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第3章 到達! 滴穿の戴天
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ゲルオク=フォン=リウドルフィング。
ドイツ王国リウドルフィング大公の嫡男。吾輩貴族。
ラリクエではリウドルフィング家は摂政の身分だった。
公爵であるクロフォード家よりも格上。
ソフィア嬢が表立って逆らえない立場なのだ。
そしてソフィア嬢を攻略するにあたって2年生の闘神祭で登場する。
彼は婚約者(願望)であるソフィア嬢を連れ戻すためにフツヌシの部に出場する。
目的は昨日、彼が宣言していたとおり。
フツヌシの部で優勝することによりクロフォード現当主に訴えるのだ。
「高天原はキャメロットに劣る」と。
すると彼女がわざわざ日本の下賤な者が多い高天原学園に居る理由がなくなる。
そうして退学を迫られ帰国してしまうとバッドエンドという流れだ。
一方、レオン攻略時に登場するレベッカ=グレンヴィル。
レオンラブの赤毛ヤンデレ少女。
イギリスのグレンヴィル伯爵家の次女。
ラリクエで語られた内容どおりならば、彼女はレオンの幼馴染。
レオンが市井の子供に混じって遊んでいたころの知り合いだ。
彼女はレオンに惹かれ、憧れ、彼を慕うあまり、年上の彼が進学した後を追う。
レオンがキャメロットに進学したと聞き、キャメロットを志望してしまう頑張り屋さん。
でも彼女が必死の思いで入学するとレオンは除籍し高天原学園へ転籍していた。
レオン攻略時、レベッカは2年生の闘神祭でレオンを連れ戻すために登場する。
フツヌシの部に出場しレオンと対戦するのだ(必ずトーナメントで当たる)。
これに負けると「高天原学園は貴方に相応しくない」とキャメロットへ働きかける。
キャメロット側が高天原学園に要請するかたちでレオンは復籍することになる。
こうして彼が帰国するとバッドエンドということになる。
ちなみに彼らが登場する際、トーナメントで組んでいるわけではない。
それぞれ、別の相方と組んで登場する。
だからこのふたりが組んでいることがおかしい。
それに2年生で登場するはずが1年早まっていることもおかしい。
そもそも並行してイベントが起こるのもおかしい。
レオンとソフィア嬢のふたり同時に攻略してんのかっての。
やはり色々と入り混じっているのが標準状態なのか。
◇
さてその問題の吾輩貴族とヤンデレ少女。
実は最終段階でサブキャラとして仲間に加えることができる。
彼らのステータスはフツヌシの部に出場できるくらいに悪くない。
だが登場時の印象とアレな性格も相まって使われることが少ない。
まぁ悪役キャラってそういう役回りだよね。
悪役らしい振る舞いをしたせいで、俺の可愛い後輩を傷物にしてくれちゃって。
お前らターゲットが違ぇんだよ、ふざけんな!
何がなんでも謝らせないと気がすまねぇ!
俺は直接に彼を下す手段がないから生徒会を動かした。
その結果、こうして彼らと壇上で対峙することになってしまった。
くそ、いつも想定外に展開しちまう!
「誰かと思えば昨日の朴念仁と黄色人種ではないか」
ゲルオクのお高くとまった仕草が何とも神経を逆撫でる。
典型的な悪役として愛でてやれば良いんだろけど、昨日の悪さは容認できねぇ。
「さすが、その汚ぇ言い回しはお貴族様の育ちの良さが為せるもんだな」
「口を慎め下郎! 貴様のような者が話しかけて良いお方ではない!」
俺が皮肉を返すとレベッカが割り込む。
お前、レオンラブなのにどうしてゲルオクと仲良くなってんだよ。
「そういう君は偉い人に金魚のフンのようについてまわるだけかい?」
「ふん、さすが極東の田舎。貴族社会の片鱗も理解せぬ猿が跋扈する」
凛花先輩にゲルオクが結構な言葉を下す。
始まりの合図前、壇上で互いにだけ聞こえる声量での会話。
少しでも罵ってやろうと思ったがさすがに口が立つ。
このまま口喧嘩すると同じレベルに落ちそうなので止めておく。
「ゲルオクさんよ。お前が悪さした女の子はまだ寝込んでんだ。しっかり謝罪してもらうぜ」
「ほう? 吾輩は己が信条に違う行動はしておらぬぞ」
「奇遇だな、俺も信条は曲げねぇんだ。できねぇってんなら俺の正義は力で示させてもらう」
「野蛮なことだ。貴様ごときにやれるものならな。ふむ、貴様らには勿体ないが胸を貸すとしよう」
「その高慢さ、すぐへし折ってやんぜ」
煽りながら何とか謝罪を約束をさせる。
工藤さんとの約束でもあるし、何より俺が許せねぇ。
俺がここにいる理由はそれだけだしな。
「あ~、君の不意打ちの礼も返させてもらうよ」
「不躾なのはどちら様なのでしょうねぇ?」
凛花先輩の言葉に煽る返事のレベッカ。
こいつらの悪役具合はもともとの貴族的性格のせいだな。
中身は良いやつだったような気がすんだけど。
レオンもソフィア嬢も貴族だから会話が成り立ってんだな。
平民の俺たちとは相性が最悪だよ。
――両者、構え!
司会兼審判が割り込むように声をあげる。
ゲルオクは懐から小さめのステッキを出した。
水属性の彼が得意なのは電撃魔法。
油断すると一気に昏倒させられるほどの威力だ。
レベッカが具現化したのは投槍器の一種。
固有名があったように思ったけど・・・覚えてない。
弓や銃と同じで投擲後に魔力で槍を補充できるから、実はかなり有用な遠距離武器。
「おい武。加減はするか?」
「要らねぇ。どうせ棄権すんだ、派手にいこうぜ」
「そうこなくっちゃ」
凛花先輩は昨日の借りを返すためにやる気だ。
俺も今回は手加減するつもりはない。
昼前に保健室で見たふたりの寝顔に改めて闘志を燃やしていたからだ。
全力で凛花先輩のサポートをしよう。
――はじめ!
開始の合図。
ゲルオクもレベッカも遠距離タイプだから近寄ってこない。
魔法を撃つための準備をしようとしている。
それに近距離対策は万全だろう。
凛花先輩の速攻を成立させるためには、その防御を上回る攻撃をすれば良い。
「其の境は彼我になし――魔力同期!」
開始直後、凛花先輩に魔力パスを繋ぐ。
そして俺の持っている魔力を先輩に注ぎ込んだ。
これで彼女は一時的に限界突破だ。
最大出力がAR値90近いはず。
ほぼすべての具現化は疑似化の力技で排除できる。
「いくぜ!」
パスを確認した凛花先輩が突出する。
さっきの試合でも見せた速攻だ。
100メートル3秒の速さ。時速120km超。
ゲルオクまでの距離は約30メートル、約1秒。
並の反応速度では間に合わない。
「太陽神の槍!」
その正面からカウンターで投擲されたレベッカの槍。
あれは確か・・・誘導必中の投槍技!
さくらの矢と同じくAR値依存で相殺防御するしかない!
「うおらぁぁぁ!!」
凛花先輩はものともせずに突っ込む。
疑似化の全身防御を身体に張り巡らせて文字通り数秒間なら無敵状態。
ばちいいぃぃぃぃん!
腕で払うように太陽神の槍を弾き飛ばした。
強烈なはずの牽制の一撃を正面から弾かれ、彼女は動揺していた。
「稲妻の草原!」
それをフォローするかのようにゲルオクが唱える。
彼らの足元から俺の手前まで一瞬で電撃の芝生が発生した。
あれに触れると脚が痺れて転倒する。
昏倒するほどではないが機動力が奪われるのだ。
駆けている凛花先輩は地面を蹴らざるを得ない。
「甘いね!!」
それも無効化するのが凛花先輩の擬似化。
脚に魔力を込め、丹撃を大地に向けて放った。
電撃ごと地面を踏み抜きクレーターのように舞台を隆起させる。
電流への一瞬の接触は疑似化で無効化。
その山でゲルオクを中心に広がる電撃の波を途切れさせた。
「なんだ・・・ぶへぇっ!?」
眼の前に唐突に小山が出現し狼狽するゲルオク。
が、その驚愕の声さえ言い終わらぬうちに上空から迫った凛花先輩の蹴りが彼の腹に入った。
勢いよく場外近い位置に吹き飛ばされる。
「きゃ・・・ぐひゅっ!!」
そのまま隣にいたレベッカも悲鳴をあげる間もなく先輩の突きを食らってゲルオクの後を追った。
ふたりは舞台の端に仲良く並んで倒れた。
「凛花先輩、さすが!」
「あ~、亲爱的武の魔力が無かったら打ち負けてたぜ」
良かったよ、俺の援護の意味があって。
最初の試合みたいに、俺の役割は押し出すだけの簡単なお仕事だと虚しいからな。
凛花先輩でも正面から相手の魔力と打ち合うと不利らしい。
それだけあいつらのAR値が高い証拠。
50近いってことかな。さすが主人公のライバルキャラ。
俺たちは倒れているふたりの傍まで寄っていく。
「凛花先輩、もう仕置は良いのか?」
「ああ、アタイも1発だったから、1撃殴れれば満足だよ」
目には目を、歯には歯を。でもやり過ぎない。
このへんは凛花先輩のさっぱりしたところ。
俺たちが近付くと、何とか起き上がったゲルオクが電撃を飛ばしてくる。
俺も凛花先輩も疑似化の全身防御をしているので、食らってもその電撃を弾く。
焦るゲルオクの前に俺は仁王立ちした。
「はぁ、はぁ・・・馬鹿な・・・!!」
ゲルオクは怒り心頭といった表情で睨み返してきた。
すると同じく立ち上がったレベッカが彼の前に立ちはだかる。
投擲するはずの槍を構えて。
「この小物! ゲルオクに寄るな!!」
「レベッカ、下がれ」
「駄目よ! こんな奴らに・・・!!」
レベッカは俺に向かって槍を突いてきた。
それなりの突きだったがジャンヌに比べれば子供の遊び。
疑似化による強化もあり、俺は容易くその槍を掴んだ。
「無駄だ、力の差くらいわかんだろ」
「お前らに、お前らなんかに・・・」
レベッカはわなわなと震えながら俺を睨む。
そりゃそうか。格下のはずの相手が自分たちより圧倒的に強いんだから。
尊厳的な意味でも認め難いだろう。
「おいゲルオク。彼女に謝罪すると約束しろ。それならもう俺たちは棄権する」
「何ぃ!?」
「聞こえないか? 棄権すると言った。俺の目的はお前に謝罪させることだ」
その言葉にゲルオクもレベッカも目を丸くする。
「俺はお前に謝らせるためだけにこの試合に出たんだ、勝負は関係ねぇ」
「棄権だと!? 猿の分際で、我輩を愚弄する気か!!」
「! ゲルオク、まだ駄目!」
「黙れ! こやつら、許せん!」
勝ちながら放棄するという俺の言葉が、よほど癪に障ったようだった。
ゲルオクは憤怒の表情でステッキを頭上に掲げた。
レベッカが驚き手を出して止めるほどの何かをしようとしている?
【insprinc haptbandun!】
「・・・!?」
ステッキに円環状の光が浮かび上がる。
それは回転するように踊り、周囲を明るく照らす。
そして頭上高く立ち上るとぶわっと広がって四方へ駆けた。
「・・・何をした?」
何かしら攻撃をされたのかと思った俺と凛花先輩は反射的に腕で顔を守っていた。
だが何とも無い。衝撃もない。
いったい、何をしたというのか。
「くくく、直にわかる! 高貴な者を惑わす学園など滅びてしまえ!」
「ゲルオク!」
「急くなレベッカ、少しくらいの余裕はある。せいぜい苦しめ黄色人種ども!」
ゲルオクは声高に俺と凛花先輩へ告げると、そのまま場外へ飛び降りた。
レベッカもそれに続き、そのまま体育館の外へ駆け抜けて行く。
誰も彼も唖然として動けなかった。
彼らは自ら試合を降り、何をどうするというのか。
誰もが何が起こったのか、と思っていたところに。
突然、ウーウーというサイレンが体育館全体に鳴り響いた。
同時に暗くされていた照明がつけられ、薄暗かった会場が視認可能なほどに明るくなった。
――警告、警告。学園内に魔物の侵入を検知。第1級迎撃体勢を要す
――繰り返す
――警告、警告。学園内に魔物の侵入を検知。第1級迎撃体勢を要す
――繰り返す
火災のように人工音声で災害の発生が告げられる。
一瞬、リアルでもたまにあった火災の誤報かと思ったが、即座に逃亡したあのふたりが嘘ではないと教えてくれていた。
この警告音声が人々の冷静さを壊滅的に消し飛ばしたのは間違いない。
火がつけられた群衆は我先にと体育館の出口へ殺到した。
少しでも早く学園から脱出するために。
◇
あちこちで悲鳴や怒号が飛び交っていた。
一瞬で阿鼻叫喚の地獄絵図と化してしまった体育館。
壇上にいた俺のすぐ隣に、いつの間にかアレクサンドラ会長がやって来ていた。
「静まれ」
混乱の中、アレクサンドラ会長の「静まれ」が、ばしんと体育館を馳せた。
一瞬、人々の言葉と動作が止まりしんとした状態が作り出される。
「高天原学園の生徒よ、私の立つ壇上の周囲に集え」
この一喝で高天原の学生たちは幾分か冷静になったようだった。
冷静になれた者は指示通り会長の近くまで移動する。
学生の半数がそうして混乱から脱したことで、少しだけマシになっていた。
壇上からその様子を見ていた俺は敢えて動かなかった。
混沌に巻き込まれてしまう可能性も然ることながら、知己の旗印のため。
さっきまでいちばん目立っていたのだ。
俺がここから動かなければ、きっと知っている連中は集まってくる。
集まれる者が互いの無事を確認し、それから最適解を探せば良い、そう考えたからだ。
「武様!」
「武!」
目論見どおり、最も近くにいたソフィア嬢とレオンが壇上に駆け上がってきた。
「武様、ゲルオク様のお使いになった『戒めを脱する』という言葉。あれはアーティファクト起動のための言葉です!」
「アーティファクト?」
「はい! 封印の揺籠という魔物を閉じ込めるためのアーティファクトです!」
「魔物を、閉じ込める・・・!!」
そうして俺は思い至った。
高天原学園襲撃事件。
AVGパートの最後のほう、3年生の後半で発生するイベント。
魔王の活動が活発化し、大型の魔物数体が学園を襲ってくるというもの。
やはり起きてしまったか・・・!
「あいつが魔物を放ったってのか!」
おいおい、なにをしてくれちゃってんの! お前が仕込んだのかよゲルオク!
自爆技になりかねないから自分は避難したって!?
