千賀くんと刈田くん(BLオムニバス)

雑多のべる子

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橘社長とりっくん~元極道なボディガード×奇抜でビッチな社長~

誰より俺が知っている、君は俺の優しいXX

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 ある、天気の良い昼下がりの事だった。
 屋上を通り掛かった藤堂は、涼しげな日陰に大きな桃色の塊を見付けて足を止めた。

「……ん?」

 見慣れた派手な衣装。投げ出された手足。地面に大の字を描いて、彼は天を仰いでいる。
 よもや熱中症でも起こして倒れたかと、藤堂は大股で早足に彼に近付き、そっと上から顔を覗きこんだ。

「……橘?」

 囁き掛けても、男はぴくりとも動かない。だが、その呼吸は規則的に穏やかで、苦しんでいる様子は無かった。なんだ、ただの昼寝か、と藤堂は呆れた顔を浮かべる。幾らここが一応は安全なビル内とはいえ、命を狙われる危険性のある人間としてはあまりにも無用心だ。
 周囲を見回しても、誰もいなかった。まぁ、放っておいても良いのだろうが、それはまたボディガードという立場からすれば無責任かもしれない。見付けてしまった以上、部屋に運ぶか起こすか、起きるまで待ってやるかしてやるのが、自分の務めだろう。
 暫し考えてから、藤堂は三番目の選択肢を選んだ。あんまり天気が良かったからだ。こんな日に部屋に篭っているのは不健康というもの。偶にはこの引き篭もりがちな男にも外の空気を存分に吸わせてやろう。すとんと彼の傍らに腰を落とし、藤堂は壁に背を預けた。
 穏やかな春の日差しが二人の上に降り注ぐ。さらさらと花壇の花が擦れ合う音が藤堂の耳を心地好く潤す。
 ん、と小さな寝言が聞こえて、寝返りを打った橘の腕がぱたりと藤堂の膝に落ちた。それと同時に、腿の辺りに額が寄せられ、ピンク色の髪がくしゃりと乱れる。
 藤堂は少し笑って左手を伸ばし、彼の髪を指先で掬い上げ、その感触を弄んで零した。くすぐったげに鼻を蠢かした橘が、くしゅんと小さなくしゃみをする。藤堂はぽんぽんと彼の頭を撫でて、また空を見上げる。

「……本当に、いい天気だ……」

 光が眩しくて目を細めた。遠くで社員達のざわめきが聞こえる。……なんて平和なんだろう。そんな事を考えながら、藤堂はゆっくりと全身の力を抜く。まだまだ橘が目覚めるのには時間が掛かりそうだ、その間、何を考えて過ごそうか――。

 

 

 やがて目覚めた橘が最初に見たものは、己の隣で壁に凭れてぐっすりと眠っている藤堂の姿だった。

「あ、れ?……いつの間に」

 確か自分は、昼食の後の腹休めにここを訪れて、心地好い陽気に誘われて横になり――そこから先の記憶が無いという事は、今の今までぐっすりと眠り込んでしまっていたのだろう。ここに来た時は間違い無く一人だったのだから、藤堂が来たのは自分が眠っている間に違いない。

「番犬のつもりがついつい一緒になって居眠り……ってトコかなー?」

 やれやれと笑って、橘はよいしょと身を起こした。役に立たない犬だ、などと呟きながらもその表情は優しい。本当は、午後は残った書類仕事を終わらせてしまおうと思っていたのだが、これではここを離れるわけにも行かないだろう。

「まったく、君は俺の邪魔しかしないんだから」

 笑い混じりに囁いて、そっと手を伸ばし、藤堂の頬を手の甲で撫でた。――と、その時。

「おっと」

 ずる、と壁からずり落ちた体が、橘の方に倒れ掛かって来た。慌てて抱き留めた橘は、そのままぺたりと座り込んでしまう。余程深く眠り込んでいるのか、藤堂は起きる気配が無かった。無意識にか橘の腰に腕を回し、緩く縋り付く。

「……ありゃ」

 どうしたものか。
 本格的に動けなくなってしまい、橘はぱちぱちと瞬いた。叩き起こせば良いのだろうが、こうやって彼に甘えられるのも珍しい。そして、目覚めた彼がどんな顔をするかに興味もある。橘は優しく彼を見下ろして、その背を撫でた。

「感謝しなよ、りっくん。今日は特別、俺が君の枕になってあげる」

 静かな声音で囁く。返事のように藤堂の唇から、ふ、と甘えるような吐息が零れた。橘は思わず笑う。

「子供みたいな顔をして……」

 これが本当にあの日、狂犬のような顔をしていた男と同一人物なんだろうか?
 揶揄うように言いながら、そっと髪を梳いてやる。橘よりは幾分太く、それでいてさらさらと艶やかな髪が、白く細い指に絡んで解けた。

 

 

 それから少し後、屋上を訪れた営業部の刈田は、そこに思わぬものを見付けて目を見張る事になる。
 橘の膝に正面から凭れて眠る藤堂と、その背を優しく愛撫する橘。
 なんとも言い表し難い表情を浮かべる刈田に気付いて、橘が顔を上げて、少し笑った。

「刈田くん」

 し。
 静かに、と彼自身の唇に当てられる指。
 結局、刈田は何も言えずに頭を掻き、くるりと踵を返した。

(なんだ、あの人達……仲が悪いって噂だったけど、なんだかんだ言って巧くいってるんじゃねぇか)

 千賀達の元に戻った刈田は、後にそんな感想を零す事になるのだが――十分後。目覚めた藤堂が悲鳴に似た声を上げて狼狽する事になるのを、彼は知らない。
 そんなある日の昼下がり。
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