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第1章 歓迎! 戦慄の高天原
007
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翌朝。
俺は早朝に闘技部の部室を訪れていた。
身体作りを始めるにあたり、広いフィールドのある闘技部が良いかなと思ったからだ。
早朝の闘技部は誰もいない・・・と思ったら誰かいた。
フィールドの真ん中で気を高めているのか。
無風で静かなはずなのに、その人の周りだけ風の流れがあって埃が舞っている。
あ!? 緑色のオーラっぽいものが見える!?
あんな感じなのか、魔力オーラ!!
緑ってことは風の属性なんだな。
よく見たらあれ、凛花先輩じゃないか?
こんな早朝から身体を動かしてんのか。
俺が入るかどうか躊躇していると、びゅうと風が吹いて目の前に凛花先輩の顔があった。
「どわぁ!?」
「おいおい、朝の挨拶がそれか」
呆れ顔でびっくりしている俺を見る先輩。
頼むから眼前に超速移動しないでくれ、心臓に悪い。
「お、おはようございます」
「あ~、はよはよ」
挨拶を強要するわりに、ぞんざいな感じですね!?
でもまぁ気安い感じがいい。この人はそういう人だ。
「君も朝練か? 仮所属したすぐに熱心だな」
「今までの習慣で走り込みとかしようと。ここが広くて良いかなって」
「そうか。好きに使えば良い。走るなら疑似化してやる」
「え?」
「速さに慣れたほうが良いから」
なるほど?
言われるがまま、俺は両足に疑似化をかけてもらう。
「朝練の1時間くらいならこれで維持できるだろう」
「ありがとうございます」
「さて、それじゃ走ろうか」
「え?」
「君は君のペースで走れ。アタイはアタイのペースで走る」
「はい」
そう言って凛花先輩はさっさとフィールドの外周を走り出した。
フィールド自体はかなり広い。500メートル四方ある。
けれど、先輩の脚力だとすぐに角へ辿り着く。
そのたびに壁を蹴って曲がっているので、壁を走っているようにさえ見える。
俺もあそこまで速くなれんのかな。
見ていても仕方ないので脚に力を込める。
いつも通りのジョグの速さじゃない、自動車並みの加速だ。
びゅうびゅうと聴覚が風切り音に支配される。
目も薄くしか開けられないくらいの速度だ。
これ、ゴーグルとか持ってきた方がいいかもしれない。
それでも人間離れした速度で走ることができるというのは新鮮だ。
慣れろとは言われたけど慣れるまでは楽しみたい。
だってこれもファンタジー要素だからね!!
◇
「よーし、終わりにしよう」
「はぁ、はぁ、はぁ・・・はい!」
凛花先輩に声をかけられて脚を緩めていく。
昨日みたいに止まれないということがないよう気を付けながら。
何とか無事に停止すると・・・視界が前へ流れていく感覚。
あれ?
くそ、ちょっとふらつくぞ。
「ははは! 君、速度酔いだよ」
「え?」
「視界が速いのに慣れると止まった時に反動が来るんだ」
「これが、速度酔い・・・」
止まっているのに景色が前へ流れていく。
後ろに下がっているような感覚は身体が勝手に視覚を変えているのだろう。
なるほどね、こういうのに慣れないと駄目なのか。
実際に走りこんでみると、ただ走るのと違うことがわかる。
息が切れて呼吸器に負担がかかるだけじゃない。
脚だけでなく身体の芯が疲れるのだ。
これは恐らく疑似化で魔力を消費しているせいなのだろう。
そりゃ1時間も使い続ければ何か消費する。
魔法だからってタダで走れるほど甘くはないということだ。
「さぁ、少し休んだら戻らないと朝食が終わってしまうぞ」
「あ、ほんとだ」
見れば7時過ぎだ。
急いで戻って汗を流して朝ごはんを食べて・・・あああ、遅れる!
凛花先輩、超速で先に行かないで!
◇
食堂は校舎と寮の中間にある。
寮生全員が3食利用するのでこの位置は妥当だ。
俺はシャワーを済ませ急いで食堂へ向かった。
和食と決めていたので迷わず日替わりの鮭定食を選び、席を探す。
空いているところ、と見渡していたら遠くで手招きされていた。
さくらさんだ。銀髪は珍しいので目立つ。
誘われるままに行くと、レオンとソフィア嬢が同席していた。
ああ、俺抜きでも彼らは互いに話をしてくれてたよ。安心だ。
「おはよう、武」
「武さん、おはようございます」
「武様、おはよう御座います、ご機嫌よう」
「うん、おはよう皆」
挨拶がてら軽い会釈を交わす。
さくらさんだけ満面の笑みだ。こっちも思わず笑みが溢れる。
席に着いていただきます、と直ぐに食べ始める俺。
「武、時間がないぞ」
「わかってる。朝練やり過ぎた」
「仮所属を決めたのか?」
口に含んでいたので頷いて顔を上げると、3人とも俺の返事を待っていた。
なんか観察されてるよ俺。
皆、食べ終わってるからそうなるか。
君らだけで話をしてて良いんだよ?
「ん、闘技部だ」
「闘技部ですの? 武様、格闘技にご理解がありまして?」
「いんや、ねぇな。身体を動かすのに良いかと思ったからだ」
「うん? 剣技など、他でも動かすものはあるだろう」
「日常的に走り込む部活は無いだろ?」
「なるほど、そうだな」
魔力の流れを制御するためです、なんて言いたく無い。
弱点を晒してるようで怖いし。
この場に昨日のやらかしを知ってるリアム君がいなかったのは助かった。
「先に行ってて良いぞ。遅れんだろ」
「そうですわね。それではわたくしはお先に失礼致します」
「すみません、わたしも準備がありますので。レオンさん、お願いしますね」
「ああ」
女子は特にやることあるだろし。
お先にどうぞ、と手をひらひら振っておいた。
・・・どしてレオンは残ってるんだ?
お願いしますって何?
「武。昨日の測定の件、状況だけ話しておく。食べながら聞け」
「ん」
とにかく食事を詰め込みながら肯首する俺。
レオンは声のトーンを落として話した。
「お前が測定器を割ったという事実は皆が知っている」
「ん」
「アレが割れるのはよくある話だ」
ほー。
そんな頻繁にあることが、どうして驚かれたんだ?
「アレを割るのは子供がふざけて幾つものサンプルを1度に使った場合だ」
ふむ。
小学生ならやりそうだな。
俺も乗るからって天秤にいっぱい重しを乗せて壊しそうになったし。
「要するに測定対象として過剰な魔力を与えた場合に割れる」
「ん?」
「だからお前の魔力が強すぎることが皆に知れ渡った」
「んぐっ!」
やっぱ上限値超えたって分かるんじゃねぇか!
「ごほっ・・・」
「だから皆がお前のAR値が80以上だと認識した」
水で詰まったモノを流し込む。
ああもう、俺のすみっこモブ生活よさようなら。
破綻、早すぎだろ。
・・・いずれは知れ渡る話だったろうから、これは腹を括るしかないか。
「んで、AR値が高いと何かあんのか?」
「具現化の出力上限がAR値に依存するからな。お前が強い可能性が出たということだ」
うん、想定の範囲内だ。基礎能力のひとつだしな。
だけど主人公である君たちよりも強くなれる未来が見えん。
少なくとも俺の固有能力が何かによんだろ。
「じゃあ、クラスの連中が俺のことを注目してた理由は? 単に強い程度なら、ふーんで済む話だろ」
「お前はレゾナンス効果を知らないのか?」
「あまり詳しくは」
レオンは俺を見て、目を閉じ呆れたように首を左右に振った。
えええ、そんなに落胆されるようなことかよ。
俺みたいに無関心な生徒っているじゃん。
ゲームで出てこなかった設定なんだから許してくれ。
なんか食べながらだと落ち着かなくなってきたので食事の残りをかきこんだ。
「レゾナンス効果・・・魔力の共鳴はAR値に依存する」
「うん」
香に教えてもらった感じやすいってやつかな。
「共鳴相手のAR値が高いほど、共鳴時の具現化に相乗効果を得られる」
「え!?」
驚いて声をあげてしまった。
そんな設定知らねぇぞ?
