43 / 89
第2章
変化と戸惑い
しおりを挟む最近、あの悪夢を見なくなった。
正確には全くみない、という訳ではなく、途中から違う夢になる。
最初は今まで同様、拘束され無体を働かれる所から始まる。
恐怖に震える身体をまさぐる太い指は、気づけば節榑立った長い指に変わっていて、優しく頭を撫でてくる。
涙の膜が張った目では、その手の人物が誰なのか歪んでよく見えない。
自分の未発達な身体は、いつの間にか今の身体になっていて、両手を縛めていたものは初めからなかったかのように、自由になる。
「大丈夫」と、何度も甘やかすように耳元で囁く声は、よく知っている声。
いつもはここで目が覚めるのに、今日は違った。
指先が薄い胸を辿り、脇腹を擽るように撫でる。次第に下へと下がって行き、内腿をなぞる指先の感触に、腰の奥が疼き身体から力が抜ける。
堪えきれず、はしたない声が出そうになり──。
「······っ」
目を開けると、いつもの見慣れたベッドの天蓋──ではなかったが、ぼんやりする頭でここがマルドゥーク家のアルフォルトの部屋だと思い出した。
まだ日が登りきっていないのか部屋は薄暗く、少し肌寒い。
小さくくしゃみをして身体を起こし──下半身の違和感に、アルフォルトは上掛けを捲った。
「······え、」
下半身の違和感の正体に目を見張り、アルフォルトは狼狽えた。
ゆったりとしたナイトウェアの上からでもわかるほど、アルフォルトの股間が膨らんでいた。
(どうしよう······)
直前まで見ていた夢のせいだ。知らないはずの行為の感触なのに、やけに生々しく覚えているのは何故だろう。
夢を見て身体が反応するのは生理現象だから仕方がない、と頭では理解しているのだが、今までこんな事は起きなかった。
トラウマのせいもあり、自分に性欲はないとばかり思っていたアルフォルトは、身体の変化に戸惑う。
(勃ってる······)
どうしたらいいのか、知識としてはある。しかし、自慰をした事がないアルフォルトにとって、それはとてつもなくはしたなく、罪深い行為に思えた。
このまま放っておいて治まるならそうしたい。
自分の身体なのに、コントロールできない事に焦りと恐怖を覚え、アルフォルトは震える自分の身体を抱きしめた。
「アルフォルト、起きたんですか?」
アルフォルトが起きた気配を感じたのか、静かにドアが開き、ライノアが窺うように部屋へ入ってきた。薄暗い部屋のベッドで蹲るアルフォルトに気づき、慌てて駆け寄って来る。
「ルト!?」
肩に手を添えて下から覗き込むライノアと目が合う。
ライノアはアルフォルトが涙目なのに気づいたようで、指先で目尻をそっと拭われた。
いつもと様子が違うと思ったのだろう。優しく、ゆっくりとした口調で、ライノアはアルフォルトの頭を撫でた。
「どこか痛みますか?」
ふるふると首を振る。アルフォルトがそのまま俯くと、ライノアは「とりあえず着替えますか?」と上掛けを取ろうとしてくる。
はっとして、アルフォルトは慌ててライノアの手を抑えた。
「ダメっ!!」
自分で思ったよりも大きな声がでて、アルフォルトは勿論ライノアも少し驚いて目を見開いた。
「アルフォルト?」
上掛けの端を握りしめたアルフォルトの手は震えていて、ライノアはそっと包み込むように手を握る。
「......あ、」
「大丈夫、落ち着いて。──どうしたんですか?」
優しく問いかける声に、アルフォルトは唇を噛んだ。言うべきなのか。こんな事言われても困るのではないだろうか。
逡巡するアルフォルトが口を開くのを、ライノアは根気強く待ってくれた。アルフォルトは意を決して口を開く。
「······起きたら、身体が変で······」
掠れた声はみっともない程震えていた。
「変?苦しいとか痛い訳ではなく?」
ライノアの問に、コクンと頷く。
今の状況をどう言えばよいのだろう。
纏まらない思考に俯いていると、ライノアは何かに気づいのだろう。
アルフォルトの手が緩んだ隙に、ライノアは上掛けをはがした。
「あっ」
ナイトウェアの上からでもわかるほど反応した下半身が顕になり、アルフォルトは恥ずかしくて顔を真っ赤にした。
「っ、やだって、言ったのに」
見られてしまった。
羞恥と混乱で涙が止まらない。こんなのを見せられてもライノアだって困るだろう。
いやらしい、と幻滅したかもしれない。
「こんな、はしたない······っ」
ボロボロと零れる涙を手の甲で擦っていると、手を掴まれ、ライノアの唇が目元をなぞる。
「泣かないで、ルト」
ちゅっと軽い音をたて、ライノアの唇が離れていく。
「生理現象ですから大丈夫、はしたなくなんかないですよ。むしろ、今まで何も無かった方が異常なんです」
アルフォルトの隣に腰掛け、背中を優しく撫でて、ライノアは微笑んだ。
「でも、こんなの······嫌だ······」
性欲に対してどうしても嫌悪感があり、アルフォルトは項垂れた。
自慰行為に抵抗があるのは、今まで必要がなく、した事がないからというのもあるが、何より。
(あの男と同じになりたくない······)
快楽を得る事が、自分を犯そうとした男と同じになるような気がして、アルフォルトには受け入れられないでいた。
アルフォルトの葛藤に気づいたライノアは、そっとアルフォルトの腰に手をまわした。
──それから。
「私がやりましょうか」
「え?」
冗談かと一瞬目を疑ったが、ライノアは至って本気のようで、目は真剣だった。
「だって、した事がないから怖いんでしょう?自分でやるのに抵抗があるなら私に任せればいい。そのままにしておくのは身体に悪いですし」
畳み掛けるようなライノアに、アルフォルトはただ狼狽えるしかない。
ライノアが言う事は最もだが、これは、はたして従者に頼んで良い事なのだろうか、と混乱した頭でアルフォルトは考える。
こういう行為はもっとこう──
「アルフォルト?」
軽くパニックになっているアルフォルトは、最早冷静な判断は出来ないでいた。
「······ライノア、嫌じゃない?気持ち悪くない?」
恐る恐る尋ねるとライノアは、今まで見た事もない捕食者みたいな顔で微笑んだ。
「全然」
何か早まったかもしれないと思ったが、今更遅いとアルフォルトは気付いた。
35
あなたにおすすめの小説
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話
あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」
トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。
お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。
攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。
兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。
攻め:水瀬真広
受け:神崎彼方
⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。
途中でモブおじが出てきます。
義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。
初投稿です。
初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
応援ありがとうございます!
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
【完結】顔だけと言われた騎士は大成を誓う
凪瀬夜霧
BL
「顔だけだ」と笑われても、俺は本気で騎士になりたかった。
傷だらけの努力の末にたどり着いた第三騎士団。
そこで出会った団長・ルークは、初めて“顔以外の俺”を見てくれた人だった。
不器用に愛を拒む騎士と、そんな彼を優しく包む団長。
甘くてまっすぐな、異世界騎士BLファンタジー。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【本編完結】人形と皇子
かずえ
BL
ずっと戦争状態にあった帝国と皇国の最後の戦いの日、帝国の戦闘人形が一体、重症を負って皇国の皇子に拾われた。
戦うことしか教えられていなかった戦闘人形が、人としての名前を貰い、人として扱われて、皇子と幸せに暮らすお話。
第13回BL大賞にて、読者賞を受賞しました。たくさん読んでくださって応援してくださり、本当にありがとうございます!
性表現がある話には * マークを付けています。苦手な方は飛ばしてください。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
【完結】王子様たちに狙われています。本気出せばいつでも美しくなれるらしいですが、どうでもいいじゃないですか。
竜鳴躍
BL
同性でも子を成せるようになった世界。ソルト=ペッパーは公爵家の3男で、王宮務めの文官だ。他の兄弟はそれなりに高級官吏になっているが、ソルトは昔からこまごまとした仕事が好きで、下級貴族に混じって働いている。机で物を書いたり、何かを作ったり、仕事や趣味に没頭するあまり、物心がついてからは身だしなみもおざなりになった。だが、本当はソルトはものすごく美しかったのだ。
自分に無頓着な美人と彼に恋する王子と騎士の話。
番外編はおまけです。
特に番外編2はある意味蛇足です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる