売名恋愛(別ver)

江上蒼羽

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芸人になろうとしたキッカケ

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追加のビールが来てすぐに忍足さんはグラスに口を付けた。

あんまり強くないならやめておけばいいのに……と思いながらも、美味しそうに飲む姿に制する事を躊躇ってしまう。


「森川さんは、どうしてお笑い芸人になろうと思ったんですか?」


何気なくといった感じで聞いてきた忍足さん。

私は「いや、何というか……」と言葉を濁す。


「大して面白味のない話ですよ?」

「そう言われると益々興味をそそられます」


真っ赤な顔をした忍足さんが興味津々といった具合に目を輝かせる。

芸人として面白ろ可笑しく、波乱万丈に生きてきた訳じゃないから本当に大した話ではない。

でも聞かせろと言うなら……


「私、地味~な子だったんですよ」


渋々、自らの歴史を語り始める。

それをホロ酔いを通り越したような状態の忍足さんが静かに聞く。


「教室の隅っこで一人でポツンとしている子ってよく居るじゃないですか?クラスのはみ出し者というか……」

「………あぁ……クラスに必ず一人は居ますよね」

「私はその一人だった訳です」


男子からも女子からも距離を置かれていた。

学校生活を楽しいと思った事なんか一度もなくて、ただ親から課せられた義務を果たすように学校へ通っていたのを思い出す。


「よく、こういうのを武勇伝みたいに自慢気に語る芸人さんやタレントさんがいますよね。学生時代は暗かったとか、いじめられてた~とか」

「そうですね……結構居ますね。一種のネタ、みたいな」

「でも私は笑い話に出来る程強い人間じゃないので、こんな風に誰かに話すのは初めてなんです。だから、恥ずかしくて堪らないんですが……」


チラと窺い見る私に忍足さんが言う。


「恥ずかしい事じゃないですよ。是非、続きを聞かせて下さい」


そう続きを催促されては、話を続けるしかない。


「高校生活も卒業までそんな感じで終えるんだろうなって思っていたんですよ。実際、3年生になるまでずっとぼっちで、クラスメイトにも存在を認識されてないような感じだったんです」

「……へぇ」

「ところが高校最後の夏……学園祭の一月位前だったかな?ある日突然相方の間宮が目の前に現れて、学園祭のステージで一緒に漫才して欲しいって言ってきたんです」

「間宮さんからの誘いだったんてすか」

「はい」


今でもあの日の事は鮮明に覚えている。

男子の中で可愛いと評判の女子がやって来て、突拍子もない事を頼んで来たのだから。


「最初は何言ってんの?って突っぱねたんですけど、中々引き下がってくれなくて……最終的に、彼女の熱意に根負けして引き受ける事になりました」


散々迷惑だからと断ったのに、間宮はめげずに何度もアタックしてきた。


「何でも……私の名前がネタにし易かったらしいです」


私の持ちネタ、森の妖精、川の精霊……というのは、間宮の生み出したものだった。

最初に聞いた時は「何じゃそりゃ?!何が面白いの?」と思ったけれど、これが意外な事にウケた。

きっと、学園祭というイベントが観客席に居た生徒達の笑いのツボを緩くしたんだと思う。

観客席からの笑いと拍手喝采がとんでもなく快感だった。


「その時、ステージが凄く盛り上がって、それまで生きてきた中で一番の充実感を得られたんです。何というか新しい景色を見たというか……」


それがずっと忘れられなくて、私はお笑い芸人になろうと決心したんだ。

丁度間宮も同じ気持ちでいてくれたし。


「他のクラスの生徒や、私の事なんか全然知らない筈の後輩達にまで私の名前が知れ渡って、クラスのはみ出し者から一転して人気者になれたのも嬉しかった」


廊下ですれ違う度に皆が声を掛けてくれたり、手を振ってくれたりした。

一躍学校のスターになれた。


「今まで私の事を馬鹿にしていたであろう人達が手のひらを返したように媚びて来たのも爽快でしたね………って、性格悪いか、私」


自虐的に言って、グラスを煽った。


「ただ……未だに芸人になった事を両親に許して貰えてなくて……」

「そうなんですか?」


僅かに頷く。


「今回の売名で仕事が増えたて芸人として確かな地位を確率させて、今度こそ認めて貰いたいです」


私が芸人になる事を両親は大反対していた。

父は烈火の如く怒り狂い、母は大泣き。

家出同然で上京した私は、ほぼ10年実家に帰れていない。

立派な芸人になって両親に認められるまでは帰らないと決めたからだ。


「………なるほど。中々興味深いお話でした」


忍足さんは、私の拙い語りを聞いて満足そうに言った。

その様子を見て、私は今度は聞き手に回りたくなる。


「今度は忍足さんのお話を聞かせて下さい」

「えっ……」

「忍足さんが俳優を目指した理由が知りたいな~って思いまして」


私の申し出に忍足さんが何故か固まる。


「良いじゃないですか。私も話したんだし。確かスカウトされたんですよね?」

「…………」


雑誌では街中でスカウトされたのがキッカケとしか書かれていなかった。

単純にその時の状況や気持ちが知りたいと思っただけなのに、彼は口を閉ざして俯いた。

かと思えば、すぐに顔を上げてニッコリ微笑む。


「それこそ、大して面白味のない話ですから」

「いや、でも聞きたいですよ」


尚も食い下がるも、彼は「そんな事より……」と話を変える。


「次は何飲みます?このお店、アルコールの種類豊富ですよ」

「いや、だから…」

「おっ、これ旨そう。森川さんもどうです?」

「えっ……あ、はいぃ…」


強引に話を逸らされ、私は追及出来ずに不完全燃焼気味。

その後、忍足さんは次から次にアルコールを注文してはグラスを空けていった。
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