9 / 17
今世の自分
8
しおりを挟む
“鏡の儀式”でまた会いましょう、とビアンカ様とアリア様にパウンドケーキのお土産を渡し、馬車までお見送りをした。
メイド達の厚意に甘えて、四阿の片付けを頼んだ私は、屋敷の中へ入ろうとしていた。
「ふぅ……調子に乗ってお菓子を食べ過ぎてしまったわ……」
「夕食まで少し時間がありますし、お庭を散策されてみては?」
「そうね、そうしようかしら」
1歩後ろに付いているジョセフに提案され、花壇のある方へ向かった。
「あら、もう蕾ができているわ」
つい先日じいやに無理を言って手ずから植えた花の苗は、あっという間に成長している。
しゃがみ込んで、蕾を人差し指で撫でた。
「どうか、元気に花を咲かせてね」
立ち上がり、奥にあるバラ園の方へ足を向けた。
私の提案を受けて花壇に向かうお嬢様に付き従い、彼女の1歩後ろを歩く。
花壇の前に来たとき、お嬢様はしゃがんで、花の蕾を撫でながら「どうか、元気に花を咲かせてね」と成長促進の魔法をお使いになった。
ーーーどうやら本人は気付いていないようだが、お嬢様が立ち上がって花から目を離した後、蕾がキラキラと輝き始めた。
まだ魔法の訓練をしていないので、蕾にかかった魔法の効力は弱いと考えられるのだが、この様子だと夕食の時にはもう満開だろう。
成長促進は立派な光魔法だ。光魔法が使えるという情報が他人に漏れると、身を守る魔法を習得していないお嬢様の身が危ないだろう。
だから、私の準備が整うまで、私は彼女を全力で守る。
ーーーあれは確かお嬢様が7歳の頃。
亡命中に追手が放った矢が腕を掠った。掠っただけなら軽傷だったのだが、どうやら矢に毒が塗られていたようで、命からがら追手を撒いて逃げ切ったとき、私の体力は底を突いた。
水を得ようと、ある湖畔に着いたとき、とうとう倒れてしまったのだが…………
そこで出会ったのがお嬢様だった。
偶然兄上様とピクニックに来ていたところで、倒れている私を看病し、涙を流しーーー私を癒してくださった。
光魔法は、いつも使う医療器具、または自身の体液など、なにか媒介するものがあると、より使いやすくなるのだ。
この場合はお嬢様の涙が媒体となり、光魔法の凝縮された粒が私の体に染み渡ったのだ。
その後シュラット伯爵家に運ばれ、熱は出たものの順調に回復し、起き上がれるようになった。
出自を問われたが、記憶喪失を装った。
ご当主様のご厚意により使用人として雇って頂けることになり、今に至る。
ただ、1つだけ起こった変化があるーーーーーーーーーお嬢様に恋心を抱くようになったことだ。
最初は『命の恩人』という認識だったが、お嬢様のおねだりによって専属執事として接する間に、可愛らしい笑顔に惚れ込んでしまったのだ。
しかし母国は近頃きな臭い。連れ戻される日は近づいてきていると感じている。
何しろ…………父も、兄も、腐っているのだ。相当な英雄が現れない限り、私以外に相応の人材はいないだろう。
ーーーもう、このぬるま湯に浸かってはいられない。
お嬢様もそろそろ結婚相手を探し始める年齢なのだ。うかうかしていられない。
それに加え、お嬢様は超がつくほど鈍感だ。あのヴォルフガングとかいうやつの目は半分本気だった。
まぁ、残り半分が冗談だというヤツに私のお嬢様を渡すつもりなんて更々ないのだが。
バラに囲まれて優しく微笑むお嬢様を見つめながら、私の心の中は混沌としていた。
メイド達の厚意に甘えて、四阿の片付けを頼んだ私は、屋敷の中へ入ろうとしていた。
「ふぅ……調子に乗ってお菓子を食べ過ぎてしまったわ……」
「夕食まで少し時間がありますし、お庭を散策されてみては?」
「そうね、そうしようかしら」
1歩後ろに付いているジョセフに提案され、花壇のある方へ向かった。
「あら、もう蕾ができているわ」
つい先日じいやに無理を言って手ずから植えた花の苗は、あっという間に成長している。
しゃがみ込んで、蕾を人差し指で撫でた。
「どうか、元気に花を咲かせてね」
立ち上がり、奥にあるバラ園の方へ足を向けた。
私の提案を受けて花壇に向かうお嬢様に付き従い、彼女の1歩後ろを歩く。
花壇の前に来たとき、お嬢様はしゃがんで、花の蕾を撫でながら「どうか、元気に花を咲かせてね」と成長促進の魔法をお使いになった。
ーーーどうやら本人は気付いていないようだが、お嬢様が立ち上がって花から目を離した後、蕾がキラキラと輝き始めた。
まだ魔法の訓練をしていないので、蕾にかかった魔法の効力は弱いと考えられるのだが、この様子だと夕食の時にはもう満開だろう。
成長促進は立派な光魔法だ。光魔法が使えるという情報が他人に漏れると、身を守る魔法を習得していないお嬢様の身が危ないだろう。
だから、私の準備が整うまで、私は彼女を全力で守る。
ーーーあれは確かお嬢様が7歳の頃。
亡命中に追手が放った矢が腕を掠った。掠っただけなら軽傷だったのだが、どうやら矢に毒が塗られていたようで、命からがら追手を撒いて逃げ切ったとき、私の体力は底を突いた。
水を得ようと、ある湖畔に着いたとき、とうとう倒れてしまったのだが…………
そこで出会ったのがお嬢様だった。
偶然兄上様とピクニックに来ていたところで、倒れている私を看病し、涙を流しーーー私を癒してくださった。
光魔法は、いつも使う医療器具、または自身の体液など、なにか媒介するものがあると、より使いやすくなるのだ。
この場合はお嬢様の涙が媒体となり、光魔法の凝縮された粒が私の体に染み渡ったのだ。
その後シュラット伯爵家に運ばれ、熱は出たものの順調に回復し、起き上がれるようになった。
出自を問われたが、記憶喪失を装った。
ご当主様のご厚意により使用人として雇って頂けることになり、今に至る。
ただ、1つだけ起こった変化があるーーーーーーーーーお嬢様に恋心を抱くようになったことだ。
最初は『命の恩人』という認識だったが、お嬢様のおねだりによって専属執事として接する間に、可愛らしい笑顔に惚れ込んでしまったのだ。
しかし母国は近頃きな臭い。連れ戻される日は近づいてきていると感じている。
何しろ…………父も、兄も、腐っているのだ。相当な英雄が現れない限り、私以外に相応の人材はいないだろう。
ーーーもう、このぬるま湯に浸かってはいられない。
お嬢様もそろそろ結婚相手を探し始める年齢なのだ。うかうかしていられない。
それに加え、お嬢様は超がつくほど鈍感だ。あのヴォルフガングとかいうやつの目は半分本気だった。
まぁ、残り半分が冗談だというヤツに私のお嬢様を渡すつもりなんて更々ないのだが。
バラに囲まれて優しく微笑むお嬢様を見つめながら、私の心の中は混沌としていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【ご報告】
2月15日付で、誤字脱字の修正および一部表現の見直しを行いました。
ただし、記載内容の趣旨に大きな変更はございません。
引き続きよろしくお願いいたします。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる