30 / 46
偽装交際の真相
しおりを挟む「まさか同じ局に居るなんてね。あの彼は今日オフ?」
「今日は夕方入りなんだよ。ここの所ハードスケジュールだからゆっくり休ませてる」
普段は素通りするパーテーションで区切られた喫煙スペースから、聞き覚えのある声が二つ聞こえて来た。
思わず足が止まる。
「そう、それで今日は他のタレントのマネジメントなのね」
「まぁね。ウチのプロダクションは万年人手不足なもんで」
川瀬さんと話しているのは、忍足さんのマネージャーの保科さんだと判別出来た。
「最近どう?」
「相変わらず目まぐるしいわ。そっちは?」
「こちらも同じく」
お互いの近況を報告し合っているのを確認してすぐさま側を離れようとした私の足を再び止めたのは、川瀬さんの「全て上手くってるわ」という台詞だった。
「森川ったら完全にその気になっちゃって」
「そうか……案外単純なんだね、彼女」
声量は抑えられているものの、耳を澄ませば内容を把握出来る。
私の名が出た事で胸がざわざわと波立った。
きっと聞いてはいけない話だと思う。
でも、好奇心が足を竦ませる。
「彼、俳優より、ホストに向いてるんじゃない?女一人落とすの容易いみたいだし?」
「馬鹿言うなよ。慧史には今後ウチの事務所の看板背負って貰わないといけないんだから」
「そう?ピッタリだと思うけど。新宿二丁目でNo.1狙えるわよ」
「まぁ、確かに。けど、今回のはあくまでも演技の練習であって、女を口説き落とすのが目的じゃない」
ここで「えっ?」と思った。
演技の練習?何それ?……と、頭が混乱する。
「お陰で森川ったらすっかりヤル気出してくれてるわ。今までの半端さが嘘みたいに真摯に仕事と向き合ってる………時に色恋での感情操作も必要ね」
「真実を知ったら逆にヤル気をなくすリスクはあるだろ?」
「そうね。でもそうならないよう、彼に演技を通して貰いたいわ」
どういう事?って、疑問が止まらない。
「私は間宮はピンの方が生きると思っているの。はっきり言って森川はお荷物よ」
「ははっ、綾子は相変わらずキツいな」
「素直でとても良い子だってのは分かってるのよ。でもそれだとこの世界じゃ生き残れない」
「確かに」
川瀬さんと忍足さんのマネージャーの保科さんが随分と砕けた口調で会話している事に衝撃を受けた。
けれど、それ以上に驚いたのは、保科さんが川瀬さんを綾子と呼び捨てにしていた事。
もしかしたら二人は、ただの同業者や顔見知りではないのかもしれない。
「売り込むにしても、本人が手緩い仕事をしてたら意味がないから、どうにかして歯を食い縛って貰いたいのよね。だから、忍足さんとの恋愛ごっこで頭の中をお花畑にしている今の状態が一番丁度良いの。ほら、恋愛中ってポジティブになれるじゃない?何でも出来そう!って」
ここまで聞いてやっと話の内容を理解出来た。
その途端に脚がガクガクと震え出す。
ショック過ぎて。
「暫くは体張った仕事でも何でも頑張ってくれると思うわ」
「お互いの事務所に良い影響を与え、慧史の演技にも磨きが掛かる………投じた一石が二鳥にも三鳥にもなるって事か」
聞いてはいけない事を立ち聞いた事を後悔した。
トイレに行くのを忘れて楽屋に引き返した私は、その後の記憶は曖昧で……
後に再開された収録が散々に終わったのだけは異様に覚えている。
「…………ふぐっ………うっ…」
あぁ……全部嘘っぱちだったんだ…
忍足さんが私を好きな事も、会いたいと言ってくれた事も何もかも。
私と最上さんとの記事に嫉妬したなんて言っていたけれど、端っから嫉妬なんてしてなかったんだと思えたら、自分の浮かれ具合が恥ずかしくなる。
あの時のキスだって、1㎜も気持ちが込もってなかったんだろう。
彼は役者だから、その辺きちんと割り切っているだろうから。
「………うっ、…」
大体よく考えてみれば分かる事だ。
モデルや女優にアイドルといった、綺麗所がたんまり居るきらびやかな世界で敢えて私みたいな汚れ役を選ぶ訳がない。
お笑い芸人の肩書きがなければただの一般人の容姿をした私に、イケメン俳優が惚れる筈訳ないじゃんか。
「うえっ……ううっ…」
深夜2時。
壁の薄いボロアパートに響く女の泣き声に、隣に住む学生さんは怯えているのではなかろうか。
なるべく声が出ないよう枕に顔を押し当ててはいるけれど、完全には抑えきれなくて。
何度かLINEの通知が来ているらしく、携帯が早く確認しろと急かすように赤いランプを 点滅させている。
送信主は忍足さんだと思う………というか、確実に彼だろう。
だけど、全てのカラクリを知ってしまった以上、ただのLINEの内容を確認するのさえ怖くて、さっきからずっと未読無視を決め込んでいる。
彼の好意に満更でもない態度でいたというか、好きになり始めていただけに彼と顔を合わせるのが怖い。
絶対に泣いてしまう。
だから少しでもこの落ち込みが和らぐまで時間を稼ぎたいと思った。
0
あなたにおすすめの小説
バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~
スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。
何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。
◇◆◇
作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。
DO NOT REPOST.
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
Marry Me?
美凪ましろ
恋愛
――あの日、王子様があたしの目の前に現れた。
仕事が忙しいアパレル店員の彼女と、王子系美青年の恋物語。
不定期更新。たぶん、全年齢でいけるはず。
※ダイレクトな性描写はありませんが、ややそっち系のトークをする場面があります。
※彼の過去だけ、ダークな描写があります。
■画像は、イトノコさまの作品です。
https://www.pixiv.net/artworks/85809405
子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちだというのに。
入社して配属一日目。
直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。
中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。
彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。
それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。
「俺が、悪いのか」
人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。
けれど。
「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」
あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちなのに。
星谷桐子
22歳
システム開発会社営業事務
中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手
自分の非はちゃんと認める子
頑張り屋さん
×
京塚大介
32歳
システム開発会社営業事務 主任
ツンツンあたまで目つき悪い
態度もでかくて人に恐怖を与えがち
5歳の娘にデレデレな愛妻家
いまでも亡くなった妻を愛している
私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?
距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜
葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」
そう言ってグッと肩を抱いてくる
「人肌が心地良くてよく眠れた」
いやいや、私は抱き枕ですか!?
近い、とにかく近いんですって!
グイグイ迫ってくる副社長と
仕事一筋の秘書の
恋の攻防戦、スタート!
✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼
里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書
神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長
社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい
ドレスにワインをかけられる。
それに気づいた副社長の翔は
芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。
海外から帰国したばかりの翔は
何をするにもとにかく近い!
仕事一筋の芹奈は
そんな翔に戸惑うばかりで……
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
私が素直になったとき……君の甘過ぎる溺愛が止まらない
朝陽七彩
恋愛
十五年ぶりに君に再開して。
止まっていた時が。
再び、動き出す―――。
*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*
衣川遥稀(いがわ はるき)
好きな人に素直になることができない
松尾聖志(まつお さとし)
イケメンで人気者
*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*
ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる