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第2章 覚醒! 幻日の想い
058
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暑い。
じりじりと肌に刺さる陽光。
どうして俺はまたあの砂漠に戻っているのか。
「・・・はぁ、はぁ、はぁ」
「おい、がんばれ」
やはり足が重い彼女を待つ。
汗は相変わらず、あとからあとから滴り落ちて来る。
「・・・ジャンヌ」
「はぁ、はぁ・・・なによ」
「リアムが俺を撃ったの、覚えてるか?」
「はぁ? 何の話? こんなときに冗談はよして」
「・・・」
いったい何が起こったのか。
これこそ、○ョ○ョ的な現象じゃねぇのか。
時間の巻戻り。
そうとしか考えられん。
そしてどうして俺だけ記憶が巻き戻ってねぇんだよ。
・・・無限ループ勘弁。
「・・・ここ、どこよ」
「たぶんアリゾナだ」
「はぁ!? ステーツのアリゾナ州!?」
やめてくれ。本当にリトライしてんじゃねぇか。
この先にある道路脇の日陰で待って、車が来たら確定だよ。
俺は覚悟を決めた。
恐らくはキーマンであるリアム君に会うまで同じシナリオを演じることにした。
◇
中略。ここまで同じ流れ。
そうして初日の夜、グリーン邸宅の客室でジャンヌと会話をするときに俺は切り出した。
「ジャンヌ、落ち着いて聞いてくれ」
「なによ」
「・・・俺はこの場、この時間にいるのが2度目なんだ」
「え?」
ジャンヌは訝しげな表情で俺を見た。
何を可笑しなことを口走っているのだと糾弾するように。
「いちど、お姉さんの病気を治すところまでいったんだ。そこでリアムに撃たれた」
「はぁ? あたま、大丈夫?」
「・・・冗談で言わねえよ」
俺は声のトーンを落とした。
俺の真剣さに話を信じる気になったのか、ジャンヌが耳は傾けてくれた。
「いいか、ここは精神空間だ。常識の通じる場所じゃねぇ。常識っぽく見えるのはこの空間を作っている何かの認識なんだ」
「・・・どういうことよ」
「1度目に起こったことを話すぜ。明日、俺たちはお姉さんと面会して――」
俺はジャンヌに一部始終を語った。
先の話まで見てきたように聞かされると不気味に感じたようだ。
ひととおり話し終えるとジャンヌが言う。
「・・・つまりリアムがここから出たがらなかった、ってこと?」
「そう。お姉さんを治して喜ばしいはずなのに、あいつはそれを拒否した」
「一緒にいるため?」
「恐らくな。リアムがダイブしてから俺たちがここに入るまで28時間経過している。200倍で半年以上だ。前回、半年前から高天原に進学せずにこの時間を過ごしていたのかと思ったけどそうじゃねぇ。あいつはお姉さんと過ごすこの時間を繰り返しているのかもしれん」
「・・・まさか!?」
「じゃねぇとこうして俺たちがダイブしたあの瞬間に戻る理由がつかねぇんだよ」
俺の記憶が残っている理由は説明できねぇんだけど。
ともかくループを認識できたことで事態を把握できた。
問題はここからどうするか、だ。
ゲームのシナリオをクリアすれば良いわけではなかったのだから。
「お前さ・・・リアムの銃、躱せる?」
「・・・人間を辞めたいなら譲るわよ?」
そんなしらーっとした表情で見ないで!
