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二
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あれは一通の内線から始まった。
「え。人を消す金庫?」
丸の内の本部ビル、十三階のフロアで、受話器を取った青木がすっとんきょうな声を上げた。そしてメモに何かを書き、隣の席に座る私に見せた。『目黒支店 支店長』。なかなかの達筆だ。スマホより重いものを持たない若者にしては、しっかりとした字を書く。それは私に、ささやかな喜びをもたらしてくれた。彼の指導担当者として二か月を過ごしたが、「数字の暗記が得意」以外の長所を見つけることに苦心していたからだ。
「あの、まず稟議を上げてもらわないと。僕たちは承認後じゃないと動けな……え、黄瀬次長?」
会話の雲行きは怪しくなってきた。「上の者を出せ」と言う時は、まずい案件か、急ぎの案件だ。支店長が直々に連絡をしてきたということは、おそらく両者だろう。時刻は十二時。まさに昼休みを取ろうとしていたところだった。
「次長に話は通してあるって言われても、彼女は長期休暇中ですし……はい、黒川三月さんはいます。彼女に伝えます。ええ、失礼します」
彼は丁寧に受話器を置いた。少し日に焼けていたはずの肌は、ついさっき手術室から出て来たばかりに白かった。黒川と自分の名前を呼ばれた手前、彼との会話は避けられそうにない。そろそろと席を立つ私の腕をつかみ、恨めし気に彼は言った。
「やっぱり僕、この銀行を選ぶんじゃなかったです」
「大丈夫。青木に限らず、どの新人も思ってるから」
「だって、怪奇事件ですよ?! おばけとか苦手なのに!」
「おばけじゃない。合併後に増えた『リスク』のせいだよ」
「うぅ。せめて渋谷とか虎ノ門に配属されたかった。かわいくて若い女の子が、いっぱいいる店が良かった……」
どちらかというと彼の苛立ちは、後者からきているのだろう。彼は銀行員として許されるぎりぎりの長髪で、身体にあったネイビーのスーツを着て、気さくな性格だった。東京の女の子が好きそうな、好青年としての要素をだいたい持ち合わせている。
彼が配属されたのは『法人リテール・リスク統括部』、通称『法リ統』。行内で起こる不可解な事件、通称『リスク』を統括する部署だった。私たちは第四グループで、東京の西側を担当している。
「サウナに行こうとしてたとこ悪いですが、今から報告して良いですか?」
「え」
「田町の『パライソ』、今日レディースデーなんですね」
「どうして知ってるの? ついに青木もサウナ好きになった?」
「そんなわけないじゃないですか。野郎の裸に興味ないです」
青木は私の眼前にある、デスクトップパソコンを無言で指した。『パライソ』の予約完了画面だ。大人気の男性専用サウナだが、第二・第四金曜日はレディースデーだ。激戦の枠を何とかして抑えたのだ。次長がいない。急ぎの仕事もない。昼休みはすぐそこだ。一時間だけサウナに行くのは、規約違反ではない。
「早く報告したいんです。僕ひとりで抱えて、夜を越せません」
「一緒に寝てあげようか? 子守歌を歌って、おむつも変えてあげるよ」
「男子寮だから入れませんよ。あの寮母にばれたら殺されます」
頑固な青木は離してくれそうにない。一人っ子というのは、それだけで一種の病気なのだ。世界の中心で自分の名を叫んでいる。人を頼ることも長けている。長女で正反対の性格である私はため息をつき、デスクに座った。
「目黒支店長はなんだって?」
「金庫に入った行員が、消えちゃうみたいです」
「失踪事件か。うちじゃなくて警察じゃないの」
「遅くとも十七時には見つかるらしいです。金庫の中で」
