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七(水瀬視点)
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コンプライアンスチェックとは、名前や住所や生年月日を入力して、 過去に 犯罪歴がないかを調べる作業だ。 犯罪といっても脱税 の疑いありのような軽いものから、 暴力団関係者の疑いあり、 など重いものまでさまざまだ。 銀行は過去に暴力団がらみで 騒動になってしまったことからこのような 暴力団が背景についていないか犯罪歴がないかを調べる ことは口座開設の時の 必須事項となっている。
俺は土曜日の午前中を ひたすら名前を入力し、 引っかかったら住所や生年月日を突合し、 該当の人物を探し当てることに費やしていた。 本来だったら 昨日女の子と 朝ごはんにパンケーキでも食べていたのかもしれないが 人生はそううまくいくものではない。
「どう、見つかった?」
俺は保護者、 彼女は退職した先生も含めて 学校関係者を調べていた。
「 軽い脱税程度ならありましたけど、 犯罪者は見つかりませんね」
「 あの高級住宅街だしね。 ヒットした人たち、ちょっと見せて」
俺は 印刷された紙を一式、彼女に渡した。該当懸念先 として出された人たちだ。 よくある名前というのは一長一短だ。 このように過去の犯罪者としてリストが出てきてしまうこともある。 しかし 生年月日は変えられるものではない。住所や生年月日と突合して 一致しなければ、 該当なしとして無事に口座を開設することができる。 身分証を偽造していたらそれまでだが、 それを言い出したらキリがない。 銀行の注意義務としては、 名前と生年月日そして住所 が一致しているかを調べるまでだ。
「この人、 脱税の容疑で引っかかってるね」
彼女が指をさしたのは、 ある フレンチの料理人だった。
「あーこれ新聞記事も 当時の資料にありましたよ。 結局 脱税はしていたみたいなんですがちゃんと追加で払ってます」
これは リストと一緒に新聞記事を彼女に見せた。彼女はその名前を検索した。 しばらくパソコンいじって 何か呟いていたがどうやら希望のものは見つからなかったらしい。
「この人の経歴面白いね ラーメン屋を始めて、 14店舗つぶした後、 15店舗目で 大ヒットしてる」
「 そんなのよくある話じゃないですか。 ブックオフの社長とか、 ホスト狂いのネタで 流行ってるティックトックの人とか、 なんかも失敗を重ねて今がありますってやつ」
「 それだけじゃないんだよ。 この人ラーメンの作り方を 気前良くほかの人に売っている」
俺は彼女が指差した画面を覗き込んだ。 『地鶏ラーメン 研究所』 と書かれている。 ご当地の鳥を使った特別なスープらしい。 こののれんわけを気前よく ほかの店舗にやってあげたり、 コンサルティングのようなことをしてあげたりしているらしい。 店舗も今は引退して完全にコンサルタント業のような ものに転向している と書かれていた。
「この人の何がおかしいんですか?」
「 料理人っていうのはね、 自分の手で何かを作りたい人たちが多いんだよ。 フレンチをやめてラーメン屋を始める っていう人もいるよね。 でも小説を書いていた人が 本が売れたから編集者に する訳じゃないのと同じだよ。 漫画家が ヒットしたから 編集者として働くなんて話も聞かないでしょう。 このラーメンのダシも本当に豚を使ってるんだか」
「 どういう意味ですか? ご当地の鳥を使ってるんだから 別におかしくないじゃないですか。 今流行りの地産地消ですしね」
「 この土地に豚なんて いるはずがない」
彼女はつぶやいた
「豚はとてもデリケートな生き物なんだ。 きれいな水、 おいしい餌、 暖かさ と風通しが完全に整備された空間じゃないと生きていけない。こんな街中で買えるわけがない。 養豚業で 苦情が多いのは一番が悪臭。 保育園や 児童養護施設を作ることにすら目くじらを立てるような 人間たちが、 安易に 豚を作らせると思う?」
俺は かつその社長に聞いた話を思い出した。 戦争があったとき、 動物園の動物は泣く泣く全員が殺された。 しかし戦争が終わった後牛の宿舎を訪れてみると、 なんとそこには 子牛がいたのだ。 お母さんが殺された後も自力でお母さんが生まれてきたらしい。 宿舎に残されたえさを食べて生き延びたというのだ。 その牛は動物園にもらわれて今もすくすくと元気に育ち結婚もして、 子供も産んだという。
「 ねえ聞いてる?」
「 あ、ごめんなさい。 で、何ですか? そのラーメンに人の骨でも使ってるんじゃないかってことですか」
それはおそらく肯定の意なのだろう。
「人って死んだら火葬場に行きますよね。 骨ごと焼かれるじゃないですか」
「そうだよそこで焼却炉に焼かれて骨が出てくる でも そこで その骨をお箸を使ってツボに入れるでしょう でもその出てきた骨が本人だって分かる? そもそも葬式をしてもらって焼却炉に出してもらうのでも 恵まれてる方だよそうじゃない人たちだっている」
確かに世間にはグルメな人達もいると聞く。 その食料は珍しければ珍しいほどねは上がる傾向にある。 日本は豊かになった。 平和になった 平等もある自由もある。 一方で 自殺者は増えて 自己肯定感は 下がり承認欲求が膨らむばかりだ。 自己肯定感が上がって承認欲求を満たされるものなら人はなんだってやりかねない。
「 この人に事情聴取をしてみよう」
彼女立ち上がった。 それと同時に俺のお腹が鳴った。