「すまん。同じことをやってリアムを押さえつけたら、その先の時間はどうなるかなと思って。あいつの意思でやっぱ巻き戻んのかな?」
「・・・そもそもあんたが死んだところでどうして巻き戻ったのよ」
「それもわからねぇんだよ。俺の記憶だけ残ってる理由も」
「・・・わかったわ。その瞬間から先がどうなるか見に行きましょう」
「頼む。明日のお姉さんの面会から成り行きで行動してくれれば、その時間までいけると思うから」
そうして俺たちは行動指針を立てた。
もしまたループしたら、次もこのタイミングで話をすることも確認した。
◇
そして1週間後。
俺たちはふたたびお姉さんの部屋で冷凍ボックスをセットしていた。
イエローストーンで俺がジャンヌに蹴飛ばされるところまで再現しないでほしい。
ここからどうするかを事前にジャンヌと話し合った。
お姉さんの治療が終わるとリアム君がハンドガンで俺たちを撃つ。
躱せないならリアム君を押さえつけるかして、制圧するしかない。
ジャンヌは彼に対しての力づくと聞き拒否感を示した。
気持ちはわかるがそれではリアム君が救えない。
そう説得して理解を得た。
・・・果たしてうまくいくのか。
「じゃあ、開けるぞ」
「ええ、良いわ」
ほんと、なんでセリフまで再現されてんだよ。
内心、突っ込みながら俺はボックスを開けた。
冷凍された魔物がもうもうと煙をあげながら御開帳する。
「う、ううう・・・!!」
少しするとお姉さんが苦しみ出す。
ほんとうに出来事まで再現されんだな。
運命が決まっているとしたら俺の自由意志はどこへ行くのだろう。
「ううう、あああぁぁ・・・!!」
「お姉ちゃん!」
お姉さんの身体から核が飛び出して魔物へと入り込む。
うん、ここまでは予定どおり。
「あとは別のところでやりましょ」
ジャンヌはぱたんと冷凍ボックスの蓋を締めた。
そうしてまた同じセリフを口にする。こいつ実は記憶残ってるんじゃねえのか?
「プロフェッサー・バート。これでサディの身体は快方に向かうはずよ」
「ほ、ほんとうか!? よし、もういちど測定してみよう!」
うん、同じ流れ。
バート教授は想定どおり部屋を飛び出して行った。
・・・。
ここからだ。
リアム君は・・・こちらを見ている!?
前回のように俯いていない!
「どうして・・・どうして、邪魔するの!!」
「リアム!!」
ぎっ! と怒りの表情を俺に向けたリアム君。
またハンドガンを取り出そうと後ろポケットに手を突っ込もうとしたところ。
その動作が終わる前、ジャンヌがリアム君へ飛びついた。
「うわっ!? 何!?」
「リアム! あたしよ! ジャンヌよ! どうして忘れたの!?」
「離して! ジャンヌなんて知らないよ!」
「嘘! これはあんたの夢よ! いま居る場所はアリゾナじゃない、高天原学園よ!」
ジャンヌはリアム君を力強く抱きしめている。
暴れようとするリアム君だが、彼の力ではジャンヌを振りほどけない。
「僕はお姉ちゃんといる!」
「ここは夢なの! あんたが夢見てるだけ! あたしを、ジャンヌを思い出して!」
「むぐ!?」
そうして・・・ジャンヌはリアム君に口づけした。
リアム君の目が見開かれる。
「ん~~!! ん~~~~!!」
無理やりだったので暴れているようだけど、本気で抵抗していないのかその力は弱くなってくる。
やがてリアム君は抵抗をやめ、ジャンヌの口づけを受け入れたようだった。
「ぷはぁっ! はぁ、はぁ・・・」
「はぁ・・・リアム・・・」
長い口づけを終え、ジャンヌがリアム君と目を合わせる。
彼女が浮かべていたのは俺に向けたことのない慈しむような微笑み。
ジャンヌのその表情を見て、リアム君はぱしぱしとまばたきをした。
「ジャ、ンヌ・・・?」
「リアム・・・思い出して・・・」
リアム君の怒りの表情はすっかり消えていた。
何かを無理に思い出そうと難しい顔をしている。
「ジャンヌ・・・武くん・・・」
「!!」
俺を「くん」付で呼んだ!?
思い出したのか!?
俺の中で期待が膨らんだそのときだった。
「邪魔、しないで」
背後から、ばぁん、と耳をつんざく音がした。
無機質な女の声がしたかと思ったら俺の意識はまた飛んでしまっていた。
◇
前略、中略。
そうして俺はまた、初日の夜、グリーン宅の客間でジャンヌと話し合っていた。
「3度目、ね。にわかに信じられないわ」
「俺だって信じたくねぇよ! しかも毎回、殺されてんの俺だぞ!?」
「でもこうして生きてる。ここが精神空間で実体のない世界だから、でしょうね」
「・・・シミュレーターだからってことか」
「ただし、精神が捕らえられたら逃げられない世界、ね」
・・・。
これ、もしかして。
いや、もしかしなくても俺もジャンヌも捕まってるってことか?