これ、ラリクエではほとんどの攻略ルートで発生するイベント。
事件を発生させるのは魔王であって人間ではない・・・はずなのだが。
そしてゲームでは3年後半というと卒業間近。
それまでに強くした主人公たちの実力を測ることができるイベントでもある。
そのイベントでは警備隊が頑張ってくれて、プレイ中の主人公は1体の魔物を倒せばよい。
だから難しいことを考えなくても良かったのだが・・・。
「武さん!」
「武、どうする!?」
「大変そうだよ~」
「あんたはなんで呑気なの!」
さくらと結弦、その後ろにジャンヌとリアム君もやって来た。
「うう、京極君、皆、危なっかしいよ~」
「ほら、流れに逆らっちゃ駄目」
先輩と聖女様も。どうやら混乱の波に呑まれなかったようだ。
「武! 響ちゃんと美晴ちゃんは!?」
「保健室で寝てんじゃねえか!?」
「誰か迎えに行かないと!」
最後に香が駆け込んで来る。
そうだよ、あのふたりを守りに行かねぇと!
御子柴君と花栗さんは用事のため今日は来ていない。
不幸中の幸いだ。
待て俺、落ち着け俺。
今からどうすんだ。何をすればいい。
工藤さんと小鳥遊さんの救出は最優先だ。
ストーリー的に魔物の撃退をしなきゃならねぇけど・・・主人公たち、勝てんの?
それにゲルオクとレベッカはどうすんだ?
そろそろ会長からの指示もありそうだ。
「俺たちだけで勝手に動くわけにもいかねえだろ。会長の指示を待とうぜ」
先ずはその指示を聞こう。俺たちも生徒会なんだし。
「勇敢なる生徒諸君、これより有事作戦本部をここに開設する」
アレクサンドラ会長の指示が始まった。
生徒会長の傍らにはアッシュグレーの髪をした長身の副会長もいる。
彼が会長に細かな情報を報告をしていた。
状況把握は万全といった様子だ。
「確認された魔物はぜんぶで6体。個別認識番号として順にA、B、C、と仮命名する。我らはこれらの迎撃および一般人の避難・護衛が任務となる」
教員組織の戦闘力はあまり期待できねぇしな。
作戦が学生中心なのは仕方ない。
「よいか、魔物どれも大型のため個人で闘ってはならない。必ず集団戦で挑むこと」
うん、ヒュドラとか地竜とか、ほんとにでかいやつばっかりだったと思う。
前衛後衛、補助部隊と揃ってないと厳しい。
「先ず標的Aについて。レオン=アインホルン、九条 さくらを中心とした迎撃部隊Aを組む。相手の情報や部隊編成は、副会長より細かな指示を受けよ」
レオンとさくらが頷き、会長が指す部隊編成場所へ移動した。
同様に会長が指示を出していく。
標的Bには迎撃部隊B、リーダーはソフィア嬢と結弦。
標的Cには迎撃部隊C、リーダーはラティカとノア。
標的Dには迎撃部隊D、リーダーはフェルナンドとエラ。
標的Eには迎撃部隊E、リーダーはアミルとカルティク。
標的Fには迎撃部隊F、リーダーは俺と凛花先輩。
一般人誘導には会長と残りの者が当たること。
避難先はフィールドで、防衛リーダーにジャンヌとリアム君が指名されていた。
トゥランと世界戦線のふたりはそれぞれ立候補でリーダーに任命されていた。
彼らの下に、自主的に闘う他組織の実力者が従うようだ。
また補助・救護班として聖女様がその場で要請を受けていた。
・・・うん、適材適所。
ちゃんとAR値が高い面子をリーダーに配置してるあたり会長の本気度がわかる。
そもそもよくこの混乱の中で編成できたよ。
俺が可能性を示唆していたとはいえ、さすがだよ。
◇
指示を受けた順に、各部隊はさっと標的に向かって行動を開始する。
なお出口は混雑で危険のため、会長権限により壁を破壊して屋外へ脱していた。
「・・・で、なんで俺と一緒なんだよ」
「ええ、だって。武の近くがいちばん安全でしょ!」
「うん~。京極君、あれだけ強いんだしね~」
「ははは! 諦めろ武。他人に任せるよりも安心だろう」
「ええ・・・凛花先輩も止めてくれよ」
迎撃部隊に同行すると言い出した一般人、香。
聖女様は避難民誘導についてまわるとのことで、あぶれた飯塚先輩。
今は口論してる時間がない・・・仕方ねぇ。
安全そうな位置に居てもらうしかないか。
「とにかく行くぞ。被害を最小限に食い止めねぇと!」
「よーし、おい皆! アタイたちへの不平不満は後で聞く。だけど高天原学園としての行動には誇りを示せよ! 出発!」
凛花先輩の掛け声で約20人の集団を動かした。
標的Fに向かって作戦行動の開始だ。
こうして学園のトーナメント戦から一転、学園防衛戦になった。
昨夜「闘神祭で発生し得るイベントはすべて起こる」と推測した自分を褒めたい。
うまく対処できるかどうかは別問題だけどな!
ドイツ王国リウドルフィング大公の嫡男。吾輩貴族。
ラリクエではリウドルフィング家は摂政の身分だった。
公爵であるクロフォード家よりも格上。
ソフィア嬢が表立って逆らえない立場なのだ。
そしてソフィア嬢を攻略するにあたって2年生の闘神祭で登場する。
彼は婚約者(願望)であるソフィア嬢を連れ戻すためにフツヌシの部に出場する。
目的は昨日、彼が宣言していたとおり。
フツヌシの部で優勝することによりクロフォード現当主に訴えるのだ。
「高天原はキャメロットに劣る」と。
すると彼女がわざわざ日本の下賤な者が多い高天原学園に居る理由がなくなる。
そうして退学を迫られ帰国してしまうとバッドエンドという流れだ。
一方、レオン攻略時に登場するレベッカ=グレンヴィル。
レオンラブの赤毛ヤンデレ少女。
イギリスのグレンヴィル伯爵家の次女。
ラリクエで語られた内容どおりならば、彼女はレオンの幼馴染。
レオンが市井の子供に混じって遊んでいたころの知り合いだ。
彼女はレオンに惹かれ、憧れ、彼を慕うあまり、年上の彼が進学した後を追う。
レオンがキャメロットに進学したと聞き、キャメロットを志望してしまう頑張り屋さん。
でも彼女が必死の思いで入学するとレオンは除籍し高天原学園へ転籍していた。
レオン攻略時、レベッカは2年生の闘神祭でレオンを連れ戻すために登場する。
フツヌシの部に出場しレオンと対戦するのだ(必ずトーナメントで当たる)。
これに負けると「高天原学園は貴方に相応しくない」とキャメロットへ働きかける。
キャメロット側が高天原学園に要請するかたちでレオンは復籍することになる。
こうして彼が帰国するとバッドエンドということになる。
ちなみに彼らが登場する際、トーナメントで組んでいるわけではない。
それぞれ、別の相方と組んで登場する。
だからこのふたりが組んでいることがおかしい。
それに2年生で登場するはずが1年早まっていることもおかしい。
そもそも並行してイベントが起こるのもおかしい。
レオンとソフィア嬢のふたり同時に攻略してんのかっての。
やはり色々と入り混じっているのが標準状態なのか。
◇
さてその問題の吾輩貴族とヤンデレ少女。
実は最終段階でサブキャラとして仲間に加えることができる。
彼らのステータスはフツヌシの部に出場できるくらいに悪くない。
だが登場時の印象とアレな性格も相まって使われることが少ない。
まぁ悪役キャラってそういう役回りだよね。
悪役らしい振る舞いをしたせいで、俺の可愛い後輩を傷物にしてくれちゃって。
お前らターゲットが違ぇんだよ、ふざけんな!
何がなんでも謝らせないと気がすまねぇ!
俺は直接に彼を下す手段がないから生徒会を動かした。
その結果、こうして彼らと壇上で対峙することになってしまった。
くそ、いつも想定外に展開しちまう!
「誰かと思えば昨日の朴念仁と黄色人種ではないか」
ゲルオクのお高くとまった仕草が何とも神経を逆撫でる。
典型的な悪役として愛でてやれば良いんだろけど、昨日の悪さは容認できねぇ。
「さすが、その汚ぇ言い回しはお貴族様の育ちの良さが為せるもんだな」
「口を慎め下郎! 貴様のような者が話しかけて良いお方ではない!」
俺が皮肉を返すとレベッカが割り込む。
お前、レオンラブなのにどうしてゲルオクと仲良くなってんだよ。
「そういう君は偉い人に金魚のフンのようについてまわるだけかい?」
「ふん、さすが極東の田舎。貴族社会の片鱗も理解せぬ猿が跋扈する」
凛花先輩にゲルオクが結構な言葉を下す。
始まりの合図前、壇上で互いにだけ聞こえる声量での会話。
少しでも罵ってやろうと思ったがさすがに口が立つ。
このまま口喧嘩すると同じレベルに落ちそうなので止めておく。
「ゲルオクさんよ。お前が悪さした女の子はまだ寝込んでんだ。しっかり謝罪してもらうぜ」
「ほう? 吾輩は己が信条に違う行動はしておらぬぞ」
「奇遇だな、俺も信条は曲げねぇんだ。できねぇってんなら俺の正義は力で示させてもらう」
「野蛮なことだ。貴様ごときにやれるものならな。ふむ、貴様らには勿体ないが胸を貸すとしよう」
「その高慢さ、すぐへし折ってやんぜ」
煽りながら何とか謝罪を約束をさせる。
工藤さんとの約束でもあるし、何より俺が許せねぇ。
俺がここにいる理由はそれだけだしな。
「あ~、君の不意打ちの礼も返させてもらうよ」
「不躾なのはどちら様なのでしょうねぇ?」
凛花先輩の言葉に煽る返事のレベッカ。
こいつらの悪役具合はもともとの貴族的性格のせいだな。
中身は良いやつだったような気がすんだけど。
レオンもソフィア嬢も貴族だから会話が成り立ってんだな。
平民の俺たちとは相性が最悪だよ。
――両者、構え!
