3つの惑星を旅する俺が巡り合う11の恋の話

雑多のべる子

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第二幕 惑星アルメラードにて

└9-1【アルフリードルート】1日目:夜

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 その夜、眠れずにいたレイレンはひとり<アンビシオン>に向かった。
 満天の星空の下、涼しい風にあたって歩けばこの興奮も冷めて眠気も訪れるに違いない、そう考えたからだ。少し一人になって考え事がしたい気分だったのもある。
 けれど不意に背後から響いた声に、その静寂は破られた。

「おい、こんなところで何してるんだ、坊ちゃん」
「……アルさんこそ、どうしてこんなところに」

 驚いて目を見開く。
 と、アルフリードは顔を顰めて大股にこちらに近付き、レイレンの脳天にごつんと拳骨を食らわせた。

「いて」
「どうしてだと?俺はおまえさんを探しに来たに決まってるだろうが。……昼間の奴等が戻って来てたらどうするつもりだ。あいつら明らかにまだ諦めていなかっただろうに。ったく、危なっかしくて堪ったもんじゃねえ」

 その言葉にレイレンは口を尖らせ、不満を表わした。

「そんな子供扱いしないでくださいよ。一応俺は、このアンビシオンのキャプテンで、立派な大人です」
「幾つになっても、俺にとって坊ちゃんは坊ちゃんだ。こーんなチビ助がオシメしてピーピー泣いてた頃から知ってるんだからよ?」
「こーんなって……ミクロ細胞の頃からオシメしてたらそっちの方がびっくりですよ、もー……」

 不貞腐れついでに出しっぱなしのタラップにえいっと勢いをつけて腰を下ろし、レイレンはそのまま足をぶらつかせた。酔いが残っているのか、まだ頬が熱い。
 何気なく隣に腰を下ろしたアルフリードは懐から古い紙巻き煙草を取り出して、火を着ける。立ち上る紫煙からは大人のにおいがして、レイレンは動物のように鼻をひくつかせた。昔から彼が家に遊びに来るとこのにおいがする。嗅ぎ慣れたビターなにおいだ。
 じっとその横顔を見上げていると、アルフリードは目尻に皺を寄せて破顔した。

「そうふくれなさんなって。いくら一流のキャップだって、息抜きできる場所がなけりゃあっという間にへばっちまう。俺の前でくらい、おまえさんは子供でいたらイイさ」
「……アルさんは父さんといっしょに仕事をしたこともあるんだよね?父さんも、アルさんの前だと子供だった?」

 ふと、思いついて問いかける。
 アルフリードは驚いたように一度目を瞠り、それからゆっくりゆっくりと息を吐き出して空を見上げた。空気が澄んでいるからか、一面の星は迫ってくるようだ。何かを思い出すように目を細めて。

「……いや、あの人は……俺よりずっと大人だったからな。俺達がいっしょに宇宙に出てた頃は、俺もまだ駆け出しのひよっ子だったし。どっちかってえと俺の方がいつも甘やかされていたよ」
「アルさんが父さんに甘えるところなんて、想像が付かないな」

 そう零すと、アルフリードは大きく肩を揺らして笑う。

「坊ちゃんの親父さんはな、宇宙開拓者にとっては神様みてえな憧れの人だったんだ。今でこそ俺もベテランと呼ばれちゃいるが、あの人から見たらやっとトサカが生えたようなもんだろう。それくらいすごい人なんだぞ?まあ、坊ちゃんはあの人に近過ぎて、見えなくなっちまってるのかもしれんがな」
「解らないよ。うちの父さんって家じゃいっつもゴロゴロしてるし。俺には意地悪だし。隙有らば母さんに抱きついて嫌がられてるし。……確かにデータベース上ではすごいことをたくさんやってるのも解るけど、どこがすごいんだか俺にはさっぱり」
「親父さんはお袋さんにベタ惚れだったからな。でもま、あの人等が幸せそうだと……俺も幸せだよ」

 やけに穏やかな声が彼が言うので、レイレンは目を逸らし同じように空を見上げた。遠く昔を懐かしむ彼の顔を、なぜか見ていたくないような気持ちになったから。

「……俺には……良く解らないや」

 ぽつり、呟くように溢す。

「坊ちゃんも大人になりゃ、きっとあの人のすごさが解る」
「別に、解りたいとも思ってない」
「意地っ張りめ。そういうところ、案外親父さんにそっくりだぞ」
「似てるのは顔だけでいいよ」
「親父さんにもお袋さんにも似てる、坊ちゃんは美人さんだよ」
「それは、ありがとう……?」

 と、今言うべきなのかどうかはよく解らなくなったが、レイレンは片眉を上げる。なんにせよ、どこまでいっても子供扱いをされているということだけは確かだ。でなければそんな形容が出てくるわけもない。

「さ、坊やは夜更かししねえでそろそろ布団に戻りな。俺はもう少し、ここで星を見ていくから」

 やがてそう言ったアルフリードに背中を押されてレイレンは立ち上がり、歩き出す。
 おやすみなさいと言ったものの、結局その夜は何かが胸に引っ掛かっていて、ろくな眠りが訪れなかった。
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