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多田さんと今井くん~タラシな若手エリート×中年平社員~
そんな事は知っていたのに、いつの間にか絡めとられている
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営業というのはつまり、人心を掌握する事だ。
つまり彼の本質はある種の略奪と搾取にあると言える。
――多田は最近、そんな事を感じるようになっていた。
(彼は酷い男だ)
出張先のホテルで。
自分を酒に誘っておいて、平気で他の女性へ手を伸ばす。口も上手ければ気前もいい今井に、女性達は満更でもない表情を見せる。腰に触れられても、抱き寄せられても、嫌がるどころかしな垂れかかる始末。
今井と彼女達が笑い合う声を聞きながら、多田は切れた酒をバーテンに頼む振りをして目を逸らした。
(私は……何を考えているんだろう)
彼女達に嫉妬している?
そんなはずはない。日毎夜毎に愛を囁く今井と違い、多田は彼に対して何の特別な感情も抱いていないはずだ。この波立つ感情は、不誠実な彼の仕打ちに対する憤りに過ぎない。――少なくとも、今の多田はそう思っている。
(……不味い酒だ)
気に入りのウィスキーさえ、今夜は妙に味気ない。女の声がやけに耳障りだ。そんな彼女達に今井が笑いかける姿が、癪に障る。
「ねぇ、楽しんでらっしゃる?」
ふと膝に手を添えられて、多田は顔を上げた。艶かしく肌を露出した女性が、多田を覗き込むように小首を傾げている。真っ赤なルージュ。深く切れ込みの入ったドレスから太腿を覗かせ、馨るような色香を漂わせている。彼女の首筋から立ち昇る濃厚なフレグランスに、多田は眩暈を感じた。
「……ああ、大丈夫だ。私の事は気にしなくても良いよ」
「そんな事を言ってはいけないわ、お兄さん。こういう場所では気取っていないで楽しまないと。ほら、あちらのお兄さんみたいに」
「そうだな……そうかもしれない」
ちらりと目を向けると、今井は1人の女に口付けをせがんでいるところだった。多田に殊更に見せ付けようとでもするように、彼女を膝に抱き寄せ、甘ったるい言葉を囁く。
「なぁ……あんた、俺の事好きだろ?」
「えぇ?そんなこと無いわよ~」
「ほんとに?俺の事もっと見てみろよ……ほら、キスしたくなってきた。あんたの目がそう言ってる」
「ばか……こんな所でいやぁよ」
「こんなところだから良いんだろ?」
くすくすと笑い合いながら、結局2人は啄ばむように口付けする。女がうっとりと目を閉じても、今井は目を閉じない。――多田はそれ以上彼を見なかった。
(彼を感じる)
女達とああして絡み合っていても、今井の目がちらりちらりと自分を窺っているのに、多田は気付いている。その目が何を言わんとしているのかも、解ってしまう――気付いてしまう。
(ヒドイオトコダ)
アルコールの味しかしない酒をぐっと飲み干して、多田はグラスをテーブルに置いた。
「済まないが、私は先に戻るよ」
がたんと立ち上がる多田に、女達は驚いたように目を瞠り、今井はといえばひらりと手を振ったのみ。
「ああ、悪いな。俺はこの子達ともう少し遊んでから帰るよ」
(せいぜい病気にはならないようにな)
毒づきかけて、多田は言葉を飲み込む。自分の口からそんな悪態が飛び出そうになったことに、自分が驚いた。ただ、苦笑して手を振り返す。
自室に戻っても、多田はどうにも落ち着きかねていた。自分の体に突き刺さる今井の眼差しが忘れられない。シャワーを浴びても、ベッドに横になっても、本来訪れるべき安息は訪れなかった。
女の腰を抱き寄せる、彼の腕。猫のようにしなやかな背筋を撫で下ろす、彼の細く繊細な指。睦言を囁く甘い声音。笑い声に混じって零れる吐息。見せ付けるようにされた口付けの、ちらりと覗いた艶かしい濡れた舌先の色。
(――彼は試しているのだ)
解っていた。解りすぎるほどに、解っていた。
(彼は知っている……私がそれを想像することを)
イマジネーションセックス。それは、生々しくもいやらしい。
それを振り払えるほどに、多田は聖人君子ではなかった。
(……私は……私は彼に――)
ぎしり、ベッドが軋んで、いつの間にか部屋に忍び込んでいた今井が多田の上に身を乗り上げていた。
「……っ!」
「ただいま」
「……き、君は……何を……」
ぎしぎしと、切なげにスプリングが泣く。口付けできる距離に顔を寄せて、それでも自分からは決して口付けなどしない素振りで、今井はにやりと意地悪く笑みを浮かべた。
「待ってたんだろ?」
「……何を言ってるんだ君は」
「俺を待ってたんだろ?」
「……何の事だか解らないな」
「隠すなよ。部屋の鍵、かけてなかったくせに」
「かっ……かけ忘れただけだ」
「嘘吐き」
毛布の中に滑り込んだ彼の手が、多田の腿に触れた。びくりと、身が竦む。今井が笑う。最悪な、最低な男の顔で。
多田の大嫌いな男の顔で。
「なぁ……濡れたろ?」
「……それは……女に言う台詞だな」
それでもそれを否定する事も出来ず、多田は今井に口付ける。これから略奪され搾取される自分の命運を思い、それでもその唇の甘さはアルコールよりもずっと自分を酔わせるのだと、小さな溜め息を吐きながら。
つまり彼の本質はある種の略奪と搾取にあると言える。
――多田は最近、そんな事を感じるようになっていた。
(彼は酷い男だ)
出張先のホテルで。
自分を酒に誘っておいて、平気で他の女性へ手を伸ばす。口も上手ければ気前もいい今井に、女性達は満更でもない表情を見せる。腰に触れられても、抱き寄せられても、嫌がるどころかしな垂れかかる始末。
今井と彼女達が笑い合う声を聞きながら、多田は切れた酒をバーテンに頼む振りをして目を逸らした。
(私は……何を考えているんだろう)
彼女達に嫉妬している?