定時か。私は唸った。行方不明者の約半数は当日中に発見される。警察も数時間の失踪では動かないだろう。
「被害は?」
「金庫に入って数時間消えたのが、三人。『そこで起きたことは覚えてないらしい』ですが、二人とも金庫で消えた翌日から休職しています」
「被害者の共通点は?」
「皆さん女性ですね。四十代一人、三十代二人。それぞれの行員番号は……」
「番号は言わなくて良い。それにしても、変なの
「何がですか?」
「行方不明って男性、しかも二十代が一番多いんだよ」
「どっちも外れ値なんですね」
それは事件の解決が一筋縄でいかないことを意味する。昼サウナは諦めた。早く仕事を片付けて、定時に上がる作戦に変更する。スケジューラーの『予定あり』を、十二時から十八時にずらした。青木がからかうように言った。
「仕事が嫌だなって思ってたら金庫が隠してくれた、とかですかね」
「ないでしょ。失踪の原因は病気が三割、家族関係が二割。仕事は一割に過ぎない」
「『それ警察に言ってください』作戦はですか」
「まあね。じゃ、昼食でも食べてて。武器の稟議を書くから」
「僕やりましょうか」
「良い、私がやるよ。急ぎだしね」
「えー。新人ノルマの稟議書、件数クリアできませんよ」
彼はふてくされた顔で、一階のファミマで買ったアイスカフェオレをすすった。花粉症らしく、鼻水が出るため水分が足りないのだろう。デスク下のクズ箱に捨てられた『鼻に優しいティッシュ』は、地球環境には全く優しくない量だった。
またもや内線が鳴った。青木がとり、数秒の会話を終えた。
「他の行員が気味悪がって金庫に入らない。『いつ来れそう? 早く何とかしてくれへん?』らしいです」
「バカバカしい。全国に行方不明者数は約八万六千人いる。こんな軽度の事件で、何が『人を消す金庫』だよ」
「黒川さん、やけに詳しいですね」
「もう私は五年目だから」
「そうじゃなくて、行方不明について。やっぱりご家族のことがあったからですか?」
沈黙。私は時間をかけて、押し寄せてくる様々な感情を飲み込んだ。
銀行員は日常に退屈している。だから噂話やオカルトや、変な事件が横行するのだ。私たちはそれらを叩き潰しに行く。警察の手を煩わせるまでもない。彼らにはちゃんとした犯罪に向き合ってもらわなくてはならない。
「行くよ、現場に」
青木は呆気にとられた顔をしている。その目は彼の左横のデスクを、すがるように見ていた。そこは次長の席だった。
「何か見えた?」
「冗談でもやめてください。次長が戻ってくる来週じゃだめなんですか?」
「なんで、他にやることあるの?」
「新人研修の報告を書かなきゃいけないんです」
「ほぼ終わってるでしょ。さっき見えたよ。ほら、地下倉庫に行くよ。ブツを持ち出そう」
「え、稟議は? 承認おりないと使えないんですよね」
「目黒支店で書けばいい。すぐもらえるよ」
彼はデートの予定がとかぶつぶつ言いながら、『武器 持ち出し管理簿』のファイルを取り出した。綴じられた用紙に、日付と『ブラックフィールドバズーカ』が記入された。彼がロッカーから外訪バッグを取り出している間に、私は用紙に承認印を押し、壁面のホワイトボードに向かった。ボードには課員の名前が並び、横に外出先を書く仕組みとなっている。『黒川』『青木』の横に『NR』と記入した。ノー・リターン、直行直帰の略称だ。それを見た青木は呟いた。
「二度と戻れないってことですかね」
「そうならないために、ブラックフィールドバズーカを持ち出すんだよ」
「ネーミングセンス……」
「いけてるよね。『八菱CBD銀行』を考えた人と一緒らしいよ」
クリエイティブな発想や服装と無縁の私たちは、椅子にかけてあったスーツの上着を身に着けた。戦闘開始である。
