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本編
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しおりを挟む(何だか……とても緊張してきました)
いつもは前田さんと2人なので、帰路の間ずっとお喋りしている。
しかし、今日はなんと神崎先輩が隣に座っているのだ。
チラッと隣を見ると、先輩は窓の外を眺めていた。
すっと通った鼻筋、長いまつ毛、薄い唇。
こんなに近い距離でまじまじと顔を見た事がなかったので、ここぞとばかりに観察していると、私の視線に気付いた先輩がこちらを見て
「……なに見惚れてんだ?」
と不敵に笑った。
「~~~っ!見惚れてなんかいません。観察してただけです」
プイッと先輩と反対側の窓の方へ顔を逸らした。顔が熱い。
ククッと隣から笑う声が聞こえる。
(土日は覚えておきなさいよ)
と思ったのは秘密だ。
敷地内に入ります、と前田さんから声が掛かると、車は右へ曲がり、噴水のあるロータリーに入り、大きな両開きのドアがある玄関の真正面で止まった。
隣から「マジか…」と呟きが聞こえた。
静かに停車し、神崎先輩は「ありがとうございました」と前田さんに声をかけ、すぐに車から降り、私が座っている方のドアを開けた。
私が足を地面に着けたタイミングで先輩は手を差し伸べた。
ーーーーー本当にこの人、何者なのだろうか?エスコートが完璧だ。
「ありがとうございました」と私も前田さんに声をかけると、軽く礼をして、口を開いた。
「つがい様と仲がよろしい様で安心致しました。」
そして先輩に目を向けて
「神崎様、お嬢様をお願いいたします」
と深く礼をした。
「はい。大切にします」
先程取った手をきゅ、と握り、先輩はこちらを見て微笑んだ。
「先輩……もう泣きそうです」
「はやい。結婚の挨拶に来た訳でもないのに」
「でも、ゆくゆくはしますよね?」
「その時はその時だろ」
ハハッと笑ったが、先輩は気づいているだろうかーーー結婚する前提になっているということにーーー
「……では、ここからは私が案内しますね」
5段くらいの低くて幅の広い階段を上ると、ドアが内側から開けられた。
「いらっしゃいませ、神崎様。おかえりなさいませ、お嬢様。ご両親は応接室にいらっしゃいます」
「わかりました、ありがとう」
一般家庭のような段差はなく、床の材質を切り替えることで土足と室内履きを分けている。
スリッパに履き替え、先輩を連れて応接室のドアをノックした。
「ただいま戻りました」
扉を開けると、ローテーブルを挟んだ奥のソファに父母が2人で座っていた。
進むと、父が立ち上がって「初めまして、永冨雅人です」と言って握手を求めた。
「初めまして、神崎悠です」と先輩と父が握手すると、母も「尚人です、初めまして」と言って先輩と握手した。
「どうぞ、座って」
父に促され、2人掛けのソファに先輩と並んで座った。
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