死んだはずの元婚約者が戻ってきたから、もう私はいらない?じゃあ好きに生きます、最強の魔法使いに溺愛されているので

可児 うさこ

文字の大きさ
6 / 16
第一部

06.魔法使いの正体

しおりを挟む
目が覚めると、そこは眠りについたはずの山小屋ではなかった。
趣味の良い飾り付けがされた、高く広い天井が目に入った。

「ここ、どこ?」

ベッドも小屋のシングルベッドではない。ふかふかのキングサイズのベッドだ。
なめらかなシルクの手触りが心地良い。それはかつて住んでいた城を思い出させた。

「まさか、城に戻って来た?!」

飛び起きて、辺りを見渡した。壁の色も装飾も違う。
ただ置かれている家具や調度品は、見るからに高そうだ。こんなに部屋を持てるのは、王族くらいだろう。

「まさか、ローランって……」

控えめなノックの音が部屋に響いた。この鳴らし方は、声を聴かなくても分かる。

「ジェフリー?言いわよ、入って」

ベッドの上で返事をすると、ゆっくりを扉が開いた。

「お目覚めかな、サラ様?」

口調はジェフリーだが、姿はローランだった。
昨晩と同じ魔法使いのローブを着ている。王族が公務の時に着る服では、決してない。

「あー、良かった。安心したわ」
「何がだい?」
「ローランが王族じゃなくて。そうだったら、今すぐに窓から飛び降りてたから」
「僕が王族だと、何か問題があるの?」

彼のあっという間に私のそばにやってきた。長い足を組んで、ベッドに腰かけている。

「大ありよ!」

勢いをつけて、ベッドから抜け出し、彼の前に仁王立ちになった。怒りが私をそうさせた。
本当は薔薇の花弁のようなベッドに、いつまでも寝ていたかった。

「モラハラ王子、死人の元婚約者、親バカ王妃。王族には嫌な記憶しかないわ!」

昨夜に森で見せた余裕ぶった態度はどこへやら、ローランは瞳を泳がせている。
ゾンビを前にしても落ち着いていたのに。ゾンビより怖いことを言ったのだろうか。

「二度と王族とは関わらない。王族とは絶対に婚約しないんだから!」
「ま、まあまあ。これでも飲みなよ。スピーチで喉が渇いただろ?」

彼はナイトテーブルに置かれていた、グラスを差し出した。口をつけると、ただの水ではないことが分かった。
リコリスがほんのり甘い、ミントの香りのデトックスウォーターだ。おしゃれなカフェにありそうな味だ。

それを一気に飲み干す私を見ながら、彼は呟いた。

「昨晩は僕を誘ってきれくれたけど、まだ道は遠いか……」
「誘ってきた?」

ベッドに座る彼は、隣の場所を軽く叩いた。ここに座れ、という意味らしい。
私はおそるおそる腰を下ろした。彼の瞳が、いたずらを企んでいる少年のように輝いていたからだ。

「小屋のベッドで寝ていた君を、誰が城《ここ》まで運んだと思う?」
「ローランでしょ」
「うん。ベッドを空に浮かべて、城《ここ》まで来たんだ。始めからそのつもりだった。だからシングルベッドが見えて、がっかりしたんだ」
「え?」
「危ないだろ、大人が二人も乗るのは。キングサイズなら余裕で乗れるけどね」

……確かにローランは言った。
「サラは華奢だから、シングルベッド一台に二人でも大丈夫だね」」
それに対して私は返した。
「下半身でものを考えるの、やめてくれる?」……

今すぐ消え去りたかった。この際、洗面所でも良い。
ベッドから立ち上がろうとしたが、それは叶わなかった。彼はしっかりと私の腰を引き寄せていた。

「サラはベッドが一つで、一緒に寝ることを想像してたんだよね?」
「……」
「はは、どうしたの?こめかみまで赤くなってるよ」

ローランは徐々に距離を詰めてくる。
城の皆に言ってやりたい。笑顔がさわやかな好青年に騙されないでください、と。

すると、部屋にノックの音が響いた。救世主だ。
「邪魔が入ったか」と呟くローランから身を放し、扉へ向かった。



ドアを開けると、そこにはおかっぱ頭の女の子がいた。
十代前半だろうか。ローランと似た魔法使いのローブを着ている。

彼女は私の顔を見上げて、目を見開いた。

「貴女が、お兄様の……」

ささやくように小さな声で、彼女は言った。
銀髪に大きな瞳、すべすべの肌、整った顔立ち。彼女がローランの妹であることは、一目で分かった。

「呼びに来てくれたのね。ありがとう、お嬢ちゃん」
「!」

頭を撫でようとすると、ばしっと手を振り払われた。しかも目つきが鋭い。
美少女が睨む様子は迫力がある。彼女はベッドに座るローランに向かい、言った。

「お兄様。お楽しみのところ悪いですが、公務の時間です」

驚いた。目の前の子は、男の子の声をしていたからだ。
その答えは、ローランが教えてくれた。

「ノアは男の子だよ、僕の弟だ」

だから目つきが鋭かったのだ。性別を間違えられて機嫌を損ねたのだろう。
そんなことよりも、確認しなくてはならないことがある。

私は振り向いた。ベッドの上で気まずそうに頭をかいている、青年を見つめた。

「公務?」
「はは、そういうこと。窓から飛び降りるのはやめてね」

どうやら彼は、他ならぬ王族だったらしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

捨てられた悪役はきっと幸せになる

ariya
恋愛
ヴィヴィア・ゴーヴァン公爵夫人は少女小説に登場する悪役だった。 強欲で傲慢で嫌われ者、夫に捨てられて惨めな最期を迎えた悪役。 その悪役に転生していたことに気づいたヴィヴィアは、夫がヒロインと結ばれたら潔く退場することを考えていた。 それまでお世話になった為、貴族夫人としての仕事の一部だけでもがんばろう。 「ヴィヴィア、あなたを愛してます」 ヒロインに惹かれつつあるはずの夫・クリスは愛をヴィヴィアに捧げると言ってきて。 そもそもクリスがヴィヴィアを娶ったのは、王位継承を狙っている疑惑から逃れる為の契約結婚だったはずでは? 愛などなかったと思っていた夫婦生活に変化が訪れる。 ※この作品は、人によっては元鞘話にみえて地雷の方がいるかもしれません。また、ヒーローがヤンデレ寄りですので苦手な方はご注意ください。

世界観制約で罵倒しかできない悪役令嬢なのに、なぜか婚約者が溺愛してくる

杓子ねこ
恋愛
前世の記憶を取り戻した悪役令嬢ヴェスカは、王太子との婚約を回避し、学園でもおとなしくすごすつもりだった。 なのに聖女セノリィの入学とともに口からは罵倒の言葉しか出なくなり、周囲からは冷たい目で見られる――ただ一人を除いては。 なぜか婚約者に収まっている侯爵令息ロアン。 彼だけはヴェスカの言動にひるまない。むしろ溺愛してくる。本当になんで? 「ヴェスカ嬢、君は美しいな」 「ロアン様はお可哀想に。今さら気づくなんて、目がお悪いのね」 「そうかもしれない、本当の君はもっと輝いているのかも」 これは侯爵令息が一途に悪役令嬢を思い、ついでにざまあするお話。 悪役令嬢が意外と無自覚にシナリオ改変を起こしまくっていた話でもある。 ※小説家になろうで先行掲載中

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

処理中です...