フロアを出て廊下を歩き、エレベーターホールについた。十台のうち、最も窓際にあるものに乗り込む。青木は他に人が乗り込んでこないことを確認し、開閉ボダンの下にあるカードリーダーに行員証を読み込ませた。機械の箱は不快な音を立てて、地下へ真っ逆さまに落ちて行く。ノー・リスク、ノー・リターン。投資の大原則だ。幼稚園児でも知っている。リスクを冒さなくては、見返りを得ることはできない。
地下八階に到着して倉庫へ向かうと、扉の前にいる警備員が目に入った。エリサだ。彼女はこちらに気付き、大きく手を振った。体格が良く、背丈は百七十センチ。帽子から揺れるポニーテールと褐色の肌が、快活さを物語っている。私は前に立ち、彼女とハイタッチをした。セクシーな香水の匂いが、鼻をくすぐった。
「ハーイ、ミツキ。調子はどうだい?」
「まずまず。エリサは?」
「サイコー。この前の事件で、ボーナスもらったんだ。それでホワイトニングしちゃった」
彼女は歯を見せて笑った。それは黒く艶やかな皮膚と対をなし、白く輝いている。近いうちに歯磨き粉のⅭMオファーが来るだろう。チューブを握り潰す姿に、スポーツジムの広告主から声がかかるかもしれない。
「『ブラック・フィールドバズーカ』を持ち出したい」
「何だっけ、ソレ?」
「『リスク』を『コスト』に変換して、ぶっ放す武器だよ」
「あぁ、あれね。呪(のろ)いのアイテム」
「呪(まじな)いのアイテム」
私は言いなおした。出来の悪い子供に言い聞かせるように、ゆっくりと。
「正しく使うと『まじない』だけど、業務違反をすると『のろい』になる」
彼女は小さく鼻を鳴らした。言葉の違いに、そこまで興味がないのだろう。
「持ち出すのは、そこの子ね。アタシの子供くらい? かわいい顔して、やるじゃないか」
「使うのは私。彼はまだ使えないよ。リスクを取れない性格だから」
彼から持ち出し管理簿を受け取り、書かれていることを指さし確認した。
「リンギ書のコピーがないじゃない」
私が事情を説明し、彼女は無線で上司に連絡を取った。スペイン語で何かを話している。管理簿も無線も、彼女の大きな手の中では切手のように小さく見えた。
「ダメだってさ」
「支店長から『すぐ来い』って言われてるんだ」
「エライ人が何と言っても、承認前に持ち出すのはいただけないね」
沈黙が重い雲のように流れた。青木は不安気な顔で、私たちを見比べている。
「……失踪事件なんだ。人が消えるっていうのは、嫌なものだよ」
再び、沈黙。しかし彼女の表情は、いくぶんか和らいでいた。
「今日中だよ」
今度は彼女はゆっくり、言い聞かせるように話す番だった。
「課長は夕方に、アイテムとリンギの承認状態をチェックする。それまでだ」
「ありがとう」
エリサはやれやれと言った様子で倉庫の中に入っていった。あらゆる不正取引、債務不履行、そして怪奇事件に鉄槌を下してきた、武器の宝庫へと。
倉庫から出て来た時、彼女はフンフンとスペイン語で歌っていた。肩にはバズーカが担がれている。あの重量と大きさで鼻歌が歌えるなんて、この行内では彼女くらいだろう。青木は礼を言い、腕を伸ばした。
「悪いね。アンタには渡せないんだ」
彼女は無駄のない動きで私にバズーカを渡した。私はそれを青木に預けた。
「渡すのは、持ち出しの責任者って決まってるのさ」
「どうして、そんな回りくどいことするんですか」
「決まりだから」
私が言うと、エリサが私の声色を真似て「決まりだから」と、繰り返した。その茶色の瞳は、愉しそうに揺れていた。青木はエリサを一瞥した。銀行の決まりにうんざりしている目だ。彼がバズーカの先端にあるスイッチを押すと、それはペンほどの大きさに縮んだ。黒々とした万年筆のようなそれ外訪バッグにをしまわれる様子を眺めて、エリサは口を開いた。
