千賀くんと刈田くん(BLオムニバス)

雑多のべる子

文字の大きさ
15 / 23
橘社長とりっくん~元極道なボディガード×奇抜でビッチな社長~

眠り姫と過ごす時間

しおりを挟む
 橘は眠っている時の顔が一番良い――藤堂は半ば本気でそう思っている。

 次のショーの仕上げを終えた後の橘は精も根も尽き果たして、どっぷりと泥のような眠りの中に堕ちるのが常だった。その前に毎度の如く三日三晩の徹夜が入るわけだから、当然といえば当然だろう。
 そんな時の橘は、精根と一緒に魂も尽いたかと見えるほど青白い顔をして、死人のようにぴくりとも動かない。ただ細い呼吸が彼の胸を上下させるから、「多分生きてるんだろうな」と思わせるくらいだ。

 普段は冗談みたいに弁が立ち、その口から飛び出す言葉を何時考える隙間があるのだろうかと思うほどにお喋りな男なだけに、そうして静かに眠り続ける姿は別人のようだった。

 橘がそうして動けなくなっている間、彼の身の回りを世話してやるのは藤堂の仕事になっている。否、やらなければ誰もするものがいないのだから、仕方なくやっていると言うべきか。
 御蔭で掃除や洗濯、食事の準備。極道育ちの自分にはなかなかに縁の無かった家事全般を、藤堂はここ暫くの内に何となく出来るようになってしまった。未だにじゃがいもの皮剥きだけは巧くいかないが、洗濯物をぴしりと干す事に関しては橘よりも上だと密かに自負している。

 巨体で黒尽くめの男が掃除やら洗濯やらに精を出している姿はあまり見れた物ではないが、やらなければ生活が滞るのだからどうしようもない。
 最初は遠巻きにひそひそと眺めていた近所の奥様方も、最近では藤堂の不器用さを見兼ねたか、時折家事に付いて助言をしてくれるようになった。スーパーのタイムセールは何時からだとか、今日はトイレットペーパーが半額だとか。……有り難いが、嬉しくない、というのが藤堂の素直な感想である。

 一方、橘は一度眠り始めたら、まるで寝貯めでもするように丸一日半は眠ったまま起きて来ない。
 その間、どんな大きな音が立とうとも、地震が起ころうとも、例え火事が起きても多分、目を覚まさないに違いない。だから藤堂は全ての家事を終えると、橘の褥の傍らに腰を下ろして彼を眺めるのだった。
 普段は見せない歳の割りにあどけなさの残る素顔も、眠る彼ならば厭う事もせずに晒してくれる。
 彼の髪に手を伸ばし、さらりと梳いて、藤堂は額から顎の曲線をゆっくりと辿った。

「……ふ」

 橘の唇から時にくぐもった吐息が漏れる。
 藤堂は少し笑って、その唇を指でなぞる。
 眠ったままでもう丸一日。
 指先に感じる皮膚は乾いてからからになっている。
 藤堂は身を起こして、彼にそっと口付けた。
 舌を這わせ、潤いを与えてやる。
 少し息苦しかったのか、橘の体が身動ぎした。

「……ああ、すまない」

 聞こえるはずも無いのにそう囁いて、藤堂は体を離す。
 もう一度、傍らの椅子に腰を下ろして、また暫し彼に見入った。

 どこかの御伽噺に、こんな話があったような記憶がる。眠り姫、というやつだ。確か糸巻きで指を刺して、百年だか千年だか万年だか、城の中で眠り続けるという。そんな姫でさえも口付けで目覚めるというのに、この怠惰な男は口付け如きでは目覚める気配が無い。困ったものだと、藤堂は少し笑う。

 自分の前に転がった手をなんとなく拾い上げ、両手の中に包んだ。喧嘩商売しか知らなかった自分と違い、創作に長けた繊細な指。女とは明らかに違うのに、男とは思えないしなやかな指。藤堂はこの指が好きだ。

 橘が目覚めないのを知っていて、藤堂はその手首に口付け、唇で愛撫する。
 血の味がして、ふと指を見ると、処置の施されていない切り傷。恐らくは針で突いたか鋏の刃が掠めたのだろう。やれやれと肩を竦めて、藤堂は近くの引き出しから救急箱を取り出し、消毒して絆創膏を巻いてやった。本当に手の掛かる男だ、と思う。

 そう思ってから、そうだ、こいつは自分より年上だったのだと思い出す。

 普段は言動が言動なだけについと忘れてしまいがちだが、自分は彼よりまだ幾つも年下の若造なのだ。そんな事を考えさせるくらい、いつもの悪戯な表情を消した橘の面立ちは、静かに整っている。……起きている時より眠っている時の方が大人びて見えるなんて、と藤堂は苦笑した。

 そんな事をしているうちに時間は過ぎて、気付けば夜も更けた。
 長い事、灯りを燈しておくのは勿体無い。どうせここには自分と彼と、二人きりしかいないのだ。

 藤堂は立ち上がり、灯火を消して己の部屋へ向かう。……途中で気が変わって、橘の寝床に潜り込んだ。あんな寝顔を見たから、少し年上の男に甘えてみる気になったのかもしれない。彼を枕代わりに抱き寄せて、目を閉じる。当然、橘は抵抗もしない。それこそ人形のように抱かれている。

「……お休み、橘」

 一日の疲れが心地好く全身に気怠い眠気を齎し、藤堂はそのまま眠りの中に落ちて行った。


***


 翌朝。
 藤堂よりも先に目覚めてしまった橘は、自分を抱いてすやすやと子供のような顔で眠っている藤堂と、指に巻かれた包帯に思わずと笑みを漏らし、腕によりを掛けた朝食で彼を労う事になるのだが。
 それはまた、別の御話。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

壁乳

リリーブルー
BL
ご来店ありがとうございます。ここは、壁越しに、触れ合える店。 最初は乳首から。指名を繰り返すと、徐々に、エリアが拡大していきます。 俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 じれじれラブコメディー。 4年ぶりに続きを書きました!更新していくのでよろしくお願いします。 (挿絵byリリーブルー)

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

先輩、可愛がってください

ゆもたに
BL
棒アイスを頬張ってる先輩を見て、「あー……ち◯ぽぶち込みてぇ」とつい言ってしまった天然な後輩の話

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...