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それから……③
しおりを挟む絶句する私を尻目に、芹沢さんはさっさと薬指にソレを差し込む。
「おおっ!ミラクル!ピッタリフィット!」
ピタリと収まった様子が嬉しいらしい芹沢さんに対して、私は尚も言葉が出なくて…
「勝手に嵌め込み完了させちゃったけど、返事はどんな?」
芹沢さんは「ま、無理なら断ってよ」といつか聞いたのと同じ台詞で答えを催促してくる。
私は超高速で涙を拭ってから言う。
「こ、断る訳ないじゃん!ビックリ過ぎて涙止まんないし、どうしてくれんの?!」
拭った傍から、また涙がポロっと。
私の逆ギレみたいなプロポーズ承諾に、芹沢さんは大笑い。
その後、優しく拭ってくれた。
「てか、私で良いの?」
「良いに決まってんじゃん。じゃなきゃ、こんなん用意しないし」
こんなんとは、状況的にBL本よりかは、指輪の事を指しているのだと思う。
「ドラマで共演している綺麗所とかじゃなくて良いの?相手が女優さんなら、目移りしたって文句は言わないよ」
「は?目移りなんかぜーん然しない。それはそっちにも言える事じゃん。3年連続彼女にしたい女芸人No.1に選ばれる位だから、お誘いも多いだろうし?俺、心配でさー…」
わざとらしく溜め息を吐きながら吐露する芹沢さん。
「そろそろ殿堂入り果たすんじゃない?」
「な、何言ってんの?!勝手にランク付けされてるだけだし」
「それ、他からしたら嫌味にしか聞こえないんじゃない?」
「嫌味じゃないし!大体ね、私は他なんて興味ないんだから!私が好きなのは芹沢さんだってば!」
勢いで言ってから、恥ずかしさで赤面。
でも、芹沢さん自身はとても嬉しそうに目を細めている。
「そんなら、そろそろ“芹沢さん”なんてのはナシにしてよ」
何を思ったのか、唐突な要請をしてくる芹沢さん。
私は当然「えっ?」となる訳で。
「いつまでも他人行儀な感じ。ちょっとやだったんだよね」
とはいえ、急に下の名前で呼ぶのは照れが生じる。
「や、その……」
「シンプルに流希でも、可愛くルッキーでも何でもよろし。さぁ、呼びたまえ」
「さぁさぁ」と期待に瞳を輝かす芹沢さんを前に、懸命に呼び方を考える。
如何に照れずに呼べるかが、最大の鍵。
それ程良くない頭をフル回転させて出てきたのは…
「じゃあ…………“セリーヌ”で」
何ともアホな呼び名。
お馬鹿な学生が考えそうなレベルの呼び名に、芹沢さんは「………そうきたか」と頭を抱えてた。
呼び方は追々……という事にして、献上されたし18禁コミックをしばし堪能させて頂く。
「あぁ……これ、内容凄い……汁気たっぷり」
「…………汁気?」
私の独り言に疑問を感じているらしい芹沢さんを他所に、めくるめくお耽美の世界に酔いしれる。
「きゃー堪らなーい!」
「…………」
悶える私を芹沢さんが複雑そうに眺めてくるけれど、全く気にしない。
私は腐った女子と書いて、腐女子。
恥ずかしいとは思わないし、寧ろ腐女子である事に誇りすら感じている。
「……ねぇ、腐ったものが新鮮さを取り戻すのは不可能だけど、それでも大丈夫?」
念を押すように聞いてみると、意味を理解するのに数秒かけてから、芹沢さんがいつものようにニカッと歯を見せる。
「志保はちっとも腐ってないよ。瑞々しいまんま」
「中割ってみると、ヘドロみたいだよ?」
「ははっ、ヘドロ上等」
芹沢さんの言葉を嬉しく思っていると、ふと小さな疑問が芽生えた。
「芹沢さんと忍足さん………どっちが受けでどっちが攻めかな?」
「………は?」
怪訝そうな顔の芹沢さんをまじまじ見詰める。
「どっちかって言えば、芹沢さんが受けで、忍足さんが微Sの攻めって考えるのが一般的かな?いや、でも、忍足さんが掘られる側も悪くないかも」
「………ちょっ……一般的って……何かおかしくない?」
「あのすかした顔が屈辱で歪むのを想像したら萌える~」
「いやいや、だから…」
もう、妄想スイッチがON。
あれやこれや想像しては、きゃーきゃー言ったり、悶えてみせたり。
「俺とおっしーは、この世が終わろうとも、そんな関係になりゃしねーから!」
私の妄想が気に入らないらしい芹沢さんは、私からコミックを取り上げると、そのまま覆い被さってきた。
「あのね、いけない妄想も大概にしなさい」
言うが早いか、厚めの唇が押し当てられる。
肉厚な感触と熱に腐った心ごと、全部溶けてしまいそうだ。
「好き。大好き」
「うん、俺も」
「森川達より幸せになっちゃったりして」
「はは、かもね。ってか、向こうは自分達が世界一幸せだと信じて疑わないよ」
何度も見詰め合っては、夢中で唇を重ねる。
「これ、何か擽ったい」
「だからって外すのナシね」
薬指に嵌まっている物に擽ったさを感じながらも、外す気なんて更々ない。
「これも嬉しいけど、ペアのも早く欲しい」
「マジか。んじゃ、今度選びに行こう」
腐ったものが新鮮さを取り戻すのは、まず有り得ない事だ。
でも、好きな人の手に掛かれば、いとも容易く瑞々しくなれちゃうんだから、恋愛の威力は魔法並みに凄い。
芹沢さんと深く唇を重ねながら、腐女子をただの女にさせちゃう彼の力は、とんでもなく強力だな………なんて思った。
*おしまい*
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