「なぁ、もういちど教えてくれ。シミュレーターってどんな感じだった?」
「・・・あたしが使ったとき、学園のフィールドみたいな場所に出た。カプセルがふたつあったじゃない? ふたりで入るとそのフィールドで出会って、自由に訓練ができるの」
「ふむ」
「そこでは何でも自由に使えたわ。具現化もできるし、斧槍も好きなように使えた」
「好きなように?」
「想像すれば手にすることができたの。今、この空間では手に持ってる想像をしても出て来ないけれど」
「なるほど」
パンゼーリ博士が作ったシミュレーターの精神空間では、想像するだけで自由に武器なども生成できたそうだ。
これはきっと、利用者の精神空間だから、利用者の記憶から再現していたのだろう。
ところがこの空間ではそういったことができない。
つまり展開される精神空間が本来意図しない何かになってしまっている。
・・・そう、ブレイブ・ハートの中身に!
ブレイブ・ハート。
改めて考えてみると怪しいアイテムだよ。
装備すると勇気が出るという名称通りの効力。
それなのに魔力が尽きたら乗っ取られるようにパーティーアタックしてしまう。
呪いのアイテムって言ったほうがしっくりくるくらいだ。
ゲームをプレイするとき、道具なんて「こんなもんだろ」と思って使うけれど、どうやって作られたのかは考えない。
例えば店で売られたりしている「薬草」。
誰が草を摘んできて、商品として生成して、卸して、店に並べているのか。
そういった詳しい考察など必要もないし考えないわけだ。
アーティファクトなんて出てきた日には「よくわからないけど過去の人たちが偉大な力で作った便利なアイテム」くらいの取り扱いだ。
その考察対象とならない部分までラリクエで考案されていたとしたらどうだ?
「呪い」と思っている部分に何かあるとしか思えない。
「で、どうするのよ?」
「この空間を構成しているのはリアムの精神と、ブレイブ・ハートの核に宿った精神だ」
「はぁ・・・?」
「いいか? そのブレイブ・ハートの中にある精神がリアムの精神と融合しようとしているんだ。仮にそいつをXとする。きっとブレイブ・ハートの中に閉じ込められたXが外に出るために、リアムの精神を足がかりにしてるんだと思う」
「なんですって!?」
それを聞いたジャンヌがいきり立つ。
俺に掴みかからんとするくらいの形相で目の前に迫った。
「どうしてリアムなのよ!! あたしだって良かったはずじゃない!!」
「おい!? 興奮すんな! ・・・リアムの精神が利用しやすかった、ってことじゃないか?」
ジャンヌを宥めながら俺は思考を巡らせる。
この謎を解かなければ俺たちまでこの世界に取り込まれてしまう。
「ともかく。リアムが今のまま満足して目覚めなければ、このままXはリアムと融合して外の世界へ出られるってことだろよ」
「そんな・・・そいつの精神だってそいつそのものじゃなくなるってのに!?」
「Xが実体を失って精神だけここに閉じ込められてるとしたらどうだ? 外に出るために手段は選ばねぇだろ。永遠の監獄になっちまうからな」
「それじゃ、そいつはリアムと融合するのが目的ってこと!?」
「だろうよ。受肉するために」
・・・もしかしたら、ゲームで魔力が尽きたときに装備していると似たような状態になるのかもしれない。
装備している者の精神がブレイブ・ハートの精神に侵され置き換わるなら、パーティーアタックしても不思議ではない。
うん、この仮説がいちばんしっくりくる。
ブレイブ・ハートは何かの精神を閉じ込めて作るヤバいアーティファクトなんだ。
こんな幻想を見させられるなんて、夢魔か何かの精神なんじゃねえの?
「Xは肉体がないから精神融合できる。融合には時間がかかるから、リアムを捕らえて目覚めさせないよう彼にとって良い夢を見させているんだ」
「・・・あたしたちはXを見つけ出さなきゃならないってこと?」
「恐らくな。あるいはリアムの記憶を取り戻して帰りたいと思わせるか。お姉さんを治すってのは、この時間を続けたいリアムにとっては無駄なことなんだから」
「リアム・・・そんなにサディのことが・・・」
ジャンヌは唇を噛んで両手を拳にして震わせていた。
・・・お前の存在が忘れられて、記憶のお姉さんに負けてんだからな。
そりゃ悔しいよ。
あ、でも。
「ジャンヌ、落ち着いて聞いてくれ」
「なによ」
「2回目の最後、お前が必死になって・・・リアムとキスしてたんだよ」
「はっ・・・!? なに人のキスを見てんのよ! 変態!!」
「ばっ・・・だから落ち着けって!!」
急に俺に向かって暴れ出すジャンヌ。
回し蹴りが顔に飛んでくるなんて殺意高すぎだろ!!
反射で何とか躱して両手でどうどうと宥める。
だから落ち着けって言ったのに。
「お前の想いは通じたんだよ。そんときリアムがお前と俺のことを思い出してたかもしれん」
「・・・」
「ここのリアムは俺のことを「武」って呼ぶ。そんときは「武くん」になってたからな」
「・・・」
ジャンヌは黙り込んでしまった。
気まずい・・・人の恋路をあれこれ言うほうも微妙な感じなんだって。
俺、精神年齢高いって言っても雪子一筋だったから恋愛レベル高くねぇんだよ。
馬に蹴られそうだ。
「・・・ねぇ。あたしがまたリアムにキスすれば、リアムは目覚めるのかな?」
「やる価値は十分ある」
「だったら、やる。あんたも協力して」
「わかった。どこの誰がXか探るよりもリアムを目覚めさせるほうが近道だろうからな」
こうして3度目のチャレンジで前2回とはアプローチを変えるべく、俺たちは議論を重ねた。
お姫様からの目覚めのキスをするにはどうすれば良いのか。
この世界に来て既に3週間が過ぎ去ろうとしていた。
じりじりと肌に刺さる陽光。
どうして俺はまたあの砂漠に戻っているのか。
「・・・はぁ、はぁ、はぁ」
「おい、がんばれ」
やはり足が重い彼女を待つ。
汗は相変わらず、あとからあとから滴り落ちて来る。
「・・・ジャンヌ」
「はぁ、はぁ・・・なによ」
「リアムが俺を撃ったの、覚えてるか?」
「はぁ? 何の話? こんなときに冗談はよして」
「・・・」
いったい何が起こったのか。
これこそ、○ョ○ョ的な現象じゃねぇのか。
時間の巻戻り。
そうとしか考えられん。
そしてどうして俺だけ記憶が巻き戻ってねぇんだよ。
・・・無限ループ勘弁。
「・・・ここ、どこよ」
「たぶんアリゾナだ」
「はぁ!? ステーツのアリゾナ州!?」
やめてくれ。本当にリトライしてんじゃねぇか。
この先にある道路脇の日陰で待って、車が来たら確定だよ。
俺は覚悟を決めた。
恐らくはキーマンであるリアム君に会うまで同じシナリオを演じることにした。
◇
中略。ここまで同じ流れ。
そうして初日の夜、グリーン邸宅の客室でジャンヌと会話をするときに俺は切り出した。
「ジャンヌ、落ち着いて聞いてくれ」
「なによ」
「・・・俺はこの場、この時間にいるのが2度目なんだ」
「え?」
ジャンヌは訝しげな表情で俺を見た。
何を可笑しなことを口走っているのだと糾弾するように。
「いちど、お姉さんの病気を治すところまでいったんだ。そこでリアムに撃たれた」
「はぁ? あたま、大丈夫?」
「・・・冗談で言わねえよ」
俺は声のトーンを落とした。
俺の真剣さに話を信じる気になったのか、ジャンヌが耳は傾けてくれた。
「いいか、ここは精神空間だ。常識の通じる場所じゃねぇ。常識っぽく見えるのはこの空間を作っている何かの認識なんだ」
「・・・どういうことよ」
「1度目に起こったことを話すぜ。明日、俺たちはお姉さんと面会して――」
俺はジャンヌに一部始終を語った。
先の話まで見てきたように聞かされると不気味に感じたようだ。
ひととおり話し終えるとジャンヌが言う。
「・・・つまりリアムがここから出たがらなかった、ってこと?」
「そう。お姉さんを治して喜ばしいはずなのに、あいつはそれを拒否した」
「一緒にいるため?」
「恐らくな。リアムがダイブしてから俺たちがここに入るまで28時間経過している。200倍で半年以上だ。前回、半年前から高天原に進学せずにこの時間を過ごしていたのかと思ったけどそうじゃねぇ。あいつはお姉さんと過ごすこの時間を繰り返しているのかもしれん」
「・・・まさか!?」
「じゃねぇとこうして俺たちがダイブしたあの瞬間に戻る理由がつかねぇんだよ」
俺の記憶が残っている理由は説明できねぇんだけど。
ともかくループを認識できたことで事態を把握できた。
問題はここからどうするか、だ。
ゲームのシナリオをクリアすれば良いわけではなかったのだから。
「お前さ・・・リアムの銃、躱せる?」
「・・・人間を辞めたいなら譲るわよ?」
そんなしらーっとした表情で見ないで!
「すまん。同じことをやってリアムを押さえつけたら、その先の時間はどうなるかなと思って。あいつの意思でやっぱ巻き戻んのかな?」
「・・・そもそもあんたが死んだところでどうして巻き戻ったのよ」
「それもわからねぇんだよ。俺の記憶だけ残ってる理由も」
「・・・わかったわ。その瞬間から先がどうなるか見に行きましょう」
「頼む。明日のお姉さんの面会から成り行きで行動してくれれば、その時間までいけると思うから」
そうして俺たちは行動指針を立てた。
もしまたループしたら、次もこのタイミングで話をすることも確認した。
◇
そして1週間後。
俺たちはふたたびお姉さんの部屋で冷凍ボックスをセットしていた。
イエローストーンで俺がジャンヌに蹴飛ばされるところまで再現しないでほしい。
ここからどうするかを事前にジャンヌと話し合った。
お姉さんの治療が終わるとリアム君がハンドガンで俺たちを撃つ。
躱せないならリアム君を押さえつけるかして、制圧するしかない。
ジャンヌは彼に対しての力づくと聞き拒否感を示した。
気持ちはわかるがそれではリアム君が救えない。
そう説得して理解を得た。
・・・果たしてうまくいくのか。
「じゃあ、開けるぞ」
「ええ、良いわ」
ほんと、なんでセリフまで再現されてんだよ。
内心、突っ込みながら俺はボックスを開けた。
冷凍された魔物がもうもうと煙をあげながら御開帳する。
「う、ううう・・・!!」
少しするとお姉さんが苦しみ出す。
ほんとうに出来事まで再現されんだな。
運命が決まっているとしたら俺の自由意志はどこへ行くのだろう。
「ううう、あああぁぁ・・・!!」
「お姉ちゃん!」
お姉さんの身体から核が飛び出して魔物へと入り込む。
うん、ここまでは予定どおり。
「あとは別のところでやりましょ」
ジャンヌはぱたんと冷凍ボックスの蓋を締めた。
そうしてまた同じセリフを口にする。こいつ実は記憶残ってるんじゃねえのか?
「プロフェッサー・バート。これでサディの身体は快方に向かうはずよ」
「ほ、ほんとうか!? よし、もういちど測定してみよう!」
うん、同じ流れ。
バート教授は想定どおり部屋を飛び出して行った。
・・・。
ここからだ。
リアム君は・・・こちらを見ている!?
前回のように俯いていない!
