違うか?」
「そこまでわかっているのか」
銀髪の騎士は少し驚いた様子を見せる。グリムの仮説は正しかったようだ。
なぜそのように思ったのか理由は簡単だった。グリムを殺そうとするサンドリオンを庇うローズと剣を地面に置いた銀髪の騎士の行動には一貫性がないからだ。
「話すのは得意ではないが……俺が知る限りのこの世界の現状について教えよう」
グリムと会話することを決めたのか、銀髪の騎士は近くの木に背を預けてその場にとどまった。
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