「どこ行くの?」
「目黒。金庫が人を消すんだって」
「あぁ、目黒」
エリサは何かを思い出す顔をした。私は違和感を覚えた。彼女のように海外から来たものは、地名を覚えることが苦手なはずだ。
「何かあったの?」
「警備のフォローアップ講習で聞いたんだ。すごい前に、金庫に泥棒が入ったって。未解決事件だし、犯人も捕まってない」
「未解決事件ですか」
青木が憂鬱そうにうめいた。今は第四グループという小さいチームだから、軽度な事件で済んでいる。しかし年功序列で出世をし、重大事件に関与できるようになると? 深淵がぱっくり口を開けた先へ、飲み込まれてしまいかねない。かつて私より一つ上、青木より二つの階級、次長職の人間が、『次課長研修』の元で辿って来たように。
「ねえ。黒川。ひどい顔してるよ。大丈夫かい?」
「大丈夫だよ」
「全然、そうには見えないけどね」
私はその言葉は聞こえないふりをした。弟の手掛かりをつかむためだ。銀行が抱える重大情報にアクセスするには、出世しなくてはならない。元から魂を売る覚悟だった。
「これ、あげる。ずっと使ってたんだけど、気が変わってね。アタシにはセクシーすぎるんだ。これ以上、男にモテたら困っちまうからね」
その香水は『ムーン・スター』と書かれていた。25mlほどの小さいボトルだ。
「ありがとう。これも持ち出し管理簿が必要だったかな」
エリサは笑い、首を振った。チシャ猫のように、薄暗い廊下で白い歯が浮いた。
「二人組だよ」
彼女は唐突に言った。
「確か、犯人は二人組いた。研修で言ってたな。何かの助けになれば。それじゃあね」
「黒川調査役、行きましょう」
背後から、青木の声がした。彼は二人の時は『黒川さん』と呼ぶが、他人の前では『黒川調査役』と呼ぶ。エレベーターが着て、私たちは乗り込んだ。扉が閉まると、彼は言った。
「稟議書がないのに持ち出し許可するなんて、ダメじゃないですか」
「承認されてないと使えないから、どのみち稟議は申請しなきゃいけないよ」
こう見えて青木は正義感が強い。人事が採用する時に最も重視される。しかし銀行員人生が長くなるにつれて、すり減っていくものでもある。
「どうしてあんな人が、うちの銀行で働けるんですかね」
エレベーターが停まった。青木が出て、私もあとに続いた。銀行の外は、ひどい雨だった。梅雨入りしたばかりだ。東京駅から山手線に乗ると、青木は口を開いた。
「黒川さん、怒ってます?」
「どうして」
「エリサさんの事、僕が悪く言ったから。『慶應出てるからって調子に乗るな』って前に言われましたし」
「彼女は苦労人なんだ。昼間は当行で、夜はスポーツジムで働いてる。酒浸りの夫から、五人の子供を連れて昼逃げをした」
沈黙。電車は時刻通り運航している。災害でもない限り、単調な毎日が繰り替えされる。しかし普通であり続けることが、実は人生で最も難しい。
「旧CBD銀行の役員とジムで知り合って、うちの銀行で仕事をもらったんだ。財閥系の八菱グループと合併したから、福利厚生も良い。夫から精神的DVを受けない人生がこんなに楽しいのか、って言ってたよ」
「まさに宇宙飛行士ですね」
「は?」
「アナグラムです。文字を並び替えると、別の意味になるんです。これ女の子にうけるんですよ”moon star”は”astronomer”。”bad credit ”は”debit card”。”schoolmaster”は、修学旅行先でスマホ没収されたってぼやいてました。ログインボーナスがあるから持って行ったのに、って。”the classroom”だったら良かったのにな、って」
数字の暗記が得意な青木なら、アナグラムもお手の物だろう。
「エリサさんの研修、どんなこと習うんでしょうか」