「 その前に腹ごしらえかなラーメン屋でも行く?」
「寿司でもいいですよ」
彼女は面食らったようだ。
「 いうようになったじゃない」
そう悔しそうに言って、 何かを思い出したのか顔を背けた。
「 寿司は今回の事件が解決したらお祝いに食べに行こう」
俺は土曜日の午前中を ひたすら名前を入力し、 引っかかったら住所や生年月日を突合し、 該当の人物を探し当てることに費やしていた。 本来だったら 昨日女の子と 朝ごはんにパンケーキでも食べていたのかもしれないが 人生はそううまくいくものではない。
「どう、見つかった?」
俺は保護者、 彼女は退職した先生も含めて 学校関係者を調べていた。
「 軽い脱税程度ならありましたけど、 犯罪者は見つかりませんね」
「 あの高級住宅街だしね。 ヒットした人たち、ちょっと見せて」
俺は 印刷された紙を一式、彼女に渡した。該当懸念先 として出された人たちだ。 よくある名前というのは一長一短だ。 このように過去の犯罪者としてリストが出てきてしまうこともある。 しかし 生年月日は変えられるものではない。住所や生年月日と突合して 一致しなければ、 該当なしとして無事に口座を開設することができる。 身分証を偽造していたらそれまでだが、 それを言い出したらキリがない。 銀行の注意義務としては、 名前と生年月日そして住所 が一致しているかを調べるまでだ。
「この人、 脱税の容疑で引っかかってるね」
彼女が指をさしたのは、 ある フレンチの料理人だった。
「あーこれ新聞記事も 当時の資料にありましたよ。 結局 脱税はしていたみたいなんですがちゃんと追加で払ってます」
これは リストと一緒に新聞記事を彼女に見せた。彼女はその名前を検索した。 しばらくパソコンいじって 何か呟いていたがどうやら希望のものは見つからなかったらしい。
「この人の経歴面白いね ラーメン屋を始めて、 14店舗つぶした後、 15店舗目で 大ヒットしてる」
「 そんなのよくある話じゃないですか。 ブックオフの社長とか、 ホスト狂いのネタで 流行ってるティックトックの人とか、 なんかも失敗を重ねて今がありますってやつ」
「 それだけじゃないんだよ。 この人ラーメンの作り方を 気前良くほかの人に売っている」
俺は彼女が指差した画面を覗き込んだ。 『地鶏ラーメン 研究所』 と書かれている。 ご当地の鳥を使った特別なスープらしい。 こののれんわけを気前よく ほかの店舗にやってあげたり、 コンサルティングのようなことをしてあげたりしているらしい。 店舗も今は引退して完全にコンサルタント業のような ものに転向している と書かれていた。
「この人の何がおかしいんですか?」
「 料理人っていうのはね、 自分の手で何かを作りたい人たちが多いんだよ。 フレンチをやめてラーメン屋を始める っていう人もいるよね。 でも小説を書いていた人が 本が売れたから編集者に する訳じゃないのと同じだよ。 漫画家が ヒットしたから 編集者として働くなんて話も聞かないでしょう。 このラーメンのダシも本当に豚を使ってるんだか」
「 どういう意味ですか? ご当地の鳥を使ってるんだから 別におかしくないじゃないですか。 今流行りの地産地消ですしね」
「 この土地に豚なんて いるはずがない」
彼女はつぶやいた
「豚はとてもデリケートな生き物なんだ。 きれいな水、 おいしい餌、 暖かさ と風通しが完全に整備された空間じゃないと生きていけない。こんな街中で買えるわけがない。 養豚業で 苦情が多いのは一番が悪臭。 保育園や 児童養護施設を作ることにすら目くじらを立てるような 人間たちが、 安易に 豚を作らせると思う?」
俺は かつその社長に聞いた話を思い出した。 戦争があったとき、 動物園の動物は泣く泣く全員が殺された。 しかし戦争が終わった後牛の宿舎を訪れてみると、 なんとそこには 子牛がいたのだ。 お母さんが殺された後も自力でお母さんが生まれてきたらしい。 宿舎に残されたえさを食べて生き延びたというのだ。 その牛は動物園にもらわれて今もすくすくと元気に育ち結婚もして、 子供も産んだという。
「 ねえ聞いてる?」
「 あ、ごめんなさい。 で、何ですか? そのラーメンに人の骨でも使ってるんじゃないかってことですか」
それはおそらく肯定の意なのだろう。
「人って死んだら火葬場に行きますよね。 骨ごと焼かれるじゃないですか」
「そうだよそこで焼却炉に焼かれて骨が出てくる でも そこで その骨をお箸を使ってツボに入れるでしょう でもその出てきた骨が本人だって分かる? そもそも葬式をしてもらって焼却炉に出してもらうのでも 恵まれてる方だよそうじゃない人たちだっている」
確かに世間にはグルメな人達もいると聞く。 その食料は珍しければ珍しいほどねは上がる傾向にある。 日本は豊かになった。 平和になった 平等もある自由もある。 一方で 自殺者は増えて 自己肯定感は 下がり承認欲求が膨らむばかりだ。 自己肯定感が上がって承認欲求を満たされるものなら人はなんだってやりかねない。
「 この人に事情聴取をしてみよう」
彼女立ち上がった。 それと同時に俺のお腹が鳴った。
「 その前に腹ごしらえかなラーメン屋でも行く?」
「寿司でもいいですよ」
彼女は面食らったようだ。
「 いうようになったじゃない」
そう悔しそうに言って、 何かを思い出したのか顔を背けた。
「 寿司は今回の事件が解決したらお祝いに食べに行こう」
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