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最終章 白雪姫
152話 たとえ世界が滅んでも
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「驚いた、こんなことが起きうるんですね」
距離を置いた場所から見ていたローズは一通り笑い終えた後、黒髪の女性を見て興味深そうに眺めていた。
「マロリーの能力で書き換えられた人間が以前の記憶が戻るなんて思いもしませんでした」
その笑みは珍しいものを見るような、それでいて誰かの嘆きを楽しむようなあまり好まれる笑いではなかった。
「お嬢は……彼女が王妃になることを認めたのか」
銀髪の騎士はローズに問いかけた。
「あなたに嘘を言っても無駄でしょうから……当然、拒みましたよ」
「それならなぜ王妃の役割を」
「…………」
ローズは何も答えなかった。その無言から銀髪の騎士は彼がどうやってマロリーに王妃の役割を与えさせたのかすぐに想像がついた。それと同時に銀髪の騎士は剣を抜き去り、細柄な騎士の首元に切っ先を向けた。
「おっと……今私を殺せば、マロリーの居場所は誰にも分らなくなりますよ」
「……なぜだ」
「なぜ、とは?」
「なぜこんな事をした……お前ならもっとうまく物語を進められたはずだ」
銀髪の騎士の言葉にローズはピクリと眉を動かした。
「えぇ……私ならもっと円滑にできましたよ……でもね」
ローズは顔をゆ歪ませながら言葉を続ける。
「それでは納得ができない……知っていますか、彼女、アーサー王伝説の世界であろうことかアーサー王を偽って演じていたそうですよ」
「何?」
それは銀髪の騎士にとって初耳だった。彼女が「白紙の頁」所有者であること以外何も知らなかった。
「なんでも彼女のせいでアーサー王は死んだそうです……その責任を負って主役を担おうとしたそうですが……力量不足で最後はその世界から離れたと」
「…………」
アーサー王伝説の世界は銀髪の騎士にとってもローズにとっても生まれ育った世界であり、二人にとってはあまり良い記憶はなかった。なぜ彼がサンドリオンに白雪姫ではなく、王妃の役割を与えたのか銀髪の騎士は何となく察しがついてしまう。
「それでも……お嬢にまで危害を及ばせる理由にはならない、お嬢はどこだ」
「……私はあなたとは違うんですよ」
「何?」
「私はこの世界の完結をもって彼女と同じ存在になります。それであなたたちとの旅も最後です」
「答えになっていない、お嬢を出せ」
「この世界が終わる前には彼女を解放してあげますよ」
ローズはそれだけ言うと目の前の3人の方へと歩き始めた。
「待て、まだ終わっていない」
「そうですね、この世界の物語はまだ終わっていない」
そういうつもりで言ったわけではないと反論するよりも先にローズは言葉を挟み込む。
「白雪姫のあらすじはまだ続きます……そこの小人とあなたでグリムを森へ連れ帰りなさい……もしかしたらまだ助かるかもしれませんよ」
言い終えるとローズは気絶して倒れこんだサンドリオンを抱えて城の中へと入っていった。
その場には剣を突き刺されて血を流しながら倒れているグリムとそんな彼をどうにかしようと懸命に止血を行っている小人だけが残されていた。
「…………」
本当であれば今すぐにでも銀髪の騎士はマロリーを探しに行きたかった。しかし、目の前で倒れている人間を見捨ててしまうほど銀髪の騎士は騎士としての誇りを失ってはいなかった。
「……すこしどいていろ」
銀髪の騎士は小人に離れるように告げるとグリムの体を起こして状態を確認した。
「本人は気を失っているからな……痛むのは承知してくれ」
「な、何を……」
小人が言葉を言い終えるよりも先に銀髪の騎士はそういうと突き刺されていた剣を抜き取った。
「どのみち抜くなら早いに越したことはない。本当はこの城で治療をするべきだが……そうするわけにもいかないらしい」
「それはどういう意味だ?」
「グリムが言っただろ。こいつには白雪姫の役割が与えられている……お城で治療をすれば王妃である彼女にも知れ渡り、物語は崩壊しかねない」
そうなればこの世界の住人たちは焼失してしまう。もうすでに城にいる人間たちはそうなっていた。今度は目の前の小人が燃えてしまいかねなかった。
「……構わない」
「何?」
「グリムの命が救われるのなら、この世界が滅んでも構わない」
小人はとんでもないことを言い始めたと銀髪の騎士は動揺する。
「お前、何を言っているのか分かっているのか」
「分かっている」
小人の決意は固いように思えた。
「昨日今日出会った人間にどうしてそこまで情が沸くんだ……そんなことをすればお前が死んでしまうかもしれないんだ」
「……例え世界が滅んだとして、彼だけは助けたい」
「…………?」
小人の言葉を騎士は理解することが出来なかった。
「悪いが、その願いは断らせてもらう。もしも世界の崩壊に巻き込まれたら俺やお嬢も巻沿いになるからな」
銀髪の騎士はそういうとグリムを抱えて走り始めた。
「……おい、待て!」
「……言っておくがこの場で治療はさせない」
「それなら俺についてこい。あんたが先頭だと永遠に小屋にたどり着けそうにもない」