「私たちも出たいよね。今度、研修資料見せてもらおうか」
私は香水を自分に振りかけてみた。青木は鼻をぐずぐずさせていて、気付く様子はない。ムスクとココナッツの甘ったるい香りを放つ香水は、彼女みたく大切な人を守れるような気がした。私は名刺入れを取り出し、香水を名刺にふきかけた。彼女と私が違う点は、守るべき『人』がいないことだった。
「え。人を消す金庫?」
丸の内の本部ビル、十三階のフロアで、受話器を取った青木がすっとんきょうな声を上げた。そしてメモに何かを書き、隣の席に座る私に見せた。『目黒支店 支店長』。なかなかの達筆だ。スマホより重いものを持たない若者にしては、しっかりとした字を書く。それは私に、ささやかな喜びをもたらしてくれた。彼の指導担当者として二か月を過ごしたが、「数字の暗記が得意」以外の長所を見つけることに苦心していたからだ。
「あの、まず稟議を上げてもらわないと。僕たちは承認後じゃないと動けな……え、黄瀬次長?」
会話の雲行きは怪しくなってきた。「上の者を出せ」と言う時は、まずい案件か、急ぎの案件だ。支店長が直々に連絡をしてきたということは、おそらく両者だろう。時刻は十二時。まさに昼休みを取ろうとしていたところだった。
「次長に話は通してあるって言われても、彼女は長期休暇中ですし……はい、黒川三月さんはいます。彼女に伝えます。ええ、失礼します」
彼は丁寧に受話器を置いた。少し日に焼けていたはずの肌は、ついさっき手術室から出て来たばかりに白かった。黒川と自分の名前を呼ばれた手前、彼との会話は避けられそうにない。そろそろと席を立つ私の腕をつかみ、恨めし気に彼は言った。
「やっぱり僕、この銀行を選ぶんじゃなかったです」
「大丈夫。青木に限らず、どの新人も思ってるから」
「だって、怪奇事件ですよ?! おばけとか苦手なのに!」
「おばけじゃない。合併後に増えた『リスク』のせいだよ」
「うぅ。せめて渋谷とか虎ノ門に配属されたかった。かわいくて若い女の子が、いっぱいいる店が良かった……」
どちらかというと彼の苛立ちは、後者からきているのだろう。彼は銀行員として許されるぎりぎりの長髪で、身体にあったネイビーのスーツを着て、気さくな性格だった。東京の女の子が好きそうな、好青年としての要素をだいたい持ち合わせている。
彼が配属されたのは『法人リテール・リスク統括部』、通称『法リ統』。行内で起こる不可解な事件、通称『リスク』を統括する部署だった。私たちは第四グループで、東京の西側を担当している。
「サウナに行こうとしてたとこ悪いですが、今から報告して良いですか?」
「え」
「田町の『パライソ』、今日レディースデーなんですね」
「どうして知ってるの? ついに青木もサウナ好きになった?」
「そんなわけないじゃないですか。野郎の裸に興味ないです」
青木は私の眼前にある、デスクトップパソコンを無言で指した。『パライソ』の予約完了画面だ。大人気の男性専用サウナだが、第二・第四金曜日はレディースデーだ。激戦の枠を何とかして抑えたのだ。次長がいない。急ぎの仕事もない。昼休みはすぐそこだ。一時間だけサウナに行くのは、規約違反ではない。
「早く報告したいんです。僕ひとりで抱えて、夜を越せません」
「一緒に寝てあげようか? 子守歌を歌って、おむつも変えてあげるよ」
「男子寮だから入れませんよ。あの寮母にばれたら殺されます」
頑固な青木は離してくれそうにない。一人っ子というのは、それだけで一種の病気なのだ。世界の中心で自分の名を叫んでいる。人を頼ることも長けている。長女で正反対の性格である私はため息をつき、デスクに座った。
「目黒支店長はなんだって?」
「金庫に入った行員が、消えちゃうみたいです」
