八菱銀行怪奇事件専門課~人を消す金庫~

可児 うさこ

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地下室では半裸の男が、ベッドで寝息を立てていた。私は彼の首元へ、そろそろと手をのばした。首にかけられた行員証を確認するためだ。彼の首元にある注射器の跡を見ていうちに、悪い予感に襲われた。寝ている人間は、こんなに規則正しく寝息を立てない。
彼は急に起き上がり、私の服に手をかけた。
「おい、やらせろよ! 期待させといて!」
彼の目は血走り、かすかにブドウの匂いがした。アルコールにやられているらしい。ナイトテーブルには空の花瓶が置かれている。私は花瓶を手にとり、彼の頭に向かって振り下ろした。沈黙。彼の目は焦点が合っておらず、左右で黒目が別の方向を見ている。そうしてベッドに倒れこんだ。脳しんとうを起こした者の、お手本のような症状だった。私は服装の乱れを直しながら、辺りを見渡した。
「ここが、人を消す金庫の正体?」
 彼はまだ伸びており、返事はない。私はテーブルに置かれた彼のベルトを使い、後ろ手に縛りあげた。脳振とうなら早くて数分、遅くとも数時間後には起きるだろう。それまでに部屋を調べることにした。と言ってもユニット式のバスルーム、コンロとシンクのみのキッチンだけだ。最低限、人間が住めるだけの部屋だ。小学校なら守衛室、病院なら当直室といったところか。だが、ここは銀行だ。しかも金庫の地下。
 トイレに入り、サニタリーボックスの中を調べた。 陽性の反応が出ている妊娠検査薬が二本と、生理用のナプキンが一枚入っていた。鮮血がついている様子を見ると、まだ新しいらしい。 妊娠検査薬にはそれぞれ ネームペンで名前が書かれていた。 それらは被害者の二人、 休職中の行員の名前と一致していた。ただしトイレに水は通っていない。 それが何を意味するか考えるのは、後回しにしておいた。今は部屋を調べるほうが先だ。 すぐ横にはバスタブがある。天井には換気扇があるが、 明らかに不審な点があった。本来なら閉まっているはずの蓋がない。
「やっぱり……」
  換気扇からは、かすかに電車の音が聞こえた。おそらく地下鉄の駅に繋がっているのだろう。金庫から入り、出る時はこちらを使っていたのかもしれない。バスタブに乗ってみたが、身長 1162センチの私では届かない。 届いたとしても、懸垂ができて、 自分の体重分を 持ち上げることができるほどの 力がないと無理だ。ナイトテーブルがあれば上に登ることは可能かもしれない。一度降りて、鏡を見た。かすかに歪んでいる。その鏡には、男が映っていた。彼の瞳には憤怒の色が浮かんでいた。それは先程まで情欲にまみれており、ベッドの上で寝ていた彼だった。
「俺をはめやがったな!」
 彼は左手の拳を振り上げ、私は薬指を見つめた。左利き、そして既婚者。ドン、という衝撃音がバスルームに響き渡った。

どうやら怒りは鏡にぶつけることにしたらしい。鏡にはひびが入り、大きく傾いている。
「くそ。課長まで、あと一歩だったのに。遊びもうまくいってたのに……」
 彼は手から血を流しながら、がっくりとうなだれた。その血は先程サニタリーボックスの中に捨ててあったものを思い出させた。
「安心してください。クビにはなりませんよ」
「文書管理センターとか、ロクでもない部署に左遷されるんだろ」
「そうでしょうね。業務中に不純異性行為してたんですし」
 彼は驚いて目を上げた。どうして分かったんだ、と物語っている。
「ゴミ箱に捨ててあったものを見れば、分りますよ」
「ティッシュか? 花粉がひどいからな」
「花粉症なら、もっと鼻に優しいものを使いますよ。DNA鑑定に出しますか?」
 視線を鏡に向けると、紙がはさまっていた。私はそれを取り出した。そこに書かれていることは、すべてを説明していた。
「何だ、それ」
「大したことありません。この部屋が作られた理由です」
 彼は紙を私からひったくった。
「金庫から地上に出る地図……? 裏にあるの、何だこれ。遺書?」
「はい。どうやらこの部屋は、犯罪のために作られたようです」

 私はバスルームを出て、立ったまま壁によりかかった。ベッドに腰かける間藤代理の横にはナイトテーブルがある。その上に置かれた、しおれた薔薇を見ながら、私は言った。。
「かつて二人組の泥棒が金庫から盗みを働くために、トンネルを掘っていました。換気扇から外に出れるけど、外から開けてもらわないと出られない仕組みみたいです。だから片方は金庫から入る。そう書いてあります」
「あぁ。でもこの部屋は? トンネルだけじゃだめなのか?」
「ほとぼりが冷めるまで、身を隠しておくための部屋だったみたいですね」
紙によると泥棒の片割れは、日の当たらない部屋で過ごす日々に発狂したらしい。最後の方には文章が文章になっていなかった。耐え切れない痛みを抱えた人間は文章を書く傾向にある。泥棒稼業も楽ではない。
「ほとぼりが冷める、ね」
 そう呟き、彼はうつむいた。
「出口は一つしかない。誰もがそう思っちまうんだよな」
 私は彼を見た。はたから見れば大企業で、家庭を持ち、順風満帆に見えるだろう。何が彼を不倫に走らせたのだろうか。
「かみさんと喧嘩したんだ。腹いせに浮気してやろうと思った。で、店の中にちょうど良いご婦人がいた。結婚してるから、俺に別れろとか言ってこない」
「彼女たちが休職した理由は?」
「二人とも妊娠したんだ。夫とはレスだったらしい」
 私はトイレのサニタリーボックスの中にあったものを思い出した。
自己愛が強い男の例に漏れず、彼はよく話をしてくれた。不倫に金庫をよく使っていたこと(音が漏れないし、イチャつくのに良いとこだった……そんな顔するなよ」)、セーフティボックスを見つけ、誕生日を入力してみたら開いたこと。支店長が私に連絡したことは知らなかったらしい。
「はぁ。やっと若い子もいけそうだったのに」
「トイレに生理用のナプキンがありましたよ」
「生理だったのか。どの道、ダメだったってことか……」
 ため息は、床に転がっている花瓶へ向かって消えて行った。その花瓶を誰かが拾った。三井さんだった。

「み、ミミ?!」
  彼の驚きは、その『若い子』が三井さんであることを示していた。
「フロアにいないから、探しに来たのよ」
「い、いつから聞いてた?」
「私の前に、さんざん遊んでたのね。おかしいと思ってたのよ。謎が解けたわ」
 彼女は空虚な目で、水も花も入っていない花瓶を見つめていた。そうして私に向き直った。
「貴女は賢い女性のように見えます。どうして不倫なんてするんですか」
「誰かに愛されたい。必要とされたいの」
健全な社会人は、承認欲求を仕事で満たす。しかし銀行の仕事は代わりがきくものばかりで、やりがいなんてない。金融業界の給料が高い理由は明確だ。仕事がつまらないからだ。
特に三井さんのような事務職は顕著だ。だから彼女たちは趣味や家族に幸せを見出す。しかしそこに見いだせないと、別の道を選ぶことになる。地下へ行くように。しかし三井さんには、どこか違和感を感じた。轟音と揺れが起こる。電車が通ったらしい。
「平気なんですか? これ」
「よくあるわ。うち、メトロの下に店があるでしょ。ちょうどこの上は車庫ね。でも、ちょっと今のは大きいかもね」
またもや部屋が揺れた。電車にしては頻度が多い。そうしてそれは大きな揺れに変わった。
「じ、地震だぁ!」
 間藤代理が叫ぶのと、地面に叩きつけられたのは同時だった。

私はベッドの下にはいつくばって移動した。どのベッド下がそうであるように、永年の埃やゴミでいっぱいだった。ペン、空き缶、割り箸、綿棒。『お腹いっぱいの星』と書かれた、空の瓶。そして赤ん坊のように体を丸めている、間藤代理。彼の肩を叩くと、はっとした様子で言った。
「東日本の時、あっちにいたから分かる。これで終わりじゃない。デカいのが何度かくるぞ」
「行きましょう。早く出ないと、扉が歪んで出れなくなります」
 ベッドの下から出ると、扉の前に三井さんが立っていた。
「早く! もう歪み始めてる。でも三人で押せば何とかなるかも!」
 私たちは体当たりをしようと、後ろへ下がった。突如。灯りが消えた。停電だ。辺りは闇に包まれ、不気味な静寂が広がった。数秒後、とてつもなく大きな揺れが、部屋を襲った。

「だめ。もう、開かないわ」
「このまま救助を待ちますか?」
 スマホのライトで照らされた彼女は、首を振った。
「私たちがここにいるって、誰か知ってる?」
「もう、だめだ。開かない! ここで死ぬんだぁ!」
 間藤代理の叫び声を聞き、私はあることを思い出した。バスルームへ向うと風呂は壊れていた。しかしシャワーを浴びに来たのではない。換気扇の蓋は開いたままだ。後から来た二人も、同じことに気付いたようだ。
「ここから出られるかもしれません」
「肩車だ。いつも、そうやって外に出てた」
まず、三井さんが出て行くことになった。次に私。「ナイトテーブルを使えば届く」と言う間藤代理が、最後となった。

間藤代理の肩車で三井さんが出て行った後、少しの揺れがあった。その間、彼はナイトテーブルと花瓶を持ってきた。彼のもとへ近づくと、ぽつりと言った。
「死ぬわけにはいかないんだ」
 だったら早くしてください、と言いかけたが、彼は言葉を続けた。
「娘たちも、まだまだ金もかかる。ずっと銀行にいられること前提に、ローンも家計も組んでた。出向させられるわけにいかないんだ」
 彼は私を見た。その瞳は見覚えのあるものだった。『リスク』と『リターン』を天秤にかけて、明らかにリスクの方が大きい判断をした者の目だ。
「お前がここで死ねば、俺はバレずに済むんだ、よ!」
彼は私のみぞおちを蹴り飛ばした。バスルームの外に吹っ飛ばされ、壁で強かに背中を打った。私が痛みでうめいている間に、彼は花瓶で私の頭を打ち付けた。暴力は必ず自分に返ってくる。
幸い気を失うことはなかった。しかし彼がナイトテーブルを使って換気扇の外へ出て行く様子は、ただ見ているしかない。私はよろめきながら立ち上がった。頭と腹と背中が訴える痛みに耳を傾けず、ベッドへ向かった。掛け布団と枕をナイトテーブルに敷けば、換気扇に届くかもしれない。しかしベッドにたどり着く直前、これまで以上に大きな揺れが襲った。
私はベッドに倒れこんだ。「デカいのが何度かくる」という彼の言葉を思い出した。いつだって手遅れになってかれ気付くのだ。そういえば、と。
「諦めるわけには、いかないんだよ……」
 そう呟くと、 脳裏に弟の姿が蘇る。両親は家を空けがちだったから、七歳年上の私がよく面倒を見ていた。走馬灯のように、赤ちゃんの頃からの姿がフラッシュバックした。そうして時間は彼を最後に見た、十五年前の時で止まった。

彼が十二歳の時、私は大学入学を機に上京することになった。中学入学前の春休みを使い、彼に早稲田寮までの引っ越しを手伝わせていた。あの時はまだ、人に頼ることができたのだ。
「お腹、空いたな。何か買ってきてよ」
 彼は困った顔をした。段ボールの中の本を、棚にしまってくれていた。
「もう。姉さん、待ってよ。あと少しで終わるから」
「まだ終わってないの? 本当に仕事が遅いんだから」
「ていねいと言って欲しいな。姉さんが買ってきてよ」
「素敵な響き。はいはい、分かったよ」
私は部屋を出ようとした。彼は立ち上がり、見送りに玄関まで来てくれた。「東京は怖いところだから、戸締りはしっかりしなさいとね」と言いながら。
 彼は手を振った。サイズの合っていない中学の制服を着て、恥ずかしそうに笑いながら。
「いってらっしゃい」という声が、閉まる扉の隙間から聞こえた。まるで新婚夫婦みたいだ。行先は徒歩5分のコンビニだが。良く晴れた三月の終わりで、空は深い青色だった。監獄のような実家から脱出し、東京で再出発する。人生をやり直すのだ。そのことを考えただけで、足取りは軽くなった。
しかし部屋に戻ると、彼は消えていた。現在に至るまで、ずっと―――