ゲームでは出てこなかった。
「相乗効果って?」
「ごく単純に言うなら出力が加算される」
「・・・俺とレオンが共鳴したら、お前の具現化であるカリバーンが強化されるって?」
「単純にはそういうことだ」
授業でそんなん破片もやってないよね。まだ昨日だけだし。
事前に調べようにも共鳴やレゾナンス効果の話ってネット検索フィルタかかりまくりだ。
どうしていきなりこんな話が出てくんだよ。
そもそも裏設定であったとしてもゲームで出てきてなかったのはおかしい。
ゲームではパートナーと親密になってもそれだけで具現化は強化されなかった。
「キズナ・システム」を介して初めてその恩恵を得られたのだ。
あれ、もしかして共鳴度って「キズナ・システム」の参照値じゃない?
それともレゾナンス効果自体がゲームには無かったのか!?
困った。事態が把握できん。
焦ってきた。時計を見るともう時間がねぇ。
ともかく考察は後でやろう。
状況だけ把握したい。
「で、俺をパートナーにできれば自分の能力が強化されると」
「ああ。だから皆がお前をパートナーにしたいと考えたということだ」
「・・・」
だよね。具現化を強化するっていう1点だけ考えれば。
・・・主人公連中含め、俺と共鳴したいって連中がいっぱいいるって?
「俺は世間知らずなんだよ。ひとつ教えてくれ」
「何だ?」
「一般的に具現化強化を目的として共鳴なんてしようと思うのか?」
共鳴って相手と気持ちを重ねるわけだから恋愛の延長線だ。
結婚相手を選ぶとして、いくら金持ちだとか外見の麗しい相手でも性格が最悪だったら御免だろう。
「世間・・・この学園の外であれば芸術家やスポーツ選手と結婚したい、と思う程度の話だ」
「ああ、能力的に優れてるやつと一緒になりたいってことな」
「うむ」
それは理解できる。芸能人の追っかけみたいなもんだろ。
推しと結婚したいとかそういうのだな。
「だがこの学園は異なる。具現化を目的として通っている者ばかりだ」
「ああ」
「裏話として、そのために無理矢理に共鳴をするという話もよくあるそうだ」
「は?」
「・・・やはりこのあたりの話も知らないか」
レオンは周囲を確認し、声のトーンを落として話し始めた。
「共鳴をするために相手を洗脳したり調教したりという、裏暗い話もある」
「・・・」
それって。
監禁して調教するとか、薬でキメて言う事聞かせるとか。
そういう類の話ってか?
もしかしたら宗教的な洗脳とかもあるのか?
「・・・俺のAR値が極端に高いからその可能性もあるってのは理解した」
「ああ。今はそのための忠告をしたかった」
「ありがとう、認識が甘かった。ついでに聞いても良いか?」
「何だ?」
「Aクラスの連中は誰もがそれなりにAR値が高いだろ。俺以外もターゲットになるんじゃないのか?」
AR値目的なら、他クラスの連中からターゲットにされる可能もあるだろう。
俺が狙われるなら主人公連中含め、Aクラスはターゲットになるだろ。
「俺も皆のAR値は詳しくは知らない。だが他クラスとの大差はないはずだ」
「大差ないって。最低は30だろうけども、あって40ぐらいってことか?」
「そうだ。また改めてAR値の差異による具現化の程度の違いは説明しよう」
「頼むよ」
「武、急ぐぞ」
「あ! すまねぇ!」
うわ、あと1分!?
遅刻すんだろ! もっと早く言え!!
俺は食器を片付けるとレオンと共に教室へ走った。
初日に引き続き、新たな問題が発覚だよ。
攻略ノートの補正項目が増えんだろ!