「失踪事件か。うちじゃなくて警察じゃないの」
「遅くとも十七時には見つかるらしいです。金庫の中で」
定時か。私は唸った。行方不明者の約半数は当日中に発見される。警察も数時間の失踪では動かないだろう。
「被害は?」
「金庫に入って数時間消えたのが、三人。『そこで起きたことは覚えてないらしい』ですが、二人とも金庫で消えた翌日から休職しています」
「被害者の共通点は?」
「皆さん女性ですね。四十代一人、三十代二人。それぞれの行員番号は……」
「番号は言わなくて良い。それにしても、変なの
「何がですか?」
「行方不明って男性、しかも二十代が一番多いんだよ」
「どっちも外れ値なんですね」
それは事件の解決が一筋縄でいかないことを意味する。昼サウナは諦めた。早く仕事を片付けて、定時に上がる作戦に変更する。スケジューラーの『予定あり』を、十二時から十八時にずらした。青木がからかうように言った。
「仕事が嫌だなって思ってたら金庫が隠してくれた、とかですかね」
「ないでしょ。失踪の原因は病気が三割、家族関係が二割。仕事は一割に過ぎない」
「『それ警察に言ってください』作戦はですか」
「まあね。じゃ、昼食でも食べてて。武器の稟議を書くから」
「僕やりましょうか」
「良い、私がやるよ。急ぎだしね」
「えー。新人ノルマの稟議書、件数クリアできませんよ」
彼はふてくされた顔で、一階のファミマで買ったアイスカフェオレをすすった。花粉症らしく、鼻水が出るため水分が足りないのだろう。デスク下のクズ箱に捨てられた『鼻に優しいティッシュ』は、地球環境には全く優しくない量だった。
またもや内線が鳴った。青木がとり、数秒の会話を終えた。
「他の行員が気味悪がって金庫に入らない。『いつ来れそう? 早く何とかしてくれへん?』らしいです」
「バカバカしい。全国に行方不明者数は約八万六千人いる。こんな軽度の事件で、何が『人を消す金庫』だよ」
「黒川さん、やけに詳しいですね」
「もう私は五年目だから」
「そうじゃなくて、行方不明について。やっぱりご家族のことがあったからですか?」
沈黙。私は時間をかけて、押し寄せてくる様々な感情を飲み込んだ。
銀行員は日常に退屈している。だから噂話やオカルトや、変な事件が横行するのだ。私たちはそれらを叩き潰しに行く。警察の手を煩わせるまでもない。彼らにはちゃんとした犯罪に向き合ってもらわなくてはならない。
「行くよ、現場に」
青木は呆気にとられた顔をしている。その目は彼の左横のデスクを、すがるように見ていた。そこは次長の席だった。
「何か見えた?」
「冗談でもやめてください。次長が戻ってくる来週じゃだめなんですか?」
「なんで、他にやることあるの?」
「新人研修の報告を書かなきゃいけないんです」
「ほぼ終わってるでしょ。さっき見えたよ。ほら、地下倉庫に行くよ。ブツを持ち出そう」
「え、稟議は? 承認おりないと使えないんですよね」
「目黒支店で書けばいい。すぐもらえるよ」
彼はデートの予定がとかぶつぶつ言いながら、『武器 持ち出し管理簿』のファイルを取り出した。綴じられた用紙に、日付と『ブラックフィールドバズーカ』が記入された。彼がロッカーから外訪バッグを取り出している間に、私は用紙に承認印を押し、壁面のホワイトボードに向かった。ボードには課員の名前が並び、横に外出先を書く仕組みとなっている。『黒川』『青木』の横に『NR』と記入した。ノー・リターン、直行直帰の略称だ。それを見た青木は呟いた。
「二度と戻れないってことですかね」
「そうならないために、ブラックフィールドバズーカを持ち出すんだよ」
「ネーミングセンス……」
「いけてるよね。『八菱CBD銀行』を考えた人と一緒らしいよ」
