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本編
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離館を出て鍵を返しに行ってから、永冨雅をパソコン室まで送り、俺は美術部室に入った。
先月までパソコン室で作業をしていたヤツらが部室に戻ってきたことで、人口密度が増した。
高校に入ったばかりの頃はまだ小柄で、人と人の間をすいすい進むことができていたのだが、高1の後半でぐっと背が伸び、画材を運ぶのに力を使うのか、ひょろいと言われない程度には筋肉もついた。
できるだけ間隔をあけて作業をしているが、狭いものは狭い。
俺の定位置は裏庭の見える窓側なのだが、今日は部長が横に画材を広げて描いている。
「すみません、横通ります」
腕が当たってブレないように、声をかけて通る。
「神崎くん」
「何でしょうか」
度の強い丸メガネの奥で目がキラリと光り、ニヤニヤし始めた。
「…………何でしょうか」
「永冨さんと何かありましたね?」
「なっ……」
何かいつもと違うところがあるのだろうか。というか、なんで彼女の名前が部長の口から出てくるのか。
「神崎くん、今日は良いのが描けそうですね…………フフッ」
セクハラで訴えても良いだろうか。
色々聞き出したいことは山々だが、部長が相手だと墓穴を掘りそうなのでやめておく。
小さくため息をつき、キャンバスの大きさを確認し、紙にマスや斜線を引いた。
土日、海に行った時下書きをするためだ。
18:30になり、ちらほら片付けを始めたのを見計らい、永冨雅を迎えに行くためにパソコン室へ向かった。
パソコン室の引き戸は縦長にガラスが1枚入っていて、中の様子が見える。
部屋の中をぐるりと見回すと、彼女が写真部のイケメン女子と談笑しているのを見つけた。
ーーーーー心に黒いモヤがかかった。
手にしているのはきっと彼女から貰った誕生日プレゼントだろう。
耐えられなくなって、強めに扉を開けた。
瑞希、という奴は俺を挑発しているようだ。学校近郊のカフェに絵を卸しに行った時から、アイツは俺にドヤ顔を向けてくる。
まるで「永冨雅は私のものだ」とでも言うように。(※違います)
イラッとした俺は永冨雅に声をかけ、荷物がまとまったのを確認して、手を引いてパソコン室から出た。
ーーー直前に彼女がアイツに声をかけたのがさらに気に食わなかったが。
「あの、先輩……手を……」
いつも彼女は車で帰っているので、俺も一緒に車に乗せてもらうことになった。
パソコン室から連れ出した時から繋いだままの手を彼女は離したそうにしている。
また先程の黒いモヤがじわじわと心を蝕む。
離すものかと、ぎゅ、と握り直した。
すると彼女はクスッと笑い、俗に言う“恋人繋ぎ”に繋ぎなおした。
「先輩、心配しなくても瑞希はお友達、ですよ?」
見透かされているようで、気まずくなる。
しばらく手を繋いだまま互いの熱を感じていると、有名な高級外国車が正門内のロータリーに入って来た。
「もしかして、あれか?」
「ええ、そうです」
目の前で静かに停車し、目の前のドア(つまり左ハンドル)から運転手が降りてきた。
「初めまして。運転手を主に使用人として永冨家で働いております、前田と申します。」
20代後半くらいの上背のある彼は、ワックスで髪をきっちりと固めたなかなかの美丈夫だ。
「後部座席へどうぞ」
軽く礼をして後ろのドアを開ける様子がないということは、彼女をエスコートしろと言うことかと理解した。
後ろのドアを開け、「どうぞ、お嬢様?」と冗談ぽく言うと、彼女はクスッと笑い、「ありがとう」と座席に着いた。
俺が反対側のドアから車に乗り込み、腰を落ち着けたところを見計らって、前田さんは「発車します」と声をかけた。
先月までパソコン室で作業をしていたヤツらが部室に戻ってきたことで、人口密度が増した。
高校に入ったばかりの頃はまだ小柄で、人と人の間をすいすい進むことができていたのだが、高1の後半でぐっと背が伸び、画材を運ぶのに力を使うのか、ひょろいと言われない程度には筋肉もついた。
できるだけ間隔をあけて作業をしているが、狭いものは狭い。
俺の定位置は裏庭の見える窓側なのだが、今日は部長が横に画材を広げて描いている。
「すみません、横通ります」
腕が当たってブレないように、声をかけて通る。
「神崎くん」
「何でしょうか」
度の強い丸メガネの奥で目がキラリと光り、ニヤニヤし始めた。
「…………何でしょうか」
「永冨さんと何かありましたね?」
「なっ……」
何かいつもと違うところがあるのだろうか。というか、なんで彼女の名前が部長の口から出てくるのか。
「神崎くん、今日は良いのが描けそうですね…………フフッ」
セクハラで訴えても良いだろうか。
色々聞き出したいことは山々だが、部長が相手だと墓穴を掘りそうなのでやめておく。
小さくため息をつき、キャンバスの大きさを確認し、紙にマスや斜線を引いた。
土日、海に行った時下書きをするためだ。
18:30になり、ちらほら片付けを始めたのを見計らい、永冨雅を迎えに行くためにパソコン室へ向かった。
パソコン室の引き戸は縦長にガラスが1枚入っていて、中の様子が見える。
部屋の中をぐるりと見回すと、彼女が写真部のイケメン女子と談笑しているのを見つけた。
ーーーーー心に黒いモヤがかかった。
手にしているのはきっと彼女から貰った誕生日プレゼントだろう。
耐えられなくなって、強めに扉を開けた。
瑞希、という奴は俺を挑発しているようだ。学校近郊のカフェに絵を卸しに行った時から、アイツは俺にドヤ顔を向けてくる。
まるで「永冨雅は私のものだ」とでも言うように。(※違います)
イラッとした俺は永冨雅に声をかけ、荷物がまとまったのを確認して、手を引いてパソコン室から出た。
ーーー直前に彼女がアイツに声をかけたのがさらに気に食わなかったが。
「あの、先輩……手を……」
いつも彼女は車で帰っているので、俺も一緒に車に乗せてもらうことになった。
パソコン室から連れ出した時から繋いだままの手を彼女は離したそうにしている。
また先程の黒いモヤがじわじわと心を蝕む。
離すものかと、ぎゅ、と握り直した。
すると彼女はクスッと笑い、俗に言う“恋人繋ぎ”に繋ぎなおした。
「先輩、心配しなくても瑞希はお友達、ですよ?」
見透かされているようで、気まずくなる。
しばらく手を繋いだまま互いの熱を感じていると、有名な高級外国車が正門内のロータリーに入って来た。
「もしかして、あれか?」
「ええ、そうです」
目の前で静かに停車し、目の前のドア(つまり左ハンドル)から運転手が降りてきた。
「初めまして。運転手を主に使用人として永冨家で働いております、前田と申します。」
20代後半くらいの上背のある彼は、ワックスで髪をきっちりと固めたなかなかの美丈夫だ。
「後部座席へどうぞ」
軽く礼をして後ろのドアを開ける様子がないということは、彼女をエスコートしろと言うことかと理解した。
後ろのドアを開け、「どうぞ、お嬢様?」と冗談ぽく言うと、彼女はクスッと笑い、「ありがとう」と座席に着いた。
俺が反対側のドアから車に乗り込み、腰を落ち着けたところを見計らって、前田さんは「発車します」と声をかけた。
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