不機嫌な神父様には半魔の番が必要です

emanon

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第一章

♢閑話♢二人の秘密(※R18)

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 これは、サァシャとラギが番の契約をする前の話──。



♢サァシャの秘密♢



 双月ふたつづきの夜は、ラギが作ってくれるミルクティーを飲み、彼の腕の中で眠る。それが二人の決まりだった。
 家事を一切できないラギだが、何故か珈琲やミルクティーは淹れられるし、食器も壊さない。なんなら、サァシャが淹れるよりもうんと美味しい。
 不思議なのは双月の夜に飲むミルクティーだけ、いつもと味がほんの少し、違う。
 具体的に何が、と聞かれるとわからない。ラギに聞いても「気のせいだろ」としか言わない。別に不味いという訳では無いのだか……双月以外の日にラギに淹れて貰ったら、やはり何かが足りない気がした。
 ──それから双月の夜は、決まってある夢を視る。
 それはサァシャの願望が視せる、都合の良い夢なのかもしれない。

「ん……ラギ……」
 モゾモゾと、ラギの胸元に鼻を擦り寄せると、背中を大きな手が撫でてくれる。
「寒いのか?」
「ん……」 
 本当はそこまで寒い訳じゃないが、サァシャが頷くと、両腕で身体をすっぽりと包まれる。
 双月の夜はどんなに甘えても、くっついても、ラギが拒む事はない。だから、サァシャは普段以上にラギに甘えて、せっかくの幸せな時間を少しでも長く味わいたいのに、結局睡魔には勝てず眠りに落ちる。
 そうして朝まで目覚める事もなく、ぐっすりと眠る。
 それだけなら別に良いいのだが、問題は視る夢だ。
 普通の夢、なら気にしないのだが──いつの頃からか双月の夜に視る夢は、決まってラギにいやらしい事をされる夢だった。
 内容を事細かに覚えている訳じゃない。それでも、身体に触れるラギの手の感覚が妙にリアルで、朝目が覚める度に何となく気まずさを覚えてしまうのは、養父に持ってはいけない感情だから、なのだろう。
 その夢をどこか期待している自分の浅ましさに自己嫌悪するが、どうせ叶わない思いなら、夢くらい好きに視させてほしい気持ちもある。

 
「……あッ……」
 不意に、身体の奥に熱を感じた。
 指先が、肌の上を辿る感触。
 どんなに頑張っても目は開かないし身体も動かない。
 そこで、ああ、いつもの夢か……とサァシャは思う。
 項を、温かくて濡れた物が這う。味わうような舌の動きに、腰の奥が重くなる。
「はぁっ、……んッ」
 性器を扱く指の動きに翻弄され、切ない声が吐息まじりに零れた。
「気持ちいいか?」
 掠れた、ラギの声が鼓膜を揺らす。
 うん、と応えたいけど、言葉は出ない。
 相変わらず身体は鉛のように重く、指先一つ動かせない。
 意識だけが、切り取られたかのようにサァシャの身体に快楽を伝える。
 答えが返って来なくても、ラギは構わずにサァシャの身体を甘やかし続ける。執拗に肌を舌で味わい、身体を伝って唾液がシーツに滴るのがわった。
 背中を撫でていた指先が背骨を辿り、そっと秘められた窄まりを撫でた。
「あっ……」
 硬く閉ざされたそこを指先で押され──離れたと思った次の瞬間、トロリと濡れた感触に身体が震えた。
 そのまま、濡れた指先が窄まりの皺を何度も撫で、力が抜けた蕾に爪の先が埋まる。
 つぷん、と埋め込まれた指先が、中をまさぐる感覚に、サァシャは浅い呼吸を繰り返した。
「やっ……んんッ」
 痛みはないが、胎内をかき混ぜるような違和感に、サァシャは辛うじて首を振る。自分の夢なのに、何故かいつも思い通りにならない。
「や、だ……こわ、ぃ……っ」
 動かない身体では逃げられない。震える声で喘ぐように出た言葉は殆ど無意識で、そんなサァシャを甘やかすような声が耳を掠めた。
「大丈夫だ、酷くはしない」
 そうして、中を擦る指先がある一点を掠めると、身体が快感に震えた。
「やっ!?……あ、ぅあッ」
 執拗にそこを擦られ、同時に前も刺激され、サァシャは訳もわからずにただ喘ぐ。
 中で感じるなんて、知らない筈なのに。
 夢の中のラギは、本人よりもサァシャの身体を知り尽くしている。
 堪えきれず、サァシャは欲望を吐きだした。太腿を伝う精液の感触にすら身体が甘く疼く。
「あぁッ、はぁ……っ」
 目が開かなくても、荒い呼吸に胸が上下しているのがわかる。
「可愛いな、サァシャ」
 額に唇が触れ、ラギが笑った気配がし、ああやっぱりこれは夢なんだとサァシャは思う。
 だって、普段のラギはサァシャに「可愛い」なんて言わない。
 どこまでも自分に都合の良い夢に、少しだけ寂しさを覚えた。
 そんなサァシャの頭を、ラギの手が優しく撫でる。
 体液にまみれ、汗ばんだ身体は火照っていた。シャワーを浴びたい、とぼんやりと思うが、夢なのに押し寄せた疲労感に意識が混濁し──次にサァシャが目を覚ますと、朝だった。

「……ん」
 カーテンから差し込む日差しが眩しくて、窓から顔を背けると、目の前にラギの顔がありサァシャの心臓が跳ねた。
 すぅ、と静かな寝息を立てるラギは良く寝ていて──サァシャは夢の内容をぼんやりと思い出して赤面した。
 思わず寝間着やシーツを確認し、真っさらな事に安堵する。着衣に乱れも無ければ、肌に触れるシーツはサラサラだ。勿論身体もベタベタしていない。
(また、えっちな夢だった……)
 しかし、サァシャの身体は何の反応もしていない。それどころか、何処と無くすっきりしているような気がする。
(……欲求不満であんな夢みちゃうんだと思ってたんだけどなぁ)
 何の反応もない自身に、サァシャは少し戸惑ったが、ラギの眠るすぐ隣で身体が反応するのも困る。よく考えたら、二次性徴を迎えてから、数える程しか自慰もしていない。
 思ったよりも自分は性に淡白なのだろう、と結論付けて、サァシャはまだ起きる気配のないラギをじっと見つめた。
 サァシャがみる夢は、相手は必ずラギだ。そしていつも前戯だけで──最後までした事はない、と思う。
 それはサァシャに経験がないからなのかもしれないが、そもそも後ろを自分で弄った事は一度も無いのに、中をまさぐるラギの指の感覚が妙にリアルで困惑した。
(まぁ、いっか。どうせ夢だし)
 いつか、最後までする夢を視るのだろうか、なんて少しだけ期待し、サァシャはラギを起こそうと手を伸ばした。
 
 

♢ラギの秘密♢



「……や、んんっ」
 あえかな声を上げるサァシャの肌に、舌を這わせる。白く薄い皮膚に透ける静脈、柔らかな肢体。
 噛み付いた項から零れる血の甘さを、酩酊にも似た心地で堪能する。
 布を押し上げ、反応し始めたサァシャの昂りが視界に入り、ラギは寝間着の裾から手を忍ばせた。
 下着越しに撫でるとサァシャの眉が寄り、切ない声が零れる。
「このままだと辛いだろ?」
 返事はない。
 サァシャは深い眠りに着いていて、朝までは絶対に起きない。
 どんな理由があれ本当はこんな事、してはいけないと頭では理解しているのに。
 養い子の寝間着のボタンを外し、ラギは自嘲的な溜息をいた。

