不機嫌な神父様には半魔の番が必要です

emanon

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第一章

いざ、中央教会へ!①

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 サァシャ達が暮らしていたニルギスの町から、中央教会のある首都ラルトスへは、通常馬車で三日かかる。旅行などした事がないサァシャは、初めて見る色々な景色に思いを馳せていた……のだが。

 ニルギスから馬車で走る事一日。
 サァシャ達三人が辿り着いた先は中央教会があるラルトスから真逆に位置する、エルスという大きな街だった。 
 ラルトスからはだいぶ遠ざかってしまい、目的地を間違えたのではないかと不安になるサァシャを他所に、二人は荷物を纏めて馬車を降りた。
 馬車が止まった先にあるのは、ニルギスとは比べ物にならないほど大きな教会だった。
 荘厳な雰囲気に思わず口を開けて立ち竦んでいると、ラギに額を弾かれる。
「ぼーっとしてないでいくぞ」
「あっ、うん……」
 馬車の窓から見た街を行き交う人の多さにも驚いたが、教会も街の建物の大きさも、何もかもがサァシャには驚くものばかりだ。
(そういえば僕、ニルギスから出た事なかったな)
 サァシャの世界はニルギスという小さな町で完結していた。
 教会と、町の商店街。特に不満もなく、長閑な景色と優しい町の人に囲まれて、穏やかな時間を過ごしていた。……それが、ずっと続くのだと思っていた。
 キョロキョロと街に目を向ければ、気のせいだろうか。どことなく視線を感じる。
(そんなに余所者感あるのかな……)
 少しだけ居心地の悪さを感じてラギの袖を掴んだ。
「どうした?」
「いや、なんか……見られてる、気がして」
 気のせいかも、とぬいぐるみを強く抱き締めるサァシャにつられて周りを見たラギは──舌打ちするとサァシャを隠すように、自身に引き寄せた。
「ラギ?」
 見上げたラギの顔は不機嫌で、理由がわからないサァシャは首を傾げる。
 そんなラギに苦笑いしたリシューが少し屈んで、耳打ちしてきた。
「サァシャ君が可愛いから目立つんだよ」
「えぇ?まっさかぁ」
 サァシャはカラカラと笑うと、二人は何故かため息をいた。
 町の御老人やルルネはよく「可愛い」と言ってくれていたが、あれは どちらかというと小動物や身内を愛でるソレに近い、とサァシャは思っている。
 それよりも、目の前の神父二人の方が目立つのでは、と二人を交互に見た。
 ラギは勿論、リシューもよく見たら整った顔をしている。普段のおちゃらけた雰囲気のせいで残念な三枚目に見えてしまいがちだが、真面目な顔をしていればモテそうだ。真面目な顔をしていれば。
「いいから中入るぞ」
 促されたまま足を踏み入れた教会は外観と同様、荘厳な雰囲気の立派な内装だった。
「リシュー神父、それからラギ神父。お久しぶりです」
 入口に顔を出すと、神父服カソックに身を包んだ壮年の男が、柔和な笑みを浮かべて出迎えてくれた。
 二人がそれぞれ挨拶をしていると、神父はサァシャに気づき手を差し出して来た。
「貴方がラギ神父の養い子ですね?はじめまして。ここエルスの教会で神父を務めております、ジルと申します」
「は、はじめまして。サァシャです」
 差し出された手を握りサァシャが頭を下げると、ジルは相合を崩した。
「なんて可愛らしいお嬢さんなんでしょう。おいくつですか?」
 ……案の定、女の子に間違われた。
 初対面ではよくある事なので、サァシャは半ば諦めの境地でいると──背後で二人が笑いを堪えている。大人気ない大人共をキッと睨みつけ、サァシャは首を振った。
「……僕、男です。あと一応16歳、です」
 大きなクマのぬいぐるみを抱えていては説得力など皆無に等しい、などとは思いもせず、サァシャは苦笑いして訂正した。
 ジルは目を点にすると、一呼吸置いてアルカイックスマイルで謝罪して来た。
「……これは失礼しました。あまりに可憐なものでつい」
 誤魔化したな、と思わないでもないが悪気がないのはわかるので、サァシャも曖昧に笑って流した。
「さて。転移先は中央教会でお間違いないですね?」
 ジルは、三人を教会の奥の更に奥──地下へと案内しながら、振り返る。
「はい、お忙しい中すみません」
 リシューが頭を下げると、ジルは柔和な笑みを浮かべて首を振った。
「とんでもない。これも教会業務のひとつですから」
「……ねぇ、転移って何?」
 前を歩く二人の後ろで、サァシャはこっそりとラギに問うた。
 先程から話が見えず、頭の中は疑問符ばかりが浮かんでいる。
 首を傾げてじっと見つめると、ラギは数回瞬きをした。
「……説明してなかったか?」
「説明してないから今聞いてるんだけど」
 頬を膨らませると、ラギは「悪い悪い」とサァシャの頬をつついた。まるで悪いと思っていなさそうな態度に、サァシャはむくれたまま話を促した。
「教会には《転移装置》っていうのがあって、そこから他の教会へ瞬間的に移動できる」
 さも当たり前のように説明するラギに、サァシャは目を見開く。
「え、そんな事出来るの!?」
「勿論教会関係者しか使えない……というか、その装置は魔力と教会の身分証がないと発動しないから、一般人の人は使えないんだよ」
 先を歩くリシューが振り返りながら、補足してくれる。
「僕、魔力はともかく、教会の身分証なんてないよ?」
 不安そうにラギを見つめると、首元を指先でつつかれた。
「眷属の証があるだろ?神父の眷属はソレが身分証のかわりにもなる」
 あくまで身分証(仮)だけどな、とラギは付け足した。正式な身分証は、ラギやリシュー達神父が首から下げてるロザリオで、神父になれれば貰えるとの事だ。
(魔力とロザリオでどうやって移動できるんだろう?) 
 初めて知るその未知の装置に心が踊り──ふと、サァシャは気づいた。
「あれ?ニルギスの教会には無かったよね?」
「ああ、基本的に中央教会直轄の教会にしかない。ニルギスは転移装置がないから
 首を傾げたサァシャに、淡々と答えたラギの肩を拳で突いて、リシューはため息をついた。
「こいつ、中央に戻りたくない干渉されたくないからって理由で、あえて装置がない辺鄙な田舎の教会選んだんだぜ?お陰で迎えにくるの本当に面倒だった」
 呆れるよな、と同意を求めたリシューに少し同情した。

 しばらく中を進むと、重そうな扉を開けてジルが微笑んだ。
「この先まっすぐ進んで頂ければ装置の部屋があります。シスタードロレスが待機しておりますので、彼女の指示に従って下さい」
「ジル神父、ありがとうございました」
 リシューとラギに習って頭を下げると、ジルが胸に手を当てて会釈した。
「お気を付けて行ってらっしゃいませ」


 

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