「…………わかった」
二人は城を後にして小人のいる家まで全力で走り抜けた。
距離を置いた場所から見ていたローズは一通り笑い終えた後、黒髪の女性を見て興味深そうに眺めていた。
「マロリーの能力で書き換えられた人間が以前の記憶が戻るなんて思いもしませんでした」
その笑みは珍しいものを見るような、それでいて誰かの嘆きを楽しむようなあまり好まれる笑いではなかった。
「お嬢は……彼女が王妃になることを認めたのか」
銀髪の騎士はローズに問いかけた。
「あなたに嘘を言っても無駄でしょうから……当然、拒みましたよ」
「それならなぜ王妃の役割を」
「…………」
ローズは何も答えなかった。その無言から銀髪の騎士は彼がどうやってマロリーに王妃の役割を与えさせたのかすぐに想像がついた。それと同時に銀髪の騎士は剣を抜き去り、細柄な騎士の首元に切っ先を向けた。
「おっと……今私を殺せば、マロリーの居場所は誰にも分らなくなりますよ」
「……なぜだ」
「なぜ、とは?」
「なぜこんな事をした……お前ならもっとうまく物語を進められたはずだ」
銀髪の騎士の言葉にローズはピクリと眉を動かした。
「えぇ……私ならもっと円滑にできましたよ……でもね」
ローズは顔をゆ歪ませながら言葉を続ける。
「それでは納得ができない……知っていますか、彼女、アーサー王伝説の世界であろうことかアーサー王を偽って演じていたそうですよ」
「何?」
それは銀髪の騎士にとって初耳だった。彼女が「白紙の頁」所有者であること以外何も知らなかった。
「なんでも彼女のせいでアーサー王は死んだそうです……その責任を負って主役を担おうとしたそうですが……力量不足で最後はその世界から離れたと」
「…………」
アーサー王伝説の世界は銀髪の騎士にとってもローズにとっても生まれ育った世界であり、二人にとってはあまり良い記憶はなかった。なぜ彼がサンドリオンに白雪姫ではなく、王妃の役割を与えたのか銀髪の騎士は何となく察しがついてしまう。
「それでも……お嬢にまで危害を及ばせる理由にはならない、お嬢はどこだ」
「……私はあなたとは違うんですよ」
「何?」
「私はこの世界の完結をもって彼女と同じ存在になります。それであなたたちとの旅も最後です」
「答えになっていない、お嬢を出せ」
「この世界が終わる前には彼女を解放してあげますよ」
ローズはそれだけ言うと目の前の3人の方へと歩き始めた。
「待て、まだ終わっていない」
「そうですね、この世界の物語はまだ終わっていない」
そういうつもりで言ったわけではないと反論するよりも先にローズは言葉を挟み込む。
「白雪姫のあらすじはまだ続きます……そこの小人とあなたでグリムを森へ連れ帰りなさい……もしかしたらまだ助かるかもしれませんよ」
言い終えるとローズは気絶して倒れこんだサンドリオンを抱えて城の中へと入っていった。
その場には剣を突き刺されて血を流しながら倒れているグリムとそんな彼をどうにかしようと懸命に止血を行っている小人だけが残されていた。
「…………」
本当であれば今すぐにでも銀髪の騎士はマロリーを探しに行きたかった。しかし、目の前で倒れている人間を見捨ててしまうほど銀髪の騎士は騎士としての誇りを失ってはいなかった。
「……すこしどいていろ」
銀髪の騎士は小人に離れるように告げるとグリムの体を起こして状態を確認した。
「本人は気を失っているからな……痛むのは承知してくれ」
「な、何を……」
小人が言葉を言い終えるよりも先に銀髪の騎士はそういうと突き刺されていた剣を抜き取った。
「どのみち抜くなら早いに越したことはない。本当はこの城で治療をするべきだが……そうするわけにもいかないらしい」
「それはどういう意味だ?」
「グリムが言っただろ。こいつには白雪姫の役割が与えられている……お城で治療をすれば王妃である彼女にも知れ渡り、物語は崩壊しかねない」
そうなればこの世界の住人たちは焼失してしまう。もうすでに城にいる人間たちはそうなっていた。今度は目の前の小人が燃えてしまいかねなかった。
「……構わない」
「何?」
「グリムの命が救われるのなら、この世界が滅んでも構わない」
小人はとんでもないことを言い始めたと銀髪の騎士は動揺する。
「お前、何を言っているのか分かっているのか」
「分かっている」
小人の決意は固いように思えた。
「昨日今日出会った人間にどうしてそこまで情が沸くんだ……そんなことをすればお前が死んでしまうかもしれないんだ」
「……例え世界が滅んだとして、彼だけは助けたい」
「…………?」
小人の言葉を騎士は理解することが出来なかった。
「悪いが、その願いは断らせてもらう。もしも世界の崩壊に巻き込まれたら俺やお嬢も巻沿いになるからな」
銀髪の騎士はそういうとグリムを抱えて走り始めた。
「……おい、待て!」
「……言っておくがこの場で治療はさせない」
「それなら俺についてこい。あんたが先頭だと永遠に小屋にたどり着けそうにもない」
「…………わかった」
二人は城を後にして小人のいる家まで全力で走り抜けた。
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