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第1章
涙と紅茶
しおりを挟む朝食を終えたアルフォルトは、執務室へと移動した。
宰相は報告が終わると「隠すと貴方は怒るから言いましたけど、決して無理はなさらないように」と言い添えると王宮へと戻って行った。
ライノアに寄りかかるようにソファへ座るアルフォルトの顔色は、未だに良くない。
「王子、大丈夫ですかー?」
様子がおかしいアルフォルトを気にして、レンが心配そうに窺ってくる。
アルフォルトが座るソファの前まで来ると、足元にぺたんと座り、アルフォルトの膝に頭を乗せた。
アルフォルトがレンのサラサラの金髪を撫でると、心配そうな瞳が見上げてくる。
「······自分は、口上手いわけじゃないから······王子を励ます言葉が思い浮かばないー」
膝に頭をグリグリとこすり付けるレンが、元気がない主人を励ます犬のような仕草で、アルフォルトは堪らず微笑んだ。
「ありがとう、レン。心配かけてごめんね」
手を引っ張って、ソファの隣に座らせた。レンは全く気にしていないようだが、女の子を地べたに座らせるのは気が引ける。そのままレンを抱きしめると、温かくて柔らかい。
レンも腕を伸ばして、アルフォルトの背中をポンポンと叩いてくれる。
「······さっきのディーク伯爵家って、 王子と関係あるんですかー?」
腕の中でもごもごと聞こえる声に「レン!」とすかさずライノアが窘めるが、アルフォルトは首をふってレンと向き合った。
「······レンにはまだ話してなかったよね?僕が仮面を付け始めた理由」
腕の力を緩めて、レンを離す。
レンの赤い瞳が不安そうに揺れる。アルフォルトは深く息を吐いた。
「あれは僕が12歳になったばかりの頃なんだけどね──」
アルフォルトの腰を抱くように、ライノアの腕が添えられる。ライノアの体温を感じながら、アルフォルトは訥々と語り始めた。
「······信じられないっ!!」
過去の誘拐事件について一通り話を聞き終えたレンは、泣きながら怒りを露わに震えていた。
当時のディーク伯爵に誘拐された事。
手篭めにしようと無体を働かれた事。
あわや花を散らす前にライノアに助けられた事。
その時の恐怖で人前に顔を晒せなくなり、性的なものを極端に避けるようになった事。
そのすべてがレンには許せないようで、アルフォルトにしがみついて、レンはボロボロと泣く。
「うちの王子に酷い事してっ!!そのオッサン許せないー!!」
怒りすぎて泣きじゃくるレンに、アルフォルトは苦笑いしながらハンカチを差し出した。
「当時の僕も迂闊だったから」
「王子は何も悪くないー!そいつ殺してやりたいー!!」
「既に私が殺してます」
「ライノア、そういう事じゃないと思うよ?」
ライノアのズレた返答に、アルフォルトは少し体から力が抜けた。
「大丈夫だからもう泣かないで、レン」
優しく背中を擦るアルフォルトにしがみつき、レンは駄々っ子のように喚く。あまりにしがみつくので、ライノアが見かねてレンを引き離した。
そのまま自分の腕の中にアルフォルトを囲うと、ライノアはため息をついた。
「レン、落ち着きなさい。アルフォルトが困ってます」
「そうやってライノアさんはすぐ王子を独り占めするー」
鼻をすすりながら、レンはライノアを半目で見る。無言で睨み合う二人をどうしようかとアルフォルトが思案していると、メリアンヌがワゴンを押して執務室に入って来た。
「お茶にしましょうか」
手際良くティーセットを並べるメリアンヌのタイミングの良さに、アルフォルトは感謝した。
朝食を食べてからそんなに時間が経っていないので正直お腹は空いていない。
何も言わなくてもテーブルに並べらたのは紅茶とリーフパイで、用意された軽い焼き菓子に、相変わらず有能な侍女だとアルフォルトは思う。
「──今回の件だけど」
アルフォルトは目を瞑る。
手に持ったティーカップは暖かく、じんわりと指先へと温度を運ぶ。
紅茶の芳醇な香り、リーフパイの香ばしさ。
目を開けると、自分の言葉を待つそれぞれの視線。
「関わらない事も勿論考えたけど、それじゃ今までと何ら変わらないから」
宰相は、無理しなくていいと言った。アルフォルトの事情を考えて、あとはこちらに任せても良いと。
ディーク伯爵家が関わっていることをアルフォルトに言わないという選択もあったのに、あえて隠すことはしなかった。
アルフォルトが過去と向き合うきっかけになるかもしれない、と考えてくれたのだろう。
どちらを選んでも、宰相は何も言わないだろう。
──それなら。
「首を突っ込んじゃった手前、後始末までちゃんとやるよ。子供を人身売買するような奴を、これ以上野放しにはしない」
怖いと目を逸らして怯えるだけでは、きっと守りたいものも守れない。
それに、自分はあの頃の無力な子供じゃない。
──もう逃げないと、アルフォルトは覚悟を決めた。
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