司会兼審判が割り込むように声をあげる。
ゲルオクは懐から小さめのステッキを出した。
水属性の彼が得意なのは電撃魔法。
油断すると一気に昏倒させられるほどの威力だ。
レベッカが具現化したのは投槍器の一種。
固有名があったように思ったけど・・・覚えてない。
弓や銃と同じで投擲後に魔力で槍を補充できるから、実はかなり有用な遠距離武器。
「おい武。加減はするか?」
「要らねぇ。どうせ棄権すんだ、派手にいこうぜ」
「そうこなくっちゃ」
凛花先輩は昨日の借りを返すためにやる気だ。
俺も今回は手加減するつもりはない。
昼前に保健室で見たふたりの寝顔に改めて闘志を燃やしていたからだ。
全力で凛花先輩のサポートをしよう。
――はじめ!
開始の合図。
ゲルオクもレベッカも遠距離タイプだから近寄ってこない。
魔法を撃つための準備をしようとしている。
それに近距離対策は万全だろう。
凛花先輩の速攻を成立させるためには、その防御を上回る攻撃をすれば良い。
「其の境は彼我になし――魔力同期!」
開始直後、凛花先輩に魔力パスを繋ぐ。
そして俺の持っている魔力を先輩に注ぎ込んだ。
これで彼女は一時的に限界突破だ。
最大出力がAR値90近いはず。
ほぼすべての具現化は疑似化の力技で排除できる。
「いくぜ!」
パスを確認した凛花先輩が突出する。
さっきの試合でも見せた速攻だ。
100メートル3秒の速さ。時速120km超。
ゲルオクまでの距離は約30メートル、約1秒。
並の反応速度では間に合わない。
「太陽神の槍!」
その正面からカウンターで投擲されたレベッカの槍。
あれは確か・・・誘導必中の投槍技!
さくらの矢と同じくAR値依存で相殺防御するしかない!
「うおらぁぁぁ!!」
凛花先輩はものともせずに突っ込む。
疑似化の全身防御を身体に張り巡らせて文字通り数秒間なら無敵状態。
ばちいいぃぃぃぃん!
腕で払うように太陽神の槍を弾き飛ばした。
強烈なはずの牽制の一撃を正面から弾かれ、彼女は動揺していた。
「稲妻の草原!」
それをフォローするかのようにゲルオクが唱える。
彼らの足元から俺の手前まで一瞬で電撃の芝生が発生した。
あれに触れると脚が痺れて転倒する。
昏倒するほどではないが機動力が奪われるのだ。
駆けている凛花先輩は地面を蹴らざるを得ない。
「甘いね!!」
それも無効化するのが凛花先輩の擬似化。
脚に魔力を込め、丹撃を大地に向けて放った。
電撃ごと地面を踏み抜きクレーターのように舞台を隆起させる。
電流への一瞬の接触は疑似化で無効化。
その山でゲルオクを中心に広がる電撃の波を途切れさせた。
「なんだ・・・ぶへぇっ!?」
眼の前に唐突に小山が出現し狼狽するゲルオク。
が、その驚愕の声さえ言い終わらぬうちに上空から迫った凛花先輩の蹴りが彼の腹に入った。
勢いよく場外近い位置に吹き飛ばされる。
「きゃ・・・ぐひゅっ!!」
そのまま隣にいたレベッカも悲鳴をあげる間もなく先輩の突きを食らってゲルオクの後を追った。
ふたりは舞台の端に仲良く並んで倒れた。
「凛花先輩、さすが!」
「あ~、亲爱的武の魔力が無かったら打ち負けてたぜ」
良かったよ、俺の援護の意味があって。
最初の試合みたいに、俺の役割は押し出すだけの簡単なお仕事だと虚しいからな。
凛花先輩でも正面から相手の魔力と打ち合うと不利らしい。
それだけあいつらのAR値が高い証拠。
50近いってことかな。さすが主人公のライバルキャラ。
俺たちは倒れているふたりの傍まで寄っていく。
「凛花先輩、もう仕置は良いのか?」
「ああ、アタイも1発だったから、1撃殴れれば満足だよ」
目には目を、歯には歯を。でもやり過ぎない。
このへんは凛花先輩のさっぱりしたところ。
俺たちが近付くと、何とか起き上がったゲルオクが電撃を飛ばしてくる。
俺も凛花先輩も疑似化の全身防御をしているので、食らってもその電撃を弾く。
焦るゲルオクの前に俺は仁王立ちした。
「はぁ、はぁ・・・馬鹿な・・・!!」
ゲルオクは怒り心頭といった表情で睨み返してきた。
すると同じく立ち上がったレベッカが彼の前に立ちはだかる。
投擲するはずの槍を構えて。
「この小物! ゲルオクに寄るな!!」
「レベッカ、下がれ」
「駄目よ! こんな奴らに・・・!!」
レベッカは俺に向かって槍を突いてきた。
それなりの突きだったがジャンヌに比べれば子供の遊び。
疑似化による強化もあり、俺は容易くその槍を掴んだ。
「無駄だ、力の差くらいわかんだろ」
「お前らに、お前らなんかに・・・」
レベッカはわなわなと震えながら俺を睨む。
そりゃそうか。格下のはずの相手が自分たちより圧倒的に強いんだから。
尊厳的な意味でも認め難いだろう。
「おいゲルオク。彼女に謝罪すると約束しろ。それならもう俺たちは棄権する」
「何ぃ!?」
「聞こえないか? 棄権すると言った。俺の目的はお前に謝罪させることだ」
その言葉にゲルオクもレベッカも目を丸くする。
「俺はお前に謝らせるためだけにこの試合に出たんだ、勝負は関係ねぇ」
「棄権だと!? 猿の分際で、我輩を愚弄する気か!!」
「! ゲルオク、まだ駄目!」
「黙れ! こやつら、許せん!」
勝ちながら放棄するという俺の言葉が、よほど癪に障ったようだった。
ゲルオクは憤怒の表情でステッキを頭上に掲げた。
レベッカが驚き手を出して止めるほどの何かをしようとしている?
【insprinc haptbandun!】
「・・・!?」
ステッキに円環状の光が浮かび上がる。
それは回転するように踊り、周囲を明るく照らす。
そして頭上高く立ち上るとぶわっと広がって四方へ駆けた。
「・・・何をした?」
何かしら攻撃をされたのかと思った俺と凛花先輩は反射的に腕で顔を守っていた。
だが何とも無い。衝撃もない。
いったい、何をしたというのか。
「くくく、直にわかる! 高貴な者を惑わす学園など滅びてしまえ!」
「ゲルオク!」
「急くなレベッカ、少しくらいの余裕はある。せいぜい苦しめ黄色人種ども!」
ゲルオクは声高に俺と凛花先輩へ告げると、そのまま場外へ飛び降りた。
レベッカもそれに続き、そのまま体育館の外へ駆け抜けて行く。
誰も彼も唖然として動けなかった。
彼らは自ら試合を降り、何をどうするというのか。
誰もが何が起こったのか、と思っていたところに。
突然、ウーウーというサイレンが体育館全体に鳴り響いた。
同時に暗くされていた照明がつけられ、薄暗かった会場が視認可能なほどに明るくなった。
――警告、警告。学園内に魔物の侵入を検知。第1級迎撃体勢を要す
――繰り返す
――警告、警告。学園内に魔物の侵入を検知。第1級迎撃体勢を要す
――繰り返す
火災のように人工音声で災害の発生が告げられる。
一瞬、リアルでもたまにあった火災の誤報かと思ったが、即座に逃亡したあのふたりが嘘ではないと教えてくれていた。
この警告音声が人々の冷静さを壊滅的に消し飛ばしたのは間違いない。
火がつけられた群衆は我先にと体育館の出口へ殺到した。
少しでも早く学園から脱出するために。
◇
あちこちで悲鳴や怒号が飛び交っていた。
一瞬で阿鼻叫喚の地獄絵図と化してしまった体育館。
壇上にいた俺のすぐ隣に、いつの間にかアレクサンドラ会長がやって来ていた。
「静まれ」
混乱の中、アレクサンドラ会長の「静まれ」が、ばしんと体育館を馳せた。
一瞬、人々の言葉と動作が止まりしんとした状態が作り出される。
「高天原学園の生徒よ、私の立つ壇上の周囲に集え」
この一喝で高天原の学生たちは幾分か冷静になったようだった。
冷静になれた者は指示通り会長の近くまで移動する。
学生の半数がそうして混乱から脱したことで、少しだけマシになっていた。
壇上からその様子を見ていた俺は敢えて動かなかった。
混沌に巻き込まれてしまう可能性も然ることながら、知己の旗印のため。
さっきまでいちばん目立っていたのだ。
俺がここから動かなければ、きっと知っている連中は集まってくる。
集まれる者が互いの無事を確認し、それから最適解を探せば良い、そう考えたからだ。
「武様!」
「武!」
目論見どおり、最も近くにいたソフィア嬢とレオンが壇上に駆け上がってきた。
「武様、ゲルオク様のお使いになった『戒めを脱する』という言葉。あれはアーティファクト起動のための言葉です!」
「アーティファクト?」
「はい! 封印の揺籠という魔物を閉じ込めるためのアーティファクトです!」
「魔物を、閉じ込める・・・!!」
そうして俺は思い至った。
高天原学園襲撃事件。
AVGパートの最後のほう、3年生の後半で発生するイベント。
魔王の活動が活発化し、大型の魔物数体が学園を襲ってくるというもの。
やはり起きてしまったか・・・!
「あいつが魔物を放ったってのか!」
おいおい、なにをしてくれちゃってんの! お前が仕込んだのかよゲルオク!
自爆技になりかねないから自分は避難したって!?
これ、ラリクエではほとんどの攻略ルートで発生するイベント。
事件を発生させるのは魔王であって人間ではない・・・はずなのだが。
そしてゲームでは3年後半というと卒業間近。
それまでに強くした主人公たちの実力を測ることができるイベントでもある。
そのイベントでは警備隊が頑張ってくれて、プレイ中の主人公は1体の魔物を倒せばよい。
だから難しいことを考えなくても良かったのだが・・・。
「武さん!」
「武、どうする!?」
「大変そうだよ~」
「あんたはなんで呑気なの!」
さくらと結弦、その後ろにジャンヌとリアム君もやって来た。
「うう、京極君、皆、危なっかしいよ~」
「ほら、流れに逆らっちゃ駄目」
先輩と聖女様も。どうやら混乱の波に呑まれなかったようだ。
「武! 響ちゃんと美晴ちゃんは!?」
「保健室で寝てんじゃねえか!?」
「誰か迎えに行かないと!」
最後に香が駆け込んで来る。
そうだよ、あのふたりを守りに行かねぇと!
御子柴君と花栗さんは用事のため今日は来ていない。
不幸中の幸いだ。
待て俺、落ち着け俺。
今からどうすんだ。何をすればいい。
工藤さんと小鳥遊さんの救出は最優先だ。
ストーリー的に魔物の撃退をしなきゃならねぇけど・・・主人公たち、勝てんの?
それにゲルオクとレベッカはどうすんだ?
そろそろ会長からの指示もありそうだ。
「俺たちだけで勝手に動くわけにもいかねえだろ。会長の指示を待とうぜ」
先ずはその指示を聞こう。俺たちも生徒会なんだし。
「勇敢なる生徒諸君、これより有事作戦本部をここに開設する」
アレクサンドラ会長の指示が始まった。
生徒会長の傍らにはアッシュグレーの髪をした長身の副会長もいる。
彼が会長に細かな情報を報告をしていた。
状況把握は万全といった様子だ。
「確認された魔物はぜんぶで6体。個別認識番号として順にA、B、C、と仮命名する。我らはこれらの迎撃および一般人の避難・護衛が任務となる」
教員組織の戦闘力はあまり期待できねぇしな。
作戦が学生中心なのは仕方ない。
「よいか、魔物どれも大型のため個人で闘ってはならない。必ず集団戦で挑むこと」
うん、ヒュドラとか地竜とか、ほんとにでかいやつばっかりだったと思う。
前衛後衛、補助部隊と揃ってないと厳しい。
「先ず標的Aについて。レオン=アインホルン、九条 さくらを中心とした迎撃部隊Aを組む。相手の情報や部隊編成は、副会長より細かな指示を受けよ」
レオンとさくらが頷き、会長が指す部隊編成場所へ移動した。
同様に会長が指示を出していく。
標的Bには迎撃部隊B、リーダーはソフィア嬢と結弦。
標的Cには迎撃部隊C、リーダーはラティカとノア。
標的Dには迎撃部隊D、リーダーはフェルナンドとエラ。
標的Eには迎撃部隊E、リーダーはアミルとカルティク。
標的Fには迎撃部隊F、リーダーは俺と凛花先輩。
一般人誘導には会長と残りの者が当たること。
避難先はフィールドで、防衛リーダーにジャンヌとリアム君が指名されていた。
トゥランと世界戦線のふたりはそれぞれ立候補でリーダーに任命されていた。
彼らの下に、自主的に闘う他組織の実力者が従うようだ。
また補助・救護班として聖女様がその場で要請を受けていた。
・・・うん、適材適所。
ちゃんとAR値が高い面子をリーダーに配置してるあたり会長の本気度がわかる。
そもそもよくこの混乱の中で編成できたよ。
俺が可能性を示唆していたとはいえ、さすがだよ。
◇
指示を受けた順に、各部隊はさっと標的に向かって行動を開始する。
なお出口は混雑で危険のため、会長権限により壁を破壊して屋外へ脱していた。
「・・・で、なんで俺と一緒なんだよ」
「ええ、だって。武の近くがいちばん安全でしょ!」
「うん~。京極君、あれだけ強いんだしね~」
「ははは! 諦めろ武。他人に任せるよりも安心だろう」
「ええ・・・凛花先輩も止めてくれよ」
迎撃部隊に同行すると言い出した一般人、香。
聖女様は避難民誘導についてまわるとのことで、あぶれた飯塚先輩。
今は口論してる時間がない・・・仕方ねぇ。
安全そうな位置に居てもらうしかないか。
「とにかく行くぞ。被害を最小限に食い止めねぇと!」
「よーし、おい皆! アタイたちへの不平不満は後で聞く。だけど高天原学園としての行動には誇りを示せよ! 出発!」
凛花先輩の掛け声で約20人の集団を動かした。
標的Fに向かって作戦行動の開始だ。
こうして学園のトーナメント戦から一転、学園防衛戦になった。
昨夜「闘神祭で発生し得るイベントはすべて起こる」と推測した自分を褒めたい。
うまく対処できるかどうかは別問題だけどな!
応援ありがとうございます!
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