 目を開けると、ベッドには薔薇が置かれていた。シーツは女の肌のようになめらかだった。あと十秒ここで寝ていられるなら、残りの全ての人生を差し出しても良い。私は疲れていた。人を頼れなくなった自分に疲れていた。消えない罪の意識に疲れていた。しかし弟を救わなくてはならない。勝手に死んではいけないのだ。
「大丈夫。私は一人で何でもできる……」
両親は弟のことは諦めていた。離婚をし、それぞれ子供ももうけている。失ったピースに代わるものを既に見つけている。 人はそうやって苦しみを乗り越えていく。 幸せな人生を送る方法は山ほどある。 最も大事な能力は忘れることだ。私だけが忘れられない。 青木に親近感を覚えるのは、彼が覚えることが上手、つまり忘れることが下手な人間だからだろう。
「私が死んだら、さつきのことを覚えてる間が、いなくなるんだ……大丈夫。私は一人で何でもできる……」
 私はベッドから起き上がった。薔薇だと思っていたものは血だった。まだ新しい。三井さんのものだろうか。部屋には地下鉄特有の、金属の焦げた匂いが漂っている。電車は走っていないはずだ。となると、駅ごと崩れてくるのだろうか。電車が落ちてきてはひとたまりもない。吐き気をこらえ、扉へ近づいた。力に任せて、体当たりを繰り返した。最後の一突きをすると、私はその場に崩れ落ちた。もう何しても駄目なことは明らかだった。私はうずくまり、 金庫へ入る直前に青木とした会話を思い出した。どうしてそんなものが浮かんできたかは定かではないが、おそらく人生で最後で、最良の記憶だったからだろう。

数分前、間藤代理をのぞく法人営業課の行員に事情聴取を終え、私は会議室で休憩することにした。青木の顔を見ると、稟議の申請がかんばしくないことは明らかだった。私はカフェオレを彼に手渡した。地上二階のコーヒーチェーンで買ったものだ。そして自分のアイスコーヒーにストローを指した。
「バズーカ、今回は使えなさそうです」
「どうして?」
「大きな案件じゃないから承認できないって。審査部に電話もしたんですが」
「そっか。ま、本来なら持ち出す前に申請あげるべきだったしね。私が急ぎすぎたから」
 外訪カバンに入ったままの、万年筆のような『バズーカ』を見た。承認されなければ、ただの棒である。
私は金庫を調べに行くことにした。飲み干すためだけにコーヒーをすする。コンビニよりおいしいかと思ったが、味の違いはちっとも分からなかった。高級ホテルのものだと言われたら、そのようにも感じるだろう。一方で坊ちゃんの青木は豆がどうのとか言っている。舌は肥やすべきではない。飯がまずくなる。立ち上がると、青木が声をかけてきた。
「黒川さん、怖くないんですか?」
「別に」
「さすがですね。選抜試験、あの代で唯一の合格者」
「どこでそれ聞いたの?」
「審査部の担当、朱里調査役です。黒川さんと同期でしたよ。『悪いな。あの一件があるから黒川さんの稟議、特に武器まわりは厳しくするよう言われてるんだ』って」
 名前を聞いても誰かは思い出せなかった。行員番号の数字を見ると入行年度が分かるから、青木は同期と気づいて話を振ったのだろう。『12345678』なら、入行は2023年になる。あの試験でぶちのめした一人なのだろう。
「それにしても納得いきません。なんとしても承認もらいます」
「珍しいね。いつになく熱心じゃない」
「うーん。被害者とか事件とかは、正直どうでも良いんですけど」
 人事面談で彼を異動させる根拠を一つ得たな、と思った。しかし彼は続けた。
「黒川さんがつらい思いするの嫌なんです。黒川さんが思う以上に僕はそう思ってるんで、全力で稟議は通します」

私はもう一度、青木に会いたかった。やさぐれた私を気遣ってくれて、たとえ上司と部下の関係であっても、優しくしてくれた彼に。そうして弟によく似た、彼の名を叫んだ。
「お願い! 助けて、青木!」
 扉が轟音とともに吹き飛び、私も衝撃を受けた。朦朧とする意識の中、誰かがバズーカを肩に担いでいた。その人は私を抱きかかえた。あの甘い匂いが鼻をついた。
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