クリエイティブな発想や服装と無縁の私たちは、椅子にかけてあったスーツの上着を身に着けた。戦闘開始である。
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「ハーイ、ミツキ。調子はどうだい?」
「まずまず。エリサは?」
「サイコー。この前の事件で、ボーナスもらったんだ。それでホワイトニングしちゃった」
彼女は歯を見せて笑った。それは黒く艶やかな皮膚と対をなし、白く輝いている。近いうちに歯磨き粉のⅭMオファーが来るだろう。チューブを握り潰す姿に、スポーツジムの広告主から声がかかるかもしれない。
「『ブラック・フィールドバズーカ』を持ち出したい」
「何だっけ、ソレ?」
「『リスク』を『コスト』に変換して、ぶっ放す武器だよ」
「あぁ、あれね。呪(のろ)いのアイテム」
「呪(まじな)いのアイテム」
私は言いなおした。出来の悪い子供に言い聞かせるように、ゆっくりと。
「正しく使うと『まじない』だけど、業務違反をすると『のろい』になる」
彼女は小さく鼻を鳴らした。言葉の違いに、そこまで興味がないのだろう。
「持ち出すのは、そこの子ね。アタシの子供くらい? かわいい顔して、やるじゃないか」
「使うのは私。彼はまだ使えないよ。リスクを取れない性格だから」
彼から持ち出し管理簿を受け取り、書かれていることを指さし確認した。
「リンギ書のコピーがないじゃない」
私が事情を説明し、彼女は無線で上司に連絡を取った。スペイン語で何かを話している。管理簿も無線も、彼女の大きな手の中では切手のように小さく見えた。
「ダメだってさ」
「支店長から『すぐ来い』って言われてるんだ」
「エライ人が何と言っても、承認前に持ち出すのはいただけないね」
沈黙が重い雲のように流れた。青木は不安気な顔で、私たちを見比べている。
「……失踪事件なんだ。人が消えるっていうのは、嫌なものだよ」
再び、沈黙。しかし彼女の表情は、いくぶんか和らいでいた。
「今日中だよ」
今度は彼女はゆっくり、言い聞かせるように話す番だった。
「課長は夕方に、アイテムとリンギの承認状態をチェックする。それまでだ」
「ありがとう」
エリサはやれやれと言った様子で倉庫の中に入っていった。あらゆる不正取引、債務不履行、そして怪奇事件に鉄槌を下してきた、武器の宝庫へと。
倉庫から出て来た時、彼女はフンフンとスペイン語で歌っていた。肩にはバズーカが担がれている。あの重量と大きさで鼻歌が歌えるなんて、この行内では彼女くらいだろう。青木は礼を言い、腕を伸ばした。
「悪いね。アンタには渡せないんだ」
彼女は無駄のない動きで私にバズーカを渡した。私はそれを青木に預けた。
「渡すのは、持ち出しの責任者って決まってるのさ」
「どうして、そんな回りくどいことするんですか」
「決まりだから」
私が言うと、エリサが私の声色を真似て「決まりだから」と、繰り返した。その茶色の瞳は、愉しそうに揺れていた。青木はエリサを一瞥した。銀行の決まりにうんざりしている目だ。彼がバズーカの先端にあるスイッチを押すと、それはペンほどの大きさに縮んだ。黒々とした万年筆のようなそれ外訪バッグにをしまわれる様子を眺めて、エリサは口を開いた。
「どこ行くの?」
「目黒。金庫が人を消すんだって」
「あぁ、目黒」
エリサは何かを思い出す顔をした。私は違和感を覚えた。彼女のように海外から来たものは、地名を覚えることが苦手なはずだ。
「何かあったの?」
「警備のフォローアップ講習で聞いたんだ。すごい前に、金庫に泥棒が入ったって。未解決事件だし、犯人も捕まってない」
「未解決事件ですか」