「どうして・・・どうして、邪魔するの!!」
「リアム!!」
ぎっ! と怒りの表情を俺に向けたリアム君。
またハンドガンを取り出そうと後ろポケットに手を突っ込もうとしたところ。
その動作が終わる前、ジャンヌがリアム君へ飛びついた。
「うわっ!? 何!?」
「リアム! あたしよ! ジャンヌよ! どうして忘れたの!?」
「離して! ジャンヌなんて知らないよ!」
「嘘! これはあんたの夢よ! いま居る場所はアリゾナじゃない、高天原学園よ!」
ジャンヌはリアム君を力強く抱きしめている。
暴れようとするリアム君だが、彼の力ではジャンヌを振りほどけない。
「僕はお姉ちゃんといる!」
「ここは夢なの! あんたが夢見てるだけ! あたしを、ジャンヌを思い出して!」
「むぐ!?」
そうして・・・ジャンヌはリアム君に口づけした。
リアム君の目が見開かれる。
「ん~~!! ん~~~~!!」
無理やりだったので暴れているようだけど、本気で抵抗していないのかその力は弱くなってくる。
やがてリアム君は抵抗をやめ、ジャンヌの口づけを受け入れたようだった。
「ぷはぁっ! はぁ、はぁ・・・」
「はぁ・・・リアム・・・」
長い口づけを終え、ジャンヌがリアム君と目を合わせる。
彼女が浮かべていたのは俺に向けたことのない慈しむような微笑み。
ジャンヌのその表情を見て、リアム君はぱしぱしとまばたきをした。
「ジャ、ンヌ・・・?」
「リアム・・・思い出して・・・」
リアム君の怒りの表情はすっかり消えていた。
何かを無理に思い出そうと難しい顔をしている。
「ジャンヌ・・・武くん・・・」
「!!」
俺を「くん」付で呼んだ!?
思い出したのか!?
俺の中で期待が膨らんだそのときだった。
「邪魔、しないで」
背後から、ばぁん、と耳をつんざく音がした。
無機質な女の声がしたかと思ったら俺の意識はまた飛んでしまっていた。
◇
前略、中略。
そうして俺はまた、初日の夜、グリーン宅の客間でジャンヌと話し合っていた。
「3度目、ね。にわかに信じられないわ」
「俺だって信じたくねぇよ! しかも毎回、殺されてんの俺だぞ!?」
「でもこうして生きてる。ここが精神空間で実体のない世界だから、でしょうね」
「・・・シミュレーターだからってことか」
「ただし、精神が捕らえられたら逃げられない世界、ね」
・・・。
これ、もしかして。
いや、もしかしなくても俺もジャンヌも捕まってるってことか?
「なぁ、もういちど教えてくれ。シミュレーターってどんな感じだった?」
「・・・あたしが使ったとき、学園のフィールドみたいな場所に出た。カプセルがふたつあったじゃない? ふたりで入るとそのフィールドで出会って、自由に訓練ができるの」
「ふむ」
「そこでは何でも自由に使えたわ。具現化もできるし、斧槍も好きなように使えた」
「好きなように?」
「想像すれば手にすることができたの。今、この空間では手に持ってる想像をしても出て来ないけれど」
「なるほど」
パンゼーリ博士が作ったシミュレーターの精神空間では、想像するだけで自由に武器なども生成できたそうだ。
これはきっと、利用者の精神空間だから、利用者の記憶から再現していたのだろう。
ところがこの空間ではそういったことができない。
つまり展開される精神空間が本来意図しない何かになってしまっている。
・・・そう、ブレイブ・ハートの中身に!
ブレイブ・ハート。
改めて考えてみると怪しいアイテムだよ。
装備すると勇気が出るという名称通りの効力。
それなのに魔力が尽きたら乗っ取られるようにパーティーアタックしてしまう。
呪いのアイテムって言ったほうがしっくりくるくらいだ。
ゲームをプレイするとき、道具なんて「こんなもんだろ」と思って使うけれど、どうやって作られたのかは考えない。
例えば店で売られたりしている「薬草」。
誰が草を摘んできて、商品として生成して、卸して、店に並べているのか。
そういった詳しい考察など必要もないし考えないわけだ。
アーティファクトなんて出てきた日には「よくわからないけど過去の人たちが偉大な力で作った便利なアイテム」くらいの取り扱いだ。
その考察対象とならない部分までラリクエで考案されていたとしたらどうだ?
「呪い」と思っている部分に何かあるとしか思えない。
「で、どうするのよ?」
「この空間を構成しているのはリアムの精神と、ブレイブ・ハートの核に宿った精神だ」
「はぁ・・・?」
「いいか? そのブレイブ・ハートの中にある精神がリアムの精神と融合しようとしているんだ。仮にそいつをXとする。きっとブレイブ・ハートの中に閉じ込められたXが外に出るために、リアムの精神を足がかりにしてるんだと思う」
「なんですって!?」
それを聞いたジャンヌがいきり立つ。
俺に掴みかからんとするくらいの形相で目の前に迫った。
「どうしてリアムなのよ!! あたしだって良かったはずじゃない!!」
「おい!? 興奮すんな! ・・・リアムの精神が利用しやすかった、ってことじゃないか?」
ジャンヌを宥めながら俺は思考を巡らせる。
この謎を解かなければ俺たちまでこの世界に取り込まれてしまう。
「ともかく。リアムが今のまま満足して目覚めなければ、このままXはリアムと融合して外の世界へ出られるってことだろよ」
「そんな・・・そいつの精神だってそいつそのものじゃなくなるってのに!?」
「Xが実体を失って精神だけここに閉じ込められてるとしたらどうだ? 外に出るために手段は選ばねぇだろ。永遠の監獄になっちまうからな」
「それじゃ、そいつはリアムと融合するのが目的ってこと!?」
「だろうよ。受肉するために」
・・・もしかしたら、ゲームで魔力が尽きたときに装備していると似たような状態になるのかもしれない。
装備している者の精神がブレイブ・ハートの精神に侵され置き換わるなら、パーティーアタックしても不思議ではない。
うん、この仮説がいちばんしっくりくる。
ブレイブ・ハートは何かの精神を閉じ込めて作るヤバいアーティファクトなんだ。
こんな幻想を見させられるなんて、夢魔か何かの精神なんじゃねえの?
「Xは肉体がないから精神融合できる。融合には時間がかかるから、リアムを捕らえて目覚めさせないよう彼にとって良い夢を見させているんだ」
「・・・あたしたちはXを見つけ出さなきゃならないってこと?」
「恐らくな。あるいはリアムの記憶を取り戻して帰りたいと思わせるか。お姉さんを治すってのは、この時間を続けたいリアムにとっては無駄なことなんだから」
「リアム・・・そんなにサディのことが・・・」
ジャンヌは唇を噛んで両手を拳にして震わせていた。
・・・お前の存在が忘れられて、記憶のお姉さんに負けてんだからな。
そりゃ悔しいよ。
あ、でも。
「ジャンヌ、落ち着いて聞いてくれ」
「なによ」
「2回目の最後、お前が必死になって・・・リアムとキスしてたんだよ」
「はっ・・・!? なに人のキスを見てんのよ! 変態!!」
「ばっ・・・だから落ち着けって!!」
急に俺に向かって暴れ出すジャンヌ。
回し蹴りが顔に飛んでくるなんて殺意高すぎだろ!!
反射で何とか躱して両手でどうどうと宥める。
だから落ち着けって言ったのに。
「お前の想いは通じたんだよ。そんときリアムがお前と俺のことを思い出してたかもしれん」
「・・・」
「ここのリアムは俺のことを「武」って呼ぶ。そんときは「武くん」になってたからな」
「・・・」
ジャンヌは黙り込んでしまった。
気まずい・・・人の恋路をあれこれ言うほうも微妙な感じなんだって。
俺、精神年齢高いって言っても雪子一筋だったから恋愛レベル高くねぇんだよ。
馬に蹴られそうだ。
「・・・ねぇ。あたしがまたリアムにキスすれば、リアムは目覚めるのかな?」
「やる価値は十分ある」
「だったら、やる。あんたも協力して」
「わかった。どこの誰がXか探るよりもリアムを目覚めさせるほうが近道だろうからな」
こうして3度目のチャレンジで前2回とはアプローチを変えるべく、俺たちは議論を重ねた。
お姫様からの目覚めのキスをするにはどうすれば良いのか。
この世界に来て既に3週間が過ぎ去ろうとしていた。
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