そんなはずはない。日毎夜毎に愛を囁く今井と違い、多田は彼に対して何の特別な感情も抱いていないはずだ。この波立つ感情は、不誠実な彼の仕打ちに対する憤りに過ぎない。――少なくとも、今の多田はそう思っている。
(……不味い酒だ)
気に入りのウィスキーさえ、今夜は妙に味気ない。女の声がやけに耳障りだ。そんな彼女達に今井が笑いかける姿が、癪に障る。
「ねぇ、楽しんでらっしゃる?」
ふと膝に手を添えられて、多田は顔を上げた。艶かしく肌を露出した女性が、多田を覗き込むように小首を傾げている。真っ赤なルージュ。深く切れ込みの入ったドレスから太腿を覗かせ、馨るような色香を漂わせている。彼女の首筋から立ち昇る濃厚なフレグランスに、多田は眩暈を感じた。
「……ああ、大丈夫だ。私の事は気にしなくても良いよ」
「そんな事を言ってはいけないわ、お兄さん。こういう場所では気取っていないで楽しまないと。ほら、あちらのお兄さんみたいに」
「そうだな……そうかもしれない」
ちらりと目を向けると、今井は1人の女に口付けをせがんでいるところだった。多田に殊更に見せ付けようとでもするように、彼女を膝に抱き寄せ、甘ったるい言葉を囁く。
「なぁ……あんた、俺の事好きだろ?」
「えぇ?そんなこと無いわよ~」
「ほんとに?俺の事もっと見てみろよ……ほら、キスしたくなってきた。あんたの目がそう言ってる」
「ばか……こんな所でいやぁよ」
「こんなところだから良いんだろ?」
くすくすと笑い合いながら、結局2人は啄ばむように口付けする。女がうっとりと目を閉じても、今井は目を閉じない。――多田はそれ以上彼を見なかった。
(彼を感じる)
女達とああして絡み合っていても、今井の目がちらりちらりと自分を窺っているのに、多田は気付いている。その目が何を言わんとしているのかも、解ってしまう――気付いてしまう。
(ヒドイオトコダ)
アルコールの味しかしない酒をぐっと飲み干して、多田はグラスをテーブルに置いた。
「済まないが、私は先に戻るよ」
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「ああ、悪いな。俺はこの子達ともう少し遊んでから帰るよ」
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毒づきかけて、多田は言葉を飲み込む。自分の口からそんな悪態が飛び出そうになったことに、自分が驚いた。ただ、苦笑して手を振り返す。
自室に戻っても、多田はどうにも落ち着きかねていた。自分の体に突き刺さる今井の眼差しが忘れられない。シャワーを浴びても、ベッドに横になっても、本来訪れるべき安息は訪れなかった。
女の腰を抱き寄せる、彼の腕。猫のようにしなやかな背筋を撫で下ろす、彼の細く繊細な指。睦言を囁く甘い声音。笑い声に混じって零れる吐息。見せ付けるようにされた口付けの、ちらりと覗いた艶かしい濡れた舌先の色。
(――彼は試しているのだ)
解っていた。解りすぎるほどに、解っていた。
(彼は知っている……私がそれを想像することを)
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それを振り払えるほどに、多田は聖人君子ではなかった。
(……私は……私は彼に――)
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「……っ!」
「ただいま」
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