青木が憂鬱そうにうめいた。今は第四グループという小さいチームだから、軽度な事件で済んでいる。しかし年功序列で出世をし、重大事件に関与できるようになると? 深淵がぱっくり口を開けた先へ、飲み込まれてしまいかねない。かつて私より一つ上、青木より二つの階級、次長職の人間が、『次課長研修』の元で辿って来たように。
「ねえ。黒川。ひどい顔してるよ。大丈夫かい?」
「大丈夫だよ」
「全然、そうには見えないけどね」
私はその言葉は聞こえないふりをした。弟の手掛かりをつかむためだ。銀行が抱える重大情報にアクセスするには、出世しなくてはならない。元から魂を売る覚悟だった。
「これ、あげる。ずっと使ってたんだけど、気が変わってね。アタシにはセクシーすぎるんだ。これ以上、男にモテたら困っちまうからね」
その香水は『ムーン・スター』と書かれていた。25mlほどの小さいボトルだ。
「ありがとう。これも持ち出し管理簿が必要だったかな」
エリサは笑い、首を振った。チシャ猫のように、薄暗い廊下で白い歯が浮いた。
「二人組だよ」
彼女は唐突に言った。
「確か、犯人は二人組いた。研修で言ってたな。何かの助けになれば。それじゃあね」
「黒川調査役、行きましょう」
背後から、青木の声がした。彼は二人の時は『黒川さん』と呼ぶが、他人の前では『黒川調査役』と呼ぶ。エレベーターが着て、私たちは乗り込んだ。扉が閉まると、彼は言った。
「稟議書がないのに持ち出し許可するなんて、ダメじゃないですか」
「承認されてないと使えないから、どのみち稟議は申請しなきゃいけないよ」
こう見えて青木は正義感が強い。人事が採用する時に最も重視される。しかし銀行員人生が長くなるにつれて、すり減っていくものでもある。
「どうしてあんな人が、うちの銀行で働けるんですかね」
エレベーターが停まった。青木が出て、私もあとに続いた。銀行の外は、ひどい雨だった。梅雨入りしたばかりだ。東京駅から山手線に乗ると、青木は口を開いた。
「黒川さん、怒ってます?」
「どうして」
「エリサさんの事、僕が悪く言ったから。『慶應出てるからって調子に乗るな』って前に言われましたし」
「彼女は苦労人なんだ。昼間は当行で、夜はスポーツジムで働いてる。酒浸りの夫から、五人の子供を連れて昼逃げをした」
沈黙。電車は時刻通り運航している。災害でもない限り、単調な毎日が繰り替えされる。しかし普通であり続けることが、実は人生で最も難しい。
「旧CBD銀行の役員とジムで知り合って、うちの銀行で仕事をもらったんだ。財閥系の八菱グループと合併したから、福利厚生も良い。夫から精神的DVを受けない人生がこんなに楽しいのか、って言ってたよ」
「まさに宇宙飛行士ですね」
「は?」
「アナグラムです。文字を並び替えると、別の意味になるんです。これ女の子にうけるんですよ”moon star”は”astronomer”。”bad credit ”は”debit card”。”schoolmaster”は、修学旅行先でスマホ没収されたってぼやいてました。ログインボーナスがあるから持って行ったのに、って。”the classroom”だったら良かったのにな、って」
数字の暗記が得意な青木なら、アナグラムもお手の物だろう。
「エリサさんの研修、どんなこと習うんでしょうか」
「私たちも出たいよね。今度、研修資料見せてもらおうか」
私は香水を自分に振りかけてみた。青木は鼻をぐずぐずさせていて、気付く様子はない。ムスクとココナッツの甘ったるい香りを放つ香水は、彼女みたく大切な人を守れるような気がした。私は名刺入れを取り出し、香水を名刺にふきかけた。彼女と私が違う点は、守るべき『人』がいないことだった。
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