仮面の王子と優雅な従者

emanon

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第2章

変化と戸惑い

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 最近、あの悪夢を見なくなった。
 正確には全くみない、という訳ではなく、途中から違う夢になる。
 最初は今まで同様、拘束され無体を働かれる所から始まる。
 恐怖に震える身体をまさぐる太い指は、気づけば節榑立ふしくれだった長い指に変わっていて、優しく頭を撫でてくる。
 涙の膜が張った目では、その手の人物が誰なのか歪んでよく見えない。
 自分の未発達な身体は、いつの間にか今の身体になっていて、両手を縛めていたものは初めからなかったかのように、自由になる。
「大丈夫」と、何度も甘やかすように耳元で囁く声は、よく知っている声。
 いつもはここで目が覚めるのに、今日は違った。
 指先が薄い胸を辿り、脇腹を擽るように撫でる。次第に下へと下がって行き、内腿をなぞる指先の感触に、腰の奥が疼き身体から力が抜ける。
 堪えきれず、はしたない声が出そうになり──。

「······っ」
 目を開けると、いつもの見慣れたベッドの天蓋──ではなかったが、ぼんやりする頭でここがマルドゥーク家のアルフォルトの部屋だと思い出した。
 まだ日が登りきっていないのか部屋は薄暗く、少し肌寒い。
 小さくくしゃみをして身体を起こし──下半身の違和感に、アルフォルトは上掛けを捲った。 
「······え、」
 下半身の違和感の正体に目を見張り、アルフォルトは狼狽えた。
 ゆったりとしたナイトウェアの上からでもわかるほど、アルフォルトの股間が膨らんでいた。
(どうしよう······)
 直前まで見ていた夢のせいだ。知らないはずの行為の感触なのに、やけに生々しく覚えているのは何故だろう。
 夢を見て身体が反応するのは生理現象だから仕方がない、と頭では理解しているのだが、今までこんな事は起きなかった。
 トラウマのせいもあり、自分に性欲はないとばかり思っていたアルフォルトは、身体の変化に戸惑う。
(勃ってる······)
 どうしたらいいのか、知識としてはある。しかし、自慰をした事がないアルフォルトにとって、それはとてつもなくはしたなく、罪深い行為に思えた。
 このまま放っておいて治まるならそうしたい。
 自分の身体なのに、コントロールできない事に焦りと恐怖を覚え、アルフォルトは震える自分の身体を抱きしめた。

「アルフォルト、起きたんですか?」
 アルフォルトが起きた気配を感じたのか、静かにドアが開き、ライノアが窺うように部屋へ入ってきた。薄暗い部屋のベッドで蹲るアルフォルトに気づき、慌てて駆け寄って来る。
「ルト!?」
 肩に手を添えて下から覗き込むライノアと目が合う。
 ライノアはアルフォルトが涙目なのに気づいたようで、指先で目尻をそっと拭われた。
 いつもと様子が違うと思ったのだろう。優しく、ゆっくりとした口調で、ライノアはアルフォルトの頭を撫でた。
「どこか痛みますか?」
 ふるふると首を振る。アルフォルトがそのまま俯くと、ライノアは「とりあえず着替えますか?」と上掛けを取ろうとしてくる。
 はっとして、アルフォルトは慌ててライノアの手を抑えた。
「ダメっ!!」
 自分で思ったよりも大きな声がでて、アルフォルトは勿論ライノアも少し驚いて目を見開いた。
「アルフォルト?」
 上掛けの端を握りしめたアルフォルトの手は震えていて、ライノアはそっと包み込むように手を握る。
「......あ、」
「大丈夫、落ち着いて。──どうしたんですか?」
 優しく問いかける声に、アルフォルトは唇を噛んだ。言うべきなのか。こんな事言われても困るのではないだろうか。
 逡巡するアルフォルトが口を開くのを、ライノアは根気強く待ってくれた。アルフォルトは意を決して口を開く。
「······起きたら、身体が変で······」
 掠れた声はみっともない程震えていた。
「変?苦しいとか痛い訳ではなく?」
 ライノアの問に、コクンと頷く。
 今の状況をどう言えばよいのだろう。
 纏まらない思考に俯いていると、ライノアは何かに気づいのだろう。 
 アルフォルトの手が緩んだ隙に、ライノアは上掛けをはがした。
「あっ」
 ナイトウェアの上からでもわかるほど反応した下半身が顕になり、アルフォルトは恥ずかしくて顔を真っ赤にした。
「っ、やだって、言ったのに」
 見られてしまった。
 羞恥と混乱で涙が止まらない。こんなのを見せられてもライノアだって困るだろう。
 いやらしい、と幻滅したかもしれない。
「こんな、はしたない······っ」
 ボロボロと零れる涙を手の甲で擦っていると、手を掴まれ、ライノアの唇が目元をなぞる。
「泣かないで、ルト」
 ちゅっと軽い音をたて、ライノアの唇が離れていく。 
「生理現象ですから大丈夫、はしたなくなんかないですよ。むしろ、今まで何も無かった方が異常なんです」
 アルフォルトの隣に腰掛け、背中を優しく撫でて、ライノアは微笑んだ。
「でも、こんなの······嫌だ······」
 性欲に対してどうしても嫌悪感があり、アルフォルトは項垂れた。
 自慰行為に抵抗があるのは、今まで必要がなく、した事がないからというのもあるが、何より。
(あの男と同じになりたくない······)
 快楽を得る事が、自分を犯そうとした男と同じになるような気がして、アルフォルトには受け入れられないでいた。
 アルフォルトの葛藤に気づいたライノアは、そっとアルフォルトの腰に手をまわした。
 ──それから。
「私がやりましょうか」
「え?」
 冗談かと一瞬目を疑ったが、ライノアは至って本気のようで、目は真剣だった。
「だって、した事がないから怖いんでしょう?自分でやるのに抵抗があるなら私に任せればいい。そのままにしておくのは身体に悪いですし」
 畳み掛けるようなライノアに、アルフォルトはただ狼狽えるしかない。
 ライノアが言う事は最もだが、これは、はたして従者に頼んで良い事なのだろうか、と混乱した頭でアルフォルトは考える。
 こういう行為はもっとこう──
「アルフォルト?」
 軽くパニックになっているアルフォルトは、最早冷静な判断は出来ないでいた。
「······ライノア、嫌じゃない?気持ち悪くない?」
 恐る恐る尋ねるとライノアは、今まで見た事もない捕食者みたいな顔で微笑んだ。
「全然」
 何か早まったかもしれないと思ったが、今更遅いとアルフォルトは気付いた。
 
 

 


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