千賀くんと刈田くん(BLオムニバス)

雑多のべる子

文字の大きさ
14 / 23
橘社長とりっくん~元極道なボディガード×奇抜でビッチな社長~

雨続きのある日の出来事

しおりを挟む
 降り続く雨に曝された空気が、部屋の中に吹き込んで来る。
 秋の訪れをそこに感じながら、藤堂はがちりと窓を閉め直した。

「暖房を少し強めるか」

 問い掛けというより確認のように言って、振り返る。ベッドの上、毛布に包まって熱っぽく赤い顔をした橘が、小さく頷いた。

「ありがとね、りっくん」
「殊勝な事を言うな、気持ち悪い。病人は大人しく世話を焼かれていれば良いんだ」

 大体、俺があんたの面倒を見るのはいつもの事じゃないかと。
 藤堂が言うと心外げに口を尖らせて、橘はそれを否定した。

「君に自主的に世話をされるのと、俺が命じてしてもらうのとじゃ、隼と雀、鯨と金魚、破魔矢と虻くらいの違いはあるっていうもんで……」
「もう何を言ってるんだか解らんぞ」

 既に朦朧とした頭の為か冗句さえ滑り気味で、橘はあははと情け無い笑いを零した。

「とにかく、俺のストレスが桁違いってわけなんだよ」
「そういうものか?」

 かなり納得のいかない表情を浮かべながら、藤堂は肩を竦める。病人相手に説教など、するだけ無駄と悟っているからだろう。二の句を次ぐ代わりに、ぶるっと身を震わせた橘の上に毛布をもう一枚重ねてやった。

「良いからもう、大人しく寝てろ。あんたは喋りながら眠れるのか?」
「……俺が黙ったら、君が寂して泣いちゃうかと思って」
「余計な世話だ。俺は片付けをしてくる。あんたは何も考えずに体を休めろ」

 ぽん、と頭を撫でてやると、漸く橘は口を噤み、吐息を漏らしながら布団の中に潜った。どうやら目を閉じたらしい。藤堂はやれやれと困った顔をして、暫くその髪を撫でていたが、やがて手を離して立ち上がった。
 二人の声が途切れると、後は雨の音だけが続いている。
 規則的に、または不規則的に。死んだように眠る橘の呼吸は音を伴わず、微かに上下する上掛けの膨らみを時折ちらりと眺めて、藤堂は彼がそこにいる事を確認する。
 別に彼が今ここで死んでしまうわけではないのに、彼が生きているかどうかが不安になった。自分でも馬鹿らしい感情だとは思ったが。
 そこまで考えて、ふと藤堂は片付けの手を止める。――彼が今、ここで、死んでしまったら。自分はどうなるのだろう。
 これが当たり前の生活と思い込んでいたが、冷静に考えてみれば自分達はいつだって、何を失ってもおかしくないぎりぎりの場所にいるのだ。彼にしろ、己にしろ。明日の命の保障すらない。そんな危うい場所……だからこそ二人、繋がっていられる場所に。

 ――本当は水仕事をしてしまうつもりだったが、音を立てるのが躊躇われて、結局藤堂はそのままベッドの傍、丸椅子に腰を掛けて目を閉じる。さり気無く手を伸ばすと、橘の指が無意識にか赤子のようにその手を握った。

「……お休み、橘」

 彼が眠っていると思って、優しい声音で囁く。普段なら決して聞かせないような響きで。橘の口元がほんの少し微笑むように動いたが、藤堂がそれに気付く事は無かった。彼自身もまた、いつしか眠りの中に引き込まれ――


 ***


 目を覚ますと、朝食の良い香りが漂っていた。目を擦りながら顔を上げると、肩に掛けられていた毛布がずるりと落ちる。それを慌てて拾い上げて、藤堂は橘が寝台にいない事に気付いた。

「……眩し……」

 周囲は朝の光に満ちている。昨日までの長雨が嘘のようだ。
 ゆっくりと立ち上がり、食卓へ向かう。橘がいた。

「おはよう、りっくん」
「風邪はもう良いのか?」
「うん、この通りだよ」

 白い前掛けを締めて笑う。
 彼の前では更に盛られた朝食がまだ湯気を立てていた。
 朝の光を浴びて、橘の薄紅の髪が柔らかく零れる。
 安堵のような、それよりももっと深い感情を覚えて、藤堂は一瞬、言葉を失った。

「さっ、ぼ~っと突っ立ってないで、食事にしよ! それで、今日は洗濯をしないとね。それが終わったら買出しに行かなくちゃ。腹が減っては戦も出来ないっていうし! ほら、食べて食べて!」
「ああ。ああ……橘」

 変わらない日常がそこにある。
 昨日も今日も明日も、彼がいて、自分がいて、朝が来て、夜が来て、また朝が来る。
 食卓には温かな食事。
 外は快晴。
 だから、堪らなくて。

「どうしたのさ? 可笑しな子だね」

 俯いてしまった藤堂を、橘はそっと抱き締めた。
 それだけだった。
 そして藤堂は、気付く。この感情を……知っている。 

「そうかこれが」

 ――幸せ、というのか。
 橘が笑ったので、藤堂も笑った。
 今日も二人にとって最上の一日が始まろうとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

壁乳

リリーブルー
BL
ご来店ありがとうございます。ここは、壁越しに、触れ合える店。 最初は乳首から。指名を繰り返すと、徐々に、エリアが拡大していきます。 俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 じれじれラブコメディー。 4年ぶりに続きを書きました!更新していくのでよろしくお願いします。 (挿絵byリリーブルー)

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

先輩、可愛がってください

ゆもたに
BL
棒アイスを頬張ってる先輩を見て、「あー……ち◯ぽぶち込みてぇ」とつい言ってしまった天然な後輩の話

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...