腐っても女子、ですから

江上蒼羽

文字の大きさ
24 / 25

それから……③

しおりを挟む


絶句する私を尻目に、芹沢さんはさっさと薬指にソレを差し込む。


「おおっ!ミラクル!ピッタリフィット!」


ピタリと収まった様子が嬉しいらしい芹沢さんに対して、私は尚も言葉が出なくて…


「勝手に嵌め込み完了させちゃったけど、返事はどんな?」


芹沢さんは「ま、無理なら断ってよ」といつか聞いたのと同じ台詞で答えを催促してくる。

私は超高速で涙を拭ってから言う。


「こ、断る訳ないじゃん!ビックリ過ぎて涙止まんないし、どうしてくれんの?!」


拭った傍から、また涙がポロっと。

私の逆ギレみたいなプロポーズ承諾に、芹沢さんは大笑い。

その後、優しく拭ってくれた。


「てか、私で良いの?」

「良いに決まってんじゃん。じゃなきゃ、こんなん用意しないし」


こんなんとは、状況的にBL本よりかは、指輪の事を指しているのだと思う。


「ドラマで共演している綺麗所とかじゃなくて良いの?相手が女優さんなら、目移りしたって文句は言わないよ」

「は?目移りなんかぜーん然しない。それはそっちにも言える事じゃん。3年連続彼女にしたい女芸人No.1に選ばれる位だから、お誘いも多いだろうし?俺、心配でさー…」


わざとらしく溜め息を吐きながら吐露する芹沢さん。


「そろそろ殿堂入り果たすんじゃない?」

「な、何言ってんの?!勝手にランク付けされてるだけだし」

「それ、他からしたら嫌味にしか聞こえないんじゃない?」

「嫌味じゃないし!大体ね、私は他なんて興味ないんだから!私が好きなのは芹沢さんだってば!」


勢いで言ってから、恥ずかしさで赤面。

でも、芹沢さん自身はとても嬉しそうに目を細めている。


「そんなら、そろそろ“芹沢さん”なんてのはナシにしてよ」


何を思ったのか、唐突な要請をしてくる芹沢さん。

私は当然「えっ?」となる訳で。


「いつまでも他人行儀な感じ。ちょっとやだったんだよね」


とはいえ、急に下の名前で呼ぶのは照れが生じる。


「や、その……」

「シンプルに流希でも、可愛くルッキーでも何でもよろし。さぁ、呼びたまえ」


「さぁさぁ」と期待に瞳を輝かす芹沢さんを前に、懸命に呼び方を考える。

如何に照れずに呼べるかが、最大の鍵。

それ程良くない頭をフル回転させて出てきたのは…


「じゃあ…………“セリーヌ”で」


何ともアホな呼び名。

お馬鹿な学生が考えそうなレベルの呼び名に、芹沢さんは「………そうきたか」と頭を抱えてた。




呼び方は追々……という事にして、献上されたし18禁コミックをしばし堪能させて頂く。


「あぁ……これ、内容凄い……汁気たっぷり」

「…………汁気?」


私の独り言に疑問を感じているらしい芹沢さんを他所に、めくるめくお耽美の世界に酔いしれる。


「きゃー堪らなーい!」

「…………」


悶える私を芹沢さんが複雑そうに眺めてくるけれど、全く気にしない。


私は腐った女子と書いて、腐女子。

恥ずかしいとは思わないし、寧ろ腐女子である事に誇りすら感じている。


「……ねぇ、腐ったものが新鮮さを取り戻すのは不可能だけど、それでも大丈夫?」


念を押すように聞いてみると、意味を理解するのに数秒かけてから、芹沢さんがいつものようにニカッと歯を見せる。


「志保はちっとも腐ってないよ。瑞々しいまんま」

「中割ってみると、ヘドロみたいだよ?」

「ははっ、ヘドロ上等」


芹沢さんの言葉を嬉しく思っていると、ふと小さな疑問が芽生えた。


「芹沢さんと忍足さん………どっちが受けでどっちが攻めかな?」

「………は?」


怪訝そうな顔の芹沢さんをまじまじ見詰める。


「どっちかって言えば、芹沢さんが受けで、忍足さんが微Sの攻めって考えるのが一般的かな?いや、でも、忍足さんが掘られる側も悪くないかも」

「………ちょっ……一般的って……何かおかしくない?」

「あのすかした顔が屈辱で歪むのを想像したら萌える~」

「いやいや、だから…」


もう、妄想スイッチがON。

あれやこれや想像しては、きゃーきゃー言ったり、悶えてみせたり。


「俺とおっしーは、この世が終わろうとも、そんな関係になりゃしねーから!」


私の妄想が気に入らないらしい芹沢さんは、私からコミックを取り上げると、そのまま覆い被さってきた。


「あのね、いけない妄想も大概にしなさい」


言うが早いか、厚めの唇が押し当てられる。

肉厚な感触と熱に腐った心ごと、全部溶けてしまいそうだ。


「好き。大好き」

「うん、俺も」

「森川達より幸せになっちゃったりして」

「はは、かもね。ってか、向こうは自分達が世界一幸せだと信じて疑わないよ」


何度も見詰め合っては、夢中で唇を重ねる。


「これ、何か擽ったい」

「だからって外すのナシね」


薬指に嵌まっている物に擽ったさを感じながらも、外す気なんて更々ない。


「これも嬉しいけど、ペアのも早く欲しい」

「マジか。んじゃ、今度選びに行こう」


腐ったものが新鮮さを取り戻すのは、まず有り得ない事だ。

でも、好きな人の手に掛かれば、いとも容易く瑞々しくなれちゃうんだから、恋愛の威力は魔法並みに凄い。

芹沢さんと深く唇を重ねながら、腐女子をただの女にさせちゃう彼の力は、とんでもなく強力だな………なんて思った。







*おしまい*
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

マチ恋 ―君に捧げるLove song― 一夜の相手はスーパースター。誰にも言えない秘密の恋。【完結】

remo
恋愛
あなたにとっては遊びでも、私にとっては、…奇跡の夜だった。 地味で平凡で取り柄のない私に起きた一夜のキセキ。 水村ゆい、23歳、シングルマザー。 誰にも言えないけど、愛息子の父親は、 今人気絶頂バンドのボーカルなんです。 初めての恋。奇跡の恋。離れ離れの恋。不倫の恋。一途な恋。最後の恋。 待っている… 人生で、一度だけの恋。 【完結】ありがとうございました‼︎

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...