 双月の夜は、サァシャと眠る。
 それは、彼を引き取った頃から今も変わらない。
 サァシャが小さな頃は毎日一緒に眠っていたが、年頃の男の子──と言っても、実年齢はラギよりもずっと年上だが──と同衾はさすがにどうかとも思い、サァシャが14歳になった時、一人部屋を与えた。
 寂しいと最初は嫌がったが、ラギが頑なに「一人で寝ろ」と断った為、サァシャも諦めた。夜、そっと部屋を覗いたら、くまのぬいぐるみを抱きしめて眠っていたサァシャの頬に涙の跡があり、思わず部屋に連れ帰ろうかと思ったが我慢した。……もっとサァシャが成長した時に「ラギと寝たくない」と拒否されたら、おそらく立ち直れない自信がある。
 正しい距離感でいた方が、お互いの為だ。 
 ただし、双月の日はラギもサァシャの部屋で眠る。
 双月の夜は魔の血脈の力が強くなる。
 それは半魔とはいえ、サァシャやラギも例外ではい。
 ラギは眠るサァシャから少しだけ、血を貰う。彼が起きないように、気付かないように。鏡で跡が見えないように、項に歯を立てて、必要なだけ。
 サァシャは封印された淫魔インキュバスの力が強くなり、魔のものに呼ばれやすくなる。
 サァシャに施された魔封じは、月の光を直接浴びることで解ける。だから、人間として育てるなら絶対に夜は外に出すな、とサァシャの母親に言われた。
 双月の夜になると、サァシャはに呼ばれて無意識に外に出ようとする。だから、腕の中に囲い込んで眠っていたのだが、成長するにつれて、サァシャを抑え込むのが難しくなった。
 だから、睡眠薬をミルクティーに混ぜて飲ませ、朝まで起きられないようにした。それだけだと心配で、一緒に眠るのは継続した。
 腕の中に閉じ込めて眠れば、万が一何かあってもすぐに対処できるから。
 そう、言い訳して。
 ただ、近頃問題が発生した。
 勿論、サァシャに一緒に眠るのを拒否された訳ではない。
 血を飲む時──サァシャの身体が、反応し始めたのだ。
 吸血される側は血を吸われる間、快感を得る。それは血を抜かれる恐怖を和らげる為だとか食事の対価による恩寵だとか色々言われているが、そんな事どうでも良い、とラギは思う。
 つい最近まで、血を吸ってもむずがるくらいで大人しかった。しかし、この間吸血中に何とも悩ましげな声を上げ、頬は薔薇色に上気し──なんとも目の毒だった。
 そして、それはサァシャの身体が大人になりつつあるという事で、ラギは複雑な気持ちになる。
 ずっと子供だと思っていたのに。
 小さくて可愛い養い子はいつか大人になり、ラギの元を離れていくのだろうか。
 ……そんな事、耐えられる訳がない。
 叶うなら、ずっとこのままの──眠り続けたせいで少しだけ発育不良の、小さくて可愛い自分だけのサァシャでいてくれたら、と何度も思う。きっと成長したサァシャは、それはそれは美しい青年になるだろう。母親に似ているから、華奢なままだとは思うが。
 男女問わず魅了するのかと思うと、腹の底に鉛を流し込まれたような重苦しさを感じる。
 ……本当は、とっくに気付いていた。
 サァシャに抱く感情は、養い子に対するそれじゃない、と。
 別に男が好きな訳ではないし、お稚児趣味でもない。今までだって魔力を得るために肉体関係があったのは全て女だが、恋愛感情は一切無かった。
 サァシャに対する感情は純粋な愛、と呼ぶには歪んでいて、独占欲や執着に近い。
 だから、悩ましげなサァシャを目の当たりにし──ラギは躊躇わずにサァシャの身体に触れた。
 身体が反応したままは辛いだろうから、と言い訳し、サァシャの性器に触れ、吐精させた。
 可愛い声であまりにも鳴くから、目が覚めたのではないかと思ったが、結局目覚める事は無かった。
 次の日の朝、もしかしたらとも思ったがサァシャはいつも通りで、夜の間ラギが身体に触れた事も全く気付いていないようだ。
 穢れを知らない、あどけない表情に少しだけ、胸の奥が傷んだ。

 それからの双月の夜は、ラギにとって罪の時間になった。
 やめなくては、と思うのに。こんな事してはいけないとわかっているのに。
 深く眠り、意識のない養い子の身体に触れ、血を味わう。
 最初は反応した性器に触れるだけだった。
 しかし、次第に行為はエスカレートし、自分のモノとサァシャのをまとめて扱き一緒に吐精したり、サァシャの白い太腿に自身の昂りを挟み込み果てた事もある。
 未発達な身体は、男とは思えない程柔らかく、小さな身体で快楽を貪る姿に目眩すら覚える。
 体液や汗で汚れるといけないから、行為に耽る時はいつも自分の部屋に連れ帰る。そうしてその身体を堪能し、湯浴みさせてサァシャの部屋に戻り──朝には何も無かったかのように振る舞う。
 どこまでも浅ましい自分に、自己嫌悪し、それでもやめられなかった。
 仮にも聖職者として有るまじき行為だと理解している。聖職者以前に、人間として、養父として道徳的に間違えている自覚もある。
 双月の度に、今日で終わりにしなくてはと思うのに、結局やめられずにいる。
 ただ、サァシャの唇へのキスと挿入した事はない。
 それだけは絶対にダメだ、と自分に言い聞かせ──指を入れている時点でもう手遅れな気もするが、それでもサァシャの「はじめて」を奪う事だけは絶対にしない。
 それは、いつかサァシャが恋に落ちる「誰か」の為に残しておかないといけない。
 そんな機会を与えてやれるかどうかはまた別の話だが、それだけは守るつもりだ。
 
「サァシャ……ごめん」
 もしサァシャにこの事がバレたら、軽蔑され刺されるかもな、なんて自嘲めいた表情で、ラギはサァシャの頭を撫でた。
 
 

 


  

 
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