売名恋愛(別ver)

江上蒼羽

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偽りの関係からの……

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いくらタイプじゃないとはいえ、至近距離でイケメンから甘い言葉を囁かれながら迫られたら、落ちないでいられない。

もし、落ちない人がいるならば、かなり強靭な精神を持った人だと思う。


「今一度確認しますが、最上とは本当に何もなかったんですよね?」

「はい、何もありません」


神に誓える。

心なしか忍足さんがホッとしたように表情を緩めた気がした。


「………素良って呼んで良い?」


断る理由がない私は、赤べこみたく首を縦にブンブン振る。

その様を見て、忍足さんが軽く吹き出す。


「テンパり過ぎ………っと、そろそろ戻らないと」


椅子から立ち上がるついでに、忍足さんが私の頭を優しく撫でた。

それにまたドキッとしたくらいにして。


「また連絡します」

「あ、は、はいぃ…」


我が身に信じられない出来事が起こった。

彼氏いない歴=年齢であるこの私に、遂に彼氏というが出来た。

ビジネスキスではない、ほんまもんのキスはやはり、身も心も溶けてしまいそうなくらいだった。

思い出し、唇をなぞってみては、一人赤面して悶えて……

部屋を出て行った忍足さんと入れ替わりに戻って来た川瀬さんが不審がる程、私は挙動が怪しかった。






「はい、オッケー!」


現場の監督からの掛け声に、ホッと息を吐いた。


「お疲れ様でした~」


新発売のお菓子のCM撮影が無事に終了した。

何パターンかの撮影だったものの、全てNGなしの一発OKに川瀬さんが満足気に笑みを浮かべている。


「お疲れ、間宮、森川。良い表情してたじゃない。声もしっかり出てたし」

「え?そうですか?いや~こんなアイドルみたいな仕事させて貰えるとは思ってなかったですよ」

「何言ってんの。間宮はともかく、森川はアイドルとは程遠いわよ」


言われなくても分かってるっつーに。


「撮影に使った製品は貰ってって良いみたいよ」

「本当ですか?!嬉しい!」


お菓子の箱を抱えて、次の仕事へ向かう。

今日も相変わらず忙しい。

移動時間が僅かな休憩時間だ。 




バラエティー番組の収録は、結構な確率で大幅に長引く。

トークが盛り上がれば盛り上がる程時間が押して帰りが深夜になるのはザラ。

きっと今日も遅いんだろうな……と既に覚悟を決めている。

私は一度地に落ちた身。

多忙を嘆くよりも、再び芸能界での居場所を与えられた事に感謝すべきだ。

不満なんか零せる立場じゃない。

収録の合間楽屋にて、着信を受けた。

着信の主は忍足さんで……



『素良、次いつ会える?』


耳に流れ込んでくる優しい声に、頬が緩む。


「えと……今週は予定がびっしりでして、来週になれば何とか時間が取れるかと…」

『そっか……来週だと、俺の方が厳しいかな…』


ちょっと甘えたような声を出している自分が我ながら気持ち悪い。


「そうなんですか?」

『んー…でも、何とか時間作ってみるよ』


この世に生を受けて28年。

生まれて初めて出来た彼氏との通話は、ドキドキしてキュンキュンして、どこかむず痒いような……そんな感じ。

いい歳してドキドキキュンキュンというのは浮かれ過ぎかもしれない。

偽装の交際から本物の交際へと進化させた私と忍足さんは、暇があれば連絡を取り合っている。

まさかこんな風に恋人同士っぽい会話を満喫出来るなんて思ってもみなかった。

しかも、お笑い芸人という汚れ役の私の相手がイケメン俳優だなんて。

まだキス以上の事はしていないし、お互いに忙しい身で中々会えない。

それでも、私を活気付ける効果は絶大だ

仕事はもっぱら順調。

プライベートも充実しつつある。

寧ろ、恋愛効果で今まで以上に意欲的に仕事をこなしている。

これで私と忍足さんの仲を怪しんでいた最上さんの疑いを晴らせる。

そもそも彼の心配はただの杞憂でしかなかったのだ。


「森川、上機嫌ね」


川瀬さんが言うと、相方の間宮も便乗しておちょくって来る。


「なんか最近可愛くなったよ、森川。恋愛の効果だね、きっと」

「そ、そんなんじゃないし…」


不機嫌さを装うも、照れが邪魔をして様にならない。


「顔赤いし~良いなぁ~幸せそうで」

「ちょっ、からかわないでよ」


アイドル並みに可愛い顔した間宮に可愛くなったと褒められても素直に喜べない。

でも意外と結構満更でもなかったりする。


「少し席を外すわね。すぐ戻る」

「あ、は~い」


気持ちが悪い程乙女度MAXの私とそれをからかう間宮のじゃれ合いを見守っていた川瀬さんが携帯片手に部屋を出た。


「で?次いつ会うの?」

「えぇ~?分かんないし~」

「次会う時はお泊まりかな?」

「ま、まさか、そんな訳ある筈ないじゃん!」


本格的に付き合い出したのは極々最近だ。

だからまだお泊まりだなんて無理無理無理。

そんなんしたら私の心臓が持たない。

間宮のおちょくりに軽くテンパっていると、楽屋のドアがノックされる。


「失礼しまーす!………って、あれ?マネージャーさんは?」


入室して来たのは、番組スタッフの若い男性。

キョトンとする私の代わりに間宮が対応する。


「所用で少し外してます。何かご用ですか?」

「いえ、ちょっと確認したい事があったんですけど……」

「何なら私が伺いますけど」

「あ、大丈夫です。戻られてからで全然良いんで」


スタッフが出て行った後、私と間宮は顔を見合わせた。


「何の用事だったのかな?」

「さぁ?川瀬さんじゃないと駄目って事はギャラやらスケジュールの話じゃない?」

「あぁ、なるほど」


間宮が部屋の時計を見上げる。


「まだ収録再開までちょっと時間あるね」


つられて私も時刻を確認する。

セットの組み直しやゲスト女優のメイク直しの為に中断された収録の再開までの休憩として与えられたのは1時間。

まだ少しだけ時間がある。

収録が再開されれば終了まで拘束される事を考えれば、今の内にトイレを済ませておくのが賢明だ。


「ちょっとトイレ行っとこうかな」

「ほ~い、行ってら~」


楽屋に間宮を残し、トイレへと向かう。

トイレは楽屋を出てからずっと奥へ行った突き当たりで何気に遠い。


その途中……
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