大丈夫か、これ・・・。
俺は早朝に闘技部の部室を訪れていた。
身体作りを始めるにあたり、広いフィールドのある闘技部が良いかなと思ったからだ。
早朝の闘技部は誰もいない・・・と思ったら誰かいた。
フィールドの真ん中で気を高めているのか。
無風で静かなはずなのに、その人の周りだけ風の流れがあって埃が舞っている。
あ!? 緑色のオーラっぽいものが見える!?
あんな感じなのか、魔力オーラ!!
緑ってことは風の属性なんだな。
よく見たらあれ、凛花先輩じゃないか?
こんな早朝から身体を動かしてんのか。
俺が入るかどうか躊躇していると、びゅうと風が吹いて目の前に凛花先輩の顔があった。
「どわぁ!?」
「おいおい、朝の挨拶がそれか」
呆れ顔でびっくりしている俺を見る先輩。
頼むから眼前に超速移動しないでくれ、心臓に悪い。
「お、おはようございます」
「あ~、はよはよ」
挨拶を強要するわりに、ぞんざいな感じですね!?
でもまぁ気安い感じがいい。この人はそういう人だ。
「君も朝練か? 仮所属したすぐに熱心だな」
「今までの習慣で走り込みとかしようと。ここが広くて良いかなって」
「そうか。好きに使えば良い。走るなら疑似化してやる」
「え?」
「速さに慣れたほうが良いから」
なるほど?
言われるがまま、俺は両足に疑似化をかけてもらう。
「朝練の1時間くらいならこれで維持できるだろう」
「ありがとうございます」
「さて、それじゃ走ろうか」
「え?」
「君は君のペースで走れ。アタイはアタイのペースで走る」
「はい」
そう言って凛花先輩はさっさとフィールドの外周を走り出した。
フィールド自体はかなり広い。500メートル四方ある。
けれど、先輩の脚力だとすぐに角へ辿り着く。
そのたびに壁を蹴って曲がっているので、壁を走っているようにさえ見える。
俺もあそこまで速くなれんのかな。
見ていても仕方ないので脚に力を込める。
いつも通りのジョグの速さじゃない、自動車並みの加速だ。
びゅうびゅうと聴覚が風切り音に支配される。
目も薄くしか開けられないくらいの速度だ。
これ、ゴーグルとか持ってきた方がいいかもしれない。
それでも人間離れした速度で走ることができるというのは新鮮だ。
慣れろとは言われたけど慣れるまでは楽しみたい。
だってこれもファンタジー要素だからね!!
◇
「よーし、終わりにしよう」
「はぁ、はぁ、はぁ・・・はい!」
凛花先輩に声をかけられて脚を緩めていく。
昨日みたいに止まれないということがないよう気を付けながら。
何とか無事に停止すると・・・視界が前へ流れていく感覚。
あれ?
くそ、ちょっとふらつくぞ。
「ははは! 君、速度酔いだよ」
「え?」
「視界が速いのに慣れると止まった時に反動が来るんだ」
「これが、速度酔い・・・」
止まっているのに景色が前へ流れていく。
後ろに下がっているような感覚は身体が勝手に視覚を変えているのだろう。
なるほどね、こういうのに慣れないと駄目なのか。
実際に走りこんでみると、ただ走るのと違うことがわかる。
息が切れて呼吸器に負担がかかるだけじゃない。
脚だけでなく身体の芯が疲れるのだ。
これは恐らく疑似化で魔力を消費しているせいなのだろう。
そりゃ1時間も使い続ければ何か消費する。
魔法だからってタダで走れるほど甘くはないということだ。
「さぁ、少し休んだら戻らないと朝食が終わってしまうぞ」
「あ、ほんとだ」
見れば7時過ぎだ。
急いで戻って汗を流して朝ごはんを食べて・・・あああ、遅れる!
凛花先輩、超速で先に行かないで!
◇
食堂は校舎と寮の中間にある。
寮生全員が3食利用するのでこの位置は妥当だ。
俺はシャワーを済ませ急いで食堂へ向かった。
和食と決めていたので迷わず日替わりの鮭定食を選び、席を探す。
空いているところ、と見渡していたら遠くで手招きされていた。
さくらさんだ。銀髪は珍しいので目立つ。
誘われるままに行くと、レオンとソフィア嬢が同席していた。
ああ、俺抜きでも彼らは互いに話をしてくれてたよ。安心だ。
「おはよう、武」
「武さん、おはようございます」
「武様、おはよう御座います、ご機嫌よう」
「うん、おはよう皆」
挨拶がてら軽い会釈を交わす。
さくらさんだけ満面の笑みだ。こっちも思わず笑みが溢れる。
席に着いていただきます、と直ぐに食べ始める俺。
「武、時間がないぞ」
「わかってる。朝練やり過ぎた」
「仮所属を決めたのか?」
口に含んでいたので頷いて顔を上げると、3人とも俺の返事を待っていた。
なんか観察されてるよ俺。
皆、食べ終わってるからそうなるか。
君らだけで話をしてて良いんだよ?
「ん、闘技部だ」
「闘技部ですの? 武様、格闘技にご理解がありまして?」
「いんや、ねぇな。身体を動かすのに良いかと思ったからだ」
「うん? 剣技など、他でも動かすものはあるだろう」
「日常的に走り込む部活は無いだろ?」
「なるほど、そうだな」
魔力の流れを制御するためです、なんて言いたく無い。
弱点を晒してるようで怖いし。
この場に昨日のやらかしを知ってるリアム君がいなかったのは助かった。
「先に行ってて良いぞ。遅れんだろ」
「そうですわね。それではわたくしはお先に失礼致します」
「すみません、わたしも準備がありますので。レオンさん、お願いしますね」
「ああ」
女子は特にやることあるだろし。
お先にどうぞ、と手をひらひら振っておいた。
・・・どしてレオンは残ってるんだ?
お願いしますって何?
「武。昨日の測定の件、状況だけ話しておく。食べながら聞け」
「ん」
とにかく食事を詰め込みながら肯首する俺。
レオンは声のトーンを落として話した。
「お前が測定器を割ったという事実は皆が知っている」
「ん」
「アレが割れるのはよくある話だ」
ほー。
そんな頻繁にあることが、どうして驚かれたんだ?
「アレを割るのは子供がふざけて幾つものサンプルを1度に使った場合だ」
ふむ。
小学生ならやりそうだな。
俺も乗るからって天秤にいっぱい重しを乗せて壊しそうになったし。
「要するに測定対象として過剰な魔力を与えた場合に割れる」
「ん?」
「だからお前の魔力が強すぎることが皆に知れ渡った」
「んぐっ!」
やっぱ上限値超えたって分かるんじゃねぇか!
「ごほっ・・・」
「だから皆がお前のAR値が80以上だと認識した」
水で詰まったモノを流し込む。
ああもう、俺のすみっこモブ生活よさようなら。
破綻、早すぎだろ。
・・・いずれは知れ渡る話だったろうから、これは腹を括るしかないか。
「んで、AR値が高いと何かあんのか?」
「具現化の出力上限がAR値に依存するからな。お前が強い可能性が出たということだ」
うん、想定の範囲内だ。基礎能力のひとつだしな。
だけど主人公である君たちよりも強くなれる未来が見えん。
少なくとも俺の固有能力が何かによんだろ。
「じゃあ、クラスの連中が俺のことを注目してた理由は? 単に強い程度なら、ふーんで済む話だろ」
「お前はレゾナンス効果を知らないのか?」
「あまり詳しくは」
レオンは俺を見て、目を閉じ呆れたように首を左右に振った。
えええ、そんなに落胆されるようなことかよ。
俺みたいに無関心な生徒っているじゃん。
ゲームで出てこなかった設定なんだから許してくれ。
なんか食べながらだと落ち着かなくなってきたので食事の残りをかきこんだ。
「レゾナンス効果・・・魔力の共鳴はAR値に依存する」
「うん」
香に教えてもらった感じやすいってやつかな。
「共鳴相手のAR値が高いほど、共鳴時の具現化に相乗効果を得られる」
「え!?」
驚いて声をあげてしまった。
そんな設定知らねぇぞ?
ゲームでは出てこなかった。
「相乗効果って?」
「ごく単純に言うなら出力が加算される」
「・・・俺とレオンが共鳴したら、お前の具現化であるカリバーンが強化されるって?」
「単純にはそういうことだ」
授業でそんなん破片もやってないよね。まだ昨日だけだし。
事前に調べようにも共鳴やレゾナンス効果の話ってネット検索フィルタかかりまくりだ。
どうしていきなりこんな話が出てくんだよ。
そもそも裏設定であったとしてもゲームで出てきてなかったのはおかしい。
ゲームではパートナーと親密になってもそれだけで具現化は強化されなかった。
「キズナ・システム」を介して初めてその恩恵を得られたのだ。
あれ、もしかして共鳴度って「キズナ・システム」の参照値じゃない?
それともレゾナンス効果自体がゲームには無かったのか!?
困った。事態が把握できん。
焦ってきた。時計を見るともう時間がねぇ。
ともかく考察は後でやろう。
状況だけ把握したい。
「で、俺をパートナーにできれば自分の能力が強化されると」
「ああ。だから皆がお前をパートナーにしたいと考えたということだ」
「・・・」
だよね。具現化を強化するっていう1点だけ考えれば。
・・・主人公連中含め、俺と共鳴したいって連中がいっぱいいるって?
「俺は世間知らずなんだよ。ひとつ教えてくれ」
「何だ?」
「一般的に具現化強化を目的として共鳴なんてしようと思うのか?」
共鳴って相手と気持ちを重ねるわけだから恋愛の延長線だ。
結婚相手を選ぶとして、いくら金持ちだとか外見の麗しい相手でも性格が最悪だったら御免だろう。
「世間・・・この学園の外であれば芸術家やスポーツ選手と結婚したい、と思う程度の話だ」
「ああ、能力的に優れてるやつと一緒になりたいってことな」
「うむ」
それは理解できる。芸能人の追っかけみたいなもんだろ。
推しと結婚したいとかそういうのだな。
「だがこの学園は異なる。具現化を目的として通っている者ばかりだ」
「ああ」
「裏話として、そのために無理矢理に共鳴をするという話もよくあるそうだ」
「は?」
「・・・やはりこのあたりの話も知らないか」
レオンは周囲を確認し、声のトーンを落として話し始めた。
「共鳴をするために相手を洗脳したり調教したりという、裏暗い話もある」
「・・・」
それって。
監禁して調教するとか、薬でキメて言う事聞かせるとか。
そういう類の話ってか?
もしかしたら宗教的な洗脳とかもあるのか?
「・・・俺のAR値が極端に高いからその可能性もあるってのは理解した」
「ああ。今はそのための忠告をしたかった」
「ありがとう、認識が甘かった。ついでに聞いても良いか?」
「何だ?」
「Aクラスの連中は誰もがそれなりにAR値が高いだろ。俺以外もターゲットになるんじゃないのか?」
AR値目的なら、他クラスの連中からターゲットにされる可能もあるだろう。
俺が狙われるなら主人公連中含め、Aクラスはターゲットになるだろ。
「俺も皆のAR値は詳しくは知らない。だが他クラスとの大差はないはずだ」
「大差ないって。最低は30だろうけども、あって40ぐらいってことか?」
「そうだ。また改めてAR値の差異による具現化の程度の違いは説明しよう」
「頼むよ」
「武、急ぐぞ」
「あ! すまねぇ!」
うわ、あと1分!?
遅刻すんだろ! もっと早く言え!!
俺は食器を片付けるとレオンと共に教室へ走った。
初日に引き続き、新たな問題が発覚だよ。
攻略ノートの補正項目が増えんだろ!
大丈夫か、これ・・・。
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ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。
ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。
しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。
一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。
途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。
その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。
そして、世界存亡の危機。
全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した……
※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。
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